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7 ダコスを人間にしなきゃーその1 (バートン視点)
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「このダコスを懲らしめないと。私にまとわりついてうるさすぎる!」
従兄弟が薄暗い顔でつぶやいた。
「ダコスって誰だい? え? ギルの恋人の腹違いの妹? ぷっ! あっははは」
私はこの妹が『くれくれダコス』と呼ばれていることに大笑いした。この世界でダコスは可愛い赤ちゃん向けのピンクのタコのゴム人形。アヒルのゴム人形とセットで赤ちゃんがお風呂で遊ぶおもちゃなのだ。
ーーよくそんな名前を娘につけたなぁーー。
見せてもらった写真には柔らかなピンク髪で蜂蜜色の瞳の女性がうつっていた。そのふっくらした頬は血色の良いピンクで、美人というよりは愛らしい顔立ちだ。
ーーうん、確かに赤ちゃん向けのダコス人形に似てると言えば似てる・・・・・・くっくっくっく、あっははは!
こんなに可愛い顔をしているのに中身は残念なのか・・・・・・可哀想だな。従兄弟の話を聞けばどうやらその父親に原因がありそうだった。
「じゃぁ、私は帰るよ。そのダイヤモンド協会の懇談会は代わりに出席するよ」
私はキュルス侯爵家の執務室を出てギルに別れを告げた。
「あぁ、会議の時に発言する必要はないよ。ただ、参加して出席者の話を大人しく聞いているだけでいい。その間に調べたいことがあるんだ」
「了解」
私はたまにこうやって影武者のようなことを引き受ける。顔がそっくりで姿形もギルバートが二センチばかり背が高いだけで見分けがつかなかったからだ。
「悪いな! 頼む」
そう言われて出席した懇談会の帰りに声を掛けてきたのが、例のダコスだった。
――ほんとだ! 姉の婚約者に手を出そうなんて愚かにもほどがあるなぁ。
そう思ったが、一緒にいるとなぜか和んだ。苦笑するほどおバカさんなのに憎めないところがあって。
ーー甘やかされすぎたんだろうな。もっと適切に育てられていれば姉のものばかりを欲しがる人生をやめられたのに・・・・・・
ダコスは強引に私をデートに誘い、来るまで夜中まで待っていると涙ぐんだ。仕方なく当日行ってみたデートでは、すぐに手を繋いで身をぴったり寄せてきた。
「いいかい? 結婚もまだの男女が身を寄せ合うのはマナー違反! それから口に物を入れたまま話すのもやめなさい」
「えぇーー? だってお父様はこれでいいって・・・・・・」
ーーやれやれ。まさに赤ちゃんだ。善悪の区別ができていないよ。
私はこの話しをギルにしたのだが、あいつは苦笑して「そんな女は娼館にでも行けばいいんだ。お似合いの場所さ」と、言った。
「あんなレティラ伯爵家など嵌めるのは簡単だ。借金まみれにして、いずれ売り飛ばして・・・・・・」
「ちょ、ちょっと、待って! 未来の妻の腹違いの妹だよね? それって夢見が悪くないかい?」
――娼館! それはいくらなんでも可哀想だ。
私の曇った顔つきにギルが、「まぁ、君が引き受けてくれるなら売り飛ばすこともないかな」と、つぶやいた。
「くっ、あの子は私が引き受けるよ」
そして今に至るのだが、準男爵家は3,000万フランの借金はあるがそれは不作の際に負っただけで返せないわけではない。もちろん大貴族の生活のようにはいかないが・・・・・・平民の地主的なポジションは貧乏すぎる生活でもない。
「ダコスは下女のようなことはしないもん! トイレのくみ取りとか、肥だめとか掘れないからね! あと洗濯なんてできないもん!手が荒れて切れるって・・・・・・聞いたもん! うわぁーーん」
「・・・・・・ぷっ。あっははは! 肥だめを掘るだって?」
新居に向かう馬車の中で泣き叫ぶダコスにお腹を抱えて笑い出す私だ。
「あれ? けっこう、マシな家ね。わりと広いわ。下女はいるんだ! だったら、私は肥だめをほったりトイレのくみ取りはしなくていいの?」
「いいかい? 肥だめは下男が管理しているし、トイレのくみ取りも同じ。洗濯は洗濯女の下女がいるからしなくていいよ。ただ、料理は君の仕事だよ。あと掃除もね」
「わかった」
意外にも素直にうなづいたのは、きっと想像していたよりもこの家がマシだったからなのだろう。
必死になって作った料理の魚が生煮えだったり、掃除をする度に調度品を壊すダコス。それでも半年もすると少しづつできるようになっていく。
「偉いぞ!」
「うん、うまい! ありがとう。美味しいよ」
「頑張ったな。君はとても努力家だね」
この三つのセリフはダメ人間を変えてくれる奇跡の言葉。ダコスの料理と掃除の腕はめきめきと上がっていった。
「ところで、私達の赤ちゃん産まれないけれどなんでかしら? お腹も膨らまないわねぇ?」
ーーあぁ、つくづくかわいい! 産まれるわけがないだろう? キスしかしてないのだから。彼女の両親はなにを教育してきたのだろう? おかげで結婚できたからよかったけれど。
ーーそろそろ、事実を言おうかな?
