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5-1 誰を敵に回したのか思いしらせてあげましょう
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「アラナ王太子妃殿下。咲き始めのラベンダーを晴れた日に収穫し、ドライフラワーにしました。寝室に置かせていただきますね」
スタンフォード王太子殿下がトイレでうなっているのを心配している者は側近の男達だけだ。侍女長のキンバリーとメイド長のメルバは満面の笑みで私にラベンダーを差し出した。
「まぁ、良い香り。とても上質な睡眠がとれそうだわ」
「はい、アラナ王太子妃殿下の安らかな睡眠の方が、誰かさんの腹痛よりもよほど重要なことですので」
二人の密やかな言葉に私は曖昧にうなづく。
「スタンフォード王太子殿下も心配して差し上げてね。高貴な血筋の方ですし大切にお育てになられたので、きっと体調を崩しやすいのでしょう」
私はスタンフォード王太子殿下を気遣う言葉を決して忘れない。この二人が下剤を商人から大量購入していた形跡も、もちろん私がもみ消したけれどね。
「なんてお優しいアラナ王太子妃殿下でしょう。私達は二人ともあなた様の味方でございます!」
頼もしい言葉に私は嬉しくなってつい涙ぐんだ。私は元から涙腺がゆるいのだけれど、大抵感動した嬉しい時に涙を流す。けれど、周りは私が悲しんでいると思ってしまうのよね。誤解なのだけれど・・・・・・
「おかわいそうに。あのような卑劣な王太子に酷いことを散々言われるなんて・・・・・・私達は絶対にスタンフォード王太子殿下を許しませんわ。あの方は女の敵です」
ますます私を守ってくれようとするのはありがたいことだ。彼女達はこの王宮で国王陛下が子供の頃から仕えている大ベテランよ。キンバリーは子供の産めない身体であったので独身を貫き侍女として最高の位まで登り詰めた経緯があり、メルバは浮気症の夫と離縁して3人の娘を育て上げたしっかり者だ。
スタンフォード王太子殿下はこの王宮の使用人達の経歴を全く知ろうともしない。それがどんなに愚かなことか・・・・・・あの調子だと誰を敵にまわしたのか、永久に気がつかないだろう。
その証拠に新たに私に宣戦布告してきたのだから。
それはある日の王家主催の夜会での出来事だった。
「邪悪な毒婦アラナよ! 子供が産めない王太子妃を未来の王妃にはさせられない。それにお前は学園時代に従姉妹を虐め抜いて登校拒否にさせたらしいな? 恥を知れ! そのような心の醜い女は俺の妃でいる資格はない。俺はお前のような者とは縁を切る。たった今、離縁をするので出て行け!」
王太子は興奮して早口になり口角に泡がたまっていた。
(口周りの筋肉が弱いのかしら? 違う・・・・・・弱いのはきっと頭ね・・・・・・)
私は王太子の口角の泡をじっと見つめながら彼の残念な頭に同情した。それが王太子にはショックを受けて呆然としている哀れな女に見えたようだ。
「ふん! 従姉妹の虐めをするような卑劣な女が、そのような悲しげな表情をしても俺の心は動かんぞ。平民の分際で俺の隣に立てたことは奇跡なのに、それをありがたがりもしないで生意気なんだよ。俺はこの健気で可愛らしいマリーに真実の愛を教えてもらったのだ」
マリーは王太子の子供を妊娠しているらしい。私と王太子は排卵日も計算してどんなに努力しても、この2年間妊娠する気配もなかったのですがね。
虐め? そんな事実は少しもないのだけれど、反対はしません。むしろ、解放されて嬉しいくらい。でも、私がいなくなってもあなたは大丈夫なのでしょうか?
さて、反撃といきましょうか? 平民とはいえ、ルース大商会の一人娘をずっと蔑ろにしてきた罪、償うがいいわ!
「おかしなことをおっしゃいますね? 私の出身校をスタンフォード王太子殿下はお忘れでしょうか?」
「は? もちろん知っている。シンクレア学園であろう?」
「はい、よくできました。では、私の従姉妹のマリーはどこの学園出身だと思います?」
愚かなスタンフォード王太子殿下はマリーの出身校を確認もしていなかったのかしら?
