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7 侯爵の試練――それは腹痛との闘い
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※ローズミント侯爵視点(主観視点に変わります)
※後編から地獄の腹痛タイムに移行します。汚物の具体的な表現はありませんが、toiletごもり、の場面があります。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
カトリーナは完璧だった。育ちも、品格も、教養も、すべてが模範的な貴族令嬢そのものだった。誰もが羨む存在であり、私にとってもそれは同じだった。
……いや、違うな。最初は確かに誇らしかったのかもしれない。リッチモンド公爵家の令嬢を妻とすることができたのだから。だが、それも長くは続かなかった。
カトリーナはあまりにも隙がなかった。いつでも理知的で、冷静で、完璧な淑女。私が何をしようと動じず、妻としての義務は果たすが、それ以上の情熱を感じることはなかった。夜を共にする時でさえ、彼女の態度はどこか事務的で、妻としての責務を果たしているだけのように思えた。
そんな時に現れたのが、イザベルだった。
イザベルは平民だったが、それがむしろ新鮮だった。貴族のような礼儀作法も、気品も持ち合わせていない。ただ素直に笑い、私の言葉に頷き、媚びることもなく心から私を求めてくれる。そんな彼女が、私にはたまらなかった。
カトリーナとは違い、イザベルは柔らかく、温かかった。感情を表に出し、素直に愛情を示してくれる。その上、彼女は若く、カトリーナよりも肉感的だった。特にバストは……いや、比べるのも馬鹿らしい。
最初はただの気まぐれだった。だが、イザベルとの時間は心地よく、いつしか私は彼女を手放せなくなっていた。私にすがる彼女の姿は、カトリーナの冷めた瞳よりもずっと魅力的だった。
やがて、イザベルは子を孕んだ。ブロッサムと同じ年の、私の隠し子だ。
カトリーナには決して知られてはならない。もし知られれば、どんな顔をするだろうか。……いや、どうせ眉一つ動かさず、冷たく私を見下し、別れるように冷静に諭しただろう。
イザベルとの関係を手放したくなかった私は、彼女のために適当な部屋を用意し、カトリーナに悟られぬよう下町へ住まわせた。
カトリーナが病死してくれて、イザベルを後妻に迎えることができると思ったときには狂喜乱舞した。イザベルと抱き合いながら喜び、ビオラにもこれからは侯爵令嬢になれるのだと言い聞かせる。
問題は平民として育ち、カトリーナに悟られぬよう下町で暮らさせていたため、二人とも貴族としてのマナーや習慣に疎いことだった。それは私にとって新鮮であり、素朴で愛すべき点でもあったが、いざ正式に妻や娘として迎えるとなると、大きな障害となるのは明白だった。
ところが、その憂慮をブロッサムが綺麗に取り除いてくれた。なんと、初めての顔合わせの日、自分がイザベルやビオラの力になると申し出てくれたのだ。
ブロッサムはまだ12歳だが、所作は高位貴族の女性そのもの。礼儀作法も完璧で、頭の回転も早い。それだけでも十分すぎるほど優秀なのに、私の再婚を心から喜び、妹ができて嬉しいと笑ってくれた。
――天使だな。
なぜ、今まで気がつかなかったのだろう? こんなにも父親思いで、優しい娘だったとは!
これまで仕事と偽り、イザベルの元に通い、ビオラばかりを可愛がっていたことが申し訳なく思えてくる。私は心から反省した。これからは、ブロッサムのいい父親になろう。
そんな私の決意を知ってか知らずか、ブロッサムは自ら進んでイザベルとビオラを迎える準備を整えてくれた。使用人たちと協力し、サロンの飾り付けまでしてくれるという徹底ぶりだ。
――なんと健気な娘なんだ? 本当に天使だよ、天使。
――今まで気づかなかった自分が信じられない。
やがて、イザベルとビオラが到着し、和やかに昼食を楽しんだ。三人とも打ち解けた様子で、これならきっと仲の良い家族になれるだろう。
――カトリーナよ。決してお前に死んでほしいと願ったことはない……つもりだが、こうしてみると、病で亡くなったことに感謝してしまいそうだ。すまんな。しかし、心配するな。ブロッサムは私がしっかり守る。安心して、安らかに眠るがいい。
優しい気持ちに包まれながら、新しい家族とともに食後のティータイムを楽しむ。
イザベルがブロッサムのために焼いたというクッキーは、香ばしい甘い香りを漂わせていた。
ブロッサムは美味しそうと言いながら目を輝かせたものの、ふっと困ったように微笑み、残念そうに手を引いた。
「ごめんなさい、お昼を食べすぎて、お腹がいっぱいで……お父様、よかったら召し上がってくださいな」
確かに今日はよく食べていた。新しい母と妹ができた喜びから、つい食欲が湧いたのだろう。
ならば、父としてその気持ちを汲まねばなるまい。
「……では、私がいただこうか」
そう言って、イザベルとビオラにも勧め、三人でクッキーを口にしたのだが――。
私は今、レストルームの中に閉じ込められている。いや、正確には閉じ込められているわけではないのだが、激しい腹痛が襲ってきて、動くことができないのだ。
全身から脂汗が滲み、胃が絞られるような痛みが波のように押し寄せる。そのたびに腸が蠢き、私は便座に座りながら、ただただ耐えるしかなかった。
「ぐっ……くそっ……っ、なんだこれは……!」
こんなことになった原因は、明白だった。
イザベルの手作りクッキー!