従兄弟が薄暗い顔でつぶやいた。
「ダコスって誰だい? え? ギルの恋人の腹違いの妹? ぷっ! あっははは」
私はこの妹が『くれくれダコス』と呼ばれていることに大笑いした。この世界でダコスは可愛い赤ちゃん向けのピンクのタコのゴム人形。アヒルのゴム人形とセットで赤ちゃんがお風呂で遊ぶおもちゃなのだ。
ーーよくそんな名前を娘につけたなぁーー。
見せてもらった写真には柔らかなピンク髪で蜂蜜色の瞳の女性がうつっていた。そのふっくらした頬は血色の良いピンクで、美人というよりは愛らしい顔立ちだ。
ーーうん、確かに赤ちゃん向けのダコス人形に似てると言えば似てる・・・・・・くっくっくっく、あっははは!
こんなに可愛い顔をしているのに中身は残念なのか・・・・・・可哀想だな。従兄弟の話を聞けばどうやらその父親に原因がありそうだった。
「じゃぁ、私は帰るよ。そのダイヤモンド協会の懇談会は代わりに出席するよ」
私はキュルス侯爵家の執務室を出てギルに別れを告げた。
「あぁ、会議の時に発言する必要はないよ。ただ、参加して出席者の話を大人しく聞いているだけでいい。その間に調べたいことがあるんだ」
「了解」
私はたまにこうやって影武者のようなことを引き受ける。顔がそっくりで姿形もギルバートが二センチばかり背が高いだけで見分けがつかなかったからだ。
「悪いな! 頼む」
そう言われて出席した懇談会の帰りに声を掛けてきたのが、例のダコスだった。
――ほんとだ! 姉の婚約者に手を出そうなんて愚かにもほどがあるなぁ。
そう思ったが、一緒にいるとなぜか和んだ。苦笑するほどおバカさんなのに憎めないところがあって。
ーー甘やかされすぎたんだろうな。もっと適切に育てられていれば姉のものばかりを欲しがる人生をやめられたのに・・・・・・
ダコスは強引に私をデートに誘い、来るまで夜中まで待っていると涙ぐんだ。仕方なく当日行ってみたデートでは、すぐに手を繋いで身をぴったり寄せてきた。
「いいかい? 結婚もまだの男女が身を寄せ合うのはマナー違反! それから口に物を入れたまま話すのもやめなさい」
「えぇーー? だってお父様はこれでいいって・・・・・・」
ーーやれやれ。まさに赤ちゃんだ。善悪の区別ができていないよ。
私はこの話しをギルにしたのだが、あいつは苦笑して「そんな女は娼館にでも行けばいいんだ。お似合いの場所さ」と、言った。
「あんなレティラ伯爵家など嵌めるのは簡単だ。借金まみれにして、いずれ売り飛ばして・・・・・・」
「ちょ、ちょっと、待って! 未来の妻の腹違いの妹だよね? それって夢見が悪くないかい?」
――娼館! それはいくらなんでも可哀想だ。
私の曇った顔つきにギルが、「まぁ、君が引き受けてくれるなら売り飛ばすこともないかな」と、つぶやいた。
「くっ、あの子は私が引き受けるよ」
そして今に至るのだが、準男爵家は3,000万フランの借金はあるがそれは不作の際に負っただけで返せないわけではない。もちろん大貴族の生活のようにはいかないが・・・・・・平民の地主的なポジションは貧乏すぎる生活でもない。
「ダコスは下女のようなことはしないもん! トイレのくみ取りとか、肥だめとか掘れないからね! あと洗濯なんてできないもん!手が荒れて切れるって・・・・・・聞いたもん! うわぁーーん」
「・・・・・・ぷっ。あっははは! 肥だめを掘るだって?」
新居に向かう馬車の中で泣き叫ぶダコスにお腹を抱えて笑い出す私だ。
「あれ? けっこう、マシな家ね。わりと広いわ。下女はいるんだ! だったら、私は肥だめをほったりトイレのくみ取りはしなくていいの?」
「いいかい? 肥だめは下男が管理しているし、トイレのくみ取りも同じ。洗濯は洗濯女の下女がいるからしなくていいよ。ただ、料理は君の仕事だよ。あと掃除もね」
「わかった」
意外にも素直にうなづいたのは、きっと想像していたよりもこの家がマシだったからなのだろう。
必死になって作った料理の魚が生煮えだったり、掃除をする度に調度品を壊すダコス。それでも半年もすると少しづつできるようになっていく。
「偉いぞ!」
「うん、うまい! ありがとう。美味しいよ」
「頑張ったな。君はとても努力家だね」
この三つのセリフはダメ人間を変えてくれる奇跡の言葉。ダコスの料理と掃除の腕はめきめきと上がっていった。
「ところで、私達の赤ちゃん産まれないけれどなんでかしら? お腹も膨らまないわねぇ?」
ーーあぁ、つくづくかわいい! 産まれるわけがないだろう? キスしかしてないのだから。彼女の両親はなにを教育してきたのだろう? おかげで結婚できたからよかったけれど。
ーーそろそろ、事実を言おうかな?
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