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3章 トビラの夢 『ゲームオーバーにはまだ早い』
書の1前半 より強く『水晶ゲットでジョブチェンジ?クポ?』
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■書の1前半■ より強く must strange
そういえばさ、さっきから女王ユーステルとキリュウはずっと後で待ってるんだけど……。
「こっちに来て話に加えたら……やっぱ、まずいか」
「その前にこっちに来れるの?」
アベルの言葉に、俺はナーイアストを窺ったが……彼女は首を傾げて言った。
「恐らくですが……過干渉した大陸座が居たのでしょう。何時の間にやらこのように私達は動けない存在になりました」
……うむ、こっちに入れないんだな、彼女等は。
何か?神は見えるようにはなったとは云うものの、一般には触れる事が出来ないように障壁が張ってあるのかもしれない。なぜそれを俺たちが突破できるのかは相変わらず、よくわかんないけどな。もしかすれば、青旗の所業かもしれん。
「『上』の事情をこちらの世界の人間に齎し、混乱させるような事はしない方が良いでしょう。余計な事も説明しなければいけませんし、大体、理解してもらえるかどうか」
うーむ、そうだよなぁ。メージンは理解しませんと断言してたしなぁ。
そういえば、メージンからのコメントが音沙汰無い。俺達がゲーム続行を決意したあの時から一言も喋って来ない。
相当に大変なんだろうと状況を思い、高松さん達が一生懸命にバグ修正を行っているだろう事を考えると……俺は、例え敵わないとしても。できる限りの情報をデバッカーとして、開発者達に報告しなきゃいけないよなと使命感に燃えたりしている。
もし魔王ってのを倒せるなら、倒したい。
赤旗ぶっ立ててる奴等を『倒す』事で赤旗自体の問題が解決しない事は、プログラムだって事を思えば容易に想像できるわけだが……。
少なくともそのプログラムが、こっちの世界を破壊する行動を抑制する事にはなるはずだよな。
「俺達は、もっと強くなれるか?」
静かに、俺は想いを抑えてそう口に出した。
「強くなるにはどうすればいい?」
そんな俺にナーイアストは静かに頷き、手にしていた結晶石を俺の手に握らせてそしてその上から暖かな手を重ねる。
「私たちには、この世界を変えるだけの力がある」
静かに目を閉じ、静かに語るナーイアスト。
その姿がどこか朧気に、落ち着いた大人の雰囲気を纏った開発者の田中さんとダブって見えた。
「この『世界』を創ったと伝えられる根源精霊ナーイアスト。それが世界を変えるか否かの意思を持ち、神として肉を持ちこの世界ある。ただそれだけで、この世界は変わってしまう」
そして僅かに憂い気味の表情で、ナーイアストはどこか寂しそうに微笑んだ。
「だから、私達は世界を変えないように、なるべくこちらの世界に干渉しない様にしなければいけない……。それが私たち大陸座が共に定めた『神の法』。でもそれは、今はただの足かせでしかありません。私達は、今はもうこちらの世界の誰かに力を貸し与える事が出来ないのですから」
静かに俺の手に握られた石は、芯の方から光を放ち例えは悪いが……冬の缶コーヒーみたいに温かい。
「何、スかこれ?」
透明な石で結晶の欠片は……普通に言うと、クリスタルですかねぇ。
クリスタル、クリスタル……いいのか、この流れ?著作権法とか絡まない?
「守護座、ナーイアストの力を青き印の異界の勇者に。どうぞ、お願いです。私が望むのはこの世界が今のままにある事」
俺の手の中で急激に熱を失っていく石を、彼女はどこか悲しく見つめている。
その姿がぶれて、ぼやけていくのに俺は驚いた。
「おいまさか、消えちまうのか?」
俺は驚いて手を伸ばそうとした。しかし、なぜかその手をレッドが止める。
そして真っ直ぐに俺を見て、無言で訴える『意味』を俺は知った。
アベル、テリー、アイン、ナッツ、マツナギ。
それぞれを俺は見渡し、そして同じ思いを知って振り返る。
「……わかった」
全員を代表して、俺は彼女の意思を受け止める。でも違う、本当は、本当の思いは『分かってる』って事。そうやって握り締めた石が一瞬熱を帯びた様にも思ったが……。
透明に薄れていき、そして姿が見えなくなったナーイアストを見送って、俺は冷たくなった石を掌の中に見た。
「……で、何だろうな、これ?」
さて、それで?
