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15 ちびっ子魔女は猫になる(アリーチャー視点)ーー改心編

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(アリーチャー視点)


「ふっふっふっ、欲張りで自分勝手な人間に悪戯するのは愉快、愉快♬ この薬を飲ませあった人間の末路が楽しみーー♪」
 あたしはぐつぐつと大鍋をかき回しながら、ニコニコとそうつぶやく。

 あたしの名前はアリーチャー。こう見えても200年は生きているが、魔女のなかではまだまだ子供で見た目も7歳ぐらいの少女だ。

「こらぁーー! このチビッ子魔女め。やっぱりお前かい。100年程前も別な国で魅了の魔法薬をばらまき、人間達に悪戯しただろう? あの時、私にお尻を叩かれたのを忘れたかい?」

「ひっ・・・・・・この声は・・・・・・やばい。大魔女様? ごめんなさい、ごめんなさい。だけど、魔法の薬作りが楽しくて止められません。それに人間は愚かで欲張りで自分勝手です。人間をからかうぐらい良いでしょう? あいつらがどうなっても魔女には関係ないです」









 あたしはいきなり子猫の姿に変えられた。

(ここはどこだろう?)

 あたしは野原にいて雨が降りお腹も空かせていた。大きな木の下に身を寄せて、雨がやむのを待つ。ところが、乱暴な男の子達に見つかり、いきなり蹴られて叩かれた。

「ちっきしょーー。学園の期末試験で赤点だよ。帰ったら両親から嫌って言うほど叱られるよ」

「俺も点数が悪くて兄上にバカにされるよ。先日も喧嘩をしたばかりなのに」

 そんなことを言いながらあたしに八つ当たり、また蹴ろうとするんだ。だから人間なんて嫌いなんだよ!  

 ところがとても体格の良い若い男性があたしを助けてくれて、その子供らを怒鳴りつけた。

「こらぁーー! 弱いもの虐めをするな! さっさと家に帰って勉強しろーぉ」

「うひゃぁああーー。あれって格闘家で有名なティモーテオ選手じゃん? うっわ! やっぱ、強そうだなぁーー」
 悪ガキ達はそう言いながらも一目散に逃げていった。

「こんなに汚れて怪我もしているね。俺の家に連れて行くからこっちにおいで」

(嫌だ、怖い・・・・・・人間は信用できないよ)

 わたしは逃げまくり、それを必死で追いかけてくる大男。逃げているうちに池に落ちて溺れそうになったところをまた助けられた。

「俺には病気の妹がいるんだよ。良かったら友達になってあげてほしい。病気で外に出ることができないマイリは6歳なんだ」

 私はそれを聞いて大人しくなった。病気の子供なら猫に意地悪はできない。追いかけ回されることも、悪戯されることもないはず。





 有名人のわりにはこじんまりとした家に着くと、そこにはとても痩せ細った少女がベッドで寝ている。

「妹のマイリだよ。病気がちでベッドにいることの方が多い」

 あたしはその少女の様子で寿命が長くないことがわかった。魔女だからそんなことはすぐわかるよ。

 綺麗に洗われて清潔なタオルで身体を拭かれた後に、小皿に入れたミルクをもらう。

 目が覚めたマイリはすぐにあたしにミミと名付け、それからはいつも優しく話しかけてくれた。

「可愛いミミちゃん、大好きよ」
 そう言われるたびに、とても幸せな気分になる。マイリは部屋にずっといて、寝込んでいないときには簡単な家事をして、あたしの世話もする。

 床を掃いたりお皿を少し洗うだけで疲れてしまうほど体力がない。本人もそれがもどかしくて悩んでいた。

「もっとお兄ちゃんの負担にならないように元気になりたいけれど無理みたい。こんな私って生きている価値があるのかな・・・・・・」
 弱々しい声でつぶやいた。あたしはその細い指をペロペロと舐め、頬をすり寄せる。

(価値はあるよ。だってあたしはマイリが好きなんだもの)
 そんな気持ちを込めてニャーと鳴くけれど、マイリにはミルクの催促だとしか思われなかった。




 


 ティモーテオは夕方になると格闘場に行き、試合をしてボロボロになって帰ってくる。三日おきに行くその仕事は高収入ではあるけれど、命を懸けた危険な職業のひとつだ。
 
「お兄ちゃん、もうこんな仕事は辞めてちょうだい。私の病気はどんなに高い薬を飲んでも治らないわ。だからこんなに怪我ばかりするような仕事ではなくて、もっとまともな仕事を選んで欲しい」
 泣きながら兄に言う妹と、それに首を振り妹の為に命懸けで稼ぐ兄。

 ここには切なくて悲しい物語がある。猫のあたしには何も出来ないよ。

 




 

「お兄様に申し訳なくてこれ以上生きていたくないわ。私のお薬の為にお金がとてもかかるのよ。それを飲んだからって治る見込みはないのに・・・・・・ミミちゃん。お兄様に迷惑かけないようにマイリは消えてなくなりたいの。空を舞う雪みたいに、綺麗に溶けてなくなりたいのよ」
 ある日、怪我をして病院に担ぎ込まれたティモーテオの知らせ聞き、マイリは号泣した。


 それから数日後マイリは毒の花を食べてしまい、その直後にティモーテオが帰宅する。ほんの少しの差で、既にマイリは毒花の茎を歯でかみ砕いていた。

「なんてことをしたんだい! こんな花を食べるなんて」

「だって、これ以上はお兄ちゃんに迷惑をかけたくないもん。ごめんね、お兄ちゃん」

 血を吐き弱っていくマイリは苦しそうで、「お兄ちゃん、苦しい。早く殺して、楽になりたい」と、涙ながらにそう言った。ティモーテオが妹の首を泣く泣く絞めたところで、あたしは叫んだ!

「酷いよ! 大魔女様、助けてよ! この二人は良い人間なんだ。なんでこんなことになるのさぁーー。やめてよ、こんなの酷すぎるーー。うわぁーーん。酷い・・・・・・あんまりだよぉおおーー」








「ほっほっほっほ。目が覚めたかい? 未来旅行を猫になってした気分は?」

「あれが未来なの?」

「そうさ。アリーチャーがさきほどまでかき回していた薬は、飲んだ者の命の輝きを飲ませた者に奪わせる薬だよな? あれが貴族達に広まり、病気の民に『薬』だと言い高価な値段で売られるようになったのさ。兄はボロボロの身体になりながら高い金を支払い、妹に『毒』を飲ませていたというわけだ」

「なんで貴族はそんなことをするの?」

「領地に病気の民がいても税収は上がらないからね。それに病人が弱って亡くなっても、もともと病気だから怪しまれない。民達もまさか高い金を払って、そんなものを買わされるとは思わない。」

「酷い。マイリのような良い子にこの薬が使われるなんて思ってもいなかった・・・・・・愚かな欲深い権力者達がお互い飲ませあったら面白いなって・・・・・・あんなことを望んだわけじゃないんです」

「だから、お前は未熟なのさ。人間のなかにはお前が思うよりも、もっと邪悪な者がいるし、その逆もいる。さて、作りかけのその薬をお前はどうしたい?」


「捨ててマイリの身体が治るような薬を作りたいわ!」
 あたしは迷わず叫んだ。もう人間に悪戯するのはやめた。これが完成したら絶対マイリと友達になるんだ。これからは良い魔女になるよっ!

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