[完結]死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー処刑された侯爵令嬢、お局魂でリベンジ開始!

青空一夏

文字の大きさ
7 / 16

7 侯爵の試練――それは腹痛との闘い

しおりを挟む
 ※ローズミント侯爵視点(主観視点に変わります)
 ※後編から地獄の腹痛タイムに移行します。汚物の具体的な表現はありませんが、toiletごもり、の場面があります。

•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 
 カトリーナは完璧だった。育ちも、品格も、教養も、すべてが模範的な貴族令嬢そのものだった。誰もが羨む存在であり、私にとってもそれは同じだった。

 ……いや、違うな。最初は確かに誇らしかったのかもしれない。リッチモンド公爵家の令嬢を妻とすることができたのだから。だが、それも長くは続かなかった。

 カトリーナはあまりにも隙がなかった。いつでも理知的で、冷静で、完璧な淑女。私が何をしようと動じず、妻としての義務は果たすが、それ以上の情熱を感じることはなかった。夜を共にする時でさえ、彼女の態度はどこか事務的で、妻としての責務を果たしているだけのように思えた。

 そんな時に現れたのが、イザベルだった。

 イザベルは平民だったが、それがむしろ新鮮だった。貴族のような礼儀作法も、気品も持ち合わせていない。ただ素直に笑い、私の言葉に頷き、媚びることもなく心から私を求めてくれる。そんな彼女が、私にはたまらなかった。

 カトリーナとは違い、イザベルは柔らかく、温かかった。感情を表に出し、素直に愛情を示してくれる。その上、彼女は若く、カトリーナよりも肉感的だった。特にバストは……いや、比べるのも馬鹿らしい。

 最初はただの気まぐれだった。だが、イザベルとの時間は心地よく、いつしか私は彼女を手放せなくなっていた。私にすがる彼女の姿は、カトリーナの冷めた瞳よりもずっと魅力的だった。

 やがて、イザベルは子を孕んだ。ブロッサムと同じ年の、私の隠し子だ。

 カトリーナには決して知られてはならない。もし知られれば、どんな顔をするだろうか。……いや、どうせ眉一つ動かさず、冷たく私を見下し、別れるように冷静に諭しただろう。

 イザベルとの関係を手放したくなかった私は、彼女のために適当な部屋を用意し、カトリーナに悟られぬよう下町へ住まわせた。

 カトリーナが病死してくれて、イザベルを後妻に迎えることができると思ったときには狂喜乱舞した。イザベルと抱き合いながら喜び、ビオラにもこれからは侯爵令嬢になれるのだと言い聞かせる。

 問題は平民として育ち、カトリーナに悟られぬよう下町で暮らさせていたため、二人とも貴族としてのマナーや習慣に疎いことだった。それは私にとって新鮮であり、素朴で愛すべき点でもあったが、いざ正式に妻や娘として迎えるとなると、大きな障害となるのは明白だった。

 ところが、その憂慮をブロッサムが綺麗に取り除いてくれた。なんと、初めての顔合わせの日、自分がイザベルやビオラの力になると申し出てくれたのだ。

 ブロッサムはまだ12歳だが、所作は高位貴族の女性そのもの。礼儀作法も完璧で、頭の回転も早い。それだけでも十分すぎるほど優秀なのに、私の再婚を心から喜び、妹ができて嬉しいと笑ってくれた。

 ――天使だな。

 なぜ、今まで気がつかなかったのだろう? こんなにも父親思いで、優しい娘だったとは!

 これまで仕事と偽り、イザベルの元に通い、ビオラばかりを可愛がっていたことが申し訳なく思えてくる。私は心から反省した。これからは、ブロッサムのいい父親になろう。

 そんな私の決意を知ってか知らずか、ブロッサムは自ら進んでイザベルとビオラを迎える準備を整えてくれた。使用人たちと協力し、サロンの飾り付けまでしてくれるという徹底ぶりだ。

 ――なんと健気な娘なんだ? 本当に天使だよ、天使。
 ――今まで気づかなかった自分が信じられない。



 やがて、イザベルとビオラが到着し、和やかに昼食を楽しんだ。三人とも打ち解けた様子で、これならきっと仲の良い家族になれるだろう。

 ――カトリーナよ。決してお前に死んでほしいと願ったことはない……つもりだが、こうしてみると、病で亡くなったことに感謝してしまいそうだ。すまんな。しかし、心配するな。ブロッサムは私がしっかり守る。安心して、安らかに眠るがいい。

 優しい気持ちに包まれながら、新しい家族とともに食後のティータイムを楽しむ。

 イザベルがブロッサムのために焼いたというクッキーは、香ばしい甘い香りを漂わせていた。
 ブロッサムは美味しそうと言いながら目を輝かせたものの、ふっと困ったように微笑み、残念そうに手を引いた。

「ごめんなさい、お昼を食べすぎて、お腹がいっぱいで……お父様、よかったら召し上がってくださいな」

 確かに今日はよく食べていた。新しい母と妹ができた喜びから、つい食欲が湧いたのだろう。
 ならば、父としてその気持ちを汲まねばなるまい。

「……では、私がいただこうか」

 そう言って、イザベルとビオラにも勧め、三人でクッキーを口にしたのだが――。



 私は今、レストルーム便室の中に閉じ込められている。いや、正確には閉じ込められているわけではないのだが、激しい腹痛が襲ってきて、動くことができないのだ。

 全身から脂汗が滲み、胃が絞られるような痛みが波のように押し寄せる。そのたびに腸が蠢き、私は便座に座りながら、ただただ耐えるしかなかった。

「ぐっ……くそっ……っ、なんだこれは……!」

 こんなことになった原因は、明白だった。
 イザベルの手作りクッキー! 