どうやって彼女等にこの『状況』を説明するつもりだよ。
突然掻き消えた神に、女王達はなんて言うだろうなぁ。ああなんだか振り返って彼女等に顔を合わせるのが億劫だ……。
「どうするよ、」
主語無く言った俺の言葉に、レッドは小さく頷く。
「僕にお任せ戴けますか?」
「どう説明するつもり?」
「そのですね……。僕は嘘を吐く『技能』を持っているんです」
レッドが小さく手を上げてにやりと笑った。
後から思い出すに、元々魔導師っていう連中は口先三寸騙し八丁、詭弁家の多い肩書きの事でもあるんだよな。一般常識より、現実の方がより酷い事をナッツが苦笑しながら教えてくれた。
関心するね、よくもまぁこんなにペラペラとある事無い事並び立てる事ができるもんだと。
「どうやら、大陸座は再び魔王討伐隊を送り込むつもりであるらしい」
そんな適当な言葉の織り交ざったレッドの最初の、肝心な所に向けての切り出しに、ユーステル女王はなぜかひどく悲痛な顔をして顔を背けた。
「それを、貴方方に託した……と?」
「ええ、こちらが、」
そう言って呆然としている俺の手を強引に引っ張り上げ、その手に握ったままだった石を指す。
「ナーイアストの力の印、これを我々に遣わす為に守護座は『再び』手の届かぬ次元へと……戻られた様子」
早速デカい嘘をつきましたねレッドさん。
彼女が何で消えたかなんて、はっきり行って不明だぞ?多分この石が問題なんだろうけど、出来ればもうちょっと色々説明をお聞きしたかった所なのにぶっちゃけ、ナーイアストは俺達に何をしたのか?
コイツに力があるぞって俺に石握らせて、一方的に謎掛けみたいな言葉を残して消えちまったんだからな。
この俺の手の中に在る石、結局何であるのか今もって、さっぱり分からない状況なんです、正しくは。
あとでメージンにでも聞く予定だ。それくらい用途不明。
「やはり、神の出現は魔王に呼応したものであったのか」
補佐役のキリュウは深刻な顔を下に落として、小さく呟いた。
正直俺たち『そんな事情』までも何一つ、分かって無いからなぁ。おっかねぇなぁレッドの嘘八百……。
レッドが責任持って交渉を受け持ったとは云え、こっちが逆にドキドキしてしまう。
「今しばらくは姿がお見えになりませんが……いずれ、きっと」
「いえ、いいのです」
ユーステルは唐突にレッドの言葉を遮った。
「ナーイアストはきっともう、私達に姿をお見せになる事はないでしょう。そしてそれが、正しいのです」
するとレッドは例によって無い眼鏡を押し上げる仕草をしてユーステルに言葉を返す。
「確かに、魔導師協会としましても現状の、神が『実在』する現象は些か……受け入れ難い」
「ナーイアストは仰っていたわ。……魔王の存在も許し難いものであるけれど、それはまた自分も同じだと」
「ユース、貴方は……」
なぜか女王を略称で呼び溜め息を漏らすキリュウ。
まぁ、今二人しかいないんだから体面とか気にせずにすむのかもしれないけど……もしかしてアレか?
実はこの二人デキてます設定?
