旦那様、もう一度好きになってもいいですか?

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
8 / 10

第二話 アインソフ辺境伯領⑤

しおりを挟む
「出来ました!! 試作品が完成しました!!」

 そう言ってエクレールがラクレイスの執務室を訪れたのは、雑草の研究を始めて二週間ほど経過した昼下がりだった。
 右手に小さな小瓶を持って現れたエクレールは、それについての説明をしたのだ。
 
「領主様、これはですね。いわゆる、万能薬と言うものの試作品です」

「万能薬だと?」

「はい。怪我や、軽い病気位なら治るはずなんです。領主様、これを見てください」

 エクレールはそういうと、机の上にあったペーパーナイフで腕を切って見せたのだ。
 それを見たラクレイスは、慌ててポケットからハンカチを取り出して血を拭おうとした。
 
「馬鹿者! なにをしているんだ!!」

「大丈夫ですから。これを見てください」

 ラクレイスがハンカチで血を拭うのを制止したエクレールは、手に持っていた小瓶の液体を傷にかけたのだ。
 すると、見る見るうちに傷は塞がり、肌に赤い痕が残るだけだった。
 
「どうですか! これを売ればアインソフ辺境伯領は資金調達が出来ると思いませんか?」

 自信満々にそう言ったエクレールだったが、ラクレイスの怒鳴り声でその身を縮めることとなった。
 
「馬鹿者が! 自分の身を切って実験をするなど許可できない! どうして俺で試さなかった!」

「で……でも……」

「でもじゃない! お前は女の子なんだ、もっと自分を大切にしろ!」

「生傷なんていつものことですし……」

「それでもだ!」

 どうしてこんなに怒られなければならないのだろうかと、頬を膨らませるエクレールを見たラクレイスは、大きなため息をついて自分を落ち着けていた。
 
「はぁ……。すまない。大声を出して。だがな、君は女の子で、本来は……。いや、正直に言う。俺は、エクレールに傷付いて欲しくないんだ。だから、必要があれば俺を使え」

 黒い瞳でじっと見つめられたエクレールは、ぼっと顔を赤くさせて、小さな声で呟く。
 
「その顔は……、反則だよ……。格好良すぎ……」

「ん? どうした?」

「いいえ! 何でもないです!」

「そうか。それで、返事は?」

「…………。この万能薬ですが、売れば一攫千金間違いないです! こう少し改良をした後に、どこかの商会に売り出しましょう! と、いうことで!」

「おい!! エクレール!!!」

 エクレールは、そう言うとあっという間に逃げ出していた。
 その後、アインソフ辺境伯領でよくみられる雑草は、アニスという薬草だったと判明し、それを使った万能薬が流通することとなった。
 そのおかげで、アインソフ辺境伯家は十分な資金を得ることが出来たのだ。
 そして、その資金で傭兵たちに褒賞を与え、戦争はますますアインソフ辺境伯領の優勢へと傾いていくのだった。
 
 
 そして、春になりノウビ王国の決死の攻撃が開始されたのだ。
 死に物狂いの、その身の犠牲もいとわない言わんばかりの攻撃に、アインソフ辺境伯軍も傭兵たちも恐ろしいものと戦っていると思わされる毎日だった。
 しかし、決死の攻撃も長くは続かなかった。
 毎日大量のノウビ王国の兵士たちは戦死することを恐れない突撃を繰り返すうちに、それをするだけの兵士すらいなくなっていったのだ。
 ノウビ王国には、正常な判断が出来る上官が居ないのではないかと、そう思えるような作戦とも言えない攻撃だったのだ。
 
 エクレールは、武器も持たず、爆薬を懐に忍ばせて、ただ敵陣に突っ込んでくるだけの兵士の相手をするだけだった。
 突撃してくる兵士を拳で沈め、懐の爆薬を奪い、水魔法で湿らせることを繰り返した。
 
 長い間、そんなことを繰り返し、敵兵が見当たらなくなった頃、エクレールは額の汗を拭って、離れたところで戦っていたラクレイスの無事を確かめるために視線をさまよわせる。
 
「はぁ……。これでひと段落っと。辺境伯様は…………。え?」

 エクレールの視界に入ったのは、戦場の後方で血だまりの中に倒れるラクレイスの姿だった。
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

旦那さまは私のために嘘をつく

小蔦あおい
恋愛
声と記憶をなくしたシェリルには魔法使いの旦那さまがいる。霧が深い渓谷の間に浮かぶ小さな島でシェリルは旦那さまに愛されて幸せに暮らしていた。しかし、とある新聞記事をきっかけに旦那さまの様子がおかしくなっていっていく。彼の書斎から怪しい手紙を見つけたシェリルは、旦那さまが自分を利用していることを知ってしまって……。 記憶も声もなくした少女と、彼女を幸せにするために嘘で包み込もうとする魔法使いのお話。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん
恋愛
 平凡な子爵令嬢のセシリアは、「氷の彫刻」と呼ばれる無愛想で冷徹な公爵家の嫡男シルベストと恋に落ちた。  二人が婚約してしばらく経ったある日、シルベストが馬車の事故に遭ってしまう。 「キミは誰だ?」  目を覚ましたシルベストは三年分の記憶を失っていた。  それはつまりセシリアとの出会いからの全てが無かった事になったという事だった─── 注:1、2話のエピソードは時系列順ではありません

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

処理中です...