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17 嘘のオンパレード(エイヴリー視点)
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王妃様の姪として果物の写生をすることになった私は、黙々と描きあげました。
偽エイヴリーのヴァネッサは四苦八苦しながらもなんとか描き終えて、皆の前に私とヴァネッサのデッサンが並んで置かれます。
「まるで、話になりませんわ! 圧倒的に右のデッサンが素晴らしい!」
「というか……左の絵は5歳児の絵でしょうか? 林檎とバナナなことはかろうじてわかりますが……なんの冗談なのか……いや、林檎にしてはいびつすぎるし洋梨? なぜ、林檎にくびれがある? ぶっ。あっはははは!」
「林檎にくびれ……抽象画のつもりかな……今求められているのはどれだけ本物に近づけて書けるかということなのに! 国王陛下を愚弄しているのか!」
そこにいらっしゃる全ての方々が左の絵を酷評しております。もちろんそれは偽エイヴリーのヴァネッサが描いた絵なのです。
「エイヴリー! お前は王家を愚弄する気か? あのペガサスを描いたお前がこのようなふざけた絵を描くなど! もう一度、やり直せ!」
真っ青になった偽エイヴリーのヴァネッサは何度も描き直しますが、絵の技術がそこで向上するわけではありません。5歳児のような幼稚な絵が何枚もできあがるだけなのでした。
「王家を愚弄するエイヴリーには刑を……」
国王陛下がおっしゃりかけたその時です。
「愚弄などしておりません! これでも、精一杯描いているんです!」
「ほぉ? 精一杯描いてこの程度? ならば、あのペガサスの絵は誰が描いた?」
「そ、それは……あ、えぇっと、今日は調子が悪いだけです。私は天才型ですから。そう、神が降りてくるのです。絵画の神様が私の手に宿って自然と描けるようになります」
「なんと! 神がおりてくるだと? 嘘偽りないな? 儂に嘘をついたらどうなるかわかっているか?」
「嘘じゃないです。今まで嘘など一度もついたことはありません! 神は明日になれば、おりて来るかもしれません」
「そうか……あのペガサスの絵をこちらに借りてきた。これとそっくりに描けるように神が降りてくるまで、王宮にアトリエを用意しよう。あぁ、東の誰も訪れない塔の一番上の部屋は静かでよいだろう。そこでゆっくり神が降りてくるまで描き続けてよいぞ」
「え? そんな……無理です。そんなことされたら一生出てこられない……」
「どうした? あのペガサスはお前が描いたのだろう? 神が降りてくるとまで言ったのだ。自分の発言には責任をもて!」
「あ……あぁーー。私が悪うございました。これは私が描いたものではありません! つい姉のエイヴリーが描いた絵が羨ましくて自分の作品と偽っただけなんです」
偽エイヴリーのヴァネッサは、とうとう耐えきれず白状したのでした。
「お前は偽っただけと言ったな? 偽られたほうはどのような気持ちがするのか考えたことは? 国王陛下をだまし、盗作をし神の名まで汚した愚か者は、厳しい刑罰に処する必要がある。それから、姉のエイヴリーとは誰のことか? お前がエイヴリーなのだろう?」
王妃様の横に座っていらっしゃった王太后様が、訝しむようにお尋ねになるとお父様と継母の口から『ひっ』という声が聞こえてきました。
「オクタビアよ! この娘はアーソリン前女伯爵とお前の一人娘のエイヴリーだろう? そう言えば、お前のそこの再婚相手の連れ子のヴァネッサはどうした? 今はどこにいるのだ?」
お父様はガクガクと震えるばかりで、なにも言わずに黙っています。
「国王陛下に申し上げます。弟のカークが証言したいとのことですが、よろしいでしょうか?」
クラーク様の後ろには私の元婚約者のカーク様がおりました。
「うむ、許す」
「そのエイヴリーと名乗っている女はヴァネッサで間違いありません。占いでエイヴリーでなくヴァネッサを女伯爵にするとオクタビア様がおっしゃったのです。私は、オマリ家の跡継ぎの婚約者なので、そのヴァネッサが私の婚約者になりました……」
