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5 復讐の前準備は甘やかし油断させるところから……
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「あの、なぜ僕にこのような大事な仕事を任せてくれるのですか?」
傷が癒えたヨハンはアーサーの口利きで騎士団の会計の仕事が与えられたが、楽な上に驚くほどの大金を自由に動かせる権限があったのである。
「それは君が大事な男だからさ。しっかり働くことだ」
当初は『アーサーから殺されるかも』と危惧していたヨハンではあったが、意外にもアーサーはヨハンをたいして責めもせず仕事も紹介してくれ毎日が無難に過ぎていくのだった。
「ルミネ、今月の給料を渡すよ。少し少ないけど……」
「あら、それは頂かなくて大丈夫ですわ。どうぞご心配なく。お兄様はカンザス家に戻る道中でいろいろな人助けをしながらご帰還されました。その際たくさんの金貨やお宝をいただいたのですよ。しかも陛下は英雄のお兄様には格別な褒美をくださいましたので、カンザス公爵家はかつてないほど潤っております」
(なんてラッキーなんだ! アーサーの義理の弟ということで、どこに行っても恭しく敬礼されるし……こないだの久しぶりに行った飲み屋では、ツケで大盤振る舞いさせてくれた!)
ヨハンはすっかりルミネやアーサーに許されたと思い増長するのだった。
(騎士団の金も少しぐらいくすねたっていいよな。どうせばれても、僕には文句は言えない。だって英雄の義理の弟なんだから!)
ヨハンはいよいよ気持ちが大きくなって金遣いが激しくなり、またもや借金を重ねるようになっていく。日ごとに派手な生活に染まっていく夫を冷めた目で見つめるルミネ。
ブラック侯爵もあれからなんの動きも見せないアーサーにすっかり安堵していた。
「鬼神も溺愛する妹にはかなわないようだな。あのルミネがヨハンの子供を産めば、ますます両家は強固な結びつきになる。ブラック侯爵家も安泰だ。ダニエルは文官に採用されたのだろう?」
そう言いながらにんまりと笑顔をほころばせるブラック侯爵。
「はい、父上。アーサーのお陰ですよ。名誉職で勤務時間もそれほど長くない……しかも、なんと金がわりと自由に動かせる経理課です。持つべき者は力のある縁者ですね。以前のこともどうやらチャラになったようですね」
あれほど激怒していたアーサーが、前回の莫大な借金を請求もせず報復もしないどころかブラック侯爵家の3バカ兄弟をバックアップしてくれることに、ブラック侯爵家の男達は少しも不思議に思わないのだった。全てはルミネが子供を産むから怒りの矛先を納めて和解できたと安堵していたのである。そしてヨハンもダニエルもアルビーも我が世の春を謳歌するのだった。
ある日、カンザス公爵家に借金取りが束になって押しかけてヨハンに詰め寄った。
「ルミネ! 助けてくれよ。少しだけ羽目を外しちまった。頼むよ!」
「あら、それはヨハン様の借金ですわね? 私は関係ありませんわ」
「夫婦は一蓮托生。前もそうだったろう? だから今回も……お前達! 妻のルミネに請求してくれ! 彼女は金をたくさん持っている。アーサー様からたっぷり渡されているよね?」
「いや、ルミネ様は関係ないでしょう。さてっと、ご同行願いましょうか? 払えないとなれば体で払っていただきましょう……」
債権者達の言葉はヨハンには理解不能であった。
「? 何を言っている? ルミネは僕の妻だろう?」
「本日、貴族戸籍簿を調べましたがヨハン様は独身でしたよ。すっかり騙されていましたよ。ここに住んでいるからルミネ様とは夫婦だとばかり思ってずいぶん融資してしまった。ったく! だから慌ててこちらに乗り込んだのさ」
「え? そんなはずはない! 籍を抜いたことなんて聞いていない……」
「クスクス。説明をわざわざする必要はないでしょう? あのようなことをされた私がそのままヨハン様と添い遂げると思います? 甘いですね」
「だって、ルミネの腹には子が……」
「あぁ、これ? 最近お腹が冷えてしまって……これは腹巻きですわ」
分厚い毛糸で編んだ腹巻きを隣室で脱いで戻ってくれば、まったく平らなお腹のルミネがほの暗い笑みを浮かべたのだった。
「あぁ、その腹巻きはいいな。タオルでは落ちてきてしまうものなぁ」
アーサーは愉快な笑い声をあげた。
「さっさと連れて行き、煮るなり焼くなり好きにするがいい。この男はカンザス公爵家の下宿人に過ぎない。この私に遠慮はいらないよ。あぁ、下宿代も後で請求するからそのつもりでな。食費も同様だ」
ヨハンがガクンと床に膝をつき項垂れたのだった。
(やばい……騎士団の金もくすねたし……どうしよぉおおおお~~)
「うふふ。地獄の扉が開きますわね。行ってらっしゃいませ!」
ルミネはにっこりと綺麗な笑顔を見せたのだった。
傷が癒えたヨハンはアーサーの口利きで騎士団の会計の仕事が与えられたが、楽な上に驚くほどの大金を自由に動かせる権限があったのである。
「それは君が大事な男だからさ。しっかり働くことだ」
当初は『アーサーから殺されるかも』と危惧していたヨハンではあったが、意外にもアーサーはヨハンをたいして責めもせず仕事も紹介してくれ毎日が無難に過ぎていくのだった。
「ルミネ、今月の給料を渡すよ。少し少ないけど……」
「あら、それは頂かなくて大丈夫ですわ。どうぞご心配なく。お兄様はカンザス家に戻る道中でいろいろな人助けをしながらご帰還されました。その際たくさんの金貨やお宝をいただいたのですよ。しかも陛下は英雄のお兄様には格別な褒美をくださいましたので、カンザス公爵家はかつてないほど潤っております」
(なんてラッキーなんだ! アーサーの義理の弟ということで、どこに行っても恭しく敬礼されるし……こないだの久しぶりに行った飲み屋では、ツケで大盤振る舞いさせてくれた!)
