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私はそんなカスコイン伯爵の声は無視した。金のドラゴンの傷を癒やしながらも、銀のドラゴンには心の中で何度も謝罪する。今回はカスコイン伯爵が全面的に悪かったけれど、全ての人間が悪い人ばかりではないこともわかって欲しい。
聖女の癒やしで金のドラゴンの傷口が塞がりすっかり元気になると、銀のドラゴンの鋭い目つきも徐々に柔らかくなっていく。訝しむような私への視線が次第に感謝の色を帯び、ドラゴンの子供達が私のバックパックの周りをパタパタと飛んでいるのに首を傾げた。
(美味しいの、もっとちょうだい)
(カリカリちょうだい。食べたいよ)
子ドラゴンはどうやらすっかり、私が作ったラスクの虜になったらしい。ラスクを強請(ねだ)る心の声がちゃんと私には聞こえたから。金銀のドラゴンも興味深そうに、私のバックパックをじっと見つめた。
「ここにはね、私が作ったラスクが入っています。この子達はとても気に入ったみたいです。もっと食べさせてもいいかしら?」
金銀のドラゴンに話しかけると、銀のドラゴンが私に近づいて来て、前足をすっと差しだした。まずは自分が毒味したい、ということかしら?
「この子達にはさっきちょっとだけあげたのよ。さぁ、召し上げれ」
ラスクを銀のドラゴンの前足に乗せてあげると、恐る恐る口に持っていく。私は反応をどきどきしながら待った。すっかりラスクを食べてしまうと、お代わりをしたいのか前足をさらに私へ差し出す。もう一枚置いてあげると、今度は金のドラゴンの元に、大事そうにラスクを持って行き食べさせた。
(そうか。番の王にも食べさせたかったんだ。仲良しなのね)
ドラゴンも人間と同じように、互いに愛し合って家族を大事にしているなんて素敵なことだと思う。「美味しいね」、と言い合っているようで、微笑ましい金銀のドラゴンの光景だった。さきほどまでの緊迫した闘いの場が一気に和やかな空気に包まれる。
金銀のドラゴンにも気に入ってもらえたラスクは、他のドラゴン達にも配ってあげた。ドラゴン達が一列に行儀良く並び、私からラスクをもらう。小さなラスクを宝物のように前足で器用に持って食べる姿は、巨大で恐ろしい姿だけれど愛嬌があった。
もちろん子ドラゴンにも一枚のラスクを半分ずつ口に入れてあげた。パタパタと小さな翼で空中に浮かびながら、ラスクを食べる度に上下に弾むように動く。
「可愛すぎます」
私は二頭をギュッと思わず抱きしめた。二頭の子ドラゴンは小さな尻尾をフリフリと動かして、嫌がりもせずに抱きしめられている。
「すごいぞ。お前が焼いたパンを食べさせて、こいつらに言うことを聞かせよう。聖女の焼くパンで世界が征服できる」
カスコイン伯爵は足を怪我しても、全く反省していないようだ。
「アンジェリーナ様の焼くパンには聖女様の癒やしの力がたっぷりと詰まっている。それをおかしな目的の為に利用するなど断じて許さない。ドラゴンとはこれから協定を結び、お互いが理解を深め共存していくべきなんだ」
セオドリック王太子殿下はドラゴンとの平和な関係を築き上げていこうとしている。もちろんそれは私も大賛成だ。
「ドラゴン達はラスクに夢中じゃないか! だったら聖女のラスクでこいつらを調教して・・・・・・」
カスコイン伯爵が急に静かになった。不思議に思って振り返ると地面に気絶していて、セオドリック王太子殿下がため息をついていた。
「鳩尾(みぞおち)を殴ってしまいました。カスコインはあんまりにも不愉快なことを言い過ぎる。こんな性格だとは思いませんでした」
私はこの子ドラゴン達がどんな目に遭っていたのかをセオドリック王太子殿下に伝え、いよいよ怒ったセオドリック王太子殿下は、カスコイン伯爵とヒルダ様を子ドラゴン達が閉じ込められていた地下の部屋に監禁させた。私は金銀のドラゴンに、このカスコイン伯爵とヒルダ様を厳しく処罰することを約束した。言葉にも出したし、心の中でも念じるように話しかけた。
もともと穏やかな性格のドラゴン達なので、王と王の子供達が無事ならばそれ以上は闘う気にはならないようだった。なんとか許してもらえてホッとすると同時に、ドラゴン達が私のバックパックを期待に満ちた顔で見つめているから、可愛くて笑ってしまった。
(カリカリ美味しかった)
(あのカリカリ食べると幸せな気分)
(カリカリ、また食べられたら良いのに)
ドラゴン達のそんな声が私には聞こえてきたから。私の焼くパンは人間だけじゃなくて、ドラゴンだって幸せにできるんだ。やっぱりパン職人って最高のお仕事だ!