 ブロッサムに差し出した愛情たっぷりのクッキーを、私は疑いもせずに口にした。
 それが、まさかこんな悲劇を生むとは。

「イザベル……! いったい何を入れたんだ……!?」

 痛みに顔を歪めながら、私は呻いた。
 
 あのクッキーは見た目も可愛かったが、香ばしい甘い香りが漂い、一口食べた瞬間にサクッとした食感と優しい甘みが広がった。驚くほど美味しく、イザベルが腕を上げたのかとすら思ったほどだ。

 しかし、その幸福感は長くは続かなかった。食べ終えてしばらくすると、突然、腹の奥にじわじわと違和感が広がり始めた。最初は軽い圧迫感だったが、次第に鈍い痛みへと変わっていき、私は異変を察した。

 それから5分後、私は腹を抱えて苦しむことになった。胃がひっくり返るような吐き気をもよおし、下腹部に強烈な痛みが広がる。気づいた時にはレストルーム便室に駆け込み、そして今に至る。

「うっ……! く、そ……こんな……!」

 何度も押し寄せる波状攻撃に、私はレストルーム便室の壁に額を押し付けながら呻いた。
 イザベルは悪意があってこんなものを作ったわけではないだろう。
 いや、そうであってたまるかっ!

 もしかすると、材料が古かったのかもしれない。
 あるいは、誤って何か違う粉を混ぜたのか?

 どちらにせよ、私の腸はイザベルの愛情を受け止めることができなかった。

「イザベル……! 次からは……絶対に……作ってはならんぞ……! 絶対だ」

 しかし、レストルーム便室の中で必死に叫んでも、イザベルには届かない。イザベルもまた、別のレストルーム便室に籠もっているからだ。
 
 ――私は、しばらくここから出られそうにない。し、しかし、ブロッサムの腹は守れた。ふむ、身体を張って天使を守ったのだから良しとしよう。しかし……

「ぐっ……! お、俺は……いや、私は侯爵だぞ……! こんな……こんなことで……負けるもんかっ!! くそっ……腹が……裂ける……ッ!! 医者だ、誰か、医者を呼べーー」

 私は自力で耐えようと歯を食いしばったが、あまりの痛さに医者を呼んだのだった。

 

 
 
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

※下品ですみません。これ、コメディですが、後半はちゃんとシリアスになるはず。次はイザベルとビオラの様子を次話にまとめます。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

(完結)逆行令嬢の婚約回避

あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。 わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。 何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。 完結しています。忘れなければ毎日投稿します。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

【完結】冤罪で処刑された令嬢は、幽霊になり復讐を楽しむ

金峯蓮華
恋愛
「レティシア、お前との婚約は今、ここで破棄する!」 学園の学期末のパーティーで賑わうホールにヴェルナー殿下の声が響いた。 殿下の真実の愛の相手、ミランダに危害を加えた罪でレティシアは捕らえられ、処刑された。国王や国の主要メンバーが国を留守にしている間に、ヴェルナーが勝手に国王代理を名乗り、刑を執行してしまった。 レティシアは悔しさに死んでも死にきれず、幽霊となり復讐を誓う。 独自のファンタジーの世界のお話です。 残酷なシーンや表現が出てくるのでR15にしています。 誤字脱字あります。見つけ次第、こっそり修正致します。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

〘完結〛婚約破棄?まあ!御冗談がお上手なんですね!

桜井ことり
恋愛
「何度言ったら分かるのだ!アテルイ・アークライト!貴様との婚約は、正式に、完全に、破棄されたのだ!」 「……今、婚約破棄と、確かにおっしゃいましたな?王太子殿下」 その声には、念を押すような強い響きがあった。 「そうだ!婚約破棄だ!何か文句でもあるのか、バルフォア侯爵!」 アルフォンスは、自分に反抗的な貴族の筆頭からの問いかけに、苛立ちを隠さずに答える。 しかし、侯爵が返した言葉は、アルフォンスの予想を遥かに超えるものだった。 「いいえ、文句などございません。むしろ、感謝したいくらいでございます。――では、アテルイ嬢と、この私が婚約しても良い、とのことですかな?」 「なっ……!?」 アルフォンスが言葉を失う。 それだけではなかった。バルフォア侯爵の言葉を皮切りに、堰を切ったように他の貴族たちが次々と声を上げたのだ。 「お待ちください、侯爵!アテルイ様ほどの淑女を、貴方のような年寄りに任せてはおけませんな!」 「その通り!アテルイ様の隣に立つべきは、我が騎士団の誉れ、このグレイフォード伯爵である!」 「財力で言えば、我がオズワルド子爵家が一番です!アテルイ様、どうか私に清き一票を!」 あっという間に、会場はアテルイへの公開プロポーズの場へと変貌していた。

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

処理中です...