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第二話 アインソフ辺境伯領①
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ローレスによって処方された、軟膏の意味を理解できていないエクレールが、軟膏を見つめて戸惑っていると、緑色の髪の女性が心配そうに言ったのだ。
「奥方様……。あっ、改めまして、わたくし、マーサ・レスポワと申します。辺境伯家にお仕えさせていただいております。弟ともどもよろしくお願いいたしますわ」
そう言われて、ローレスの姿を思い浮かべる。
緑色の髪と茶色の瞳だったことを思い出してから、もう一度マーサに視線を向ける。
確かに二人はよく似ていた。姉弟と言われてすぐに納得できた。
「えっと……。マーサさん……。よろしくお願いします……。それで……」
そう言って、手元の軟膏をどうしたらいいのかと視線で問うと、マーサはそれまで部屋の中にいたラクレイスを追い出すようなことを口にしたのだ。
「旦那様! そんなところにいらっしゃったら、奥方様がお薬を塗れません! さあさあ、旦那様はお仕事でもしていてください」
マーサにそう言われたラクレイスは、心配そうな顔をしながらも大人しく部屋を出て行った。
そしてマーサは、軟膏について改めて説明をするのだ。
「記憶のない奥方様にはかなり、おつらいことをお伝えしなければなりませんことを、先にお詫びいたします」
深々と綺麗なお辞儀をしたマーサは、低い姿勢のままエクレールの耳元まで移動し、その使い道を教えた。
「昨夜は奥方様と旦那様の結婚式……。そして初夜がございました……」
それを聞いたエクレールは、全てを理解して全身を真っ赤に染めていた。
両手で顔をおおったエクレールは、身体の怠さ、あらぬところの痛みの理由を知り恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
(あああ……。なんてことなのよ……。知っていれば、あんな、怠いとか、腰が痛いとか…………、ましてや、股が痛いだなんて……。恥ずかしすぎて、どうにかなってしまいそうだわ……)
そこまで考えたエクレールは、慌ててマーサに伝えていた。
「大丈夫です!! 薬は自分で塗れますから!!」
エクレールが恥ずかしそうにそう言うと、マーサは心配しながらも部屋を後にしたのだ。
恥ずかしさに耐えながら薬を塗り終えたエクレールは、ベッドにうなだれながら考えていた。
「今は……、あれから四年も経って……、戦争も終わっていて……、わたしは結婚していて……」
わからないことがいっぱいだった。
ざっくりではあるが、ラクレイスから四年が経ったこと、ノウビ王国との戦争が終結していることも聞かされたのだ。
エクレールは、改めて記憶の整理をする。
アインソフ辺境伯領に来る前のことを思い出す。
エクレールは、とある貧乏男爵家の十三番目の子供として生まれた。
貧乏な領地だった。
なんの特産品もなく、利益を得られるような商売もなかった。
そんな貧乏男爵家の末の娘として生まれたエクレールは、搾取される側だった。
家では、自分の食い扶持は自分で確保するようにと言われて育ったが、それが出来たのはごくわずかな兄弟だけだった。
幸いにも、エクレールは、独学ではあったが、剣術、武術、魔法と、戦いにおいて一日の長があった。
しかし、元々のお人好しなところが災いして、せっかくとってきた獲物も兄弟たちに取られてしまう始末だった。
自分ではろくに働かず、人の獲物を横取りするような兄弟に、拳でわからせることは簡単だった。
だが、暴力で問題を解決することに抵抗があったエクレールは、敢えて言われるがまま獲物を差し出していたのだ。
いつしか、そんな生活に嫌気がさしたエクレールは、家を出ることを十三歳の時に決意するのだ。
自分の力を過信したわけではなかったが、エクレールは、傭兵として生計を立てることになる。
傭兵家業を続けること二年。
その頃、隣国のノウビ王国の動きが活発になってきたと傭兵仲間の中で、もっぱらの噂になっていたのだ。
エクレールの住む、ミッドガルズ王国は小さな国だった。
裕福ではないが、貧しくもない。そんな国だった。
ミッドガルズ王国の東側にある、アインソフ辺境伯領は二つの国と隣り合っていた。
一つは、ヌアポ王国。その国は、商業が盛んな国で、ミッドガルズ王国とも取引があり、友好な関係を築いていた。
そしてもう一つの国。
ノウビ王国は、ミッドガルズ王国よりも貧しい国だった。
何を思ったのか、数代前から、かの国はミッドガルズ王国に小競り合いを仕掛けてきていたのだ。
歴代のアインソフ辺境伯によって、ことごとく防がれていたが、なぜか諦めることなく戦争を繰り返し仕掛けてきたのだ。
しかし、ノウビ王国の国力は底をつく寸前だと言われていた。
そのせいなのか、ここ最近のノウビ王国の無茶苦茶な攻め方は恐ろしいものがあった。
そして、そんなやけっぱちのようなノウビ王国の攻めから領土を守るべく、アインソフ辺境伯も本気だった。
傭兵を雇い、今回で戦争を終わらせるという意思が見えたのだ。
傭兵たちは挙ってアインソフ辺境伯領に向かったのだ。
そして、傭兵家業をしていたエクレールも、他の傭兵同様にアインソフ辺境伯領に向かったのだ。