ブロッサムに差し出した愛情たっぷりのクッキーを、私は疑いもせずに口にした。
それが、まさかこんな悲劇を生むとは。
「イザベル……! いったい何を入れたんだ……!?」
痛みに顔を歪めながら、私は呻いた。
あのクッキーは見た目も可愛かったが、香ばしい甘い香りが漂い、一口食べた瞬間にサクッとした食感と優しい甘みが広がった。驚くほど美味しく、イザベルが腕を上げたのかとすら思ったほどだ。
しかし、その幸福感は長くは続かなかった。食べ終えてしばらくすると、突然、腹の奥にじわじわと違和感が広がり始めた。最初は軽い圧迫感だったが、次第に鈍い痛みへと変わっていき、私は異変を察した。
それから5分後、私は腹を抱えて苦しむことになった。胃がひっくり返るような吐き気をもよおし、下腹部に強烈な痛みが広がる。気づいた時にはレストルームに駆け込み、そして今に至る。
「うっ……! く、そ……こんな……!」
何度も押し寄せる波状攻撃に、私はレストルームの壁に額を押し付けながら呻いた。
イザベルは悪意があってこんなものを作ったわけではないだろう。
いや、そうであってたまるかっ!
もしかすると、材料が古かったのかもしれない。
あるいは、誤って何か違う粉を混ぜたのか?
どちらにせよ、私の腸はイザベルの愛情を受け止めることができなかった。
「イザベル……! 次からは……絶対に……作ってはならんぞ……! 絶対だ」
しかし、レストルームの中で必死に叫んでも、イザベルには届かない。イザベルもまた、別のレストルームに籠もっているからだ。
――私は、しばらくここから出られそうにない。し、しかし、ブロッサムの腹は守れた。ふむ、身体を張って天使を守ったのだから良しとしよう。しかし……
「ぐっ……! お、俺は……いや、私は侯爵だぞ……! こんな……こんなことで……負けるもんかっ!! くそっ……腹が……裂ける……ッ!! 医者だ、誰か、医者を呼べーー」
私は自力で耐えようと歯を食いしばったが、あまりの痛さに医者を呼んだのだった。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※下品ですみません。これ、コメディですが、後半はちゃんとシリアスになるはず。次はイザベルとビオラの様子を次話にまとめます。
※後編から地獄の腹痛タイムに移行します。汚物の具体的な表現はありませんが、toiletごもり、の場面があります。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
カトリーナは完璧だった。育ちも、品格も、教養も、すべてが模範的な貴族令嬢そのものだった。誰もが羨む存在であり、私にとってもそれは同じだった。
……いや、違うな。最初は確かに誇らしかったのかもしれない。リッチモンド公爵家の令嬢を妻とすることができたのだから。だが、それも長くは続かなかった。
カトリーナはあまりにも隙がなかった。いつでも理知的で、冷静で、完璧な淑女。私が何をしようと動じず、妻としての義務は果たすが、それ以上の情熱を感じることはなかった。夜を共にする時でさえ、彼女の態度はどこか事務的で、妻としての責務を果たしているだけのように思えた。
そんな時に現れたのが、イザベルだった。
イザベルは平民だったが、それがむしろ新鮮だった。貴族のような礼儀作法も、気品も持ち合わせていない。ただ素直に笑い、私の言葉に頷き、媚びることもなく心から私を求めてくれる。そんな彼女が、私にはたまらなかった。
カトリーナとは違い、イザベルは柔らかく、温かかった。感情を表に出し、素直に愛情を示してくれる。その上、彼女は若く、カトリーナよりも肉感的だった。特にバストは……いや、比べるのも馬鹿らしい。
最初はただの気まぐれだった。だが、イザベルとの時間は心地よく、いつしか私は彼女を手放せなくなっていた。私にすがる彼女の姿は、カトリーナの冷めた瞳よりもずっと魅力的だった。
やがて、イザベルは子を孕んだ。ブロッサムと同じ年の、私の隠し子だ。
カトリーナには決して知られてはならない。もし知られれば、どんな顔をするだろうか。……いや、どうせ眉一つ動かさず、冷たく私を見下し、別れるように冷静に諭しただろう。
イザベルとの関係を手放したくなかった私は、彼女のために適当な部屋を用意し、カトリーナに悟られぬよう下町へ住まわせた。
カトリーナが病死してくれて、イザベルを後妻に迎えることができると思ったときには狂喜乱舞した。イザベルと抱き合いながら喜び、ビオラにもこれからは侯爵令嬢になれるのだと言い聞かせる。
問題は平民として育ち、カトリーナに悟られぬよう下町で暮らさせていたため、二人とも貴族としてのマナーや習慣に疎いことだった。それは私にとって新鮮であり、素朴で愛すべき点でもあったが、いざ正式に妻や娘として迎えるとなると、大きな障害となるのは明白だった。
ところが、その憂慮をブロッサムが綺麗に取り除いてくれた。なんと、初めての顔合わせの日、自分がイザベルやビオラの力になると申し出てくれたのだ。
ブロッサムはまだ12歳だが、所作は高位貴族の女性そのもの。礼儀作法も完璧で、頭の回転も早い。それだけでも十分すぎるほど優秀なのに、私の再婚を心から喜び、妹ができて嬉しいと笑ってくれた。
――天使だな。
なぜ、今まで気がつかなかったのだろう? こんなにも父親思いで、優しい娘だったとは!
