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16 真の聖女
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追い詰められたメルバは震える手を伸ばし、国王陛下の上にかざした。瞬間、眩い光がほとばしり、大聖堂の空気を揺らし――その輝きに、場のあちらこちらからどよめきが漏れる。
「おお! まさか、本当に癒しの奇跡を・・・・・・?」
「本物の聖女だったのか?」
一瞬だけ、誰もが息を呑んだ。
だが、光が消え去った後も、国王陛下は苦しげに胸を押さえたまま、うめき声を漏らしていた。顔色は蒼白のまま、容態に変化はない。
静寂を裂くように、最初は小さな失笑が貴族達から漏れた。
「なんだ、見かけ倒しか」
「結局、口ばかりの聖女だな。いや、聖女でも何でもないか。ただの嘘つきだな」
「眩しく光っただけで、何も癒せてはいないではないか! 偽物め!」
やがてその嘲りは波紋のように広がり、冷笑と軽蔑が大聖堂全体を覆っていった。
「メルバ! もっと本気を出せ! 何をしている!」
お父様が青ざめた顔で立ち上がり、娘を叱咤する声を大聖堂に響かせた。苛立ちと狼狽が滲んだ声音だった。
その傍らで、アメリは顔面蒼白のまま震えていた。唇を噛みしめ、絞り出すように声を上げる。
「メ、メルバは、今日は体調が優れないのですわ。だから、きっと本来の力を出せないのです」
必死の弁明も空しく、貴族たちの視線は冷たさを増していくばかりだった。
国王陛下は相変わらず苦しそうで・・・・・・放っておけず、気がつけば体が動いていた。私は国王陛下の前に跪き、両手をかざす。緊張で手が小刻みに震えた。
怖い。もし私が失敗したら・・・・・・。けれど、目の前で苦しむ陛下をただ見ていることなどできなかった。
――次の瞬間。
私の掌から、まばゆいばかりの光があふれ出した。さきほどメルバが放った光など比べものにならない、圧倒的な輝きが大聖堂を満たしていく。高い天井のステンドグラスが光を受けて虹色にきらめき、ざわめいていた人々が思わず息を呑んだ。
眩しさの中で、国王陛下の顔色が徐々に変わっていくのがわかる。青ざめていた頬に血の気が戻り、荒かった呼吸も落ち着いていく。
「おお・・・・・・」
驚嘆の声があがる。誰のものか分からない。けれど、大聖堂のあちらこちらから、畏敬のざわめきが広がっていった。
やがて光が収まったとき、国王陛下はゆっくりと身を起こされた。先ほどまで苦しげにうずくまっていたとは思えないほど、凛々しい眼差しで貴族たちを見渡す。
「胸を締めつけていた痛みが消えた。これほど清々しい気分は久しくなかったぞ」
陛下が静かにそうおっしゃると、大聖堂内がどよめきに包まれた。私は汗を滲ませながらも、両手を下ろした。張り詰めていた息がようやく吐き出せ、ほっとする。
「なんと・・・・・・回復なされたぞ!」
「おお、陛下が・・・・・・!」
「たちまち苦しみが消え去るとは・・・・・・まるで奇跡ではないか」
周囲の貴族たちが口々に声を上げた。
「やはり、あの黒髪の女性こそ・・・・・・本物の聖女に違いない!」
彼らの視線が一斉に私へ注がれた。私はどう反応すればよいのか分からず、ただ戸惑うばかりだった。
「この女性こそ真の聖女――スカーレット嬢なのです。さあ、元の姿に戻っておくれ」
スチュアート様の言葉に従い、私は指輪を外した。瞬く間に黒髪は燃えるようなルビー色へ、瞳は深いサファイアブルーへと戻っていく。
「そっ、そんな・・・・・・どうして生きているの? おかしいじゃない」
アメリとメルバが、幽霊でも見たかのように青ざめ、怯えきった声でつぶやいた。その言葉は、あまりに不用意で、しかし紛れもなく彼女たちの本音だった。
そして、それはしっかりと国王陛下の耳に届いていた。
