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ドリアン子爵夫妻の場合
断罪3 アデリー男爵
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★アデリー男爵の場合★
私は、なぜこんな目にあうのかがわからない。今、私は漁船に乗っている。
来る日も、来る日も、甲板にいて魚を釣り上げたり、網を引きあげる。
知っているか? この漁船ってのは、ひどく揺れるんだよ!
おまけに、船の中は驚くほど狭い・・・・・・マグロを積むスペースを広くとっているから、人間が寝起きする空間は、ほんの少しだ。
寝返りも打てない、そんな空間で寝て、朝から晩までマグロを捕る。
だが、同僚達は上機嫌だ。お金が、すごく良いから、辞められないと嬉しそうに言う男がいた。
「この仕事はよぉーー。決して楽じゃぁないけど、俺みたいな、なんの資格もない男ががっぽり稼げる仕事なんだよー。うちの、娘は持病があってなぁ。手術すれば治るらしいが、その手術代がバカ高いのさ。なんとかしてやりたくってなぁーー。この仕事を3年やれば、娘を助けられるなんて有り難いことさ」
そんな、ばかばかしいことを、にこにこして言う男の気持ちがわからない。娘の為に、働く? なんでだ? もともと妻を愛していない私は、娘さえ愛せない。
私には、他に好きな女性がいたが、今の妻が割り込んできて、酔った勢いでの一回だけの過ちで娘ができた。
あのオーロラだって、本当に私の娘かどうかなど怪しい。家族なんて、少しも愛せない私にはこの男の気持ちは理解できない!
私は、その男と、いつも隣り合わせで魚を捕るし、食事も休憩時間も一緒だった。
夕方になって、暮れなずむ夕日を見ながら、その男に、なんとなく愚痴りはじめた私だった。
「私には、愛していない妻と可愛いと思えない娘がいる。他に、好きな女性がいたんだ・・・・・・あんな女を妻になどしたくなかった・・・・・・娘だって、本当は私の血がはいっていないかもしれない・・・・・・」
「あれま! 俺とおんなじだよー。俺はなぁ、娘とは血が繋がっていないよ。連れ子のいる女と結婚したからなぁ。そいで、俺にも、本当は好きな女が他にいたさ。けどよ、今の女房に惚れられてなぁ、いつの間にかそいつを妻にしてた。でも、俺は満足さ。今の女房を、大事にしてやって、娘も可愛がってるよ。だってよ、どんな経緯があったにせよ、結婚したからには幸せにしてやりたいよー。それが、男ってもんさ!」
その男の気持ちは、私には、多分、一生理解できないかもしれないと思った。
私は、妻を恨み、娘を憎み、失った遠い日の恋人に思いをはせてばかりいた。
*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚
ある日、つり上げたマグロの中にサメが混じっていて、その男に襲いかかった。
なんてことだ、足が・・・・・・その男は出血多量で・・・・・・
「お願いだ。この船を降りたら、代わりに金を家族に渡してくれよー」
漁船は、半年乗って二ヶ月の休みがもらえる。陸にあがり、私は、その男の家族に金を渡しに行った。
住まいは、どのあたりかは、この男からよく聞かされていた。平民の住宅街で、こじんまりした家が建ち並び、どこも庭に花を植えたりよく手入れがされていた。いわゆる、平民でも、生活苦には悩まない層だと思う。
私は、そのうちの一軒のチャイムを鳴らした。あの男の妻と娘は、私の話を聞くと号泣した。
「あの男は、貴女達のことを最後まで心配していましたよ。良い男でした」
私が言うと、その娘は、
「もちろんです。私の父は最高です。私の自慢の、大切な・・・・・・父だった・・・・・・」
「そうですとも! あんな素晴らしい夫はいないです。・・・・・・夫は最高の人でした」
私は、その帰り道で、あの男と見た夕焼けを思い出す。
鮮やかなくっきりとしたミカン色の夕焼けを、私は今日は陸の上から眺めている。
あの男の家族は、心底、悲しんで、あの男を一生忘れないと言っていた。
最高の父親で夫か・・・・・・良い言葉だな・・・・・・
「私も、お前さんみたいな生き方ができるかな・・・・・・今更だが・・・・・・できるかな・・・・・・」
私に『明日』というものが許されるのなら、あの男のような生き方をしてみても、悪くないな・・・・・・そう、思ったのだった。
私は、なぜこんな目にあうのかがわからない。今、私は漁船に乗っている。
来る日も、来る日も、甲板にいて魚を釣り上げたり、網を引きあげる。
知っているか? この漁船ってのは、ひどく揺れるんだよ!
