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暴かれる真実
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「え? スライがこの屋敷の周りをうろついていたですって?」
プリムローズの声は驚きでやや高くなった。スライがうろついていた日から数日後のことである。執務室に呼ばれたプリムローズは思いがけない言葉を告げられていた。
「そうだ。どうやら市場に出かけたメイドたちを尾行していたらしい。双子たちに良い先生がついたと彼女たちが話しているのを耳にして、先生が君だと察したのだろう」
その説明を聞き、プリムローズは口元を引き結んだ。伯父が彼女の居場所を探そうとする可能性は考えていたものの、実際に従兄が行動を起こしていると知ると、恐怖と怒りがない交ぜになった。
「姉上からも聞いているが、君と伯父の不仲はずいぶん前からだったらしいな。それに、君の父上、前レストン伯爵とも良好な関係ではなかったとか?」
アルバータスの言葉に、プリムローズは小さくうなずいた。
「はい。父が爵位を継いだことに、伯父はずっと不満を抱いていました。父が領地を豊かにするために尽力していたときも、嫌味を言い続けて……母も父も相手にしなかったけれど、それが伯父には気に入らなかったのでしょう」
アルバータスは黙ってプリムローズの言葉を聞きながら、次の情報を告げた。
「家令のラリーについて調べてみたが、彼は国外に移り住み、息子夫婦や孫娘二人と共に質素な暮らしをしていたよ」
「質素な暮らしですって? 父が築き上げた財産を持ち逃げしたなら、それなりに裕福な生活を送っているはずです。いったいどういうことでしょう?」
「本人に聞いてみるといい」
アルバータスの言葉に、プリムローズは驚きのあまり目を見開いた。その視線の先で、執務室の奥にある扉がゆっくりと開き、一人の年老いた男が姿を現した。彼の顔には深い後悔の色が浮かび、見るからに疲れ切っていた。
「申し訳ありません、お嬢様……」
ラリーの声は掠れていたが、長年仕えていた家令の威厳が微かに残っていた。
「両親が亡くなられた日のことです。ご遺体を教会の安置所に収めるとすぐ、クリント様が屋敷に現れました。そして私たち使用人を次々に解雇していったのです」
「解雇? 伯父にそんな権限はないはずよ」
プリムローズは憤りに声を震わせた。ラリーは苦しげに首を振りながら続けた。
「私もそう申し上げました。すると、クリント様は私の孫娘たちの名前を低い声でつぶやき、『美しく成長した孫娘を見たいよな? しかし、残念なことに短命かもしれんな』とおっしゃいました……」
ラリーはその言葉の恐ろしさを思い出すと、体を震わせた。
「脅迫され、私はクリント様の言いなりになるしかありませんでした。同じように脅された者も少なくありません」
プリムローズは息をのむと、アルバータスの方を見た。
「父や母の死も……伯父の仕業だったということでしょうか?」
「その可能性は高いな。事故ではなく、計画された殺人だったのかもしれない」
アルバータスの断言に、プリムローズは全身が強ばるのを感じた。しばらく沈黙が流れたが、やがて彼女は決意の表情を浮かべ、力強く言った。
「国王陛下に訴えます。父と母を殺害し、財産を横領した罪で、伯父を裁いていただきます!」
アルバータスは慎重に言葉を選びながら答えた。
「焦るな。殺人の証拠を掴むのは難しい。ただ、財産横領や詐欺についてはラリーの証言で立証できる。まずはそこからだ」
プリムローズはうなずいたが、まだ納得しきれない表情だった。
「ラリー、あなたにはまだ聞きたいことがあります。伯父は、お父様が多額の借金を抱えていたと私に説明しました。その額と理由を教えてくれますか?」
「借金? とんでもありません! 前レストン伯爵は経済の才に長けておられ、領地の財政を健全に保つどころか、さらに豊かにされていました。お嬢様が爵位を継ぐときには、より発展した領地を渡したいと常々おっしゃっていました。それを誇りにされていたのです。もちろん、個人的な借金なども皆無です」
ラリーは首を振りながら答えた。
