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44 コルネリオの本音と若き神官の苦悩
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※コルネリオ視点
ふっふっふ。あいつの弱みをようやく見つけたぞ。ヴェルツエル公爵家の次男、今はグリーンウッド侯爵にして王都騎士団長レオン。
あれは、かなり昔のことだ。神殿の献金にまつわる不正をレオンが陛下に報告したことで、神殿の一部は解体され、資産も凍結された。結果として、私の父は大神官の座を追われ、名誉を地に落とした。
そのときからだ。この仇を、必ず討つと心に誓ったのは。
静かに、だが着実に力を蓄え、ここまで登り詰めた。そして今――あの口の軽いドネロン伯爵夫人のおかげで、絶好の材料を手に入れた。
レオンが陛下から、異様なほどの信任を得ていることは百も承知だ。
だが、今回は違う。神獣が絡んでいる。あの存在は、もともと神に仕えるものであり、当然ながら神殿の管理下に置かれるべき神聖な存在だ。
“神の使い”を一個人が私物化するなど、断じて許されぬ――いや、許すわけにはいかぬのだ。
どれほどの後ろ盾があろうと、今回ばかりは抗いきれまい。
騎士団を掌握し、神獣すらも神殿の手中に。
その先にあるのは、もはや王権すら凌駕する圧倒的な影響力。
今こそ、この手で掴み取るときだ。
すべては、神の名のもとに――いや、私の野望のもとに。
※ある若手神官の呟き
グリーンウッド侯爵夫人──エルナさんが営む食堂には、昔からよく通っていた。
気さくな人柄に、美味しい料理。そして、何よりあの温もりある空間が好きだった。
ルカとアルト様は、まるで店の小さな守り神のような存在で、訪れる人々にとっても特別な存在だった。
私も何度かアルト様の頭を撫でさせてもらい、そのたびに癒やされたのを覚えている。
だが──アルト様が神獣だと判明した途端、コルネリオ大神官がとんでもないことを言い出した。
「アルト様は神殿に住まわれるのが、神のご意志である。いずれこちらにお迎えするゆえ、神殿でもっとも良い部屋を清めよ。……いや、改装してもよいな。
アルト様がおられれば、神殿の力も増すし――お前たちの給金だって上がるというものだ。私の影響力も……ふふ、国王に並ぶほどになるかもしれんな」
ニタニタと笑うその顔は、あまりに下卑ていて、とても神に仕える大神官とは思えなかった。
信仰心など微塵も感じられない、ただ欲に塗れた俗世の男の顔だった。
アルト様の部屋とされた一室には、大きな檻が設置され、頑丈な鎖まで用意された。
――まさか、神獣様をここに閉じ込めるつもりなのか?
あまりにも酷い……。
果たして、神は本当に、神獣様を神殿に縛りつけることを望まれているのだろうか?
あの自由を愛する瞳が、あの檻の中で曇ってしまったら――。
……このまま、黙っていていいのだろうか?
アルト様が神獣であることは、まぎれもなく素晴らしいことだ。
そして、神殿が神獣様と繋がりを持つこと自体は、決して間違っているとは思わない。
だが――それを“管理対象”として扱えと?
檻に閉じ込め、鎖で繋いで?
コルネリオ大神官に逆らえば、自分の立場は危うい。
だが、私は――このまま、目を逸らしていいのか?
こんな仕打ちが、許されていいはずがない。
たとえ、この身がどうなろうとも。
そして、私は――
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※本日はあともう一話更新予定です。
ふっふっふ。あいつの弱みをようやく見つけたぞ。ヴェルツエル公爵家の次男、今はグリーンウッド侯爵にして王都騎士団長レオン。
あれは、かなり昔のことだ。神殿の献金にまつわる不正をレオンが陛下に報告したことで、神殿の一部は解体され、資産も凍結された。結果として、私の父は大神官の座を追われ、名誉を地に落とした。
そのときからだ。この仇を、必ず討つと心に誓ったのは。
静かに、だが着実に力を蓄え、ここまで登り詰めた。そして今――あの口の軽いドネロン伯爵夫人のおかげで、絶好の材料を手に入れた。
レオンが陛下から、異様なほどの信任を得ていることは百も承知だ。
だが、今回は違う。神獣が絡んでいる。あの存在は、もともと神に仕えるものであり、当然ながら神殿の管理下に置かれるべき神聖な存在だ。
“神の使い”を一個人が私物化するなど、断じて許されぬ――いや、許すわけにはいかぬのだ。
どれほどの後ろ盾があろうと、今回ばかりは抗いきれまい。
騎士団を掌握し、神獣すらも神殿の手中に。
その先にあるのは、もはや王権すら凌駕する圧倒的な影響力。
今こそ、この手で掴み取るときだ。
すべては、神の名のもとに――いや、私の野望のもとに。
※ある若手神官の呟き
グリーンウッド侯爵夫人──エルナさんが営む食堂には、昔からよく通っていた。
気さくな人柄に、美味しい料理。そして、何よりあの温もりある空間が好きだった。
ルカとアルト様は、まるで店の小さな守り神のような存在で、訪れる人々にとっても特別な存在だった。
私も何度かアルト様の頭を撫でさせてもらい、そのたびに癒やされたのを覚えている。
だが──アルト様が神獣だと判明した途端、コルネリオ大神官がとんでもないことを言い出した。
「アルト様は神殿に住まわれるのが、神のご意志である。いずれこちらにお迎えするゆえ、神殿でもっとも良い部屋を清めよ。……いや、改装してもよいな。
アルト様がおられれば、神殿の力も増すし――お前たちの給金だって上がるというものだ。私の影響力も……ふふ、国王に並ぶほどになるかもしれんな」
ニタニタと笑うその顔は、あまりに下卑ていて、とても神に仕える大神官とは思えなかった。
信仰心など微塵も感じられない、ただ欲に塗れた俗世の男の顔だった。
アルト様の部屋とされた一室には、大きな檻が設置され、頑丈な鎖まで用意された。
――まさか、神獣様をここに閉じ込めるつもりなのか?
あまりにも酷い……。
果たして、神は本当に、神獣様を神殿に縛りつけることを望まれているのだろうか?
あの自由を愛する瞳が、あの檻の中で曇ってしまったら――。
……このまま、黙っていていいのだろうか?
アルト様が神獣であることは、まぎれもなく素晴らしいことだ。
そして、神殿が神獣様と繋がりを持つこと自体は、決して間違っているとは思わない。
だが――それを“管理対象”として扱えと?
檻に閉じ込め、鎖で繋いで?
コルネリオ大神官に逆らえば、自分の立場は危うい。
だが、私は――このまま、目を逸らしていいのか?
こんな仕打ちが、許されていいはずがない。
たとえ、この身がどうなろうとも。
そして、私は――
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※本日はあともう一話更新予定です。
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