そんな風に不謹慎に考えていた俺だったが、ユーステルは突然、くるりと俺達に背を向けて言った。俺らに自分の表情を見せないようにしているのかな。何を彼女は恐れているんだろう。
「どうなさるおつもりですか、ヤト様」
って、いきなり俺に話振らないでくれよ。
この場はレッドに任せていたのに……俺はこっそりと奴と目配せしてどうすればいいか窺う。
「僕等は元より魔王の所業を許せずに討伐隊として集った、仲間です」
レッドのその言葉は嘘じゃぁ無いが、だからって真実というわけでもない。
微妙だな、シナリオだから魔王討伐やるっていう、立場は。
正直心の奥底から魔王が憎い、とかで、討伐隊に志願したわけじゃないからな……俺達。なんだかちょっと、申し訳なく思うこの気持ちは何だろう。
俺達は別にこの世界を舐めてるつもりは無いし、魔王というか赤旗の奴等に対する対抗心は今、それなりに高い。
世界を救うんだという、その想いは嘘じゃない。
でもどこかで、それが嘘であるように感じるのは……何だろうな。
俺は手の中にある石を見て、悲しそうな顔をちょっとだけして見せた、ナーイアストを思い出していた。
俺達にこの世界を救う『権利』はあるのか?ナーイアスト。
お前達『存在する神』が、この世界を変えてしまう事を恐れたのはどこかで、自分達はこの世界にあってはならないものだと思う気持ちがあったからじゃないのか?
それと多分、同じで……。
厳密にはこっちの世界の住人ではない、異世界から来た俺達はこの世界に干渉してもいいのだろうか。などと……。
「ヤト」
誰かに呼びかけられて、俺は慌てて顔を上げる。
「あ、えっと。魔王を倒します、その為に……ええっと、西へ……」
俺が慌てっぷり満載にそう言うと、レッドが溜め息を漏らして肩を竦めた。
「すみません、流石の僕等もまさか『在る神』と直接対話をするだなんて状況は全く予想外でして。色々とショックを受けているんです。ましてや、先日敵に完敗してしまったわけですし……。若干の迷いは、」
この野郎、本当に在る事無い事並べやがるな!
「迷ってなんか無い!」
軽々しく適当な事を並べるレッドに触発されて、俺は大声で叫んでしまっていた。
「違った、そうじゃない」
そして俺は驚いてこちらに振り向いたユーステルを真っ直ぐに見る。
「確かに俺らの目的は魔王を倒す事で、その為に西を目指す。でもとりあえず、俺達がしなきゃいけないのは別でそれは、……強くならなければいけないって事だ」
上手く言葉が纏まらねぇけど、なんとか言いたい事を言えた気がする。
レベル上げが必要なんだよ。
既に強い俺たちが、更なるレベルアップを果たすには……強力な、修行の場が必要であるはずだ。
しかしそんな都合のいい場所があるだろうか?俺たちにはあまり、時間が無い。何年も修行する訳にも行かないし、ましてや魔王もそんな悠長に待ってたりはしてくれねぇだろう。
強くなるにはどうすればいい?
そんな俺の迷いを瞳の中に見たように、ユーステルは小さく頷いて顎を上げた。
「伝説の武具の獲得、そして伝説の技を得るのがよろしいかと思いますわ」
なるほど、そうきたか!伝説なぁ、クエストっぽくなってきたぜ。しかしなぜか突然ユーステルは目を閉じて、一瞬迷ってから言った。
「ですから、あの、探して頂きたい人物が……」
「ユース!」
キリュウの一喝に、ユーステルは慌てて口を閉じる。
「貴方はまだ諦めていないのですか!」
「あ、貴方こそなぜ諦めるのです!それに、伝説級という意味で言えば貴方の」
「止めてください」
キリュウは中半懇願する様に跪き、頭を下げる。
「あの人はすでにこの世界になど居ないのです!いい加減心得てください」
「どうして、貴方が先に諦めるのよ!」
泣き出しそうな顔で、ユーステルはキリュウを叱責する。
「あの人が死ぬはずないでしょ?殺しても死ななそうな人じゃないか!」
「そ、そういう言い方もどうかと思いますが、とにかく魔王が健在である以上は……」
キリュウの静止を振り切る様にユーステルが、彼に指を突き出して言った。
「もしかしたら魔王と組んでいる可能性も高い」
「ユース!」
「だって真っ先にナーイアストを疑ったのはそもそも、リュステルでしょ!」
キリュウが額に手を当てて、深く溜め息を漏らして静かに立ち上がる。
「あの、ユーステル様」
その呼びかけにはっとなってユーステルはキリュウを指差した手を引っ込め、顔を赤らめる。
「す、すみません……他の者がいないのでつい……」
「私も、敬称でお呼びしなかったのが悪いのです」
つまりアレか。
女王様、実は猫っかぶりって奴か。
真っ赤な顔で俯いてるユーステルは、もはや何も言わない。
いやぁ、女王というのが大変なプレッシャーのある役どころであるのは、大凡察しますから。いいんですよ、ええ。むしろそういう人間らしさがモエるんです、世の男どもは。俺も含むよ?
