可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

文字の大きさ
46 / 64
連載

46 ジュエル視点

しおりを挟む
※ジュエル視点です。





「ジュエル、アンナ。もうポールスランド伯爵領では暮らせないわ。ここからずっと離れた土地に引っ越して、いちからやり直しましょう。知り合いが誰もいない場所に行くのよ」

「嘘でしょう? どうやって暮らすの? 私のお気に入りのドレスや帽子は一台の馬車に収まるかしら?」

「贅沢なドレスはもう着られないわ。あなたは大商会の娘ではなくなってしまったの」

 お母様は私に飾り気のないワンピースだけをトランクに詰めるようにおっしゃった。贅沢なドレスや小物はお金に換えるだなんてあり得ない。

「ポールスランド伯爵夫人がまとまったお金をくださったけれど無駄遣いはできないわ。これから家も借りてあなた達も学園に通わせなければならないしね」

 お母様は、私達の養育費をお父様に払わせたという理由で、ポールスランド伯爵夫人に感謝するようにおっしゃった。それはエイキン大商会を解散し、屋敷を売り払ったなかから払われたお金なのに、なぜポールスランド伯爵夫人に感謝するの? 元はと言えば、エイキン大商会を潰したのはポールスランド伯爵家の方々なのに。

「ありがたい? ポールスランド伯爵達のせいで私達は屋敷もドレスも贅沢な生活も失ったのに?」

「これは仕方がないことなのです。お父様はとても有害な製品を販売なさっていたのだから」

 お母様はお父様が悪いのだから、ポールスランド伯爵家の方々を恨んではいけない、とおっしゃった。そうね、お父様が1番悪い。だって、私が模範解答付き試験問題をもらったのは、全部お父様のせいだもの。





 誰も知り合いのいない田舎の土地に引っ越し、お母様は小さな病院に勤務して忙しそうだった。夜中の勤務もあって、私とアンナだけで夜を過ごすこともあった。

 メイドはいないし、食事の支度は私も手伝う。なにもかもが変わってしまった。あれほど皆にちやほやされて贅沢をしていたのに。

(こんな世界は私の住む世界じゃない! キラキラした場所に戻りたい)

 私は新しい学校に通うけれど、まったく勉強についていけなかった。授業中に当てられて間違えたり、小テストではバツばかりもらう。

「ずいぶん学力が低いのね。いったいどんな田舎からこっちに来たのよ?」

「低学年から勉強し直しなよ。恥ずかしいと思わないの?」

 ど田舎に越して来て、田舎者にバカにされるのは我慢できない。

(あんた達みたいな貧乏人にバカにされてたまるか! 私は大商会のお嬢様だったのよ)

 こんなことがあったから、つい私は良からぬことを思いついてしまった。

(あいつらを見返してやるわ! 試験に出そうなところを小さな紙に書いて手首に縛っとけばいいわ。長袖を着ればバレないわよね)

 




 7年生の最初の試験で、前日徹夜でカンニングペーパーを作り、すぐに先生にばれてしまった。以前のようにクラスメイトから白い目で見られ、お母様は担任の先生から呼び出された。

「カンニングペーパーを必死で作る暇があるなら勉強するべきでしょう? やはり片親の子供は躾ができてませんね。お母様の日頃の教育が悪いからこのようになるのです」

「申し訳ありません、申し訳ありません、申し訳ありません」

 お母様は目に涙を溜めてひたすら謝った。私に片親しかいないことと、このカンニングは関係ないし、お母様は少しも悪くない。お母様が、なぜお父様と離縁したことまで責められているのか、わからない。

「だいたい、どこから転校してきたんでしたっけ? 書類をよく確認していませんでしたわ。えぇっと・・・・・・ポールスランド伯爵領から・・・・・・あちらでは確か大きな商会のお嬢さんが不正をして退学になりましたよねぇ。おまけに父親も犯罪者になったはず・・・・・・もしかしたら、あなたはエイキン大商会の元会長夫人ですか」

「・・・・・・」

「あらあらぁーー、ここに引っ越して来られたらすっごく迷惑なんですけどぉーー。腐ったミカンがあると他のミカンも腐るでしょう? この学園に来るなんてホント迷惑。しかも私のクラスだなんて!」

