[完結]男に隙なんてみせるな!

青空一夏

文字の大きさ
2 / 3

2 彩綾が気になる澪

しおりを挟む
 side澪

 校門を出ると、夕方の風が少し冷たかった。私は足早に、いつもの道を歩く。
 白鷺家の塀は高く、外から中の様子はほとんど見えない。ゲートを専用キーで開けると、甘い香りがふわりと流れてきた。アーチ状に組まれた蔓薔薇は、ちょうど見頃で、赤や白の花が静かに揺れている。
(また薔薇の種類が増えてるわ)
 母の趣味だ。正確には、管理は専門の業者がやっているけれど、どの薔薇をどこに植えるかを決めるのは、母だった。玄関の扉を開ける。
「お帰りなさいませ」
 奥から、お手伝いさんの声がした。
「ただいま」
 それだけ言って、靴を脱ぐ。母はまだ帰っていないはずだ。確か今日は、イタリア語講座の日だったと思う。その後は、友人たちとお茶をして、夕食まで帰ってこないのが定番だ。 

 自室に向かい、鞄を置いたらすぐにシャワー。母からは、女の子は綺麗でいなさいと言われてきたから。部屋着に着替えて、机に向かう。やがて父と母が同じぐらいに帰ってきた気配がした。いつも夕食は決まった時間。私は時間通りダイニングに向かう。大きなテーブルで無言で食事を進めていくと、父が私の顔を見ずに尋ねた。
「定期テストの結果は?」
「……一位です」
「そうか」
 これが二位だと、相づちも打たれない。だから、今日はほんの少しだけ居心地がいい。母はイタリア語の話をして、父は仕事の話をする。二人の会話はまるで 噛み合っていない。そして私に、学校のことを聞いてくることは、ほとんどない。

 前菜は帆立とグレープフルーツのマリネ、メインは白身魚のムニエル。いつもの夕食、いつもの光景。
(彩綾はなにを食べているのかな? 父親は私のお父様と同じ検事だと言っていた。お父様から、友人になっても良いと言われた唯一の女の子なのに。私たちは全然仲良くなれない……)

 彩綾は、学年で一番背が高い。
すっきりとしたショートカットに、制服の着こなしは無駄がなく、少し男物寄りのジャケットを羽織るだけで、まるで韓流アイドルグループのセンターがそのまま学園に紛れ込んだみたいだった。
切れ長の目に、鍛えられたしなやかな身体つき。女子校の空気が、彼女の周りだけ少し違う。

 だから、誰に言われるでもなく、彩綾は「王子様」と呼ばれていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい

よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。 王子の答えはこうだった。 「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」 え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?! 思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。 ショックを受けたリリアーナは……。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...