「とりあえず、詳しく事情を説明するために……」
「いえ、できればすぐに西へ行きたいのですが」
と、キリュウの提案を速攻でレッドが拒否る。
そりゃぁなぁ。
俺達っていうかレッドが主に、適当な事言ってこの場を切りぬけようとしているからなぁ。
ボロが出る前に、距離をおきたい所だ。
真面目に言えば、俺たちにはあんまり悠長に旅をしているヒマは無い。伝説級の武具とやらにアテが在って、そいつをすぐに無償でくれるってんなら話は別だがな。
「ええ、ここでお話します」
ユーステルが覚悟を決めたように顔を上げる。
「城に戻ったらリュステルの名前を口にする事だって出来ないもの」
「……ですから、それは……」
今や、女王陛下は迷わずにキリュウを指差した。
人を指差す行為がどれだけ失礼に当たるかは、彼女はちゃんと弁えているんだろうけどな……多分。
「リュステル・シーサイドはこの者の兄なのです」
キリュウは盛大な溜め息を漏らし、顔を僅かに遠くへ向けた。
「……そいつが、伝説級の人間だってのか?」
「ええ、何事も無ければ私の伴侶となりこの国の王となったであろう者です」
おおおッ?展開に素敵なツイストが入ってきました!
そうか、従者のキリュウと仲が良いんじゃぁなくて、その兄と出来てたのか女王!
そういえばさ、さっきから女王ユーステルとキリュウはずっと後で待ってるんだけど……。
「こっちに来て話に加えたら……やっぱ、まずいか」
「その前にこっちに来れるの?」
アベルの言葉に、俺はナーイアストを窺ったが……彼女は首を傾げて言った。
「恐らくですが……過干渉した大陸座が居たのでしょう。何時の間にやらこのように私達は動けない存在になりました」
……うむ、こっちに入れないんだな、彼女等は。
何か?神は見えるようにはなったとは云うものの、一般には触れる事が出来ないように障壁が張ってあるのかもしれない。なぜそれを俺たちが突破できるのかは相変わらず、よくわかんないけどな。もしかすれば、青旗の所業かもしれん。
「『上』の事情をこちらの世界の人間に齎し、混乱させるような事はしない方が良いでしょう。余計な事も説明しなければいけませんし、大体、理解してもらえるかどうか」
うーむ、そうだよなぁ。メージンは理解しませんと断言してたしなぁ。
そういえば、メージンからのコメントが音沙汰無い。俺達がゲーム続行を決意したあの時から一言も喋って来ない。
相当に大変なんだろうと状況を思い、高松さん達が一生懸命にバグ修正を行っているだろう事を考えると……俺は、例え敵わないとしても。できる限りの情報をデバッカーとして、開発者達に報告しなきゃいけないよなと使命感に燃えたりしている。
もし魔王ってのを倒せるなら、倒したい。
赤旗ぶっ立ててる奴等を『倒す』事で赤旗自体の問題が解決しない事は、プログラムだって事を思えば容易に想像できるわけだが……。
少なくともそのプログラムが、こっちの世界を破壊する行動を抑制する事にはなるはずだよな。
「俺達は、もっと強くなれるか?」
静かに、俺は想いを抑えてそう口に出した。
「強くなるにはどうすればいい?」
そんな俺にナーイアストは静かに頷き、手にしていた結晶石を俺の手に握らせてそしてその上から暖かな手を重ねる。
「私たちには、この世界を変えるだけの力がある」
静かに目を閉じ、静かに語るナーイアスト。
その姿がどこか朧気に、落ち着いた大人の雰囲気を纏った開発者の田中さんとダブって見えた。
「この『世界』を創ったと伝えられる根源精霊ナーイアスト。それが世界を変えるか否かの意思を持ち、神として肉を持ちこの世界ある。ただそれだけで、この世界は変わってしまう」
そして僅かに憂い気味の表情で、ナーイアストはどこか寂しそうに微笑んだ。
「だから、私達は世界を変えないように、なるべくこちらの世界に干渉しない様にしなければいけない……。それが私たち大陸座が共に定めた『神の法』。でもそれは、今はただの足かせでしかありません。私達は、今はもうこちらの世界の誰かに力を貸し与える事が出来ないのですから」
静かに俺の手に握られた石は、芯の方から光を放ち例えは悪いが……冬の缶コーヒーみたいに温かい。
「何、スかこれ?」
透明な石で結晶の欠片は……普通に言うと、クリスタルですかねぇ。
クリスタル、クリスタル……いいのか、この流れ?著作権法とか絡まない?
「守護座、ナーイアストの力を青き印の異界の勇者に。どうぞ、お願いです。私が望むのはこの世界が今のままにある事」
俺の手の中で急激に熱を失っていく石を、彼女はどこか悲しく見つめている。
その姿がぶれて、ぼやけていくのに俺は驚いた。
「おいまさか、消えちまうのか?」
俺は驚いて手を伸ばそうとした。しかし、なぜかその手をレッドが止める。
そして真っ直ぐに俺を見て、無言で訴える『意味』を俺は知った。
アベル、テリー、アイン、ナッツ、マツナギ。
それぞれを俺は見渡し、そして同じ思いを知って振り返る。
「……わかった」
全員を代表して、俺は彼女の意思を受け止める。でも違う、本当は、本当の思いは『分かってる』って事。そうやって握り締めた石が一瞬熱を帯びた様にも思ったが……。
透明に薄れていき、そして姿が見えなくなったナーイアストを見送って、俺は冷たくなった石を掌の中に見た。
「……で、何だろうな、これ?」
さて、それで?
どうやって彼女等にこの『状況』を説明するつもりだよ。
突然掻き消えた神に、女王達はなんて言うだろうなぁ。ああなんだか振り返って彼女等に顔を合わせるのが億劫だ……。
「どうするよ、」
主語無く言った俺の言葉に、レッドは小さく頷く。
「僕にお任せ戴けますか?」
「どう説明するつもり?」
「そのですね……。僕は嘘を吐く『技能』を持っているんです」
レッドが小さく手を上げてにやりと笑った。
後から思い出すに、元々魔導師っていう連中は口先三寸騙し八丁、詭弁家の多い肩書きの事でもあるんだよな。一般常識より、現実の方がより酷い事をナッツが苦笑しながら教えてくれた。
関心するね、よくもまぁこんなにペラペラとある事無い事並び立てる事ができるもんだと。
「どうやら、大陸座は再び魔王討伐隊を送り込むつもりであるらしい」
そんな適当な言葉の織り交ざったレッドの最初の、肝心な所に向けての切り出しに、ユーステル女王はなぜかひどく悲痛な顔をして顔を背けた。
「それを、貴方方に託した……と?」
「ええ、こちらが、」
そう言って呆然としている俺の手を強引に引っ張り上げ、その手に握ったままだった石を指す。
「ナーイアストの力の印、これを我々に遣わす為に守護座は『再び』手の届かぬ次元へと……戻られた様子」
早速デカい嘘をつきましたねレッドさん。
彼女が何で消えたかなんて、はっきり行って不明だぞ?多分この石が問題なんだろうけど、出来ればもうちょっと色々説明をお聞きしたかった所なのにぶっちゃけ、ナーイアストは俺達に何をしたのか?