「またいつでも食べさせてあげますよ。このラスクはね、王都のウエクスラベーカリーで売っています。ラスクばかりじゃなくていろんな種類のパンがあるのよ」
私がウエクスラベーカリーの場所やパンの説明をすると、銀のドラゴンが翼の中からとても大きな石を取りだした。翼の中ってポケットのように物を運べるようになっているのかしら? 私に向かって差しだした石はよく見ればオパールの原石だった。ブルーの中にオレンジやイエローが輝く、この色合いはなにかに似ている。そうだセオドリック王太子殿下の瞳の色よ。私の手のひらにそっと置いてくれたそれは、とてつもなく高価な物だと思う。
(美味しい物のお礼。息子達を助けてくれたお礼。ありがとう)
銀のドラゴンの声が私に聞こえてくる。とても礼儀正しくて義理堅い母ドラゴンの声だ。銀のドラゴンは賢くて人間と話し合いができるドラゴン王の番だったのだ。私達は国王陛下夫妻に報告をする為に、王都に戻ることにしたけれど、一瞬で帰ることができた。なぜならば・・・・・・
聖女の癒やしで金のドラゴンの傷口が塞がりすっかり元気になると、銀のドラゴンの鋭い目つきも徐々に柔らかくなっていく。訝しむような私への視線が次第に感謝の色を帯び、ドラゴンの子供達が私のバックパックの周りをパタパタと飛んでいるのに首を傾げた。
(美味しいの、もっとちょうだい)
(カリカリちょうだい。食べたいよ)
子ドラゴンはどうやらすっかり、私が作ったラスクの虜になったらしい。ラスクを強請(ねだ)る心の声がちゃんと私には聞こえたから。金銀のドラゴンも興味深そうに、私のバックパックをじっと見つめた。
「ここにはね、私が作ったラスクが入っています。この子達はとても気に入ったみたいです。もっと食べさせてもいいかしら?」
金銀のドラゴンに話しかけると、銀のドラゴンが私に近づいて来て、前足をすっと差しだした。まずは自分が毒味したい、ということかしら?
