旦那様、もう一度好きになってもいいですか?

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
4 / 10

第二話 アインソフ辺境伯領①

しおりを挟む
 ローレスによって処方された、軟膏の意味を理解できていないエクレールが、軟膏を見つめて戸惑っていると、緑色の髪の女性が心配そうに言ったのだ。
 
「奥方様……。あっ、改めまして、わたくし、マーサ・レスポワと申します。辺境伯家にお仕えさせていただいております。弟ともどもよろしくお願いいたしますわ」

 そう言われて、ローレスの姿を思い浮かべる。
 緑色の髪と茶色の瞳だったことを思い出してから、もう一度マーサに視線を向ける。
 確かに二人はよく似ていた。姉弟と言われてすぐに納得できた。
 
「えっと……。マーサさん……。よろしくお願いします……。それで……」

 そう言って、手元の軟膏をどうしたらいいのかと視線で問うと、マーサはそれまで部屋の中にいたラクレイスを追い出すようなことを口にしたのだ。
 
「旦那様! そんなところにいらっしゃったら、奥方様がお薬を塗れません! さあさあ、旦那様はお仕事でもしていてください」

 マーサにそう言われたラクレイスは、心配そうな顔をしながらも大人しく部屋を出て行った。
 そしてマーサは、軟膏について改めて説明をするのだ。
 
「記憶のない奥方様にはかなり、おつらいことをお伝えしなければなりませんことを、先にお詫びいたします」

 深々と綺麗なお辞儀をしたマーサは、低い姿勢のままエクレールの耳元まで移動し、その使い道を教えた。
 
「昨夜は奥方様と旦那様の結婚式……。そして初夜がございました……」

 それを聞いたエクレールは、全てを理解して全身を真っ赤に染めていた。
 両手で顔をおおったエクレールは、身体の怠さ、あらぬところの痛みの理由を知り恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
 
(あああ……。なんてことなのよ……。知っていれば、あんな、怠いとか、腰が痛いとか…………、ましてや、股が痛いだなんて……。恥ずかしすぎて、どうにかなってしまいそうだわ……)

 そこまで考えたエクレールは、慌ててマーサに伝えていた。
 
「大丈夫です!! 薬は自分で塗れますから!!」

 エクレールが恥ずかしそうにそう言うと、マーサは心配しながらも部屋を後にしたのだ。
 恥ずかしさに耐えながら薬を塗り終えたエクレールは、ベッドにうなだれながら考えていた。
 
「今は……、あれから四年も経って……、戦争も終わっていて……、わたしは結婚していて……」

 わからないことがいっぱいだった。
 ざっくりではあるが、ラクレイスから四年が経ったこと、ノウビ王国との戦争が終結していることも聞かされたのだ。
 
 エクレールは、改めて記憶の整理をする。
 
 アインソフ辺境伯領に来る前のことを思い出す。
 エクレールは、とある貧乏男爵家の十三番目の子供として生まれた。
 貧乏な領地だった。
 なんの特産品もなく、利益を得られるような商売もなかった。
 そんな貧乏男爵家の末の娘として生まれたエクレールは、搾取される側だった。
 家では、自分の食い扶持は自分で確保するようにと言われて育ったが、それが出来たのはごくわずかな兄弟だけだった。
 幸いにも、エクレールは、独学ではあったが、剣術、武術、魔法と、戦いにおいて一日の長があった。
 しかし、元々のお人好しなところが災いして、せっかくとってきた獲物も兄弟たちに取られてしまう始末だった。
自分ではろくに働かず、人の獲物を横取りするような兄弟に、拳でわからせることは簡単だった。
 だが、暴力で問題を解決することに抵抗があったエクレールは、敢えて言われるがまま獲物を差し出していたのだ。
 
 いつしか、そんな生活に嫌気がさしたエクレールは、家を出ることを十三歳の時に決意するのだ。
 自分の力を過信したわけではなかったが、エクレールは、傭兵として生計を立てることになる。
 傭兵家業を続けること二年。
 その頃、隣国のノウビ王国の動きが活発になってきたと傭兵仲間の中で、もっぱらの噂になっていたのだ。
 エクレールの住む、ミッドガルズ王国は小さな国だった。
 裕福ではないが、貧しくもない。そんな国だった。
 ミッドガルズ王国の東側にある、アインソフ辺境伯領は二つの国と隣り合っていた。
 一つは、ヌアポ王国。その国は、商業が盛んな国で、ミッドガルズ王国とも取引があり、友好な関係を築いていた。
 そしてもう一つの国。
 ノウビ王国は、ミッドガルズ王国よりも貧しい国だった。
 何を思ったのか、数代前から、かの国はミッドガルズ王国に小競り合いを仕掛けてきていたのだ。
 歴代のアインソフ辺境伯によって、ことごとく防がれていたが、なぜか諦めることなく戦争を繰り返し仕掛けてきたのだ。
 しかし、ノウビ王国の国力は底をつく寸前だと言われていた。
 そのせいなのか、ここ最近のノウビ王国の無茶苦茶な攻め方は恐ろしいものがあった。
 そして、そんなやけっぱちのようなノウビ王国の攻めから領土を守るべく、アインソフ辺境伯も本気だった。
 傭兵を雇い、今回で戦争を終わらせるという意思が見えたのだ。
 傭兵たちはこぞってアインソフ辺境伯領に向かったのだ。
 そして、傭兵家業をしていたエクレールも、他の傭兵同様にアインソフ辺境伯領に向かったのだ。
 しかし、エクレールの記憶はアインソフ辺境伯領に向かうことを決めた十五歳の時点で途切れてしまっていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

旦那さまは私のために嘘をつく

小蔦あおい
恋愛
声と記憶をなくしたシェリルには魔法使いの旦那さまがいる。霧が深い渓谷の間に浮かぶ小さな島でシェリルは旦那さまに愛されて幸せに暮らしていた。しかし、とある新聞記事をきっかけに旦那さまの様子がおかしくなっていっていく。彼の書斎から怪しい手紙を見つけたシェリルは、旦那さまが自分を利用していることを知ってしまって……。 記憶も声もなくした少女と、彼女を幸せにするために嘘で包み込もうとする魔法使いのお話。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん
恋愛
 平凡な子爵令嬢のセシリアは、「氷の彫刻」と呼ばれる無愛想で冷徹な公爵家の嫡男シルベストと恋に落ちた。  二人が婚約してしばらく経ったある日、シルベストが馬車の事故に遭ってしまう。 「キミは誰だ?」  目を覚ましたシルベストは三年分の記憶を失っていた。  それはつまりセシリアとの出会いからの全てが無かった事になったという事だった─── 注:1、2話のエピソードは時系列順ではありません

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

処理中です...