「はぁ? アーソリン様のお子様のエイヴリー様にしか爵位は継げないはずよ」
「そんな、ばかな話はないわ! オマリ家の婿にすぎないオクタビア様の後妻の子供など、伯爵家の血が一滴も入ってないではありませんか!」
「「「なんと、ばかな話だ」」」
「本物のエイヴリー様は、どこに行ったのかしらね?」
それを聞いていた貴族達はざわめき立ち、呆れ顔をしておりました。
「あ、あの。王様に申し上げます。本物のエイヴリーは、好きな男ができまして、今は幸せな結婚をしております。身分違いの恋でしたが私達は応援し、エイヴリーのたっての願いでヴァネッサがエイヴリーの身代わりになりました! 悪いのはなにもかも、我が儘を言って男と結婚して家を捨てたエイヴリーです」
お父様は私も呆れるほどの大嘘を、スラスラとついたのでした。国王陛下は、そのめちゃくちゃなでっち上げの言い訳に、いよいよ怒りの黒いオーラを増していきます。
「ほぉーー。好きな男ができて結婚して家を出たのか? その男の名前は? 今はどこに住んでいる?」
「コクオという歳の離れた男で庶民でして……住まいは……ん? 住まいはどこだったかな? とにかく、伯爵なんかになるよりその男がいいと言った愚かな娘でして。止めても聞かなかったので……」
「ほぉーー。おもしろいな。なぁ、オクタビアよ。その男は老人で、お前は金でエイヴリーを売ったよな?」
「え?……めっそうもないことです。そのようなことをするはずがないでしょう? 仮にも私はエイヴリーの実の父親ですよ?」
「うむ。実の父親でこれほどおぞましい奴がおるとは、私も信じられぬ思いだ。お前は、奴隷として買ってくれとよぼよぼの老人に大金を要求した。命の保証もいらないと言ったよな?」
「え?……国王陛下。そんな言いがかりはやめてください。どこにそのような証拠があるのです? 証拠を出してくださいよ! 国王陛下と言えども、証拠もなしにそんなことは言えないはずだ!」…
開き直ったように反撃するお父様は、ふてぶてしい笑みを浮かべております。
国王陛下はその言葉を聞いて、とても愉快そうな笑い声をあげたのでした。
偽エイヴリーのヴァネッサは四苦八苦しながらもなんとか描き終えて、皆の前に私とヴァネッサのデッサンが並んで置かれます。
「まるで、話になりませんわ! 圧倒的に右のデッサンが素晴らしい!」
「というか……左の絵は5歳児の絵でしょうか? 林檎とバナナなことはかろうじてわかりますが……なんの冗談なのか……いや、林檎にしてはいびつすぎるし洋梨? なぜ、林檎にくびれがある? ぶっ。あっはははは!」
「林檎にくびれ……抽象画のつもりかな……今求められているのはどれだけ本物に近づけて書けるかということなのに! 国王陛下を愚弄しているのか!」
そこにいらっしゃる全ての方々が左の絵を酷評しております。もちろんそれは偽エイヴリーのヴァネッサが描いた絵なのです。
「エイヴリー! お前は王家を愚弄する気か? あのペガサスを描いたお前がこのようなふざけた絵を描くなど! もう一度、やり直せ!」
真っ青になった偽エイヴリーのヴァネッサは何度も描き直しますが、絵の技術がそこで向上するわけではありません。5歳児のような幼稚な絵が何枚もできあがるだけなのでした。
「王家を愚弄するエイヴリーには刑を……」
国王陛下がおっしゃりかけたその時です。
「愚弄などしておりません! これでも、精一杯描いているんです!」
「ほぉ? 精一杯描いてこの程度? ならば、あのペガサスの絵は誰が描いた?」
「そ、それは……あ、えぇっと、今日は調子が悪いだけです。私は天才型ですから。そう、神が降りてくるのです。絵画の神様が私の手に宿って自然と描けるようになります」
「なんと! 神がおりてくるだと? 嘘偽りないな? 儂に嘘をついたらどうなるかわかっているか?」
「嘘じゃないです。今まで嘘など一度もついたことはありません! 神は明日になれば、おりて来るかもしれません」