しかし、エクレールの記憶はアインソフ辺境伯領に向かうことを決めた十五歳の時点で途切れてしまっていた。
「奥方様……。あっ、改めまして、わたくし、マーサ・レスポワと申します。辺境伯家にお仕えさせていただいております。弟ともどもよろしくお願いいたしますわ」
そう言われて、ローレスの姿を思い浮かべる。
緑色の髪と茶色の瞳だったことを思い出してから、もう一度マーサに視線を向ける。
確かに二人はよく似ていた。姉弟と言われてすぐに納得できた。
「えっと……。マーサさん……。よろしくお願いします……。それで……」
そう言って、手元の軟膏をどうしたらいいのかと視線で問うと、マーサはそれまで部屋の中にいたラクレイスを追い出すようなことを口にしたのだ。
「旦那様! そんなところにいらっしゃったら、奥方様がお薬を塗れません! さあさあ、旦那様はお仕事でもしていてください」
マーサにそう言われたラクレイスは、心配そうな顔をしながらも大人しく部屋を出て行った。
そしてマーサは、軟膏について改めて説明をするのだ。
「記憶のない奥方様にはかなり、おつらいことをお伝えしなければなりませんことを、先にお詫びいたします」
深々と綺麗なお辞儀をしたマーサは、低い姿勢のままエクレールの耳元まで移動し、その使い道を教えた。
「昨夜は奥方様と旦那様の結婚式……。そして初夜がございました……」
それを聞いたエクレールは、全てを理解して全身を真っ赤に染めていた。
両手で顔をおおったエクレールは、身体の怠さ、あらぬところの痛みの理由を知り恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
(あああ……。なんてことなのよ……。知っていれば、あんな、怠いとか、腰が痛いとか…………、ましてや、股が痛いだなんて……。恥ずかしすぎて、どうにかなってしまいそうだわ……)
そこまで考えたエクレールは、慌ててマーサに伝えていた。
「大丈夫です!! 薬は自分で塗れますから!!」
エクレールが恥ずかしそうにそう言うと、マーサは心配しながらも部屋を後にしたのだ。
恥ずかしさに耐えながら薬を塗り終えたエクレールは、ベッドにうなだれながら考えていた。
「今は……、あれから四年も経って……、戦争も終わっていて……、わたしは結婚していて……」
わからないことがいっぱいだった。
ざっくりではあるが、ラクレイスから四年が経ったこと、ノウビ王国との戦争が終結していることも聞かされたのだ。
エクレールは、改めて記憶の整理をする。
アインソフ辺境伯領に来る前のことを思い出す。
エクレールは、とある貧乏男爵家の十三番目の子供として生まれた。
貧乏な領地だった。
なんの特産品もなく、利益を得られるような商売もなかった。
そんな貧乏男爵家の末の娘として生まれたエクレールは、搾取される側だった。
家では、自分の食い扶持は自分で確保するようにと言われて育ったが、それが出来たのはごくわずかな兄弟だけだった。
幸いにも、エクレールは、独学ではあったが、剣術、武術、魔法と、戦いにおいて一日の長があった。
しかし、元々のお人好しなところが災いして、せっかくとってきた獲物も兄弟たちに取られてしまう始末だった。
自分ではろくに働かず、人の獲物を横取りするような兄弟に、拳でわからせることは簡単だった。
だが、暴力で問題を解決することに抵抗があったエクレールは、敢えて言われるがまま獲物を差し出していたのだ。
いつしか、そんな生活に嫌気がさしたエクレールは、家を出ることを十三歳の時に決意するのだ。
自分の力を過信したわけではなかったが、エクレールは、傭兵として生計を立てることになる。
傭兵家業を続けること二年。
その頃、隣国のノウビ王国の動きが活発になってきたと傭兵仲間の中で、もっぱらの噂になっていたのだ。
エクレールの住む、ミッドガルズ王国は小さな国だった。
裕福ではないが、貧しくもない。そんな国だった。
ミッドガルズ王国の東側にある、アインソフ辺境伯領は二つの国と隣り合っていた。
一つは、ヌアポ王国。その国は、商業が盛んな国で、ミッドガルズ王国とも取引があり、友好な関係を築いていた。
そしてもう一つの国。
ノウビ王国は、ミッドガルズ王国よりも貧しい国だった。
何を思ったのか、数代前から、かの国はミッドガルズ王国に小競り合いを仕掛けてきていたのだ。
歴代のアインソフ辺境伯によって、ことごとく防がれていたが、なぜか諦めることなく戦争を繰り返し仕掛けてきたのだ。
しかし、ノウビ王国の国力は底をつく寸前だと言われていた。
そのせいなのか、ここ最近のノウビ王国の無茶苦茶な攻め方は恐ろしいものがあった。
そして、そんなやけっぱちのようなノウビ王国の攻めから領土を守るべく、アインソフ辺境伯も本気だった。
傭兵を雇い、今回で戦争を終わらせるという意思が見えたのだ。
傭兵たちは挙ってアインソフ辺境伯領に向かったのだ。
そして、傭兵家業をしていたエクレールも、他の傭兵同様にアインソフ辺境伯領に向かったのだ。
しかし、エクレールの記憶はアインソフ辺境伯領に向かうことを決めた十五歳の時点で途切れてしまっていた。
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