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39 思いがけない言葉
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「えぇ! 妊活してるの? そっか・・・・・・そういう事情なら納得だよ」
大学の友人にも礼子さんの話はしていたから、皆は私に好意的だった。
「早く産んだほうが体力あるもんね? 今からなら大学卒業してからの出産だし、ちょうどいい時期かもね。私も彼と結婚して妊活しようかしら」
婚約者がいる葵さんの言葉に、私は大賛成していた。
「いいんじゃないかな? 今からなら、私達の子供は同級生になれるかもよ」
「あら、素敵ねぇ? そしたら同じ小学校に通わせられる?」
「えっと、それは無理かな。だって、私は大学を卒業したら地元に帰ろうと思っているんだ」
「えぇーー! なんといっても都心が1番よ? なんで田舎に引っ込むのよ? 柊さんもこっちの大学なら同じ系列の大学病院勤務になるでしょう? 紬さんのお母様なら都内に家も買えるはずでしょう?」
「うーーん。どうなのかな? お母さんはあの湖と山が見えるところに戻してあげたい。最期はあの牧場の家で過ごさせてあげたいんだ」
「あぁ、そういうことね! それはとても素敵なことね! でも、また都内に住むでしょう?」
その質問には答えられない。だって、都内はいろいろな展示会も芸術活動もしやすいけれど、やっぱり私はあの湖と山のあるのんびりした生活が好きだから。
ꕤ୭*
妊活って結構大変なんだ。朝、起きて動き出さないうちに基礎体温を測ってグラフにつけるんだ。一日でも忘れたらいけないから枕元にはいつも体温計と手帖がある。
食事も気をつけてとるように言われたけれど、これは妊活に限らず常識的な内容だった。
●朝食はきっちりとる。お昼は多めで、バランス良くいろいろな食品をしっかり噛んで食べる。夜は腹八分目とかって・・・・・・妊活に限らずよく言われることだった。
主食はご飯が良くて、主菜は肉や魚、大豆製品も忘れずに、副菜は野菜で特にキノコや海藻なんかはよく食べるようにと指導された。つまり、偏った食事をしないようにってことだよね?
お腹に子供がいると、母親の食生活やストレスが子供にも影響を与えたりするらしい。子供にアレルギーがおこるのも、母親の食生活に関係しているかもしれないって話も聞いた。
母親になるって、本当に大変なことなんだなって思った。すごく責任重大なんだね。
今回の妊活では定期的に指導してもらうけれど、やっぱりあの婦人科の診察はなかなか慣れない。女性ばかりが大変な思いをする気がして、少し腹立たしい。
「私と柊君の子供だけれど、すっごく大変なのって私ばっかりな気がする・・・・・・だって、嫌な診察は受けなきゃいけないし、お腹が膨らんですっごく大変そうだし」
「そうだよね・・・・・・ごめんね。僕が代わりに産んであげたいくらいだよ」
私が愚痴ると、柊君は申し訳なさそうに謝って真顔でそんなことを言った。
「あっはは。柊君のお腹が膨らんだら、怖いよ。ごめんね、愚痴って。あの婦人科の診察って恥ずかしいんだ。変な椅子みたいなのに座ってそれが回転して股が開くの・・・・・・毎回、嫌だなって思う」
「う、うん。わかるよ。ごめんね」
私は、柊君に抱っこされて頭をよしよしと撫でられる。そんな時は、やっぱり柊君の子を産めるのは嬉しいなって思う。もちろん、礼子さんに赤ちゃんを見せたいから産むことは私の最大の目的だ。
けれど、なかなか私は妊娠できないのだった。
ꕤ୭*
季節は巡ってもうすぐ春になろうとしており、私は大学の卒業式を迎える。
礼子さんは元気に絵を描き良く笑い、亡くなるなんて少しも思えなかった。
「私が大学を卒業したら牧場に戻ろう! あそこで一緒に住もうよ」
ある日、私は礼子さんにそう提案した。
「あら、だめよ! 柊君はまだこっちの大学に通うし、勤務する大学病院もこっちになるでしょう? 都内の方がなにかと便利よ? 紬ちゃんはこっちにいなさい」
「ううん。牧場に行こう。柊君も週末には来るし、私が行ったり来たりすれば良いと思う。こんな時は遠距離夫婦もおつなもんだって柊君も言ってた。誰よりも優先するのはお母さんだもん!」
「あら、あら。柊君に捨てられちゃうぞぉーー。そんなに母親べったりじゃぁ困るわよ。礼子さんはね、ちょっと調べてみたのよ。ホスピスのある病棟にお世話になろうと思うの」
「え? そんなのダメだよ! 絶対、だめ」
私は、必死になって否定した。なんで、そんな悲しいことを言うの?