「そうか……あのペガサスの絵をこちらに借りてきた。これとそっくりに描けるように神が降りてくるまで、王宮にアトリエを用意しよう。あぁ、東の誰も訪れない塔の一番上の部屋は静かでよいだろう。そこでゆっくり神が降りてくるまで描き続けてよいぞ」
「え? そんな……無理です。そんなことされたら一生出てこられない……」
「どうした? あのペガサスはお前が描いたのだろう? 神が降りてくるとまで言ったのだ。自分の発言には責任をもて!」
「あ……あぁーー。私が悪うございました。これは私が描いたものではありません! つい姉のエイヴリーが描いた絵が羨ましくて自分の作品と偽っただけなんです」
偽エイヴリーのヴァネッサは、とうとう耐えきれず白状したのでした。
「お前は偽っただけと言ったな? 偽られたほうはどのような気持ちがするのか考えたことは? 国王陛下をだまし、盗作をし神の名まで汚した愚か者は、厳しい刑罰に処する必要がある。それから、姉のエイヴリーとは誰のことか? お前がエイヴリーなのだろう?」
王妃様の横に座っていらっしゃった王太后様が、訝しむようにお尋ねになるとお父様と継母の口から『ひっ』という声が聞こえてきました。
「オクタビアよ! この娘はアーソリン前女伯爵とお前の一人娘のエイヴリーだろう? そう言えば、お前のそこの再婚相手の連れ子のヴァネッサはどうした? 今はどこにいるのだ?」
お父様はガクガクと震えるばかりで、なにも言わずに黙っています。
「国王陛下に申し上げます。弟のカークが証言したいとのことですが、よろしいでしょうか?」
クラーク様の後ろには私の元婚約者のカーク様がおりました。
「うむ、許す」
「そのエイヴリーと名乗っている女はヴァネッサで間違いありません。占いでエイヴリーでなくヴァネッサを女伯爵にするとオクタビア様がおっしゃったのです。私は、オマリ家の跡継ぎの婚約者なので、そのヴァネッサが私の婚約者になりました……」
「はぁ? アーソリン様のお子様のエイヴリー様にしか爵位は継げないはずよ」
「そんな、ばかな話はないわ! オマリ家の婿にすぎないオクタビア様の後妻の子供など、伯爵家の血が一滴も入ってないではありませんか!」
「「「なんと、ばかな話だ」」」
「本物のエイヴリー様は、どこに行ったのかしらね?」
それを聞いていた貴族達はざわめき立ち、呆れ顔をしておりました。
「あ、あの。王様に申し上げます。本物のエイヴリーは、好きな男ができまして、今は幸せな結婚をしております。身分違いの恋でしたが私達は応援し、エイヴリーのたっての願いでヴァネッサがエイヴリーの身代わりになりました! 悪いのはなにもかも、我が儘を言って男と結婚して家を捨てたエイヴリーです」
お父様は私も呆れるほどの大嘘を、スラスラとついたのでした。国王陛下は、そのめちゃくちゃなでっち上げの言い訳に、いよいよ怒りの黒いオーラを増していきます。
「ほぉーー。好きな男ができて結婚して家を出たのか? その男の名前は? 今はどこに住んでいる?」
「コクオという歳の離れた男で庶民でして……住まいは……ん? 住まいはどこだったかな? とにかく、伯爵なんかになるよりその男がいいと言った愚かな娘でして。止めても聞かなかったので……」
「ほぉーー。おもしろいな。なぁ、オクタビアよ。その男は老人で、お前は金でエイヴリーを売ったよな?」
「え?……めっそうもないことです。そのようなことをするはずがないでしょう? 仮にも私はエイヴリーの実の父親ですよ?」
「うむ。実の父親でこれほどおぞましい奴がおるとは、私も信じられぬ思いだ。お前は、奴隷として買ってくれとよぼよぼの老人に大金を要求した。命の保証もいらないと言ったよな?」
「え?……国王陛下。そんな言いがかりはやめてください。どこにそのような証拠があるのです? 証拠を出してくださいよ! 国王陛下と言えども、証拠もなしにそんなことは言えないはずだ!」…
開き直ったように反撃するお父様は、ふてぶてしい笑みを浮かべております。
国王陛下はその言葉を聞いて、とても愉快そうな笑い声をあげたのでした。
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