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第二部
第三章 ちょっと待て、どこがゴリラだ!ゴリラ成分ZEROだろうが!! 2
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領主の屋敷は、都市部の山の手の方にあったため街に降りるまでは歩いて20分ほどの距離があった。
楽しそうに歩くシーナとその姿をニコニコしながら見守るシエテの姿は、すれ違う人達がついつい見入ってしまうほど、吸引力があった。
シエテ一人で歩いているときでも、程よく鍛えられた体と整った顔立ちに涼し気な瞳が、すれ違う乙女たちの心をがっちりと掴んでいた。
しかし今は、可愛い妹を甘やかに見つめていた。その表情は直視できないほど眩しく、トロトロの甘々で、乙女たちはすれ違うたびに振り返り、シエテを熱い眼差しで見つめたのだ。
シーナはシーナで、頬を薄っすらとピンク色に染めて楽しそうにはしゃぐ姿は、道行く老若男女全員が「可愛すぎる!天使かよ!!」と思うほどだった。
シーナがはしゃいで歩くたびに、緩く結った栗色の三編みがしっぽのように揺れて癒やされた。
そんな双子を街の人達は、「眼福過ぎて尊い」と、見つめていたのだった。
今日の目的である、シエテの友人の実家が経営する店の前に来た時だ。シエテは真剣な表情でシーナに言った。
「シーたん。これから、アホでバカでアホな奴が出てくると思うけど、相手にしちゃ駄目だよ」
「えっ?でも、にーにのお友達……」
「仮にだ。俺とアイツが友達だとしても、シーたんにアホでバカでアホを移すわけにはいかないから、相手にしちゃ駄目だよ」
シエテのよく分からない説得に首を傾げていると、突然店の扉が開いた。
そして、二人を怒鳴りつけたのだ。
「店の前でごちゃごちゃうっせーよ!!!店に入らないなら、とっとと他所にいけ……って、シエテ?おーーー、シエテじゃんどうしたよ?なになに?その可愛い子?まっ、まさかお前の彼女?いやいやいや、ないないない。お前はゴリラな妹ラブだもんな!!でっ、その可愛い子誰よ?紹介して!うわー、マジ可愛いね!!小りすちゃん、飴ちゃんなめる?ってかお口ちっちゃいね~。あ~あ~、可愛い、マジ可愛いね~。お兄さんのお嫁さんになr―――」
店から出てきたのは、黒髪に青い目の体格のいい少年だった。
最初は怒鳴り散らしていたが、店の外にいたのがシエテだと知ると相好を崩し、にこやかに喋りだした。
それはもう、すごい勢いで。
シエテも慣れた様子で聞き流していたが、シーナにセクハラまがいの発言をした辺りから、周囲の気温を下げていった。そして、嫁発言をしたところで、その長い足を振り上げて踵を思いっきりその黒髪の少年の頭上に振り下ろした。
どがっ!!!