「紬ちゃんの負担になりたくないのよ? 紬ちゃんは柊君と一緒にいるのが1番じゃないかしら? 礼子さんはもう充分親孝行をしてもらったわ。亡くなった後のことは、信頼できる弁護士に頼んであるから・・・・・・」
「お母さんはわかってないよ! 負担なんかじゃないもん! 一緒に過ごしたいんだ!! 柊君に会えたのだってお母さんのお陰だし、今の自分がこうなってるのもお母さんのお陰だもん。1番はお母さんだよ! それで、柊君はいいって言ってた。そういう柊君だから私は大好きなんだもん! うっ・・・・・・」
「あぁ、もぉ、泣かないで、紬ちゃん。礼子さん、紬ちゃんは礼子さんといたいんですよ。僕は全然、大丈夫ですよ。だから、牧場のあの家で過ごしてください。今は在宅でホスピスケアができるシステムもありますから。最期はあの家でのんびりとゆったりと紬ちゃんと過ごしてほしいんですよ」
柊君が加勢してくれたから、私も嬉しいお知らせを発表したんだ。
「うん、それにあの牧場で過ごすのはお母さんと私だけじゃないよ? あのね、私、妊娠したんだ!」
大学の友人にも礼子さんの話はしていたから、皆は私に好意的だった。
「早く産んだほうが体力あるもんね? 今からなら大学卒業してからの出産だし、ちょうどいい時期かもね。私も彼と結婚して妊活しようかしら」
婚約者がいる葵さんの言葉に、私は大賛成していた。
「いいんじゃないかな? 今からなら、私達の子供は同級生になれるかもよ」
「あら、素敵ねぇ? そしたら同じ小学校に通わせられる?」
「えっと、それは無理かな。だって、私は大学を卒業したら地元に帰ろうと思っているんだ」
「えぇーー! なんといっても都心が1番よ? なんで田舎に引っ込むのよ? 柊さんもこっちの大学なら同じ系列の大学病院勤務になるでしょう? 紬さんのお母様なら都内に家も買えるはずでしょう?」
「うーーん。どうなのかな? お母さんはあの湖と山が見えるところに戻してあげたい。最期はあの牧場の家で過ごさせてあげたいんだ」
「あぁ、そういうことね! それはとても素敵なことね! でも、また都内に住むでしょう?」
その質問には答えられない。だって、都内はいろいろな展示会も芸術活動もしやすいけれど、やっぱり私はあの湖と山のあるのんびりした生活が好きだから。
ꕤ୭*
妊活って結構大変なんだ。朝、起きて動き出さないうちに基礎体温を測ってグラフにつけるんだ。一日でも忘れたらいけないから枕元にはいつも体温計と手帖がある。
食事も気をつけてとるように言われたけれど、これは妊活に限らず常識的な内容だった。
●朝食はきっちりとる。お昼は多めで、バランス良くいろいろな食品をしっかり噛んで食べる。夜は腹八分目とかって・・・・・・妊活に限らずよく言われることだった。
主食はご飯が良くて、主菜は肉や魚、大豆製品も忘れずに、副菜は野菜で特にキノコや海藻なんかはよく食べるようにと指導された。つまり、偏った食事をしないようにってことだよね?
お腹に子供がいると、母親の食生活やストレスが子供にも影響を与えたりするらしい。子供にアレルギーがおこるのも、母親の食生活に関係しているかもしれないって話も聞いた。
母親になるって、本当に大変なことなんだなって思った。すごく責任重大なんだね。
今回の妊活では定期的に指導してもらうけれど、やっぱりあの婦人科の診察はなかなか慣れない。女性ばかりが大変な思いをする気がして、少し腹立たしい。
「私と柊君の子供だけれど、すっごく大変なのって私ばっかりな気がする・・・・・・だって、嫌な診察は受けなきゃいけないし、お腹が膨らんですっごく大変そうだし」
「そうだよね・・・・・・ごめんね。僕が代わりに産んであげたいくらいだよ」
私が愚痴ると、柊君は申し訳なさそうに謝って真顔でそんなことを言った。
「あっはは。柊君のお腹が膨らんだら、怖いよ。ごめんね、愚痴って。あの婦人科の診察って恥ずかしいんだ。変な椅子みたいなのに座ってそれが回転して股が開くの・・・・・・毎回、嫌だなって思う」
「う、うん。わかるよ。ごめんね」
私は、柊君に抱っこされて頭をよしよしと撫でられる。そんな時は、やっぱり柊君の子を産めるのは嬉しいなって思う。もちろん、礼子さんに赤ちゃんを見せたいから産むことは私の最大の目的だ。
けれど、なかなか私は妊娠できないのだった。
ꕤ୭*
季節は巡ってもうすぐ春になろうとしており、私は大学の卒業式を迎える。
礼子さんは元気に絵を描き良く笑い、亡くなるなんて少しも思えなかった。
「私が大学を卒業したら牧場に戻ろう! あそこで一緒に住もうよ」
ある日、私は礼子さんにそう提案した。
「あら、だめよ! 柊君はまだこっちの大学に通うし、勤務する大学病院もこっちになるでしょう? 都内の方がなにかと便利よ? 紬ちゃんはこっちにいなさい」
「ううん。牧場に行こう。柊君も週末には来るし、私が行ったり来たりすれば良いと思う。こんな時は遠距離夫婦もおつなもんだって柊君も言ってた。誰よりも優先するのはお母さんだもん!」
「あら、あら。柊君に捨てられちゃうぞぉーー。そんなに母親べったりじゃぁ困るわよ。礼子さんはね、ちょっと調べてみたのよ。ホスピスのある病棟にお世話になろうと思うの」
「え? そんなのダメだよ! 絶対、だめ」
私は、必死になって否定した。なんで、そんな悲しいことを言うの?
「紬ちゃんの負担になりたくないのよ? 紬ちゃんは柊君と一緒にいるのが1番じゃないかしら? 礼子さんはもう充分親孝行をしてもらったわ。亡くなった後のことは、信頼できる弁護士に頼んであるから・・・・・・」
「お母さんはわかってないよ! 負担なんかじゃないもん! 一緒に過ごしたいんだ!! 柊君に会えたのだってお母さんのお陰だし、今の自分がこうなってるのもお母さんのお陰だもん。1番はお母さんだよ! それで、柊君はいいって言ってた。そういう柊君だから私は大好きなんだもん! うっ・・・・・・」
「あぁ、もぉ、泣かないで、紬ちゃん。礼子さん、紬ちゃんは礼子さんといたいんですよ。僕は全然、大丈夫ですよ。だから、牧場のあの家で過ごしてください。今は在宅でホスピスケアができるシステムもありますから。最期はあの家でのんびりとゆったりと紬ちゃんと過ごしてほしいんですよ」
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