(完結)可愛い妹は敵でした。(全3話)

青空一夏

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中編

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アンリエット視点ーー軽い?ざまぁ

「大丈夫ですか? モデル伯爵? しかし、妹さんは全く躾のなっていない泥棒猫ですね。血筋が悪くても、性格と頭は良いと聞いていたのに、これじゃぁ取り柄はないですね」
 エリオットとかいう男が私を蔑むように見つめた。

「ちょ・・・・・・ちょっと! どういう意味ですか? 血筋が悪いわけがないわ。私はモデル伯爵家の次女ですよ。失礼でしょう?」

「あぁ。優しいお姉様に感謝するのですね。あなたはなにも知らされていないのか。夜会や舞踏会に招待される回数に疑問を感じたことはないですか?」

「は? 意味がわかりません。夜会や舞踏会はそれほど好きではないので、週に1回行けばいいぐらいです。招待されなくても気にしたことなんかありません」

「そうですか。では、教えてさしあげましょう。モデル伯爵家は伯爵家の中で最も裕福な家柄のひとつですし、過去には王族の姫も嫁いできたことがある名門貴族です。となれば、ほとんどの貴族から招待状が届き、ほぼ毎日どこかの夜会やお茶会に顔を出す必要がある。だからジャクリーン様は、ほぼ毎日お出かけになるでしょう?」

「それはお姉様がパーティ好きだから、遊び歩いているだけのことですわ。お姉様はそう私におっしゃいました」

「それはジャクリーン様の優しさですよ。アンリエット様に気づかれないようにしただけです。あなたは貴族ではありませんからね。王家主催の夜会や舞踏会には招かれないし、格式を重んじる正式なパーティーで席が用意されることはありません」

「あっははは。バカみたい。私はこのモデル伯爵家の娘です。お父様はギリマ伯爵家の次男だったエットレ。お母様は先代のモデル伯爵家当主アリーナです。どう考えても貴族でしょう? だから、お姉様の代わりに跡継ぎを産んであげるのですわ。感謝してくださいね、お姉様。ついでに私が当主になればまるく収まるわ」
 私は思わず胸を反らしてそう言った。私には誇らしい貴族の血が流れているのよ。


「アンリエットがモデル伯爵家の当主になることは絶対にできません。アンリエットにはモデル伯爵家の血が一滴も流れていませんからね。父親はエットレで同じですが、母親が違うのです」

(そんなことは初めてきいた。なぜそれを早く言ってくれなかったの?)

「それでは私のお母様はどなたですか?」

「モデル伯爵家に仕えていたメイドよ。元奴隷だったけれど、とても働き者で可愛くて素直なので、お母様が気に入り専属のメイドにしたのですって。それを私達のお父様が無理矢理・・・・・・その一回で身籠もり、アンリエットを産む時に亡くなったわ。それでお母様は激怒し、お父様を追い出して離婚したのよ。かわいがってきた働き者のメイドが不憫で、産まれた子供をアンリエットと名付け私の妹として育てたのよ」

「嘘だわ。だって3年前に亡くなったお母様は、最後まで私をかわいい娘だと言ってくださったわ。とても頭が良くて可愛いし、愛しているって言ってくださいました」

「お母様は慈悲深い方でしたからね。実際、アンリエットはとても可愛いし優秀ですもの。だからこのようなことになってとても残念だわ。もうアンリエットを妹として見ることはできないわ。ここから出て行きなさい。裏切り者のステファンには慰謝料を請求します。離婚よ。」

「そ、そんな・・・・・・知らなかったのよ。そんな事情があったなんて教えてくれなければわかるはずがないです。教えてくださっていれば、このようなことはしませんでした。酷いです。騙していたなんて」

「これを騙していたというのかしら? 優しい嘘でアンリエットを守ってあげたのよ。もちろん、いずれ話すつもりだったわ。でも、あなたを一生妹として大事にしようと思っていたのよ。アンリエット、あなたは一番裏切ってはいけない私を裏切ったのよ。アンリエットに慰謝料は請求しないわ。これが私の最後の情けよ」
 お姉様は泣きながら私を真っ直ぐ見つめた。

 怒っているのではなくて、本当に悲しんでいる眼差しに私はチクリと心が痛んだ。でも、やってしまったことや言ってしまったことは取り消せない。






 


 ステファン様は、私が元奴隷のメイドの子供だと知らなかったようで、「とんだ失敗をしたよ。くっそ。せっかく金持ちのモデル伯爵家の婿になれたのに」と、私に唾を吐き捨てて去って行った。

 屋敷を追い出された私は友人宅を訪ねて歩く。ペラキオ男爵夫人にボニヴェンティ伯爵夫人、シコローネ伯爵令嬢などなど。事情を説明してしばらく泊めてほしいと頼むと、皆私を困ったように見つめて言った。
「私が友人になったのは、ジャクリーン様が溺愛する妹のアンリエット様なのです。ジャクリーン様の後ろ盾がないアンリエット様では・・・・・・わかりますわね?」

 私の価値はお姉様がいないとマイナスらしい。親しくしてきた人達は全て、掌を返したように私を避けた。どこにも行くところがなくて・・・・・・このままきっと死んでしまうのかもしれない。

「どうしたら良いんだろう? お姉様・・・・・・助けて」
 咄嗟に頭に浮かんだのは、やっぱりお姉様の顔だけだ。なぜ裏切ってしまったのだろう。私は通りにうずくまり号泣していた。誰もが振り返ったが、私に救いの手を差し伸べる人はいない。

 貴族の馬車に引かれそうになり慌てて身体をかわし、御者に怒鳴られてまた小さくうずくまる。
「おい、虫けら! この馬車はカルボーネ準男爵様の馬車だぞ。浮浪者はあっちに行け」
 ムチで打たれそうになり慌てて駆け出す。

 広場の噴水の前に立つ。その水面に映った私は、すっかり薄汚れたドレスで髪は乱れていて、確かに浮浪者に見えるかもしれない。

 あっという間に、裕福なモデル伯爵家の娘だった私は浮浪者に落ちた。


「お姉様・・・・・・」
 私は心底後悔したのだった。

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