(完結)真実の愛っていいですね、どうぞお幸せに!

青空一夏

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4 王宮の女性達(使用人達)の共通の敵は?

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 スタンフォード王太子殿下は侍女やメイド、たくさんの使用人の前で私に暴言を吐いた。

「とんだはずれ女だ。なにをしても反応しないうえに痛そうにするばかりで、当たり前に子供すら産めないとは! 俺は、なんて不運なのだ。こんな結婚はアラナにだけメリットがあるじゃないか。だとすれば、もっと俺を敬って感謝しろよ。俺は損ばかりしている!」

 そのように大声で私を罵倒するスタンフォード王太子殿下を、王宮の侍女やメイド達が冷ややかな眼差しで見ていることに気がつきもしない。

 彼女達の中には子供ができなくて悩んでいる者も、密かに不感症ではないかと不安に思っている者もいないわけじゃないのに。そのようなデリケートな問題に対して上から目線で偉そうにマウントをとる男なんて、女性達に好かれるわけがないのだ。



 それに実のところ私は、罵倒されるたびに侍女やメイド達を集めてタネをまいていた。

「ここには私と同じような問題で悩んでいる女性が少なからずいると思います。 スタンフォード王太子殿下のおっしゃる言葉にきっと嫌な思いもしたでしょう。どうかスタンフォード王太子殿下を悪く思わないでください。これも私の不徳の致すところですから」

 そのように言いながら彼女達の手に、それぞれ30万ダリア(1ダリア=1円)ずつお金をそっと握らせた。彼女達は恐縮しながらも私に感謝し同情する。女同士の共感や仲間意識は共通の敵を作ることで芽生え強固になっていくのよ。この場合の共通の敵は・・・・・・そう、スタンフォード王太子殿下ね。私は彼女達にスタンフォード王太子殿下に対する嫌悪というタネをまき立派に育てあげた。




「うぅーー。腹が痛いぞ。最近頻繁に腹が痛むし、視察先では汚い野良猫がやたら寄ってくる。アラナよ、お前の腹は痛くないのか?」

「いいえ、全然。きっとスタンフォード王太子殿下は高貴なお生まれですので、お腹もデリケートなのでしょうね。私は平民でしたのでお腹を壊すことなど滅多にありません」

「あ? うん、確かに俺はこの国で一番高貴な男だ。なるほど、だから腹も高貴にできているのだな? それに比べてお前は平民出身の粗野な育ちだ。何を食っても腹など壊さぬのだろう。卑しい出はこんな時は便利だな」

 鼻で笑われても別にどうってことはない。

「はい、おっしゃる通りですね。高貴な方はちょっとしたストレスでもお腹が痛くなるそうですもの。難儀な体質でございます。尊い方達は身体のつくりが私のような者とは違うのでしょうね」

「うむ、当然だ。王族が平民と同じであるわけがない。なるほど、道理で執務中にも腹が痛むわけだ。特に難しい問題を処理せねばならぬ時には腹がキリキリと痛むのだ。働き過ぎかもしれん」

(働きすぎ? 本来王太子がするべき仕事をほとんど第2王子殿下に押しつけていると聞いているけど? 難しい問題なんて処理してないじゃない。協議が済んだ簡単な案件の書類に王太子印を押すだけのくせに)

 頭に浮かんだこのような言葉はもちろん口には出さない。私の不満顔を見てスタンフォード王太子殿下は、自分に同意して側近達に怒っているように見えたらしい。

「お前も俺が働き過ぎなことを一緒に怒ってくれるのだな? 今日のお前はなかなか物わかりがいいではないか。腹が痛いのは高貴なせいか。ならば、良いとしよう。しかし野良猫に好かれるのはなぜだ?」

「さぁ、王太子殿下のお優しい心が動物には伝わるのでしょうね」

 適当なことを言ってみたのに、案外納得してくれた。頭が単純な構造のようで良かった。

「ほぉ、なるほど。もちろん、俺ほど優しい男はいないぞ。なるほど猫にはそれがわかるのだな」

 王宮の女性使用人達は皆神妙な顔付きをしていたけれど、肩は小刻みに震えている。笑いをかみ殺しているのを私は気づいていたけれど、もちろん鈍感なスタンフォード王太子殿下は気づかない。

 最近侍女達が王宮に出入りする商人からマタタビを大量購入していた形跡は、私が男性の使用人達に気づかれる前にもみ消してあげた。だって、私は侍女やメイド達の味方ですからね。
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