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8 ダコスを人間にしなきゃーその2 人形から愛しい妻へ(バートン視点)
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「え? 子供はできていない? そうだったんだ・・・・・・じゃぁ、私って不妊症なのかな? どうしよう? 子供は好きなのに・・・・・・」
「不妊症? 違うよ。そんな言葉だけは知っているんだね? そもそもキスだけでは赤ちゃんはできないからね。こっちにおいで」
私の膝の上にちょこんと座るダコス。頭を私の胸につけ安心しきって私の瞳を覗き込む様子に、キュンと胸が締め付けられた。
根気強く説明すれば大抵のことは理解するし、言われたことは素直にやる子だった。少し異性に対して警戒心がなさ過ぎたのは無垢な証拠で、母親の言葉を信じていたからだった。
「いいかい? お母様に言われたことは全て忘れなさい。ダコスのお母様はいったいダコスをなににしようと考えていたのかな? 男の身体を気安く触ってはいけないし、婚約者や夫の膝の上にしか乗ってはいけないからね。わかった?」
「はい、わかった。お母様はね、男の人は皆ダコスの大きなバストが大好きだし、スキンシップは大事だって言ったの。身分の高い男性にはなるべく密着して、子供ができたら万々歳なんだって。結婚してもらえて贅沢な暮らしができるって。難しい本は読んじゃだめで、なにもできない女ほど男性には好かれるって言われたわ」
――それは娼婦の考え方だよ。ダコスの母親は元娼婦なのか? 娼婦を後妻に迎えたのか? 全くレティラ伯爵は最低な男だな!
私のダコスにはきっちり家庭教師もつけて学ばせ直させる必要がある。
「ギル! ダコスに基本的な女性の作法や心得を教えてくれる家庭教師を探しているんだ。誰かいい人材はいるかい?
キュルス侯爵邸に行ったついでに相談した言葉にギルの妻カトリーヌが喜びの声をあげた。
「最近のダコスの変化は聞いているわ! 私で良ければこの屋敷に寄こしてください」
「え! お二人は仲がよくないのでは?」
「ふふふっ。かつてはそうでした。でも、時は進んでその関係性が変わる場合もあります。今がその時かも! ねぇ、ギルバート様! いいでしょう?」
「あぁ、いいと思うよ。ダコスを通わせたらいいよ」
「はぇ? えぇーー? お前、ダコスを嫌っていたよな? 前に貶めて・・・・・・あわわ・・・・・・えっと、なにか物騒なことを言っていた記憶があるぞ?」
「あぁ、あれか? もちろん、演技だ!」
「うん、そうか。だよね、演技。ん? 演技? なんだ、それは?」
「バートン、お前私をなんだと思っている? 腹違いとはいえ、妻の妹をそんな目に遭わすはずないだろう? いや、お前って昔からさ、ちょっと問題児な女子に優しかったし面倒見がいいからさ。大事な義理の妹の夫にちょうどいいなって・・・・・・」
ーーはぁ~~? やられた! 仕組まれたのかよ?