コイツに力があるぞって俺に石握らせて、一方的に謎掛けみたいな言葉を残して消えちまったんだからな。
この俺の手の中に在る石、結局何であるのか今もって、さっぱり分からない状況なんです、正しくは。
あとでメージンにでも聞く予定だ。それくらい用途不明。
「やはり、神の出現は魔王に呼応したものであったのか」
補佐役のキリュウは深刻な顔を下に落として、小さく呟いた。
正直俺たち『そんな事情』までも何一つ、分かって無いからなぁ。おっかねぇなぁレッドの嘘八百……。
レッドが責任持って交渉を受け持ったとは云え、こっちが逆にドキドキしてしまう。
「今しばらくは姿がお見えになりませんが……いずれ、きっと」
「いえ、いいのです」
ユーステルは唐突にレッドの言葉を遮った。
「ナーイアストはきっともう、私達に姿をお見せになる事はないでしょう。そしてそれが、正しいのです」
するとレッドは例によって無い眼鏡を押し上げる仕草をしてユーステルに言葉を返す。
「確かに、魔導師協会としましても現状の、神が『実在』する現象は些か……受け入れ難い」
「ナーイアストは仰っていたわ。……魔王の存在も許し難いものであるけれど、それはまた自分も同じだと」
「ユース、貴方は……」
なぜか女王を略称で呼び溜め息を漏らすキリュウ。
まぁ、今二人しかいないんだから体面とか気にせずにすむのかもしれないけど……もしかしてアレか?
実はこの二人デキてます設定?
そんな風に不謹慎に考えていた俺だったが、ユーステルは突然、くるりと俺達に背を向けて言った。俺らに自分の表情を見せないようにしているのかな。何を彼女は恐れているんだろう。
「どうなさるおつもりですか、ヤト様」
って、いきなり俺に話振らないでくれよ。
この場はレッドに任せていたのに……俺はこっそりと奴と目配せしてどうすればいいか窺う。
「僕等は元より魔王の所業を許せずに討伐隊として集った、仲間です」
レッドのその言葉は嘘じゃぁ無いが、だからって真実というわけでもない。
微妙だな、シナリオだから魔王討伐やるっていう、立場は。
正直心の奥底から魔王が憎い、とかで、討伐隊に志願したわけじゃないからな……俺達。なんだかちょっと、申し訳なく思うこの気持ちは何だろう。
俺達は別にこの世界を舐めてるつもりは無いし、魔王というか赤旗の奴等に対する対抗心は今、それなりに高い。
世界を救うんだという、その想いは嘘じゃない。
でもどこかで、それが嘘であるように感じるのは……何だろうな。
俺は手の中にある石を見て、悲しそうな顔をちょっとだけして見せた、ナーイアストを思い出していた。
俺達にこの世界を救う『権利』はあるのか?ナーイアスト。
お前達『存在する神』が、この世界を変えてしまう事を恐れたのはどこかで、自分達はこの世界にあってはならないものだと思う気持ちがあったからじゃないのか?
それと多分、同じで……。
厳密にはこっちの世界の住人ではない、異世界から来た俺達はこの世界に干渉してもいいのだろうか。などと……。
「ヤト」
誰かに呼びかけられて、俺は慌てて顔を上げる。
「あ、えっと。魔王を倒します、その為に……ええっと、西へ……」
俺が慌てっぷり満載にそう言うと、レッドが溜め息を漏らして肩を竦めた。
「すみません、流石の僕等もまさか『在る神』と直接対話をするだなんて状況は全く予想外でして。色々とショックを受けているんです。ましてや、先日敵に完敗してしまったわけですし……。若干の迷いは、」
この野郎、本当に在る事無い事並べやがるな!