「この子達にはさっきちょっとだけあげたのよ。さぁ、召し上げれ」
ラスクを銀のドラゴンの前足に乗せてあげると、恐る恐る口に持っていく。私は反応をどきどきしながら待った。すっかりラスクを食べてしまうと、お代わりをしたいのか前足をさらに私へ差し出す。もう一枚置いてあげると、今度は金のドラゴンの元に、大事そうにラスクを持って行き食べさせた。
(そうか。番の王にも食べさせたかったんだ。仲良しなのね)
ドラゴンも人間と同じように、互いに愛し合って家族を大事にしているなんて素敵なことだと思う。「美味しいね」、と言い合っているようで、微笑ましい金銀のドラゴンの光景だった。さきほどまでの緊迫した闘いの場が一気に和やかな空気に包まれる。
金銀のドラゴンにも気に入ってもらえたラスクは、他のドラゴン達にも配ってあげた。ドラゴン達が一列に行儀良く並び、私からラスクをもらう。小さなラスクを宝物のように前足で器用に持って食べる姿は、巨大で恐ろしい姿だけれど愛嬌があった。
もちろん子ドラゴンにも一枚のラスクを半分ずつ口に入れてあげた。パタパタと小さな翼で空中に浮かびながら、ラスクを食べる度に上下に弾むように動く。
「可愛すぎます」
私は二頭をギュッと思わず抱きしめた。二頭の子ドラゴンは小さな尻尾をフリフリと動かして、嫌がりもせずに抱きしめられている。
「すごいぞ。お前が焼いたパンを食べさせて、こいつらに言うことを聞かせよう。聖女の焼くパンで世界が征服できる」
カスコイン伯爵は足を怪我しても、全く反省していないようだ。
「アンジェリーナ様の焼くパンには聖女様の癒やしの力がたっぷりと詰まっている。それをおかしな目的の為に利用するなど断じて許さない。ドラゴンとはこれから協定を結び、お互いが理解を深め共存していくべきなんだ」
セオドリック王太子殿下はドラゴンとの平和な関係を築き上げていこうとしている。もちろんそれは私も大賛成だ。
「ドラゴン達はラスクに夢中じゃないか! だったら聖女のラスクでこいつらを調教して・・・・・・」
カスコイン伯爵が急に静かになった。不思議に思って振り返ると地面に気絶していて、セオドリック王太子殿下がため息をついていた。
「鳩尾(みぞおち)を殴ってしまいました。カスコインはあんまりにも不愉快なことを言い過ぎる。こんな性格だとは思いませんでした」
私はこの子ドラゴン達がどんな目に遭っていたのかをセオドリック王太子殿下に伝え、いよいよ怒ったセオドリック王太子殿下は、カスコイン伯爵とヒルダ様を子ドラゴン達が閉じ込められていた地下の部屋に監禁させた。私は金銀のドラゴンに、このカスコイン伯爵とヒルダ様を厳しく処罰することを約束した。言葉にも出したし、心の中でも念じるように話しかけた。
もともと穏やかな性格のドラゴン達なので、王と王の子供達が無事ならばそれ以上は闘う気にはならないようだった。なんとか許してもらえてホッとすると同時に、ドラゴン達が私のバックパックを期待に満ちた顔で見つめているから、可愛くて笑ってしまった。
(カリカリ美味しかった)
(あのカリカリ食べると幸せな気分)
(カリカリ、また食べられたら良いのに)
ドラゴン達のそんな声が私には聞こえてきたから。私の焼くパンは人間だけじゃなくて、ドラゴンだって幸せにできるんだ。やっぱりパン職人って最高のお仕事だ!
「またいつでも食べさせてあげますよ。このラスクはね、王都のウエクスラベーカリーで売っています。ラスクばかりじゃなくていろんな種類のパンがあるのよ」
私がウエクスラベーカリーの場所やパンの説明をすると、銀のドラゴンが翼の中からとても大きな石を取りだした。翼の中ってポケットのように物を運べるようになっているのかしら? 私に向かって差しだした石はよく見ればオパールの原石だった。ブルーの中にオレンジやイエローが輝く、この色合いはなにかに似ている。そうだセオドリック王太子殿下の瞳の色よ。私の手のひらにそっと置いてくれたそれは、とてつもなく高価な物だと思う。
(美味しい物のお礼。息子達を助けてくれたお礼。ありがとう)
銀のドラゴンの声が私に聞こえてくる。とても礼儀正しくて義理堅い母ドラゴンの声だ。銀のドラゴンは賢くて人間と話し合いができるドラゴン王の番だったのだ。私達は国王陛下夫妻に報告をする為に、王都に戻ることにしたけれど、一瞬で帰ることができた。なぜならば・・・・・・
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