鈍い音が周囲に鳴り響いた。
踵落としを見舞わされた少年は、頭を両手で押さえて訳の分からない言葉を発しながら地面をのたうち回った。
「あqwせdrftgyふじこ~~~~~」
「体が勝手に動いたんだ。仕方がないさ。よし、この地面を這いつくばっているゴミが俺の知っている不審人物だよ。じゃ、目的も果たしたし、なにか甘いものでも食べてから帰ろうか」
シエテの目的は果たしたと言わんばかりの口ぶりにシーナは慌てた。
地面を転がる少年と、何もなかったと言わんばかりのシエテを見比べてどうしたら良いのか分からずオロオロとしていると、地面を転がっていた少年が復活していた。
「ちょっ!!!シーエーテー。出会い頭に踵落としとか酷くない?それに、何もなかったようにスルーするのやめてくれる?こんなに痛がっている親友になんて酷いことをするんだ!!」
シエテは、面倒くさそうな表情をするだけで何も返事をしなかった。
シーナはシーナで、(この人……、ゴミって言われたこととか、不審人物ってところは突っ込まないんだ……)と少年に対して残念な人なのかもしれないと不信感が募っていった。
シーナが、残念な人かもしれない少年と距離を空けようとした時、少年と視線がかち合った。
少年は、表情を緩めて少し、いや。ものすごくデレッとした表情になった後に、表情を戻してからシエテに視線を向けて睨んで言った。
「シエテ!なんとか言えよ!」
「なんとか」
「そうじゃないから!!」
「は?」
「えっ?俺が悪いの?」
シエテのシーナには見せない顔に驚きはしたが、普段見せない兄の意外な一面を知ることが出来たシーナは嬉しさが込み上げるのと同時に、シエテと黒髪少年のやり取りが面白くなってしまい自然と笑ってしまっていた。
「ぷっ!にーに。なにそれ面白すぎだよ!!あははは!!」
突然のシーナの爆笑に、シエテは困った表情を一瞬見せたが、涙を浮かべて笑うシーナが可愛すぎて、デレッとした表情をしてから自然に抱きしめた。
「シーたんシーたん。可愛いよシーたん~」
ぎゅっと抱きしめてから、ほっぺた同士をくっつけてスリスリとした。
シーナの柔らかい頬は、すべすべでシエテは気持ちよさそうにさらにスリスリを加速させた。
双子の仲よさげな様子にあっけに取られていた黒髪の少年は、驚いたようにその瞳を見開いた。
そして、絶叫した。
「シエテが!!あの、シエテがユルユルでだらしない顔で、女の子とイチャイチャしてる!!あっ、ありえない!!これは夢だ。そうだ、俺はさっき、踵落としを食らって頭がおかしくなって幻覚が見えているんだ!!!精霊よ!!早く俺を夢の中から救ってくr―――」
少年がそこまで叫んだところで、シエテがその背中に蹴りを食らわせて黙らせた。
そして、良い笑顔のまま優しくシーナの耳を塞いでから凍りつくような低い声で言った。
「だ・ま・れ」
その一言で、黒髪の少年は口をつぐんで大人しくなったのだった。
楽しそうに歩くシーナとその姿をニコニコしながら見守るシエテの姿は、すれ違う人達がついつい見入ってしまうほど、吸引力があった。
シエテ一人で歩いているときでも、程よく鍛えられた体と整った顔立ちに涼し気な瞳が、すれ違う乙女たちの心をがっちりと掴んでいた。
しかし今は、可愛い妹を甘やかに見つめていた。その表情は直視できないほど眩しく、トロトロの甘々で、乙女たちはすれ違うたびに振り返り、シエテを熱い眼差しで見つめたのだ。
シーナはシーナで、頬を薄っすらとピンク色に染めて楽しそうにはしゃぐ姿は、道行く老若男女全員が「可愛すぎる!天使かよ!!」と思うほどだった。
シーナがはしゃいで歩くたびに、緩く結った栗色の三編みがしっぽのように揺れて癒やされた。
そんな双子を街の人達は、「眼福過ぎて尊い」と、見つめていたのだった。
今日の目的である、シエテの友人の実家が経営する店の前に来た時だ。シエテは真剣な表情でシーナに言った。
「シーたん。これから、アホでバカでアホな奴が出てくると思うけど、相手にしちゃ駄目だよ」
「えっ?でも、にーにのお友達……」
「仮にだ。俺とアイツが友達だとしても、シーたんにアホでバカでアホを移すわけにはいかないから、相手にしちゃ駄目だよ」
シエテのよく分からない説得に首を傾げていると、突然店の扉が開いた。
そして、二人を怒鳴りつけたのだ。
「店の前でごちゃごちゃうっせーよ!!!店に入らないなら、とっとと他所にいけ……って、シエテ?おーーー、シエテじゃんどうしたよ?なになに?その可愛い子?まっ、まさかお前の彼女?いやいやいや、ないないない。お前はゴリラな妹ラブだもんな!!でっ、その可愛い子誰よ?紹介して!うわー、マジ可愛いね!!小りすちゃん、飴ちゃんなめる?ってかお口ちっちゃいね~。あ~あ~、可愛い、マジ可愛いね~。お兄さんのお嫁さんになr―――」
店から出てきたのは、黒髪に青い目の体格のいい少年だった。
最初は怒鳴り散らしていたが、店の外にいたのがシエテだと知ると相好を崩し、にこやかに喋りだした。
それはもう、すごい勢いで。
シエテも慣れた様子で聞き流していたが、シーナにセクハラまがいの発言をした辺りから、周囲の気温を下げていった。そして、嫁発言をしたところで、その長い足を振り上げて踵を思いっきりその黒髪の少年の頭上に振り下ろした。
どがっ!!!
