4 / 21
4 王宮の女性達(使用人達)の共通の敵は?
しおりを挟む
スタンフォード王太子殿下は侍女やメイド、たくさんの使用人の前で私に暴言を吐いた。
「とんだはずれ女だ。なにをしても反応しないうえに痛そうにするばかりで、当たり前に子供すら産めないとは! 俺は、なんて不運なのだ。こんな結婚はアラナにだけメリットがあるじゃないか。だとすれば、もっと俺を敬って感謝しろよ。俺は損ばかりしている!」
そのように大声で私を罵倒するスタンフォード王太子殿下を、王宮の侍女やメイド達が冷ややかな眼差しで見ていることに気がつきもしない。
彼女達の中には子供ができなくて悩んでいる者も、密かに不感症ではないかと不安に思っている者もいないわけじゃないのに。そのようなデリケートな問題に対して上から目線で偉そうにマウントをとる男なんて、女性達に好かれるわけがないのだ。
それに実のところ私は、罵倒されるたびに侍女やメイド達を集めてタネをまいていた。
「ここには私と同じような問題で悩んでいる女性が少なからずいると思います。 スタンフォード王太子殿下のおっしゃる言葉にきっと嫌な思いもしたでしょう。どうかスタンフォード王太子殿下を悪く思わないでください。これも私の不徳の致すところですから」
そのように言いながら彼女達の手に、それぞれ30万ダリア(1ダリア=1円)ずつお金をそっと握らせた。彼女達は恐縮しながらも私に感謝し同情する。女同士の共感や仲間意識は共通の敵を作ることで芽生え強固になっていくのよ。この場合の共通の敵は・・・・・・そう、スタンフォード王太子殿下ね。私は彼女達にスタンフォード王太子殿下に対する嫌悪というタネをまき立派に育てあげた。
「うぅーー。腹が痛いぞ。最近頻繁に腹が痛むし、視察先では汚い野良猫がやたら寄ってくる。アラナよ、お前の腹は痛くないのか?」
「いいえ、全然。きっとスタンフォード王太子殿下は高貴なお生まれですので、お腹もデリケートなのでしょうね。私は平民でしたのでお腹を壊すことなど滅多にありません」
「あ? うん、確かに俺はこの国で一番高貴な男だ。なるほど、だから腹も高貴にできているのだな? それに比べてお前は平民出身の粗野な育ちだ。何を食っても腹など壊さぬのだろう。卑しい出はこんな時は便利だな」
鼻で笑われても別にどうってことはない。
「はい、おっしゃる通りですね。高貴な方はちょっとしたストレスでもお腹が痛くなるそうですもの。難儀な体質でございます。尊い方達は身体のつくりが私のような者とは違うのでしょうね」
「うむ、当然だ。王族が平民と同じであるわけがない。なるほど、道理で執務中にも腹が痛むわけだ。特に難しい問題を処理せねばならぬ時には腹がキリキリと痛むのだ。働き過ぎかもしれん」
(働きすぎ? 本来王太子がするべき仕事をほとんど第2王子殿下に押しつけていると聞いているけど? 難しい問題なんて処理してないじゃない。協議が済んだ簡単な案件の書類に王太子印を押すだけのくせに)
頭に浮かんだこのような言葉はもちろん口には出さない。私の不満顔を見てスタンフォード王太子殿下は、自分に同意して側近達に怒っているように見えたらしい。
「お前も俺が働き過ぎなことを一緒に怒ってくれるのだな? 今日のお前はなかなか物わかりがいいではないか。腹が痛いのは高貴なせいか。ならば、良いとしよう。しかし野良猫に好かれるのはなぜだ?」
「さぁ、王太子殿下のお優しい心が動物には伝わるのでしょうね」
適当なことを言ってみたのに、案外納得してくれた。頭が単純な構造のようで良かった。
「ほぉ、なるほど。もちろん、俺ほど優しい男はいないぞ。なるほど猫にはそれがわかるのだな」
王宮の女性使用人達は皆神妙な顔付きをしていたけれど、肩は小刻みに震えている。笑いをかみ殺しているのを私は気づいていたけれど、もちろん鈍感なスタンフォード王太子殿下は気づかない。
最近侍女達が王宮に出入りする商人からマタタビを大量購入していた形跡は、私が男性の使用人達に気づかれる前にもみ消してあげた。だって、私は侍女やメイド達の味方ですからね。
「とんだはずれ女だ。なにをしても反応しないうえに痛そうにするばかりで、当たり前に子供すら産めないとは! 俺は、なんて不運なのだ。こんな結婚はアラナにだけメリットがあるじゃないか。だとすれば、もっと俺を敬って感謝しろよ。俺は損ばかりしている!」
そのように大声で私を罵倒するスタンフォード王太子殿下を、王宮の侍女やメイド達が冷ややかな眼差しで見ていることに気がつきもしない。
彼女達の中には子供ができなくて悩んでいる者も、密かに不感症ではないかと不安に思っている者もいないわけじゃないのに。そのようなデリケートな問題に対して上から目線で偉そうにマウントをとる男なんて、女性達に好かれるわけがないのだ。
