3 / 5
番外編 前編
しおりを挟む
自己供給が足りなかったので、追加で。
ーーーーーーーーーーー
「僕の実家ですか?」
「そう。婚約、結婚とするなら、まずお付き合いの報告をしに行った方がいいと思って。」
お付き合いして半年も過ぎ、『順調?』と言われたら『順調です』と答えられるくらいには、お互いに尊重しあい、愛し合っている。
僕はカルシオンに恋はしていないけど、愛している。
カルシオンの人柄を知っていくうちに好ましく思い、愛しだしていた。
捨てられたわんこを拾って、家族になっていくような感覚かな?
いないと寂しいし、一緒にいたら嬉しいし、キスをするのは友人との立ち位置が違っているし、もちろん誰かがカルシオンにキスをしたと想像するだけでモヤモヤする。でも、嫉妬とまではいかない。
色んな感情を合わせ持つようになったら、これがカルシオンに対しての愛なのだと気がついた。
ただ、この愛は間違いのような気がしてならなかった。カルシオンの恋愛としての愛と、僕の家族(ペット?)としての愛では、恋人としては不正解ではないかと。
カルシオンに話したら笑われた。でも、『恋愛よりも家族愛が育ったことが嬉しい』と言ってくれた。
『何故?』と聞けば、『恋人なら嫌いになったら簡単に別れられてしまうけど、家族になったなら、嫌いのところも含めて好きなんだから。ラファエルと私との想いの違いはあれど、愛情を育てたことに違いはない。ラファエルが私を家族として愛してくれるのなら、それも良し。いずれは本当の家族になりたいのだから、ね。』と答えてくれた。
カルシオンがこうして受け入れてくれるなら、それが正解なのだろう。
カルシオンも相変わらずで、僕のやろうとすることを先回りしてやろうとするが、流石に僕もいい大人なので、『ダメ人間製造機になるつもりですか?おじいちゃん、見守ることも愛情ですよ?』とこの前叱ってからは、今は見守るに徹している。
恋人時々おじいちゃん(ペット枠も有り)になるのが、カルシオンである。
「結婚ですか?カルシオンの歳では遅いくらいですもんね。でも、僕にはまだ早いような気がしているんですね。」
「早くはないだろう?貴族なら騎士や文官にならなければ、学園卒業後には結婚するだろう?」
「確かにそうですね。カルシオンは僕と結婚、したいんですか?」
「したいです!ラファエルと結婚したい!できたら、子供も欲しい!」
「…随分食い気味ですね。」
「ラファエルはきちんと正確に伝えないと、偽情報もすんなり正しい情報として受け取るから、他人があれこれいう前に、私の気持ちをきちんと伝えたほうがいいと思って。」
「まぁ、そうですね。……実家ですか?学園卒業後から帰ってませんね。」
「長期休みとかは?」
「図書館や買い物以外は、寮に引き篭もっていました。仲の良い友人もいませんでしたし。…王都にいないと言う意味です。少ないけど、友人くらいはいますよ。」
「……何も言っていないけど、友人情報をありがとう。今度の夏の長期休暇に実家に挨拶に行きませんか?」
「それは結婚を前提にお付き合いしているという挨拶ですよね。」
「そうです。」
「…なら、プロポーズが先ではありませんか?」
「はい。ラファエルからプロポーズのおねだりをして欲しかったので、回りくどい言い方をしました。」
カルシオンがトラウザーのポケットから小さな箱を出し、開けて中身を見せてくれる。
カルシオンの髪の色のプラチナの雫型をあしらった流れのある台座の中にカルシオンの瞳の色に似たエメラルドのネックレスが入っていた。
「ラファエル、愛しています。これから先の長い時間を私と一緒に過ごしてはいただけませんか?」
「っ、はい!僕もカルシオンを愛しています。不束者ですが、よろしくお願いします。」
「ありがとう、ラファエル。」
カルシオンは幸せいっぱいに微笑んで、箱からネックレスを取り出し、僕の首元にネックレスをつけてくれた。
「カルシオン、どうしましょう?!ものすごく嬉しいのに、涙が止まりません!」
「嬉し涙だね。ラファエルがそこまで喜んでくれて私も嬉しいよ。」
カルシオンが僕を抱きしめてきたので、カルシオンの胸元をじっとりと濡らすくらい泣いてしまった。
泣いている僕をあやすように、『嬉しく泣いているのが可愛い』とか『ラファエルが私のプロポーズを待っていてくれて嬉しい』とか泣き止んでも顔が見れないくらいに甘い言葉を聞き続けた。
