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続編
7 ご褒美のつもりが……
※ベルトラン課長視点
局長室に呼び出されるなんて、まぁまぁある話だ。
人望ってやつは、黙ってても上に伝わる――と、俺は思ってる。
だから俺は、スーツの襟を直して、胸を張って歩いていた。
今日の俺、コンディションも完璧だ。廊下の窓に映った自分を見て、思わず「よし」と頷いた。
ノックして、扉を開けると――
「やあ、ベルトラン君。どうぞ、座ってくれたまえ」
にこやかに笑って、紅茶まで出してきた。
ああ、なるほど。俺の手腕が評価されたってわけか。
これはどう見ても、“日頃の俺の完璧な働きっぷり”へのご褒美だろう?
そう思って、俺は堂々と紅茶に手を伸ばす。
「最近の課の動きはどうだね? 順調に回っているように見えるが」
来た来た。これは上司が部下の成果を確認しに来る典型パターン。
ここはひとつ、さらっと切り抜けるとしよう。
「ええ、おかげさまで。仕事も効率的に回っていますし、課内の雰囲気も悪くないかと。
優秀な部下が多くて、助かってますよ。私がちょっと指示を出せば、あとは自主的にどんどん動いてくれるんです」
実際、その“優秀な部下”ってのはマリアンヌ一択なんだけど、もちろん名前は出さない。
俺の采配力ってことで押し通すのが課長の役目だ。
局長は、ふんふんと静かに頷いていた。
「そうか、それは頼もしい限りだ。では――」
その時、横の扉がノックもなく開いた。
入ってきたのは、ベテラン職員が二人。なぜか、冷めた目で俺を見つめていた。
「第23号業務フロー見直しに関する内容について、課長から直接ご説明いただけますか?」
――……ん? あれ、第23号業務フロー見直し実施計画書って……なんだっけ?
「えーっと、第23号業務フロー見直し実施計画書の件ですよね……あれは確か、うちのチームでしっかり検討を重ねて……うん、ええ、まぁ、……適切に処理したはずです」
「すみません、その“チームでの検討”というのは、いつ行われたのでしょうか?」
「……いつ、だったかな……ま、まぁ、おおよそ先週の――」
「その日、課長は終日外出の記録が残っておりますが?」
――……あ?
嫌な汗が背中を伝った。ちょっと待て、……気づけば、出口のない罠の中にいる気分なんだが?
「では、課長。こちらの《第四次調整区・配属希望報告書》について――“ワトキン”という名前が記載されていますが、第四課と第七課に、それぞれ同姓の職員が在籍しています。どちらのワトキンですか?」
「……え?」
「名字を( )で補足記載するよう、文書処理要領にも明記されていますよね? その確認が抜けています」
「あっ……」
しどろもどろの俺を見かねて、局長が声をかける。
「ベルトラン課長。そもそもこの書類、本当に君自身が処理したのかね? 私は君に、直接面接を行い、希望者の意向を丁寧に聞き取るよう指示したはずだ。だが、本人に確認したところ――課長代理の女性職員が面接したと話していた。課長代理の任命届なんてだしてないよな? 説明してもらえるか?」
「いや、ほら、女性の部下がですね。熱心すぎるくらい熱心な子で。自分から『やります!』って言ってきたんですよ。そういう前向きな姿勢は、やっぱり応援したくなるじゃないですか。いずれ課長代理に、と思っていたんです」
俺は苦し紛れに笑ってみせた。
逃げ切れる、そう思った。俺は悪くない。悪いのは……勝手にやったマリアンヌ、ということにしよう。
どうせ相手は平民の、身内もいない天涯孤独の身。どうなろうと知ったことか! 俺の家は準男爵家だからな、ふふん。
――そのとき、奥の扉が、ゆっくりと開き……
局長室に呼び出されるなんて、まぁまぁある話だ。
人望ってやつは、黙ってても上に伝わる――と、俺は思ってる。
だから俺は、スーツの襟を直して、胸を張って歩いていた。
今日の俺、コンディションも完璧だ。廊下の窓に映った自分を見て、思わず「よし」と頷いた。
ノックして、扉を開けると――
「やあ、ベルトラン君。どうぞ、座ってくれたまえ」
にこやかに笑って、紅茶まで出してきた。
ああ、なるほど。俺の手腕が評価されたってわけか。
これはどう見ても、“日頃の俺の完璧な働きっぷり”へのご褒美だろう?
そう思って、俺は堂々と紅茶に手を伸ばす。
「最近の課の動きはどうだね? 順調に回っているように見えるが」
来た来た。これは上司が部下の成果を確認しに来る典型パターン。
ここはひとつ、さらっと切り抜けるとしよう。
「ええ、おかげさまで。仕事も効率的に回っていますし、課内の雰囲気も悪くないかと。
優秀な部下が多くて、助かってますよ。私がちょっと指示を出せば、あとは自主的にどんどん動いてくれるんです」
実際、その“優秀な部下”ってのはマリアンヌ一択なんだけど、もちろん名前は出さない。
俺の采配力ってことで押し通すのが課長の役目だ。
局長は、ふんふんと静かに頷いていた。
「そうか、それは頼もしい限りだ。では――」
その時、横の扉がノックもなく開いた。
入ってきたのは、ベテラン職員が二人。なぜか、冷めた目で俺を見つめていた。
「第23号業務フロー見直しに関する内容について、課長から直接ご説明いただけますか?」
――……ん? あれ、第23号業務フロー見直し実施計画書って……なんだっけ?
「えーっと、第23号業務フロー見直し実施計画書の件ですよね……あれは確か、うちのチームでしっかり検討を重ねて……うん、ええ、まぁ、……適切に処理したはずです」
「すみません、その“チームでの検討”というのは、いつ行われたのでしょうか?」
「……いつ、だったかな……ま、まぁ、おおよそ先週の――」
「その日、課長は終日外出の記録が残っておりますが?」
――……あ?
嫌な汗が背中を伝った。ちょっと待て、……気づけば、出口のない罠の中にいる気分なんだが?
「では、課長。こちらの《第四次調整区・配属希望報告書》について――“ワトキン”という名前が記載されていますが、第四課と第七課に、それぞれ同姓の職員が在籍しています。どちらのワトキンですか?」
「……え?」
「名字を( )で補足記載するよう、文書処理要領にも明記されていますよね? その確認が抜けています」
「あっ……」
しどろもどろの俺を見かねて、局長が声をかける。
「ベルトラン課長。そもそもこの書類、本当に君自身が処理したのかね? 私は君に、直接面接を行い、希望者の意向を丁寧に聞き取るよう指示したはずだ。だが、本人に確認したところ――課長代理の女性職員が面接したと話していた。課長代理の任命届なんてだしてないよな? 説明してもらえるか?」
「いや、ほら、女性の部下がですね。熱心すぎるくらい熱心な子で。自分から『やります!』って言ってきたんですよ。そういう前向きな姿勢は、やっぱり応援したくなるじゃないですか。いずれ課長代理に、と思っていたんです」
俺は苦し紛れに笑ってみせた。
逃げ切れる、そう思った。俺は悪くない。悪いのは……勝手にやったマリアンヌ、ということにしよう。
どうせ相手は平民の、身内もいない天涯孤独の身。どうなろうと知ったことか! 俺の家は準男爵家だからな、ふふん。
――そのとき、奥の扉が、ゆっくりと開き……
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