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 床に額を擦りつけるような格好をするヴィラジュリオを見たアストレイアは、全身の血が引いていった。
 
「だ……駄目です! 殿下、お願いです、頭を上げてください!!」

「駄目だ。俺はとんでもないことをしてしまった。責任を取らせてくれ。そうでないと……」

「なんでもいうこと聞きますから、お願いですから頭を上げてください! お願いします!!」

「ありがとう」

 感謝の言葉を述べたヴィラジュリオは、体を起こしてにこりと微笑みを浮かべた。
 そして、アストレイアの両手を掴み、その華奢な体をぎゅっと抱きしめる。
 
「それじゃ、けっ……、じゃなくて、俺にチャンスをくれるんだな?」

「え?」

「ヴィオを必ず振り向かせる。だから、もう逃げないでくれ」

 そう言って、アストレイアを抱きしめたヴィラジュリオは震えていた。
 どうしていいのか分からないアストレイアは、ただ、ヴィラジュリオの服をぎゅっと握ることしかできないでいた。
 そんなアストレイアの行動にヴィラジュリオは、さらにきつく抱きしめるのだ。
 
「ヴィオが居なくなって、俺は知ったんだ。どんなにお前のことが好きだったのか。男同士だからとか、命の期限があるとか、自分に言い訳ばかりして……。だから、これからはもっと必死にヴィオを繋ぎとめようと思うから覚悟してくれ」

 そう言ってヴィラジュリオは、瑠璃色の瞳を細めて笑うのだ。
 ヴィラジュリオの見せる微笑みが眩しく感じたアストレイアだったが、それでも過去にした自分の裏切り行為が、ヴィラジュリオの気持ちを受け入れることを邪魔する。
 
 やんわりとヴィラジュリオの胸を押したアストレイアは、困ったとばかりに眉を寄せて言うのだ。
 
「殿下のお気持ちは嬉しいですが……、無理です……。ぼくにそんな資格なんてないんです……」

 頑ななアストレイアの姿に、ヴィラジュリオは悲しげに言う。
 
「信じて欲しい。俺は、アスタヴァイオンに裏切られてなんかない。なぁ、何がヴィオをそんなに頑なにさせるんだ?」

 ヴィラジュリオからの言葉が嬉しかった。
 それでも、許される気がないアストレイアは、緩く頭を振って言うのだ。
 
「駄目です。ぼくのことそんなに簡単に許さないでください。恨んでください……。それ位酷いことをぼくはしたんです」

「俺にはそんなことされた覚えはない。だから問題ない」

「そ……そんな……。だめです……」

「なら、ヴィオが俺に許されないと思っていることを言ってみろ。ヴィオには酷いことだと思えていることも、当事者の俺には案外どうでもいいことかもしれないぞ?」

「そ……そんなはずないです!! だって……、だってぼくは……」

 興奮したようにそう言ったアストレイアを宥めるようにヴィラジュリオは、抱き寄せてその背中をポンポンと優しく触れる。
 
 優しすぎるヴィラジュリオの手の感触にアストレイアは、全て話してしまいたくなる。
 許されてもいいのか? 気持ちを伝えてもいいのか? 身勝手に縋ってしまってもいいのか?
 アストレイアの気持ちは揺れていた。
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