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3 引っかき回される職場 (それぞれの思い)

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「うわぁ、なにあの言い方? お嬢様なら、こんなところで働かないでお屋敷でお茶会でもしていればいいのに」

「私達は、生活の為に働いているのに舐めてるわよねぇーー」

 ヒソヒソ話が、女性従業員達の間からたちのぼります。なんでこんなお嬢様が来たのか、嫌な予感しかしません。

「とりあえず、ベテランのレモナさんと組んでください」

 イアンから言われたレモナさんは真面目な性格で、ソファ売り場の責任者です。レモナさんに連れられてカーラ様は鼻歌を歌いながらソファ売り場に移動していきました。

「ねぇ、イアン。働いたこともないカーラ様を、いきなり売リ場にだすのはまずいんじゃないかしら?」

「あらぁーー、そぉんなことないわよぉ。私も今日からここで働くわぁ。うーーん、楽な職場がいいからぁ、ベッドの売り場がいいかなぁ。ベッドなんてそうそう売れないわよね」

 今まで仕事をしたこともないお嬢様がまた一人やって来ました。ウェンディが当然のように言い放った言葉に、イアンはうなづくだけでした。


☆彡★彡☆彡


 お昼時になると、ソファ売り場のレモナさんがまずやって来ました。私は従業員控え室で、持参したお弁当を食べるのが習慣になっています。周りには他の従業員達もいて、持参したサンドイッチなどを食べていました。

「あのカーラって人! ずっと売り物の高級ソファに座り込んで、少しも働きませんよ。お客様が来てなにか尋ねても『あの人に言ってよ』と、私を指さすんです! しまいには、売り物の応接セットでお茶までいれだすし、そこにイアン様を呼んでお茶会ごっこですよ!」

「売り物の応接セットで、お茶会ごっことは奇抜なアイディアね」

「アイラさん。感心している場合じゃないです!」

 困りましたね。カーラ様とウェンディは、私がなにを言っても多分聞かないでしょう。



「アイラさん! 私、辞めます! あり得ません! えぇ、こんなことは耐えられません。ベッド売り場に来たウェンディお嬢様は、お客様をけなすんですよ。『あら、こんなベッドを買うなら、あっちのベッドのほうが寝心地がいいのに』とか『いやだぁーー、どうしてこんな趣味の悪いカバーを選らぶのぉ』とか大きな声で叫びまくって……怒ってお客様が帰ると、『あんたの応対が悪いからヴィセンテ家具店で買わないで帰っちゃったじゃない? うちの損害はあんたが賠償しなさいよ!』と言うのです! 私、こんな理不尽には耐えられません」

 ベッド売り場の責任者のイヤナさんが、控え室に泣きながら飛び込んできます。あとから来たカーラ様とウェンディはその様子を見て、笑っていました。

「辞めたければ辞めればいいじゃない! あんたの代りなんていくらでもいるんだから」

 その言葉の直後に控え室に入ってきたイアンは、押し黙っていて……微妙な空気が流れます。

「ねぇ、私達3人でランチは外で食べない? いいお店があるのよぉ?」

 ウェンディの提案にカーラ様はうなづき、イアンの腕をとるとさっさと3人で馬車に乗り込むのでした。

「アイラさん、なんとかしてくださいよっ! 貴女だってヴィセンテ男爵家の人間でしょう? こんなことだと、この家具店は潰れますよ!」


 従業員の皆さんが詰め寄って不満を私にぶつけますが、私には人事権も裁量権もなにもありません。ただ、『なんの力もなくて、すみません……』と言うしかないのです。

 私って……ヴィセンテ男爵家の人間なのかしら? ヴィセンテ男爵家の人間と感じたことは、今まで一度もなかったのでした。




🌼 アイラの代わりに妻の座を手に入れたい脳内ピンク娘(カーラ視点)


  
 イアンは私の従兄弟で、なイケメン。優しいし怒ったところなど見たことがない。無口だけれど、きっと頭のなかではいろいろと考えて敢えてなにも言わないのだと思う。

 イアンは基本、争いごとを好まない。私とウェンディがなにを言っても、にこやかに笑っているだけだ。この落ち着いた大人の風格がたまらなく好きな私は、なんとかアイラを追い出してイアンを自分のものにしたい。

 幸い、ウェンディの方から

「カーラがお兄様のお嫁さんだったら良かったのに。アイラって、私の可愛がっているマルタンをとったのよ。自分が世話をするからくれって言ったの! 図々しいでしょう? 私は、仕方なく結婚祝いとしてあげたわ」

 そう、言ってきた。なんて、嫌な女だろう。マルタンは高級な犬だし可愛いから、私だって欲しかった。まぁ、面倒な世話は嫌だけどね。

 どうしたらイアンを自分のものにできるかな? って考えたら……うふふ……まずは職場を引っかき回して……あれも……これも、いろいろ試してみようかなぁーーって名案が頭のなかに浮かびまくった。すごいわ、私。天才でしょう? あっは!


🌼私こそ、このヴィセンテ家具屋を切り盛りできる才覚があるもんと思う脳内ピンク娘(ウェンディ視点)


 アイラが嫁にくる前日に、私とお兄様は両親にサロンに呼ばれた。

「明日からここに住むアイラは嫁じゃないから『お義姉様』と呼ばなくていいわよ。アイラと呼び捨てでいいのよ」

 お母様は、私にほの暗い笑みを浮かべてそう言った。

「アイラは平民で、両親も親戚もいない。どう扱っても、だれも文句を言う奴はいない。だから、嫁という名目で『ただ働き』してもらおうと思ってなぁ。あの能力に見合った給料をあげるとなると、結構な出費だ。嫁にしとけば転職されることもないし、ずっと縛り付けておける。イアンは、愛人でも作ってそっちに子供を産ませればいい」

「そぉんなこと、なんでするのよ? ウェンディだって、アイラなんかに負けないぐらい優秀だよっ!」

 私がいくら言っても取り合ってくれないし、お兄様にはカーラが似合うと思うのに、それもわかってくれない。こんなことで、お嫁さんを決めるなんて間違ってるよ。お父様達の考えが変らないなら、私がアイラを追い出せばいいんじゃないかな?

 幸い、カーラは「ずっと、イアンが好きだった」って、あの家族旅行の日に打ち明けてくれた。私達は協力してアイラを困らせてやるんだ。お父様達にはばれないようにしないといけないけれど、どうせお父様もお母様も出勤して10分も社長室にいないのだからばれるわけがない。二人は、交流会と称される観劇やオペラ鑑賞、音楽会にお茶会で忙しく店の仕事はアイラとお兄様に任せっきりだ。

 うふふ……アイラを追い出したら、私がここを仕切ってあげよう! 私が責任者になれば売り上げだって倍増だわよ、間違いないわ! うふっ。
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