鈍い音が周囲に鳴り響いた。
踵落としを見舞わされた少年は、頭を両手で押さえて訳の分からない言葉を発しながら地面をのたうち回った。
「あqwせdrftgyふじこ~~~~~」
「体が勝手に動いたんだ。仕方がないさ。よし、この地面を這いつくばっているゴミが俺の知っている不審人物だよ。じゃ、目的も果たしたし、なにか甘いものでも食べてから帰ろうか」
シエテの目的は果たしたと言わんばかりの口ぶりにシーナは慌てた。
地面を転がる少年と、何もなかったと言わんばかりのシエテを見比べてどうしたら良いのか分からずオロオロとしていると、地面を転がっていた少年が復活していた。
「ちょっ!!!シーエーテー。出会い頭に踵落としとか酷くない?それに、何もなかったようにスルーするのやめてくれる?こんなに痛がっている親友になんて酷いことをするんだ!!」
シエテは、面倒くさそうな表情をするだけで何も返事をしなかった。
シーナはシーナで、(この人……、ゴミって言われたこととか、不審人物ってところは突っ込まないんだ……)と少年に対して残念な人なのかもしれないと不信感が募っていった。
シーナが、残念な人かもしれない少年と距離を空けようとした時、少年と視線がかち合った。
少年は、表情を緩めて少し、いや。ものすごくデレッとした表情になった後に、表情を戻してからシエテに視線を向けて睨んで言った。
「シエテ!なんとか言えよ!」
「なんとか」
「そうじゃないから!!」
「は?」
「えっ?俺が悪いの?」
シエテのシーナには見せない顔に驚きはしたが、普段見せない兄の意外な一面を知ることが出来たシーナは嬉しさが込み上げるのと同時に、シエテと黒髪少年のやり取りが面白くなってしまい自然と笑ってしまっていた。
「ぷっ!にーに。なにそれ面白すぎだよ!!あははは!!」
突然のシーナの爆笑に、シエテは困った表情を一瞬見せたが、涙を浮かべて笑うシーナが可愛すぎて、デレッとした表情をしてから自然に抱きしめた。
「シーたんシーたん。可愛いよシーたん~」
ぎゅっと抱きしめてから、ほっぺた同士をくっつけてスリスリとした。
シーナの柔らかい頬は、すべすべでシエテは気持ちよさそうにさらにスリスリを加速させた。
双子の仲よさげな様子にあっけに取られていた黒髪の少年は、驚いたようにその瞳を見開いた。
そして、絶叫した。
「シエテが!!あの、シエテがユルユルでだらしない顔で、女の子とイチャイチャしてる!!あっ、ありえない!!これは夢だ。そうだ、俺はさっき、踵落としを食らって頭がおかしくなって幻覚が見えているんだ!!!精霊よ!!早く俺を夢の中から救ってくr―――」
少年がそこまで叫んだところで、シエテがその背中に蹴りを食らわせて黙らせた。
そして、良い笑顔のまま優しくシーナの耳を塞いでから凍りつくような低い声で言った。
「だ・ま・れ」
その一言で、黒髪の少年は口をつぐんで大人しくなったのだった。
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