これまで仕事と偽り、イザベルの元に通い、ビオラばかりを可愛がっていたことが申し訳なく思えてくる。私は心から反省した。これからは、ブロッサムのいい父親になろう。
そんな私の決意を知ってか知らずか、ブロッサムは自ら進んでイザベルとビオラを迎える準備を整えてくれた。使用人たちと協力し、サロンの飾り付けまでしてくれるという徹底ぶりだ。
――なんと健気な娘なんだ? 本当に天使だよ、天使。
――今まで気づかなかった自分が信じられない。
やがて、イザベルとビオラが到着し、和やかに昼食を楽しんだ。三人とも打ち解けた様子で、これならきっと仲の良い家族になれるだろう。
――カトリーナよ。決してお前に死んでほしいと願ったことはない……つもりだが、こうしてみると、病で亡くなったことに感謝してしまいそうだ。すまんな。しかし、心配するな。ブロッサムは私がしっかり守る。安心して、安らかに眠るがいい。
優しい気持ちに包まれながら、新しい家族とともに食後のティータイムを楽しむ。
イザベルがブロッサムのために焼いたというクッキーは、香ばしい甘い香りを漂わせていた。
ブロッサムは美味しそうと言いながら目を輝かせたものの、ふっと困ったように微笑み、残念そうに手を引いた。
「ごめんなさい、お昼を食べすぎて、お腹がいっぱいで……お父様、よかったら召し上がってくださいな」
確かに今日はよく食べていた。新しい母と妹ができた喜びから、つい食欲が湧いたのだろう。
ならば、父としてその気持ちを汲まねばなるまい。
「……では、私がいただこうか」
そう言って、イザベルとビオラにも勧め、三人でクッキーを口にしたのだが――。
私は今、レストルームの中に閉じ込められている。いや、正確には閉じ込められているわけではないのだが、激しい腹痛が襲ってきて、動くことができないのだ。
全身から脂汗が滲み、胃が絞られるような痛みが波のように押し寄せる。そのたびに腸が蠢き、私は便座に座りながら、ただただ耐えるしかなかった。
「ぐっ……くそっ……っ、なんだこれは……!」
こんなことになった原因は、明白だった。
イザベルの手作りクッキー!
ブロッサムに差し出した愛情たっぷりのクッキーを、私は疑いもせずに口にした。
それが、まさかこんな悲劇を生むとは。
「イザベル……! いったい何を入れたんだ……!?」
痛みに顔を歪めながら、私は呻いた。
あのクッキーは見た目も可愛かったが、香ばしい甘い香りが漂い、一口食べた瞬間にサクッとした食感と優しい甘みが広がった。驚くほど美味しく、イザベルが腕を上げたのかとすら思ったほどだ。
しかし、その幸福感は長くは続かなかった。食べ終えてしばらくすると、突然、腹の奥にじわじわと違和感が広がり始めた。最初は軽い圧迫感だったが、次第に鈍い痛みへと変わっていき、私は異変を察した。
それから5分後、私は腹を抱えて苦しむことになった。胃がひっくり返るような吐き気をもよおし、下腹部に強烈な痛みが広がる。気づいた時にはレストルームに駆け込み、そして今に至る。
「うっ……! く、そ……こんな……!」
何度も押し寄せる波状攻撃に、私はレストルームの壁に額を押し付けながら呻いた。
イザベルは悪意があってこんなものを作ったわけではないだろう。
いや、そうであってたまるかっ!
もしかすると、材料が古かったのかもしれない。
あるいは、誤って何か違う粉を混ぜたのか?
どちらにせよ、私の腸はイザベルの愛情を受け止めることができなかった。
「イザベル……! 次からは……絶対に……作ってはならんぞ……! 絶対だ」
しかし、レストルームの中で必死に叫んでも、イザベルには届かない。イザベルもまた、別のレストルームに籠もっているからだ。
――私は、しばらくここから出られそうにない。し、しかし、ブロッサムの腹は守れた。ふむ、身体を張って天使を守ったのだから良しとしよう。しかし……
「ぐっ……! お、俺は……いや、私は侯爵だぞ……! こんな……こんなことで……負けるもんかっ!! くそっ……腹が……裂ける……ッ!! 医者だ、誰か、医者を呼べーー」
私は自力で耐えようと歯を食いしばったが、あまりの痛さに医者を呼んだのだった。
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