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7 真実
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(ガマガエル7班、班長視点)
忍び込んだのはバディド王国の鉄格子のある療養所だ。その男は一日中ブツブツと呟いている。
「くっそ! アルフォンズ団長め。俺がエメリーンを好きなのを知っていたくせに邪魔しやがって・・・・・・だから、あいつの食事に毒液を垂らしてやったのさ・・・・・せっかく死んだのに」
「おい、うるさいぞ! いつになったらまともになるんだ? おまえ、人気舞台俳優チョップリンにも毒を盛ってやったとか言っていたよな? でも、その俳優はずっと元気で活躍しているぞ」
同室の男が怒鳴った。
「うん、こいつは妄想の世界で生きているな。このあいだは、有名作家シェイクスピアポンにも毒を送りつけて殺したことがある、なんて言ってたけどさ。その作家も新作をどんどん出している。妄想癖か?虚言癖か?」
同室のまた別の男が嘲笑う。床には読みかけの雑誌や新聞が雑然と積まれていた。
「バディド王国の薬種屋、全てを調べて張り込め! 」
俺は大きな薬種屋から小さな露天商まで、部下をくまなく配置した。俺たちの身体は小さいから隙間にも隠れられるし、客に紛れてこっそり店の中まで入っても誰にも気がつかれない利点がある。
俺が担当したのは、この国で一番の薬種屋だ。こいつのところには、たくさんの客がひっきりなしに来ていた。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですね? あちらの個室でお待ち下さい」
愛想の良い女が、とてもにこやかにそう言った。
帽子を目深に被り顔を隠すようにして入ってきた男が個室に移動する。俺はこっそりと後ろから尾行、物陰に隠れて様子をうかがう。
「こちらが遅効性の毒です。およそ半年で亡くなるでしょう」
薬種屋の店主らしき男の密やかな声が聞こえた。
「おぉ、ありがとう。助かるよ」
男は大袈裟に感謝をして、驚くほど大金を払って店を後にする。
客が帰った後も俺は引き続き、その薬種屋を監視していた。男は辺りが薄暗くなってくると、「本日閉店」の札を扉にかける。
「まぁ、人間なんていつ死ぬかわからんからな。まるっきり嘘をついたことにはならんだろう」
そう言いながらそいつは嬉しそうに今日の売り上げを計算しだした。
「ねぇ、あんた! そんなことをして本当に大丈夫なのぉ? 夫婦して捕まるなんてごめんだよ。訴えられたりしないだろうね? あの男に渡したのはただのフレーバーティーの材料でしょう? 毒なんて少しも入ってないじゃない。茶色の毒液はただの健康茶だしさぁ」
さきほどの帽子の男を案内したのはこの男の妻のだったのか。
「訴えられるわけがないさ。だって違法な毒を買ってそれが効かなかったからって誰に言えるんだい? 自分が牢屋に入ることになるさ。それに半年後に死ぬとは言ったけれど、いつからとは言っていない。5年後かもしれないし20年後かもな? あっははは」
「『乾燥柑橘類に無味無臭の毒をまぶしてほしい』って言ってきたコンスタンティン王太子殿下を思い出したよ。恋のライバルの毒殺を目論んでさぁ。アルフォンズ騎士団長様は、本当に半年後に亡くなって気味が悪かったねぇ」
「あぁ、あれは本当に病気だったのだろう・・・・・・今の医学では解明できない病気なんてたくさんあるからね。もしかして、今でも自分が殺したなんて思っているとしたら気の毒ではあるなぁ」
「じゃぁ、真実を教えてあげる?」
「いやいや、まずいだろう? 王太子殿下を騙したことになるだろう? それこそ俺たちが殺されてしまう。アルフォンズ騎士団長様と言えば、もう一人いかれた男もいたなぁ。アルフォンズ騎士団長の妹が好きとか言ってた男!」
「あぁ、あれね。覚えているわよぉ。かなりいかれた男だったものねぇ。渡した健康茶を毒だと思い込んで宝物のようにして抱えて帰っていったよねぇ」
「あぁ、信じる者は救われる。毒と信じて使って、結果人殺しにならないで済んだとすれば、救われたってことさ」
まぁな、薬種屋の言うことも間違ってはないんだがね・・・・・・まぁ、アルフォンズ騎士団長は病死だな。そして、毒殺しようとした男が二人。二人とも自分が殺したと思っているか。
なんとも、モヤモヤする話だなぁ。さて、クラウディア王妃殿下にご報告するか。
忍び込んだのはバディド王国の鉄格子のある療養所だ。その男は一日中ブツブツと呟いている。
「くっそ! アルフォンズ団長め。俺がエメリーンを好きなのを知っていたくせに邪魔しやがって・・・・・・だから、あいつの食事に毒液を垂らしてやったのさ・・・・・せっかく死んだのに」
「おい、うるさいぞ! いつになったらまともになるんだ? おまえ、人気舞台俳優チョップリンにも毒を盛ってやったとか言っていたよな? でも、その俳優はずっと元気で活躍しているぞ」
同室の男が怒鳴った。
「うん、こいつは妄想の世界で生きているな。このあいだは、有名作家シェイクスピアポンにも毒を送りつけて殺したことがある、なんて言ってたけどさ。その作家も新作をどんどん出している。妄想癖か?虚言癖か?」
同室のまた別の男が嘲笑う。床には読みかけの雑誌や新聞が雑然と積まれていた。
「バディド王国の薬種屋、全てを調べて張り込め! 」
俺は大きな薬種屋から小さな露天商まで、部下をくまなく配置した。俺たちの身体は小さいから隙間にも隠れられるし、客に紛れてこっそり店の中まで入っても誰にも気がつかれない利点がある。
俺が担当したのは、この国で一番の薬種屋だ。こいつのところには、たくさんの客がひっきりなしに来ていた。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですね? あちらの個室でお待ち下さい」
愛想の良い女が、とてもにこやかにそう言った。
帽子を目深に被り顔を隠すようにして入ってきた男が個室に移動する。俺はこっそりと後ろから尾行、物陰に隠れて様子をうかがう。
「こちらが遅効性の毒です。およそ半年で亡くなるでしょう」
薬種屋の店主らしき男の密やかな声が聞こえた。
「おぉ、ありがとう。助かるよ」
男は大袈裟に感謝をして、驚くほど大金を払って店を後にする。
客が帰った後も俺は引き続き、その薬種屋を監視していた。男は辺りが薄暗くなってくると、「本日閉店」の札を扉にかける。
「まぁ、人間なんていつ死ぬかわからんからな。まるっきり嘘をついたことにはならんだろう」
そう言いながらそいつは嬉しそうに今日の売り上げを計算しだした。
「ねぇ、あんた! そんなことをして本当に大丈夫なのぉ? 夫婦して捕まるなんてごめんだよ。訴えられたりしないだろうね? あの男に渡したのはただのフレーバーティーの材料でしょう? 毒なんて少しも入ってないじゃない。茶色の毒液はただの健康茶だしさぁ」
さきほどの帽子の男を案内したのはこの男の妻のだったのか。
「訴えられるわけがないさ。だって違法な毒を買ってそれが効かなかったからって誰に言えるんだい? 自分が牢屋に入ることになるさ。それに半年後に死ぬとは言ったけれど、いつからとは言っていない。5年後かもしれないし20年後かもな? あっははは」
「『乾燥柑橘類に無味無臭の毒をまぶしてほしい』って言ってきたコンスタンティン王太子殿下を思い出したよ。恋のライバルの毒殺を目論んでさぁ。アルフォンズ騎士団長様は、本当に半年後に亡くなって気味が悪かったねぇ」
「あぁ、あれは本当に病気だったのだろう・・・・・・今の医学では解明できない病気なんてたくさんあるからね。もしかして、今でも自分が殺したなんて思っているとしたら気の毒ではあるなぁ」
「じゃぁ、真実を教えてあげる?」
「いやいや、まずいだろう? 王太子殿下を騙したことになるだろう? それこそ俺たちが殺されてしまう。アルフォンズ騎士団長様と言えば、もう一人いかれた男もいたなぁ。アルフォンズ騎士団長の妹が好きとか言ってた男!」
「あぁ、あれね。覚えているわよぉ。かなりいかれた男だったものねぇ。渡した健康茶を毒だと思い込んで宝物のようにして抱えて帰っていったよねぇ」
「あぁ、信じる者は救われる。毒と信じて使って、結果人殺しにならないで済んだとすれば、救われたってことさ」
まぁな、薬種屋の言うことも間違ってはないんだがね・・・・・・まぁ、アルフォンズ騎士団長は病死だな。そして、毒殺しようとした男が二人。二人とも自分が殺したと思っているか。
なんとも、モヤモヤする話だなぁ。さて、クラウディア王妃殿下にご報告するか。
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