可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

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27 アーネット子爵視点

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※アーネット子爵視点です。グレイスの特別養子縁組を喜ぶお話です。


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「ウォルフェンデン侯爵家とポールスランド伯爵家の使いがいらっしゃっております。ウォルフェンデン侯爵家の顧問弁護士ニコロ様とポールスランド伯爵家の執事ランスロット様でございます」

「グレイスの養子縁組のことだろう。会って話すからサロンにお通ししろ」

「そうね。後から重要書類を送ってくださるというお話でしたものね。グレイスちゃんには来月にまた会いに行く約束をしたのよ。毎月は無理でも二か月に一回は会いに行きたいの。いいかしら?」

「もちろんいいさ。いつでも会いに行ったらいいよ」

 アーネット子爵家の執事ピエールの、来客を知らせる言葉に目を輝かせた妻ヴェレリアは、グレイスと過ごした時間がよほど楽しかったようだ。

 ウォルフェンデン侯爵家の四阿でお茶をいただいた時間は確かにわたしも心が和んだ。亡くなったジョアンの席にもケーキやお菓子とブラックベリーが置かれ、ハイビスカスの花まで飾られたのだ。

 侍女に任さず、グレイスが自らジョアンのカップに紅茶を注いだ光景は、まるで幼い妹をかわいがる優しい姉そのものだった。もしジョアンが生きていたら、どんなにかこのグレイスに懐いただろうかと感慨深い。

 ヴェレリアが話すジョアンの思い出を嬉しそうに聞いてくれるグレイスとエリザベッタに感謝した。ポールスランド伯爵夫人もにこにこと相づちを打ち、ヴェレリアは久しぶりにたくさんおしゃべりをしていたっけ。

(わたしがジョアンを忘れるように言ったのがいけなかったんだ。家でもジョアンのことを話すことを禁じた。思い出せば悲しくなるだけだと思ったんだ。でも逆だったんだな)









 家令は最も裕福な家庭でのみ雇われており、屋敷内全てを指揮統括する管理者であり、執事は男性使用人を指揮し、家政婦長は女性使用人を指揮する。

 ポールスランド伯爵家ともなれば執事は複数いるはずで、男性使用人の指揮だけでなく専門的な知識を活かし、それぞれにあった仕事が割り振られているはずだった。

 その執事が来たとなればとても重要な知らせを持ってきたと思わざるを得ない。ただの養子縁組の王家承認書を持ってくるだけなら、その下のランクの使用人が来るはずだった。

「このたびお持ちしたのはグレイス様の養子縁組の書類です。おめでとうございます! グレイス様はアーネット子爵家の正式の実子としての特別養子縁組が成立しました。王家の承認もいただき、後見人はウォルフェンデン侯爵閣下とポールスランド伯爵閣下にポールスランド伯爵夫人の3人になっております」

「まさか・・・・・・特別養子縁組が成立? しかも3人も後見人になってくださるのですか?」

「はい、グレイス様はとても皆様から可愛がられておりますので自然とそうなりました。グレイス・アーネット子爵令嬢には、ウォルフェンデン侯爵家とポールスランド伯爵家の後ろ盾がついたという書類にもなっております。これでどこに出しても、決して誰にも侮られることのないご令嬢になったわけでございます。おめでとうございます!」

 妻を見れば隣で静かに涙を流していた。いつの間にかジョアンの遺影を胸に抱えている。

「ジョアンにお姉様が出来たのよ。良かったわね。来年の命日はグレイスお姉様が花冠を編んでくれると言っていたわよ。あなた、ポールスランド伯爵領に別荘を早速買いましょうよ。ポールスランド伯爵邸の近くがいいわ。私達の実の娘ですよ。頻繁に会いに行かねばいけませんからね!」

 私達夫妻に実の娘ができて、亡くなったジョアンに姉ができた瞬間だった。ヴェレリアはグレイスをジョアンの姉として、まるで初めから存在していたように愛するようになるのに、それほど時間はかからなかった。

 もちろん私は妻の明るくなった顔を見てホッとしている。悲しみに沈んでいた顔はもうない。今にもジョアンの後を追いそうだった妻を、こちらの世界に引き戻してくれたグレイスは恩人とも言える。

 だからわたしは、グレイスを長女として実の娘のように思う。アーネット子爵家に明るい陽の光を注ぎ込んでくれたのはグレイスなのだから。


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