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45 ロナルド・エイキン視点
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※ジュエル達の父親、ロナルド・エイキン視点です。
わたしはロナルド・エイキン。わたしの両親はとても高名な科学者だった。間違いなく天才と言われる類いの人達だ。暇さえあれば実験室に籠もり、新しい物質を発見する両親は、わたしの憧れだったがとても厳しかった。
「ロナルド。試験で学年3位とはどういうことだね? ロナルドより二人も良い成績を取った者がいる。恥ずかしいと思わないのかい」
「ごめんなさい。父さん達の子供として次は必ず1位になります」
幼い頃から父さん達の理想の子供でいるのは大変だった。学年で1位の成績でなければ冷たくされたし、1位になっても褒められることはなかった。
「わたし達の子供だから、1位になるのは当然なのだよ」
「そうですよ。私達は選ばれた人間で、凡人とは違うのです」
「はい、わかりました。僕は選ばれた人間なのですね。そしていつも1番は当然です」
そんな会話のなかで育ったわたしは選民意識が根付き、成績は常にトップでいなければならないという価値観を持つようになった。
両親は鮮やかな緑の酸性亜ヒ酸銅を発見した後すぐに亡くなり、わたしは科学者の道より実業家の道を選ぶ。その鮮やかな緑を顔料としてさまざまな製品にしていったのだ。
やがて結婚し娘が生まれ幸せだったものの、長女のジュエルは驚くほど物覚えが悪かった。バカではないが理解力が乏しい。
わたしが2回読んでわかる内容を、ジュエルは5回読んでやっとわかるというレベルだ。両親が生きていたら孫の出来の悪さに気絶したかもしれない。あの人達は1回読めば理解できて、さらには応用問題まで解ける天才だったから。
(かわいそうに、ジュエルの頭が悪いのは本人の責任じゃない。きっと妻の遺伝子が悪かったのだ)
「おい、セレーブ。君と結婚したのは間違いだったよ。美しくて従順だったから妻にしたが、君の頭はあまり良くないだろう?」
「はい? 頭ですか? 普通に学園を卒業しましたけど」
「何番だった? 君は試験でいつも廊下に順位を張り出されていたかい?」
「順位? あぁ、成績上位者20名とか10名まで張り出されるあれのことですね。そうですね、張り出されたこともあって、その時はとても嬉しかったですわ」
「張り出されるのは当然だろう? やはりセレーブの頭の悪い遺伝子がジュエルに悪さをしたんだ! わたしの両親は高名な科学者でこのわたしも常に1番だった。ジュエルの頭が悪いのはお前のせいか・・・・・・なんたることだ。セレーブの美しさに騙された! 成績は1位でないと意味が無いのだぞ」
(わたしは選ばれた人間で成績は常に1位だった。わたしの娘達もそうあるべきだなんだよ)
ジュエルの担任教師は女で俗物だった。少し金をちらつかせたら「お嬢さんの成績を私ならトップにして差し上げます」とすり寄って来る。
個別指導でもしてくれるのかと思いきや、なんと試験問題を模範解答付きでくれると言うのだ。
(これだ! 1位になれなければ人間として価値がないが、なりさえすれば方法はなんでも良い)
わたしはその見返りに、多くの金と高級な生地に宝石をレミントン先生へ贈った。金だけは本物の紙幣だが、生地は安物だったし宝石はイミテーションだ。
安い生地でも両親が発見したあの鮮やかな緑に染めると、価値が増して高級な生地に見えた。アーネット子爵領で製造された生地だと偽りタグも真似してつけてみた。レミントン先生は疑うこともなくその生地を嬉々として受け取った。愚かな女は物の価値がわからないから楽だ。
ジュエルは模範解答付きの試験問題を必死で勉強した。これだって暗記するのだから立派な勉強と言える。そして一字一句間違えずに答案用紙に書きこむのも立派な能力だ。
「ジュエルは優秀だぞ。模範解答をちゃんと覚えたものな。頭が良いなぁ」
「あなた、こんなことをしてもジュエルの為にはなりませんよ。ちゃんと努力して得た成績だからこそ価値があるのです」
「うるさいな。お前の頭が悪いから娘達が苦労するのだろう。元はと言えばお前のせいだ」
「もう我慢できません。別居いたしましょう。あなたの考えにはついていけませんわ」
このようなやり取りもあって、ジュエルが1年生の頃から妻とは別居している。ジュエルは妻に会うたびに試験問題を教えてもらうことをやめるように言われてきた。
(なんて勝手な女だ。お前のバカが遺伝したのに、なんで反対するんだよ? 子供達が成人したらすぐに離婚してやるぞ)
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※緑の酸性亜ヒ酸銅は今でいうヒ素で猛毒です。ナポレオンが愛した色だそうです。壁紙や洋服を染めるのにも使われていたそうです。ここは異世界ですが、ちょっと地球に似た異世界です。興味がある方はネットで調べてみてくださいね。