スタンフォード王太子殿下がトイレでうなっているのを心配している者は側近の男達だけだ。侍女長のキンバリーとメイド長のメルバは満面の笑みで私にラベンダーを差し出した。
「まぁ、良い香り。とても上質な睡眠がとれそうだわ」
「はい、アラナ王太子妃殿下の安らかな睡眠の方が、誰かさんの腹痛よりもよほど重要なことですので」
二人の密やかな言葉に私は曖昧にうなづく。
「スタンフォード王太子殿下も心配して差し上げてね。高貴な血筋の方ですし大切にお育てになられたので、きっと体調を崩しやすいのでしょう」
私はスタンフォード王太子殿下を気遣う言葉を決して忘れない。この二人が下剤を商人から大量購入していた形跡も、もちろん私がもみ消したけれどね。
「なんてお優しいアラナ王太子妃殿下でしょう。私達は二人ともあなた様の味方でございます!」
頼もしい言葉に私は嬉しくなってつい涙ぐんだ。私は元から涙腺がゆるいのだけれど、大抵感動した嬉しい時に涙を流す。けれど、周りは私が悲しんでいると思ってしまうのよね。誤解なのだけれど・・・・・・
「おかわいそうに。あのような卑劣な王太子に酷いことを散々言われるなんて・・・・・・私達は絶対にスタンフォード王太子殿下を許しませんわ。あの方は女の敵です」
ますます私を守ってくれようとするのはありがたいことだ。彼女達はこの王宮で国王陛下が子供の頃から仕えている大ベテランよ。キンバリーは子供の産めない身体であったので独身を貫き侍女として最高の位まで登り詰めた経緯があり、メルバは浮気症の夫と離縁して3人の娘を育て上げたしっかり者だ。
スタンフォード王太子殿下はこの王宮の使用人達の経歴を全く知ろうともしない。それがどんなに愚かなことか・・・・・・あの調子だと誰を敵にまわしたのか、永久に気がつかないだろう。
その証拠に新たに私に宣戦布告してきたのだから。
それはある日の王家主催の夜会での出来事だった。
「邪悪な毒婦アラナよ! 子供が産めない王太子妃を未来の王妃にはさせられない。それにお前は学園時代に従姉妹を虐め抜いて登校拒否にさせたらしいな? 恥を知れ! そのような心の醜い女は俺の妃でいる資格はない。俺はお前のような者とは縁を切る。たった今、離縁をするので出て行け!」
王太子は興奮して早口になり口角に泡がたまっていた。
(口周りの筋肉が弱いのかしら? 違う・・・・・・弱いのはきっと頭ね・・・・・・)
私は王太子の口角の泡をじっと見つめながら彼の残念な頭に同情した。それが王太子にはショックを受けて呆然としている哀れな女に見えたようだ。
「ふん! 従姉妹の虐めをするような卑劣な女が、そのような悲しげな表情をしても俺の心は動かんぞ。平民の分際で俺の隣に立てたことは奇跡なのに、それをありがたがりもしないで生意気なんだよ。俺はこの健気で可愛らしいマリーに真実の愛を教えてもらったのだ」
マリーは王太子の子供を妊娠しているらしい。私と王太子は排卵日も計算してどんなに努力しても、この2年間妊娠する気配もなかったのですがね。
虐め? そんな事実は少しもないのだけれど、反対はしません。むしろ、解放されて嬉しいくらい。でも、私がいなくなってもあなたは大丈夫なのでしょうか?
さて、反撃といきましょうか? 平民とはいえ、ルース大商会の一人娘をずっと蔑ろにしてきた罪、償うがいいわ!
「おかしなことをおっしゃいますね? 私の出身校をスタンフォード王太子殿下はお忘れでしょうか?」
「は? もちろん知っている。シンクレア学園であろう?」
「はい、よくできました。では、私の従姉妹のマリーはどこの学園出身だと思います?」
愚かなスタンフォード王太子殿下はマリーの出身校を確認もしていなかったのかしら?
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