【完結】夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!

青空一夏

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ざまぁ外伝  キモい系(ざまぁをもっと望む方用)R15

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 ※ここから先は物理的に気持ち悪いかもです。自己判断でお読みください。

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 ※テオドラ視点

 社交界を追放された日から、すべてが変わった。

 手紙は一通も届かない。以前なら毎週のように届いていたお茶会や舞踏会の招待状も、今では影も形もない。友人だったはずの令嬢たちは、街で目が合っても私に声をかけるどころか、露骨に視線を逸らすようになった。

 さらに、すべての縁談が立ち消えた。もはや、私に選ぶ権利など残っていないのだと、痛感させられる。そんな中で――たったひとつ、縁談が持ち込まれた。

「まだお前を望む話があっただけでも、ありがたいと思え。この縁談を受けなさい。年は離れているが、侯爵家だ。家柄に不足はない」

 お父様は、こちらの気持ちなど汲むことなく言い切った。相手と顔を合わせることもなく、形式的な書類だけが交わされていく。華やかな婚儀などあるはずもなく、私は静かに、その侯爵家へと嫁いだ。

◆◇◆

 初夜で見たのは、腹だけが異様に膨れた大男だった。脂で湿った髪を後頭部に撫でつけ、ギラつく目には知性や理性の欠片も見えない。歩くたびに足を引きずるような鈍い動きで、鼻を鳴らすようにしてこちらを見下ろしてくる。  その口元からは、ぬるりと舌が覗き、唇の端には何かの食べかすのようなものがこびりついていた。

「……来たのか。思ったより悪くねぇな」
 その一言に、全身が粟立った。

「お前みたいな女をもらってやったんだ。ありがたく思えよ? 幼児誘拐だなんて、本来なら牢獄行きだぞ?」

 口臭と脂の混じったような、生温かく鼻につく匂いがふっと鼻先をかすめ、思わず吐き気がこみ上げる。巨体は肉の塊のようで、足を引きずりながら近づいてくるたびに、汗と酒の匂いが部屋中に充満した。服の襟元には黄色く染み込んだ汗ジミ。足元はすえたようなにおいがして、室内履きを脱いだ瞬間、思わず息を止めた。

 逃げたかった。

 なのに、この夫婦の寝室には鍵がかかっている。扉の向こうでは、誰も私を助けてはくれない。

 「ほら、こっち来いよ。せっかくの夫婦だろう?」

 爛々とした目で見下ろされ、私の腕に太い手が触れた瞬間、背筋にぞわりとした悪寒が走った。指先がねっとりと汗ばんでいて、触れられた場所がじわじわと気持ち悪さを広げていく。

 ――やだ、やだ、やだ、やめて。

 なのに、声にはならない。喉が凍りついたように声が出せなかった。

 彼の息が近づく。酒と肉とタバコを腐らせたような、むせ返る匂いが顔にかかった。

 ――これが、結婚? これが“夫”なの?

 初めての夜は、悪夢そのものだった。ただひたすら、終わるのを待つ地獄よ。男の体は熱く、重く、汗で湿っていた。顔を背けても、鼻をつく獣じみた体臭が喉の奥にまとわりつく。食べかすが貼りついていた口からは、開くたびに汚れた息が肌を撫でた。

 まるで物を扱うように男の手が動き……吐き気がこみあげる。ただ早く終わってほしいと願うばかりだった。
 でも、男の荒い呼吸が耳を塞ぎ、太った腹が苦しいほどのしかかる。
 目を閉じて心を飛ばそうとしても、臭いと重さが現実に引き戻してくる。頭の中は真っ白になり、涙さえ出なかった。

 私はただ、ひたすら祈った。

 ――早く終わってほしい。消えてしまいたい。

◆◇◆

 おまけに、夫は癇癪持ちだった。きっかけなんて、なんでもよかった。スープの温度がぬるかった。使用人の手が滑った。少しでも気に入らないことがあれば怒鳴り声を上げ、テーブルの皿がひっくり返される。

「お前みたいな罪人をもらってやった俺に、感謝の一つもないのか!?」
 ある日の夕食時のこと、ほんの少し意見を述べただけで、いきなりグラスが私の肩に投げつけられた。砕けた破片が腕に刺さり、血がにじんでも、夫は知らん顔だった。

「社交界を追われた落ちぶれ女が、何を偉そうに!お前は俺に黙って従っていればいいんだよ」

 床にひざをついてガラス片を拾っていたとき、夫が吐き捨てるように言った。

「お前の顔は見たくもない。食事は厨房で食え。俺と同じテーブルには二度とつくなよ」

 屈辱に唇を噛みしめた。でも、反論などできるわけがない。私にはもう、帰れる場所などどこにもないのだから。
 日々の生活は、ただ「耐える」だけだった。

 夫の顔色をうかがい、怒らせないように言葉を選び、目を合わせないようにして、音を立てずに動く――そんなことばかりが上手くなっていった。

 気づけば邸の中で私に口を利いてくれる者は、誰一人いなくなっていた。

 「奥様」ではなく、「あの女」と呼ばれる。侍女たちは私に見下ろすような視線を向け、命じても聞こえぬふりをする。食事の皿には冷めた残り物が並び、着る服さえくたびれた古布に変わっていった。

 怒る気力も、もう、残っていない。

 私はようやく、この時になって後悔した。
 あんなことさえしなければ――私は、こんなにも惨めな思いをせずに済んだのに。

 けれど、それはあまりにも遅すぎた後悔だった。


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※テオドラざまぁはここまで、です。
※明日の朝六時はエルナとレオンにまたお話しが戻ります。
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