昔のおしゃれや流行は命懸けだった、ということがわかりますよ。
わたしはロナルド・エイキン。わたしの両親はとても高名な科学者だった。間違いなく天才と言われる類いの人達だ。暇さえあれば実験室に籠もり、新しい物質を発見する両親は、わたしの憧れだったがとても厳しかった。
「ロナルド。試験で学年3位とはどういうことだね? ロナルドより二人も良い成績を取った者がいる。恥ずかしいと思わないのかい」
「ごめんなさい。父さん達の子供として次は必ず1位になります」
幼い頃から父さん達の理想の子供でいるのは大変だった。学年で1位の成績でなければ冷たくされたし、1位になっても褒められることはなかった。
「わたし達の子供だから、1位になるのは当然なのだよ」
「そうですよ。私達は選ばれた人間で、凡人とは違うのです」
「はい、わかりました。僕は選ばれた人間なのですね。そしていつも1番は当然です」
そんな会話のなかで育ったわたしは選民意識が根付き、成績は常にトップでいなければならないという価値観を持つようになった。
両親は鮮やかな緑の酸性亜ヒ酸銅を発見した後すぐに亡くなり、わたしは科学者の道より実業家の道を選ぶ。その鮮やかな緑を顔料としてさまざまな製品にしていったのだ。
やがて結婚し娘が生まれ幸せだったものの、長女のジュエルは驚くほど物覚えが悪かった。バカではないが理解力が乏しい。
わたしが2回読んでわかる内容を、ジュエルは5回読んでやっとわかるというレベルだ。両親が生きていたら孫の出来の悪さに気絶したかもしれない。あの人達は1回読めば理解できて、さらには応用問題まで解ける天才だったから。
(かわいそうに、ジュエルの頭が悪いのは本人の責任じゃない。きっと妻の遺伝子が悪かったのだ)
「おい、セレーブ。君と結婚したのは間違いだったよ。美しくて従順だったから妻にしたが、君の頭はあまり良くないだろう?」
「はい? 頭ですか? 普通に学園を卒業しましたけど」
「何番だった? 君は試験でいつも廊下に順位を張り出されていたかい?」
「順位? あぁ、成績上位者20名とか10名まで張り出されるあれのことですね。そうですね、張り出されたこともあって、その時はとても嬉しかったですわ」
「張り出されるのは当然だろう? やはりセレーブの頭の悪い遺伝子がジュエルに悪さをしたんだ! わたしの両親は高名な科学者でこのわたしも常に1番だった。ジュエルの頭が悪いのはお前のせいか・・・・・・なんたることだ。セレーブの美しさに騙された! 成績は1位でないと意味が無いのだぞ」
(わたしは選ばれた人間で成績は常に1位だった。わたしの娘達もそうあるべきだなんだよ)
ジュエルの担任教師は女で俗物だった。少し金をちらつかせたら「お嬢さんの成績を私ならトップにして差し上げます」とすり寄って来る。
個別指導でもしてくれるのかと思いきや、なんと試験問題を模範解答付きでくれると言うのだ。
(これだ! 1位になれなければ人間として価値がないが、なりさえすれば方法はなんでも良い)
わたしはその見返りに、多くの金と高級な生地に宝石をレミントン先生へ贈った。金だけは本物の紙幣だが、生地は安物だったし宝石はイミテーションだ。
安い生地でも両親が発見したあの鮮やかな緑に染めると、価値が増して高級な生地に見えた。アーネット子爵領で製造された生地だと偽りタグも真似してつけてみた。レミントン先生は疑うこともなくその生地を嬉々として受け取った。愚かな女は物の価値がわからないから楽だ。
ジュエルは模範解答付きの試験問題を必死で勉強した。これだって暗記するのだから立派な勉強と言える。そして一字一句間違えずに答案用紙に書きこむのも立派な能力だ。
「ジュエルは優秀だぞ。模範解答をちゃんと覚えたものな。頭が良いなぁ」
「あなた、こんなことをしてもジュエルの為にはなりませんよ。ちゃんと努力して得た成績だからこそ価値があるのです」
「うるさいな。お前の頭が悪いから娘達が苦労するのだろう。元はと言えばお前のせいだ」
「もう我慢できません。別居いたしましょう。あなたの考えにはついていけませんわ」
このようなやり取りもあって、ジュエルが1年生の頃から妻とは別居している。ジュエルは妻に会うたびに試験問題を教えてもらうことをやめるように言われてきた。
(なんて勝手な女だ。お前のバカが遺伝したのに、なんで反対するんだよ? 子供達が成人したらすぐに離婚してやるぞ)
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※緑の酸性亜ヒ酸銅は今でいうヒ素で猛毒です。ナポレオンが愛した色だそうです。壁紙や洋服を染めるのにも使われていたそうです。ここは異世界ですが、ちょっと地球に似た異世界です。興味がある方はネットで調べてみてくださいね。
昔のおしゃれや流行は命懸けだった、ということがわかりますよ。
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