それに実のところ私は、罵倒されるたびに侍女やメイド達を集めてタネをまいていた。
「ここには私と同じような問題で悩んでいる女性が少なからずいると思います。 スタンフォード王太子殿下のおっしゃる言葉にきっと嫌な思いもしたでしょう。どうかスタンフォード王太子殿下を悪く思わないでください。これも私の不徳の致すところですから」
そのように言いながら彼女達の手に、それぞれ30万ダリア(1ダリア=1円)ずつお金をそっと握らせた。彼女達は恐縮しながらも私に感謝し同情する。女同士の共感や仲間意識は共通の敵を作ることで芽生え強固になっていくのよ。この場合の共通の敵は・・・・・・そう、スタンフォード王太子殿下ね。私は彼女達にスタンフォード王太子殿下に対する嫌悪というタネをまき立派に育てあげた。
「うぅーー。腹が痛いぞ。最近頻繁に腹が痛むし、視察先では汚い野良猫がやたら寄ってくる。アラナよ、お前の腹は痛くないのか?」
「いいえ、全然。きっとスタンフォード王太子殿下は高貴なお生まれですので、お腹もデリケートなのでしょうね。私は平民でしたのでお腹を壊すことなど滅多にありません」
「あ? うん、確かに俺はこの国で一番高貴な男だ。なるほど、だから腹も高貴にできているのだな? それに比べてお前は平民出身の粗野な育ちだ。何を食っても腹など壊さぬのだろう。卑しい出はこんな時は便利だな」
鼻で笑われても別にどうってことはない。
「はい、おっしゃる通りですね。高貴な方はちょっとしたストレスでもお腹が痛くなるそうですもの。難儀な体質でございます。尊い方達は身体のつくりが私のような者とは違うのでしょうね」
「うむ、当然だ。王族が平民と同じであるわけがない。なるほど、道理で執務中にも腹が痛むわけだ。特に難しい問題を処理せねばならぬ時には腹がキリキリと痛むのだ。働き過ぎかもしれん」
(働きすぎ? 本来王太子がするべき仕事をほとんど第2王子殿下に押しつけていると聞いているけど? 難しい問題なんて処理してないじゃない。協議が済んだ簡単な案件の書類に王太子印を押すだけのくせに)
頭に浮かんだこのような言葉はもちろん口には出さない。私の不満顔を見てスタンフォード王太子殿下は、自分に同意して側近達に怒っているように見えたらしい。
「お前も俺が働き過ぎなことを一緒に怒ってくれるのだな? 今日のお前はなかなか物わかりがいいではないか。腹が痛いのは高貴なせいか。ならば、良いとしよう。しかし野良猫に好かれるのはなぜだ?」
「さぁ、王太子殿下のお優しい心が動物には伝わるのでしょうね」
適当なことを言ってみたのに、案外納得してくれた。頭が単純な構造のようで良かった。
「ほぉ、なるほど。もちろん、俺ほど優しい男はいないぞ。なるほど猫にはそれがわかるのだな」
王宮の女性使用人達は皆神妙な顔付きをしていたけれど、肩は小刻みに震えている。笑いをかみ殺しているのを私は気づいていたけれど、もちろん鈍感なスタンフォード王太子殿下は気づかない。
最近侍女達が王宮に出入りする商人からマタタビを大量購入していた形跡は、私が男性の使用人達に気づかれる前にもみ消してあげた。だって、私は侍女やメイド達の味方ですからね。
74
あなたにおすすめの小説
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
ジェリー・ベケットは愛を信じられない
砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。
母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。
それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。
しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。
だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。
学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。
そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。
※世界観はゆるゆる
※ざまぁはちょっぴり
※他サイトにも掲載
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる