可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

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29 デリク視点

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※あのネズミに追い回されたパーティ後のデリクの行動になります。

୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧




 俺は姉上の婚約前祝いパーティで手に火傷を負い、しばらく学園にも通えなかった。その間ずっと、あのネズミ達をフィントン男爵家に持ち込んだ招待客を突きとめることもできずにイライラしていた。

(姉上もネズミに追いかけ回されたショックで寝込んでいる。コンスタンティン様にお見舞いに来てもらうのと、犯人を捕まえるのに協力してもらおう)

 俺はポールスランド伯爵領まで馬車を走らせ、伯爵邸を訪れた。しかし、門番に用件を告げてもなかなか取り次いでもらえない。

「俺はフィントン男爵家の嫡男だぞ。中に入れろよ。コンスタンティン様に会いに来たんだ」

 門前でずっとわめいてやった。

「とりあえず中に入ってください。コンスタンティン様の専属執事がお話を聞くそうです」

「専属執事に会いにきたわけじゃないぞ。コンスタンティン様に会いに来たんだ! 早く取り次がなかったお前は絶対にコンスタンティン様からお仕置きされるからな! 覚えてろよ」

 かなりの時間を門前で放置されて怒りも頂点に達していた。門番の男に思いっきり悪態をつくと唾をはきつけてやる。

(貴族を待たせるなんて間違っているよ! 俺は次期フィントン男爵なのに)

 門からポールスランド伯爵邸はかなりの距離がありその一部しか見えない。途中には木々が生い茂り春めいた花が咲き乱れる森が広がり、屋敷に近づくと人工池や噴水が見えてきて、整備された庭園へと続いていた。

 たいして距離は離れていないのに、ポールスランド伯爵領はフィントン男爵領よりも気候が穏やかで温かい。やっと着いた屋敷は国王陛下が住むお城のように立派だった。

(フィントン男爵家より数倍も広く立派でびっくりだよ。こんな所に住めたら最高だろうな)


 

 玄関の呼び鈴を鳴らすと、なんとフィントン男爵家をクビになったランスロットが姿を現した。

「なんでお前がここにいるのだよ? コンスタンティン様に会わせてくれ」

「わたしが今ここにいるのはコンスタンティン様の専属執事だからです。ところで、コンスタンティン様とお約束はなさっているのですか?」

「約束? してないよ。でも姉上の婚約者だからいつでも会えるだろう?」

「コンスタンティン様の婚約者になるには、王家の承認が必要だという手紙は見ましたよね? 承認をもらっていないリネータ様は婚約者ではありません」

「姉上が王家の人達に会うには着飾る必要があるのだ。俺達の服も新調しているし、家族全員の納得できる服が仕上がった時点に、皆で王都に行こうと思っている」

「呆れた方々だ。とんだお金の無駄遣いですな。フィントン男爵家はそれほどお金に余裕があるわけではないでしょうに。破産するおつもりですか?」

 主従関係にあった頃もはっきり物を言う奴だったが、それがなくなった今はもっとずけずけと批判してくる。

「うるさいよ! 王家からの手紙は、コンスタンティン様が姉上と結婚したいと王家に願い出たから、フィントン男爵家宛てに来たのだろう? だったらもう承認されるのは決まったことじゃないか。コンスタンティン様はアンドレアス王太子殿下の親友なのだろう? コンスタンティン様が本当に婚約したいと望む女性なら、絶対に反対なんてできないさ」

「コンスタンティン様と婚約したいと申し込んでくるご令嬢達の全てに、あの手紙を渡すようになっているそうですよ。あれは王家が何十通も書いたものの一通です。ちなみにあのお手紙を差し上げた令嬢はリネータ様で13人目だと聞きました。どなた様も王家のお眼鏡には叶わなかったようです」

「じゃぁ、その13の女達は、コンスタンティン様が望んだ女性じゃなかっただけの話だよ」

「まぁ、そこだけは賛成しますがね」

「だろう? だから姉上は大丈夫だ」

「デリク様とお話していると頭痛がしてきて困ります。リネータ様は少しも好かれていませんよ。なぜお気づきになられないのか。わたしは不思議でなりませんね」

「コンスタンティン様は恥ずかしがり屋だと姉上は言っている。だから素直に好意を示すことができないのだよ。コンスタンティン様に会わせてくれよ。ネズミを我が家に持ち込んだ犯人を罰するのを手伝ってほしいのだ」

「いい加減姉弟そろっての妄想癖は卒業してくださいね。フィントン男爵家も終わりだな。コンスタンティン様は外出中です。お会いすることはできませんよ。話は終わりです。これ以上騒いだらポールスランド伯爵家のお抱え騎士達につまみ出させますよ」

 首を振りながらため息をついて、ランスロットはポールスランド伯爵家の重厚な扉を閉めてしまった。

「おい、待て! ランスロット! ここを開けろよっ!」




 俺がポールスランド伯爵邸から閉め出されたすぐ後にきた馬車は、ポールスランド伯爵家の紋章がついていた。

(コンスタンティン様が乗っているかもしれない)

 しばらく様子をうかがっていると、馬車から二人の少女が現れた。一人はコンスタンティン様そっくりの女の子で金髪に黄金の瞳のとても美しい子だけれど、まだ学園に通い始めた頃の年齢だと思う。

 そしてもう一人は俺と同じぐらいの歳かもしれない。真っ直ぐな髪は少し黄みがかったブラウンで艶やかだ。同じブラウンの瞳は切れ長で、長い睫が頬に影を落とす。目尻がほんの少しあがっているのは、身分の高い貴族の令嬢にありがちなプライドの高さを感じた。肌はなめらかな陶器のように白い。

「こっ、こんにちは。俺はデリク・フィントンで男爵家の嫡男です。貴女達のお兄様とは友人なのに、ランスロットに取り次いでもらえなかった。せっかくポールスランド伯爵家まで来たのだから、お茶ぐらい飲ませてくれてもいいでしょう? ポールスランド伯爵家ってずいぶんケチで威張っているのだね?」

「フィントン男爵家? 男爵家の方が伯爵家を批判するとは身の程知らずですのね。お姉様、こんな方は無視して行きましょう」

 チビの方はえらく気が強い。

(伯爵家の娘だからって、やたら偉そうにするなよ。お前はたまたまこの家に生まれただけじゃないか!)

 だが、もう一人の少女は何も言わずにただじっとこちらを見ていた。

(もしかして俺に惚れたか? ふふん、俺ほど格好いい男は珍しいからなぁ)

「そこの君、俺に一目惚れしても残念、すでに俺にはベリンダという婚約者がいるのですよ。でも、・・・・・・そうだな。貴女のような美人な伯爵令嬢の為なら、婚約破棄しても良いかもしれないです」

 その少女は目を見開いて固まっている。嬉しいのはわかるけど、なんとか言えよ! この俺がこんなに譲歩してやっているのに。

「おい、なんとか言えよ!」

「あら、ごめんあそばせぇーー! そのようなところに人がいるとは思いませんでしたわぁーー」
  
 玄関のちょうど真上にある小窓から女の声がして、汚水が勢いよく俺を狙ってぶちまけられた。


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