[完結]癒やしの聖女は帝国で愛をみつける!

青空一夏

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 侍従長とともに庭園へ歩み出たジョセフィーヌの少し後ろを、専属侍女のココアが静かに従っていた。ココアの視線の先には、ベンチに腰かけて談笑するクロードとサラの姿がある。
 訝しげに眉を寄せた侍従長が、低くつぶやいた。

「クロード殿下、本日は体調がよろしいようですな。……そちらの女性は?」

「なっ、なんてこと……!」
 ココアが慌てて口を開く。
「この者はジョセフィーヌ様の見習い侍女でして、作法もわきまえぬふつつか者でございます。後ほど厳しく叱っておきますので、どうかお許しくださいませ。サラさん、何をしているのです? その方は、恐れ多くもアルセリア帝国の皇太子殿下なのですよ」
 ココアは、驚きと戸惑い、そしてこみ上げる憤りに息を詰まらせた。
 信じられないものを見るように、わなわなと唇が震える。
(ジョセフィーヌ様に恥をかかせるなんて……。私の大切な聖女様を傷つける唯一の汚点――サラ。どうして、こんな浅ましい腹違いの妹がいるの……? ジョセフィーヌ様があまりにもお可哀想だわ……)

 その様子を見たサラは、急に悲しげに顔を歪め、ぽろりと涙をこぼす。
 そして両手を胸の前で組み合わせ、クロードに向かって、か細い声を上げた。

「いつも……このように叱られているのです。 私の母さんの身分が低いから、お姉様――あぅ……ジョセフィーヌ様って呼ばなきゃ……の専属侍女にまで馬鹿にされて……うぇっ……ひっくっ……」
 その言葉を聞いたクロードは、キッと目を吊り上げ、ココアを鋭く睨みつけた。
「お前こそ不敬であろう! 僕はいま、サラと話をしているんだ! だいたいおかしいじゃないか? サラの母親の身分が低いとはいえ、ジョセフィーヌ王女とは血がつながっているんだろう?
 だったら、どうしてたかが侍女風情にそんなことを言われなきゃならないんだ!」

「クロード殿下。どうかお心をお静めくださいませ。私はセルビア王国の王女、ジョセフィーヌと申します。聖女として癒しの力を授かっておりますゆえ、殿下のお役に立てればと思い、こちらに参りました。本日のご体調はいかがでしょうか? こうしてお外に出られるということは、少しお加減もよろしいのですね」
「あ、うん。今日は昨日よりずっと体が楽だ。久しぶりに庭園に出てみたら、この気の毒な君の妹と出会ってね。
 話を聞けば、なんとも不憫じゃないか。“お姉様”と呼ばせるくらい、何の問題もないだろう? 君は、お姉様と呼ばせるべきだ」
 
  ジョセフィーヌは静かに思考を巡らせた。
  今はサラを叱っても仕方がない。
  病弱な殿下に、姉妹の複雑な関係を、いちから説明するのも違う――いずれ自分はここを去る身なのだから。

 殿下を下手に刺激すれば、せっかく落ち着いている病状に波が立つかもしれない。
 今は何よりも、殿下の“ご機嫌”と“健康”を保つことが先決だ。
「承知いたしました。サラ、あなたがそう望むのなら、私のことを“お姉様”と呼ぶことを許可します。ここにいる以上、あなたもセルビア王国のために力を尽くしなさい」
「うふふっ……お姉様、嬉しいです。ずっとそう呼びたかったんです。それに、私もクロード様のお世話を、一生懸命お手伝いしますね。私とお姉様が協力すれば、きっとすぐにクロード様も元気になります。ね、クロード様? 一緒に頑張りましょうね!」

 侍従長は短く息を吸い、わずかに眉を寄せた。だがすぐにその表情を消し、静かに一礼して身を引く。長年の経験が告げていた――今は、ただクロードの体調を保つことが最優先だと。

 呼びかけられたクロードは、一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに穏やかに微笑んだ。
「……ああ、そうだね。君たちが力を合わせてくれるなら、僕も早く良くなれそうだ」
 ジョセフィーヌはその言葉に何も返さなかった。
 ただ、静かに微笑みを浮かべ頷くのみ。

 一方で、ココアは唇を引き結び、小さな声でつぶやいた。
  「……なんと、あざとく厚かましい……」
 

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