おまけに、船の中は驚くほど狭い・・・・・・マグロを積むスペースを広くとっているから、人間が寝起きする空間は、ほんの少しだ。
寝返りも打てない、そんな空間で寝て、朝から晩までマグロを捕る。
だが、同僚達は上機嫌だ。お金が、すごく良いから、辞められないと嬉しそうに言う男がいた。
「この仕事はよぉーー。決して楽じゃぁないけど、俺みたいな、なんの資格もない男ががっぽり稼げる仕事なんだよー。うちの、娘は持病があってなぁ。手術すれば治るらしいが、その手術代がバカ高いのさ。なんとかしてやりたくってなぁーー。この仕事を3年やれば、娘を助けられるなんて有り難いことさ」
そんな、ばかばかしいことを、にこにこして言う男の気持ちがわからない。娘の為に、働く? なんでだ? もともと妻を愛していない私は、娘さえ愛せない。
私には、他に好きな女性がいたが、今の妻が割り込んできて、酔った勢いでの一回だけの過ちで娘ができた。
あのオーロラだって、本当に私の娘かどうかなど怪しい。家族なんて、少しも愛せない私にはこの男の気持ちは理解できない!
私は、その男と、いつも隣り合わせで魚を捕るし、食事も休憩時間も一緒だった。
夕方になって、暮れなずむ夕日を見ながら、その男に、なんとなく愚痴りはじめた私だった。
「私には、愛していない妻と可愛いと思えない娘がいる。他に、好きな女性がいたんだ・・・・・・あんな女を妻になどしたくなかった・・・・・・娘だって、本当は私の血がはいっていないかもしれない・・・・・・」
「あれま! 俺とおんなじだよー。俺はなぁ、娘とは血が繋がっていないよ。連れ子のいる女と結婚したからなぁ。そいで、俺にも、本当は好きな女が他にいたさ。けどよ、今の女房に惚れられてなぁ、いつの間にかそいつを妻にしてた。でも、俺は満足さ。今の女房を、大事にしてやって、娘も可愛がってるよ。だってよ、どんな経緯があったにせよ、結婚したからには幸せにしてやりたいよー。それが、男ってもんさ!」
その男の気持ちは、私には、多分、一生理解できないかもしれないと思った。
私は、妻を恨み、娘を憎み、失った遠い日の恋人に思いをはせてばかりいた。
*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚
ある日、つり上げたマグロの中にサメが混じっていて、その男に襲いかかった。
なんてことだ、足が・・・・・・その男は出血多量で・・・・・・
「お願いだ。この船を降りたら、代わりに金を家族に渡してくれよー」
漁船は、半年乗って二ヶ月の休みがもらえる。陸にあがり、私は、その男の家族に金を渡しに行った。
住まいは、どのあたりかは、この男からよく聞かされていた。平民の住宅街で、こじんまりした家が建ち並び、どこも庭に花を植えたりよく手入れがされていた。いわゆる、平民でも、生活苦には悩まない層だと思う。
私は、そのうちの一軒のチャイムを鳴らした。あの男の妻と娘は、私の話を聞くと号泣した。
「あの男は、貴女達のことを最後まで心配していましたよ。良い男でした」
私が言うと、その娘は、
「もちろんです。私の父は最高です。私の自慢の、大切な・・・・・・父だった・・・・・・」
「そうですとも! あんな素晴らしい夫はいないです。・・・・・・夫は最高の人でした」
私は、その帰り道で、あの男と見た夕焼けを思い出す。
鮮やかなくっきりとしたミカン色の夕焼けを、私は今日は陸の上から眺めている。
あの男の家族は、心底、悲しんで、あの男を一生忘れないと言っていた。
最高の父親で夫か・・・・・・良い言葉だな・・・・・・
「私も、お前さんみたいな生き方ができるかな・・・・・・今更だが・・・・・・できるかな・・・・・・」
私に『明日』というものが許されるのなら、あの男のような生き方をしてみても、悪くないな・・・・・・そう、思ったのだった。
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