「すみません。もうこのようなことは絶対させませんから。このまま学園に通わせてください。お願いします」

 お母様は必死で謝ったのに、その担任は顔を歪ませ嘲笑った。噂は瞬く間にその地区一帯に広まり、学校でも私への虐めが始まる。

(お母様がこんなところに引っ越してきたから悪いんだ)

「お母様、私虐められているのよ。ここをすぐに引っ越したいわ」

「駄目よ。こちらに越して来たばかりで、また引っ越すなんてできないわ。我慢しなさい。自業自得ですよ」

 お母様はお金のことばかり気にする。家を借りたばかりだからとか、引っ越し代もかなりかかったし、とか。

(自分が虐められてないからそんなことを言うのよ! 私がクラスメイトから無視されていても、お母様は助けてくれないの? 酷い)






 今日も虐められて悔しくて、お母様の職場の病院の前を泣きながら通る。すると、お母様もまた同僚のおばさん達から虐められているところだった。病院の大きな窓が開け放たれ看護師達の会話が外にまで漏れていたのだ。

「犯罪者の身内なんて引っ越して来られたら迷惑よ。しかも娘はカンニング常習犯なんでしょう? 出て行きなさいよっ」

「子育て失敗組の女なんてサッサと出て行け! あんたの娘もきっと父親と同じ犯罪者になるのよ」

「この病院で働かれちゃ迷惑よね。あんな娘達の母親だもの。きっと私達の私物も盗むかもしれないわ」

 お母様はなにを言われても我慢していた。お母様が相手にしないから癪に障ったのだろう。おばさん達は自分達が飲み残した飲料をお母様の頭にぶちまけようとしている。

「ねぇ、聞こえているんでしょう? 無視するんじゃないわよぉ。元会長夫人がこんな田舎に来てさぁ、なんで看護師なんてしてるのさ?」

「止めてよ! お母様が悪いんじゃ無いわ。私が勝手にやったことだもの。お母様に飲み物をかけるなら、私に石をぶつければいい! 私が悪いんだから、お母様を責めるなーー」

 窓に身体を乗り出しておばさん達に泣きながら叫んだ。私のせいでお母様がこんな人達に虐められて言い返すこともできないでいるのが悔しかった。

(私は自分のことしか考えてなかったんだ。私の世界とお母様の世界は繋がっている。私が悪い事をしたらお母様が責められて、アンナも肩身の狭い思いをするんだ) 

 私はその場で大声をあげて泣き叫んでしまった。慌てて院長先生が飛んできて私の話を聞き、そのおばさん達に説教をしてくれる。

「ここはわたしの病院だよ。誰を雇うかはわたしが決めるし、看護師同士でいがみ合うのはやめなさい。病院は人を責める場所じゃなくて病気を治すところだ」

 院長先生はとてもキッパリと怒ってくださった。

「うちのスタッフも悪かったけれど、この原因を作った君も反省したほうが良い。カンニングなんてして良い点数を取ろうとするからいけない。勉強は良い点数を取る為だけにあるんじゃないよ。夢を叶える為にあるのさ。何になりたいか決めてから勉強するときっと楽しい。君は将来なにになりたいんだい?」

「なりたいもの・・・・・・私は鳥が好きで昔インコを飼っていました。その子が死んだ時、すごく悲しかったです。鳥の怪我を治せる獣医さんってあまりいないから、小さな動物の病気を治せたらとても素敵だなって思いました。」

「だったらそれが目標だね。なれる為にはなんの勉強を頑張ってどこに行けばいいか、自分なりに調べてごらん。そうして、なれた時の自分を想像するのさ。」

 院長先生は、怪我をした小鳥を治してあげる自分の姿を、何度も想像するように教えてくださった。私は怪我や病気で苦しむ小鳥が、また元気に飛べる様子を思い浮かべる。





 その目標の為には獣医さんの学校に行かなければならない。獣医さんの学校に行くには試験があって、それは算数と公用語を含む語学と理科だということを調べた。

 初めて自分が頑張ってみようと思った瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。