プリムローズは拳を握りしめた。伯父が語った「借金」という言葉がいかに嘘であったか、今すべてが明らかになったのだ。
「許せない……」
彼女は低く呟き、目を閉じた。その目の奥には、クリントへの憤怒と復讐の決意が燃え盛っていたのだった。
プリムローズの声は驚きでやや高くなった。スライがうろついていた日から数日後のことである。執務室に呼ばれたプリムローズは思いがけない言葉を告げられていた。
「そうだ。どうやら市場に出かけたメイドたちを尾行していたらしい。双子たちに良い先生がついたと彼女たちが話しているのを耳にして、先生が君だと察したのだろう」
その説明を聞き、プリムローズは口元を引き結んだ。伯父が彼女の居場所を探そうとする可能性は考えていたものの、実際に従兄が行動を起こしていると知ると、恐怖と怒りがない交ぜになった。
「姉上からも聞いているが、君と伯父の不仲はずいぶん前からだったらしいな。それに、君の父上、前レストン伯爵とも良好な関係ではなかったとか?」
アルバータスの言葉に、プリムローズは小さくうなずいた。
「はい。父が爵位を継いだことに、伯父はずっと不満を抱いていました。父が領地を豊かにするために尽力していたときも、嫌味を言い続けて……母も父も相手にしなかったけれど、それが伯父には気に入らなかったのでしょう」
アルバータスは黙ってプリムローズの言葉を聞きながら、次の情報を告げた。
「家令のラリーについて調べてみたが、彼は国外に移り住み、息子夫婦や孫娘二人と共に質素な暮らしをしていたよ」
「質素な暮らしですって? 父が築き上げた財産を持ち逃げしたなら、それなりに裕福な生活を送っているはずです。いったいどういうことでしょう?」
「本人に聞いてみるといい」
アルバータスの言葉に、プリムローズは驚きのあまり目を見開いた。その視線の先で、執務室の奥にある扉がゆっくりと開き、一人の年老いた男が姿を現した。彼の顔には深い後悔の色が浮かび、見るからに疲れ切っていた。
「申し訳ありません、お嬢様……」
ラリーの声は掠れていたが、長年仕えていた家令の威厳が微かに残っていた。
「両親が亡くなられた日のことです。ご遺体を教会の安置所に収めるとすぐ、クリント様が屋敷に現れました。そして私たち使用人を次々に解雇していったのです」
「解雇? 伯父にそんな権限はないはずよ」
プリムローズは憤りに声を震わせた。ラリーは苦しげに首を振りながら続けた。
「私もそう申し上げました。すると、クリント様は私の孫娘たちの名前を低い声でつぶやき、『美しく成長した孫娘を見たいよな? しかし、残念なことに短命かもしれんな』とおっしゃいました……」
ラリーはその言葉の恐ろしさを思い出すと、体を震わせた。
「脅迫され、私はクリント様の言いなりになるしかありませんでした。同じように脅された者も少なくありません」
プリムローズは息をのむと、アルバータスの方を見た。
「父や母の死も……伯父の仕業だったということでしょうか?」
「その可能性は高いな。事故ではなく、計画された殺人だったのかもしれない」
アルバータスの断言に、プリムローズは全身が強ばるのを感じた。しばらく沈黙が流れたが、やがて彼女は決意の表情を浮かべ、力強く言った。
「国王陛下に訴えます。父と母を殺害し、財産を横領した罪で、伯父を裁いていただきます!」
アルバータスは慎重に言葉を選びながら答えた。
「焦るな。殺人の証拠を掴むのは難しい。ただ、財産横領や詐欺についてはラリーの証言で立証できる。まずはそこからだ」
プリムローズはうなずいたが、まだ納得しきれない表情だった。
「ラリー、あなたにはまだ聞きたいことがあります。伯父は、お父様が多額の借金を抱えていたと私に説明しました。その額と理由を教えてくれますか?」
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プリムローズは拳を握りしめた。伯父が語った「借金」という言葉がいかに嘘であったか、今すべてが明らかになったのだ。
「許せない……」
彼女は低く呟き、目を閉じた。その目の奥には、クリントへの憤怒と復讐の決意が燃え盛っていたのだった。
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