3,000万フランの借金も、この半年で半分ほど返せた。今年は豊作でかなりの収入があったし、ギルの影武者のお礼金はかなり高額だったから。
今のダコスは私の姿を見つけると、ぴょんぴょんと弾んだ歩調でやって来て雛のように付いて歩く。
「ねぇ、ねぇ。この刺繍を見て。綺麗にできてる?」
私のハンカチを目の前に持ってきて『褒めて!』という表情で見つめてくるキラキラの眼差し。
――かわいいなぁ。お風呂のダコちゃん人形から愛しい妻になったダコス。私はずっと守ってやろう。
ꕤ୭*ダコス視点
バートンの家はとても綺麗で立派だった。下女と下男も3人づついて雑用は全てやってくれる。貴族じゃないから侍女はいないけれど、身支度を手伝ってくれる女性は一人だけ雇ってくれた。
私の仕事は料理とお掃除だ。料理を一度もしたことがない私は、バートンが用意してくれたレシピをその手順どおりにやるようにしたよ。
でも、その説明どおりにやってもよく失敗した。そんな時でもバートンは怒らないで笑っていた。
「大丈夫。これはもう少しオーブンに入れて中まで焼けばいいだけだから」
あぁ、この人って優しいなって思った。お父様は機嫌が悪くなると、すぐ怒鳴ったけれどバートンは違う。いつも気持ちが安定しているみたいで、本当に悪いことをした時しか怒らない。だから、ここは安心できた。
掃除をすると、初めは必ず調度品を壊した。それでも怒らない。
「怪我はないかい? 気をつけてやりなさい。いいかい、まず埃叩きはそっと・・・・・・壊れやすいものは丁寧に・・・・・・床はモップで軽く掃除すればいいよ。水回りの掃除は下女がやるから」
まずは真っ先に怪我の心配をしてくれたの。お母様だったらきっと割った花瓶の値段に悔しがって私を怒ったと思う。
ーーこんな時は怒られるんじゃなくて心配してくれるんだ! もしかして、私はバートンと結婚できてラッキーだったのかも・・・・・・
今日はお料理を褒められたんだ。
「うん、美味しいよ! ありがとう」
その言葉だけで嬉しくなってぴょんぴょん跳びはねた。
「かわいいね」
そう言われて赤くなる私だ。なんでかな? バートンといると、とっても心が温かい。貴族じゃなくても夜会に行けなくてもどうでもよくなっちゃった。
高位貴族になりたかった私の夢は、お母様に押しつけられたものだ。私は今、なんかね・・・・・・心が満たされているんだよ?
もう豪華なドレスも宝石も欲しくないよ。だって、そんなものがなくても楽しく暮らせることがわかったんだもん♫
「カトリーヌ様がダコスに行儀作法を教えてくれるからキュルス侯爵家に通うことになったよ」
「うん、わかった」
お姉様に会うのはすっごく久しぶりだ。怒っていないのかな? 今まで自分がしてきたことを考えるとまた会うことになるなんて思わなかった。
お姉様にちゃんと謝れるといいな。
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
次回はカトリーヌとギルバートのお話です。
最後に姉妹が仲良しになる様子で締めます。
両親のざまぁは番外編で(笑えるざまぁで、命の危険はありません)書きます。
「不妊症? 違うよ。そんな言葉だけは知っているんだね? そもそもキスだけでは赤ちゃんはできないからね。こっちにおいで」
私の膝の上にちょこんと座るダコス。頭を私の胸につけ安心しきって私の瞳を覗き込む様子に、キュンと胸が締め付けられた。
根気強く説明すれば大抵のことは理解するし、言われたことは素直にやる子だった。少し異性に対して警戒心がなさ過ぎたのは無垢な証拠で、母親の言葉を信じていたからだった。
「いいかい? お母様に言われたことは全て忘れなさい。ダコスのお母様はいったいダコスをなににしようと考えていたのかな? 男の身体を気安く触ってはいけないし、婚約者や夫の膝の上にしか乗ってはいけないからね。わかった?」
「はい、わかった。お母様はね、男の人は皆ダコスの大きなバストが大好きだし、スキンシップは大事だって言ったの。身分の高い男性にはなるべく密着して、子供ができたら万々歳なんだって。結婚してもらえて贅沢な暮らしができるって。難しい本は読んじゃだめで、なにもできない女ほど男性には好かれるって言われたわ」
――それは娼婦の考え方だよ。ダコスの母親は元娼婦なのか? 娼婦を後妻に迎えたのか? 全くレティラ伯爵は最低な男だな!
私のダコスにはきっちり家庭教師もつけて学ばせ直させる必要がある。
「ギル! ダコスに基本的な女性の作法や心得を教えてくれる家庭教師を探しているんだ。誰かいい人材はいるかい?