「迷ってなんか無い!」
軽々しく適当な事を並べるレッドに触発されて、俺は大声で叫んでしまっていた。
「違った、そうじゃない」
そして俺は驚いてこちらに振り向いたユーステルを真っ直ぐに見る。
「確かに俺らの目的は魔王を倒す事で、その為に西を目指す。でもとりあえず、俺達がしなきゃいけないのは別でそれは、……強くならなければいけないって事だ」
上手く言葉が纏まらねぇけど、なんとか言いたい事を言えた気がする。
レベル上げが必要なんだよ。
既に強い俺たちが、更なるレベルアップを果たすには……強力な、修行の場が必要であるはずだ。
しかしそんな都合のいい場所があるだろうか?俺たちにはあまり、時間が無い。何年も修行する訳にも行かないし、ましてや魔王もそんな悠長に待ってたりはしてくれねぇだろう。
強くなるにはどうすればいい?
そんな俺の迷いを瞳の中に見たように、ユーステルは小さく頷いて顎を上げた。
「伝説の武具の獲得、そして伝説の技を得るのがよろしいかと思いますわ」
なるほど、そうきたか!伝説なぁ、クエストっぽくなってきたぜ。しかしなぜか突然ユーステルは目を閉じて、一瞬迷ってから言った。
「ですから、あの、探して頂きたい人物が……」
「ユース!」
キリュウの一喝に、ユーステルは慌てて口を閉じる。
「貴方はまだ諦めていないのですか!」
「あ、貴方こそなぜ諦めるのです!それに、伝説級という意味で言えば貴方の」
「止めてください」
キリュウは中半懇願する様に跪き、頭を下げる。
「あの人はすでにこの世界になど居ないのです!いい加減心得てください」
「どうして、貴方が先に諦めるのよ!」
泣き出しそうな顔で、ユーステルはキリュウを叱責する。
「あの人が死ぬはずないでしょ?殺しても死ななそうな人じゃないか!」
「そ、そういう言い方もどうかと思いますが、とにかく魔王が健在である以上は……」
キリュウの静止を振り切る様にユーステルが、彼に指を突き出して言った。
「もしかしたら魔王と組んでいる可能性も高い」
「ユース!」
「だって真っ先にナーイアストを疑ったのはそもそも、リュステルでしょ!」
キリュウが額に手を当てて、深く溜め息を漏らして静かに立ち上がる。
「あの、ユーステル様」
その呼びかけにはっとなってユーステルはキリュウを指差した手を引っ込め、顔を赤らめる。
「す、すみません……他の者がいないのでつい……」
「私も、敬称でお呼びしなかったのが悪いのです」
つまりアレか。
女王様、実は猫っかぶりって奴か。
真っ赤な顔で俯いてるユーステルは、もはや何も言わない。
いやぁ、女王というのが大変なプレッシャーのある役どころであるのは、大凡察しますから。いいんですよ、ええ。むしろそういう人間らしさがモエるんです、世の男どもは。俺も含むよ?
「とりあえず、詳しく事情を説明するために……」
「いえ、できればすぐに西へ行きたいのですが」
と、キリュウの提案を速攻でレッドが拒否る。
そりゃぁなぁ。
俺達っていうかレッドが主に、適当な事言ってこの場を切りぬけようとしているからなぁ。
ボロが出る前に、距離をおきたい所だ。
真面目に言えば、俺たちにはあんまり悠長に旅をしているヒマは無い。伝説級の武具とやらにアテが在って、そいつをすぐに無償でくれるってんなら話は別だがな。
「ええ、ここでお話します」
ユーステルが覚悟を決めたように顔を上げる。
「城に戻ったらリュステルの名前を口にする事だって出来ないもの」
「……ですから、それは……」
今や、女王陛下は迷わずにキリュウを指差した。
人を指差す行為がどれだけ失礼に当たるかは、彼女はちゃんと弁えているんだろうけどな……多分。
「リュステル・シーサイドはこの者の兄なのです」
キリュウは盛大な溜め息を漏らし、顔を僅かに遠くへ向けた。
「……そいつが、伝説級の人間だってのか?」
「ええ、何事も無ければ私の伴侶となりこの国の王となったであろう者です」
おおおッ?展開に素敵なツイストが入ってきました!
そうか、従者のキリュウと仲が良いんじゃぁなくて、その兄と出来てたのか女王!
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