旦那様、もう一度好きになってもいいですか?

バナナマヨネーズ

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第一話 記憶喪失になった理由②

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 エクレールが疑問に首を傾げていると、ローレスが口を開いた。

「ああ、申し訳ございません。改めてごせつ―――」

「俺から説明をする」

 ローレスの説明する、という言葉を遮った、辺境伯と呼ばれた男性はエクレールの緑色の瞳を見つめて、真面目な顔で冗談のような話をするのだ。


「エクレール、君は昨日、俺と結婚したんだ。そして、エクレール・ポワレから、エクレール・アインソフ辺境伯夫人となったんだ」

「…………。へぇ……。そうなんですかぁ………………。ってえ?! はあぁぁあああああああ!! わたしが結婚? 誰とですか?!」

 驚きに目を丸くさせるエクレールに対して、辺境伯と呼ばれた男性は、胸を張って自信満々に言うのだ。
 
「ラクレイス・アインソフ。この俺だ」

 エクレールは、何を言われているのかまったく理解できなかった。
 
(辺境伯様と結婚? わたしが? えっ? 目の前のイケメンと? ないない……。あっ、これ、わたし、騙されているのかも?)

 そんなことを考えていると、眉を八の字に寄せたラクレイスが子犬のような表情で言うのだ。
 
「騙してなんかいないから」

「ふぁっ!」

「エクレールの考えそうなことは大体わかるさ」

(待って待って…………)

 信じられない出来事に、エクレールは頭を抱える。
 自分をエクレールの夫だと名乗るラクレイスは、大変好みの男性だった。
 ドストライクの顔面。鍛えられた身体。褐色の肌と黒髪が色気を漂わせる。自分よりも大人の男性に、エクレールは眩暈がした。
 到底信じられない事柄に、エクレールは勢い良く頭を下げていた。
 
「ごめんなさい。りこ―――」

「駄目だ! 無理だ! 好きだ!!!」

 リズムよく拒絶されたエクレールは、必死すぎるラクレイスの姿に胸が締め付けられた。
 出会ってまだ数時間もたっていないのに、もう愛おしいと感じることが不思議だった。
 しかし、それは嫌ではなかった。
 自分の中に、誰かを愛おしいと感じる感情があったことに驚きはあった。
 
 それでも、目の前のラクレイスを好ましいと……、そう感じずにはいられなかった。
 考えの整理の付かない中、ラクレイスは必至さを隠しもせずに言葉を続けた。
 
「俺の名前はラクレイス・アインソフ。歳は、二十六になる。エクレールを好きになったのは、ノウビ王国との―――」

 突然始まった自己紹介にエクレールは、困惑しストップをかける。
 
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
 
「ん?」

「馴れ初めとか聞かされても困ります!」

「なっ……。そうだよな……、ごめん……」

 しょんぼりと、肩を落とす姿を見てしまうと、悪いことをしてしまったという気がしてくる。
 助けを求めるようにローレスの姿を探すも、いつの間にか寝室から出て行ってしまったようで、この場にはエクレールとラクレイスの二人っきりとなってしまっていた。
 
「いえ……、辺境伯様が―――」

「ラクレイスと呼んでくれ」

「でも……」

「お願いだ。俺のことは以前のように……」

 以前のことが何もわからないエクレールは、どうしたものかと天井を見上げる。
 見たことのない天井、ベッド、寝室……。
 今日初めて会った、自分の旦那様だと名乗るイケメン……。
 何もかもが夢の中の出来事のように現実味がなかった。
 それでも、記憶を失ってまで叶えたかった何かがここに……、いや、目の前のラクレイスにあるのだと確信したエクレールは、覚悟を決める。
 
「ラクレイス様……」

 エクレールがそう呼ぶと、ラクレイスの表情がぱっと明るくなる。
 その笑顔に、愛おしさがとこからともなく込み上げたが、これは記憶を失う前の自分が抱いていた思いなのだろうと感じて、何とも言えない気持ちになる。
 その笑顔が自分に向けられているのに、記憶を失う前の自分に向けられているようで、面白くないと感じ、そんな自分に驚く。
 
(ああ……、わたし。この人が好きで……。それで、代償を払ったんだ……)

 この先、どうすればいいのかは、まだわからない。
 それでも、エクレールはラクレイスを知ることから始めようと心に決めたのだ。
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