キュルス侯爵邸に行ったついでに相談した言葉にギルの妻カトリーヌが喜びの声をあげた。
「最近のダコスの変化は聞いているわ! 私で良ければこの屋敷に寄こしてください」
「え! お二人は仲がよくないのでは?」
「ふふふっ。かつてはそうでした。でも、時は進んでその関係性が変わる場合もあります。今がその時かも! ねぇ、ギルバート様! いいでしょう?」
「あぁ、いいと思うよ。ダコスを通わせたらいいよ」
「はぇ? えぇーー? お前、ダコスを嫌っていたよな? 前に貶めて・・・・・・あわわ・・・・・・えっと、なにか物騒なことを言っていた記憶があるぞ?」
「あぁ、あれか? もちろん、演技だ!」
「うん、そうか。だよね、演技。ん? 演技? なんだ、それは?」
「バートン、お前私をなんだと思っている? 腹違いとはいえ、妻の妹をそんな目に遭わすはずないだろう? いや、お前って昔からさ、ちょっと問題児な女子に優しかったし面倒見がいいからさ。大事な義理の妹の夫にちょうどいいなって・・・・・・」
ーーはぁ~~? やられた! 仕組まれたのかよ?
3,000万フランの借金も、この半年で半分ほど返せた。今年は豊作でかなりの収入があったし、ギルの影武者のお礼金はかなり高額だったから。
今のダコスは私の姿を見つけると、ぴょんぴょんと弾んだ歩調でやって来て雛のように付いて歩く。
「ねぇ、ねぇ。この刺繍を見て。綺麗にできてる?」
私のハンカチを目の前に持ってきて『褒めて!』という表情で見つめてくるキラキラの眼差し。
――かわいいなぁ。お風呂のダコちゃん人形から愛しい妻になったダコス。私はずっと守ってやろう。
ꕤ୭*ダコス視点
バートンの家はとても綺麗で立派だった。下女と下男も3人づついて雑用は全てやってくれる。貴族じゃないから侍女はいないけれど、身支度を手伝ってくれる女性は一人だけ雇ってくれた。
私の仕事は料理とお掃除だ。料理を一度もしたことがない私は、バートンが用意してくれたレシピをその手順どおりにやるようにしたよ。
でも、その説明どおりにやってもよく失敗した。そんな時でもバートンは怒らないで笑っていた。
「大丈夫。これはもう少しオーブンに入れて中まで焼けばいいだけだから」
あぁ、この人って優しいなって思った。お父様は機嫌が悪くなると、すぐ怒鳴ったけれどバートンは違う。いつも気持ちが安定しているみたいで、本当に悪いことをした時しか怒らない。だから、ここは安心できた。
掃除をすると、初めは必ず調度品を壊した。それでも怒らない。
「怪我はないかい? 気をつけてやりなさい。いいかい、まず埃叩きはそっと・・・・・・壊れやすいものは丁寧に・・・・・・床はモップで軽く掃除すればいいよ。水回りの掃除は下女がやるから」
まずは真っ先に怪我の心配をしてくれたの。お母様だったらきっと割った花瓶の値段に悔しがって私を怒ったと思う。
ーーこんな時は怒られるんじゃなくて心配してくれるんだ! もしかして、私はバートンと結婚できてラッキーだったのかも・・・・・・
今日はお料理を褒められたんだ。
「うん、美味しいよ! ありがとう」
その言葉だけで嬉しくなってぴょんぴょん跳びはねた。
「かわいいね」
そう言われて赤くなる私だ。なんでかな? バートンといると、とっても心が温かい。貴族じゃなくても夜会に行けなくてもどうでもよくなっちゃった。
高位貴族になりたかった私の夢は、お母様に押しつけられたものだ。私は今、なんかね・・・・・・心が満たされているんだよ?
もう豪華なドレスも宝石も欲しくないよ。だって、そんなものがなくても楽しく暮らせることがわかったんだもん♫
「カトリーヌ様がダコスに行儀作法を教えてくれるからキュルス侯爵家に通うことになったよ」
「うん、わかった」
お姉様に会うのはすっごく久しぶりだ。怒っていないのかな? 今まで自分がしてきたことを考えるとまた会うことになるなんて思わなかった。
お姉様にちゃんと謝れるといいな。
୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧ ⑅ ୨୧
次回はカトリーヌとギルバートのお話です。
最後に姉妹が仲良しになる様子で締めます。
両親のざまぁは番外編で(笑えるざまぁで、命の危険はありません)書きます。
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