「今の発言、聞き捨てならぬ。なぜ、スカーレット嬢が生きているとおかしいのだ? 貴様ら、一体どういうつもりで口にしたのか、余の前で明らかにせよ!」
国王陛下の声は低く、大聖堂を震わせるほどの怒気に満ちていたのだった。
「おお! まさか、本当に癒しの奇跡を・・・・・・?」
「本物の聖女だったのか?」
一瞬だけ、誰もが息を呑んだ。
だが、光が消え去った後も、国王陛下は苦しげに胸を押さえたまま、うめき声を漏らしていた。顔色は蒼白のまま、容態に変化はない。
静寂を裂くように、最初は小さな失笑が貴族達から漏れた。
「なんだ、見かけ倒しか」
「結局、口ばかりの聖女だな。いや、聖女でも何でもないか。ただの嘘つきだな」
「眩しく光っただけで、何も癒せてはいないではないか! 偽物め!」
やがてその嘲りは波紋のように広がり、冷笑と軽蔑が大聖堂全体を覆っていった。
「メルバ! もっと本気を出せ! 何をしている!」
お父様が青ざめた顔で立ち上がり、娘を叱咤する声を大聖堂に響かせた。苛立ちと狼狽が滲んだ声音だった。
その傍らで、アメリは顔面蒼白のまま震えていた。唇を噛みしめ、絞り出すように声を上げる。
「メ、メルバは、今日は体調が優れないのですわ。だから、きっと本来の力を出せないのです」
必死の弁明も空しく、貴族たちの視線は冷たさを増していくばかりだった。
国王陛下は相変わらず苦しそうで・・・・・・放っておけず、気がつけば体が動いていた。私は国王陛下の前に跪き、両手をかざす。緊張で手が小刻みに震えた。
怖い。もし私が失敗したら・・・・・・。けれど、目の前で苦しむ陛下をただ見ていることなどできなかった。
――次の瞬間。
私の掌から、まばゆいばかりの光があふれ出した。さきほどメルバが放った光など比べものにならない、圧倒的な輝きが大聖堂を満たしていく。高い天井のステンドグラスが光を受けて虹色にきらめき、ざわめいていた人々が思わず息を呑んだ。
眩しさの中で、国王陛下の顔色が徐々に変わっていくのがわかる。青ざめていた頬に血の気が戻り、荒かった呼吸も落ち着いていく。
「おお・・・・・・」
驚嘆の声があがる。誰のものか分からない。けれど、大聖堂のあちらこちらから、畏敬のざわめきが広がっていった。
やがて光が収まったとき、国王陛下はゆっくりと身を起こされた。先ほどまで苦しげにうずくまっていたとは思えないほど、凛々しい眼差しで貴族たちを見渡す。
「胸を締めつけていた痛みが消えた。これほど清々しい気分は久しくなかったぞ」
陛下が静かにそうおっしゃると、大聖堂内がどよめきに包まれた。私は汗を滲ませながらも、両手を下ろした。張り詰めていた息がようやく吐き出せ、ほっとする。
「なんと・・・・・・回復なされたぞ!」
「おお、陛下が・・・・・・!」
「たちまち苦しみが消え去るとは・・・・・・まるで奇跡ではないか」
周囲の貴族たちが口々に声を上げた。
「やはり、あの黒髪の女性こそ・・・・・・本物の聖女に違いない!」
彼らの視線が一斉に私へ注がれた。私はどう反応すればよいのか分からず、ただ戸惑うばかりだった。
「この女性こそ真の聖女――スカーレット嬢なのです。さあ、元の姿に戻っておくれ」
スチュアート様の言葉に従い、私は指輪を外した。瞬く間に黒髪は燃えるようなルビー色へ、瞳は深いサファイアブルーへと戻っていく。
「そっ、そんな・・・・・・どうして生きているの? おかしいじゃない」
アメリとメルバが、幽霊でも見たかのように青ざめ、怯えきった声でつぶやいた。その言葉は、あまりに不用意で、しかし紛れもなく彼女たちの本音だった。
そして、それはしっかりと国王陛下の耳に届いていた。
「今の発言、聞き捨てならぬ。なぜ、スカーレット嬢が生きているとおかしいのだ? 貴様ら、一体どういうつもりで口にしたのか、余の前で明らかにせよ!」
国王陛下の声は低く、大聖堂を震わせるほどの怒気に満ちていたのだった。
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