ヨハンはすっかりルミネやアーサーに許されたと思い増長するのだった。
(騎士団の金も少しぐらいくすねたっていいよな。どうせばれても、僕には文句は言えない。だって英雄の義理の弟なんだから!)
ヨハンはいよいよ気持ちが大きくなって金遣いが激しくなり、またもや借金を重ねるようになっていく。日ごとに派手な生活に染まっていく夫を冷めた目で見つめるルミネ。
ブラック侯爵もあれからなんの動きも見せないアーサーにすっかり安堵していた。
「鬼神も溺愛する妹にはかなわないようだな。あのルミネがヨハンの子供を産めば、ますます両家は強固な結びつきになる。ブラック侯爵家も安泰だ。ダニエルは文官に採用されたのだろう?」
そう言いながらにんまりと笑顔をほころばせるブラック侯爵。
「はい、父上。アーサーのお陰ですよ。名誉職で勤務時間もそれほど長くない……しかも、なんと金がわりと自由に動かせる経理課です。持つべき者は力のある縁者ですね。以前のこともどうやらチャラになったようですね」
あれほど激怒していたアーサーが、前回の莫大な借金を請求もせず報復もしないどころかブラック侯爵家の3バカ兄弟をバックアップしてくれることに、ブラック侯爵家の男達は少しも不思議に思わないのだった。全てはルミネが子供を産むから怒りの矛先を納めて和解できたと安堵していたのである。そしてヨハンもダニエルもアルビーも我が世の春を謳歌するのだった。
ある日、カンザス公爵家に借金取りが束になって押しかけてヨハンに詰め寄った。
「ルミネ! 助けてくれよ。少しだけ羽目を外しちまった。頼むよ!」
「あら、それはヨハン様の借金ですわね? 私は関係ありませんわ」
「夫婦は一蓮托生。前もそうだったろう? だから今回も……お前達! 妻のルミネに請求してくれ! 彼女は金をたくさん持っている。アーサー様からたっぷり渡されているよね?」
「いや、ルミネ様は関係ないでしょう。さてっと、ご同行願いましょうか? 払えないとなれば体で払っていただきましょう……」
債権者達の言葉はヨハンには理解不能であった。
「? 何を言っている? ルミネは僕の妻だろう?」
「本日、貴族戸籍簿を調べましたがヨハン様は独身でしたよ。すっかり騙されていましたよ。ここに住んでいるからルミネ様とは夫婦だとばかり思ってずいぶん融資してしまった。ったく! だから慌ててこちらに乗り込んだのさ」
「え? そんなはずはない! 籍を抜いたことなんて聞いていない……」
「クスクス。説明をわざわざする必要はないでしょう? あのようなことをされた私がそのままヨハン様と添い遂げると思います? 甘いですね」
「だって、ルミネの腹には子が……」
「あぁ、これ? 最近お腹が冷えてしまって……これは腹巻きですわ」
分厚い毛糸で編んだ腹巻きを隣室で脱いで戻ってくれば、まったく平らなお腹のルミネがほの暗い笑みを浮かべたのだった。
「あぁ、その腹巻きはいいな。タオルでは落ちてきてしまうものなぁ」
アーサーは愉快な笑い声をあげた。
「さっさと連れて行き、煮るなり焼くなり好きにするがいい。この男はカンザス公爵家の下宿人に過ぎない。この私に遠慮はいらないよ。あぁ、下宿代も後で請求するからそのつもりでな。食費も同様だ」
ヨハンがガクンと床に膝をつき項垂れたのだった。
(やばい……騎士団の金もくすねたし……どうしよぉおおおお~~)
「うふふ。地獄の扉が開きますわね。行ってらっしゃいませ!」
ルミネはにっこりと綺麗な笑顔を見せたのだった。
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