気分が高揚したら、その雰囲気に飲まれて、カルシオンとはじめてを致してしまいました。
優しくしてくれたので、痛くはなかったです。
ただただカルシオンの手技に翻弄されるばかりでした。
それに騎士と文官の体力差は、やっぱり違うもので、事後は指一本動かすのにも怠い僕の代わりに、カルシオンが後始末をしてくれました。
経験の差がちょっと恨めしくもありましたが、高位貴族の閨教育の賜物としておきましょう。
長期休暇に実家に結婚したい人を連れて帰ると、父と兄には手紙を出しておきました。
父達からは祝福と了承の返事をもらいました。
そして今実家に来ております。
「父様、兄様。こちらが結婚したいとお話をしていたカルシオン=ベル様です。カルシオン、僕の父のサムエルと、兄のウリエルです。」
「カルシオン=ベルです。ラファエルとはお付き合いをさせていただき、お許しを得ることができましたなら、結婚をしたいと考えております。」
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。ラファエルの父のサムエル=ハスイークです。ラファエルはもう成人もしていますし、結婚については、この子の一存に任せてあります。私の許しがなくても、よろしいんですよ。」
「兄のウリエルです。末っ子ですがしっかりと自分の考えを持っている子なので、ラファエルの将来については、私達から何か言うことはございません。」
父と兄の言葉に驚いたカルシオンは僕を見る。
「父様、兄様。僕はそれでも、カルシオンを2人に紹介したかったのです。カルシオンもごめんなさい。騙したような形になって。でも、カルシオンが挨拶に行こうと言ってくれたのが嬉しかったですし、僕は実家に帰る決心ができました。」
「そうか、ベル様から帰ろうと言って貰えたからか。ベル様、ラファエルのもう一人の兄ガブリエルとラファエルの間にちょっといざこざがあり、ラファエルはガブリエルがこの家にいる内は戻らないと決めていたのです。だから、こんなに早く戻って来たことが嬉しくて。」
「私も話だけは聞いております。ラファエルとこれから共に生きていくなら、きちんとご挨拶はするべきと思い、無理を言いました。」
「ところで、そのガブリエルと母様は?」
「お茶会に行った。ガブリエルのお相手探しに。」
「まだ見つからないの?」
「難しいだろう。弟の恋人を盗った兄なんて、娯楽の少ない田舎ではいつまでも噂にあがるんだから。」
「自業自得だ。美人なのを鼻にかけて、ラファエルを小馬鹿にしていたんだから。人は顔でないと何遍も言っているのに。」
「母様もそんなところあるよね。」
「すまんなぁ。ラファエルは私に似たから、迷惑かけたなぁ。」
ウリエルとガブリエルは母、ラファエルは父の外見を受け継いだ。子爵家出身の母の金髪、碧眼はいかにも貴族らしい色味であった。男爵になってまだ3代目の父は茶髪、茶色の眼で、平民に混じっても違和感はなかった。
「迷惑だなんて。割に僕は気に入っているんだよ。すぐに周りに溶け込めることができて。仕事にも役立つし。」
「ラファエルは相変わらず前向きに捉えてくれて父様は嬉しいよ。晩餐まで時間があるから、2人で散歩しておいで。」
と、カルシオンと領都の街を歩くことにした。
「馬車の長旅だったのに、ゆっくりできなくてごめんね。父様達、男爵家が高位貴族と話す機会なんてそうそうないから、めちゃくちゃ緊張していたみたい。気持ちを落ち着けるために一旦屋敷から離したのかも。」
「私は鍛えているから大丈夫だよ。ラファエルが疲れていないなら、街を案内してほしい。しかし優しそうな父上と兄上で良かったよ。『嫁にやらん!』って言われたらどうしようかとそればかり考えていたよ。」
「大丈夫って言ったのに。…でも、不安になるほど、僕との結婚を望んでくれてありがとう。凄く嬉しい。」
王都に比べれば、公爵領の中のものすごく小さな街。だけど、隣国と繋がる道の中継地点にもなる街だから、割に重要な街なのだ。
初代の男爵が当時の公爵から信頼され、任された街。だから祖父様も父様もその事を誇りにこの街を治めている。
「流石に隣国のものもあって、目新しいものもあるな。」
「この果物は、隣国の特産品だね。学園にいた時食べたくて買いに行ったら、値段が倍になっていて驚いたよ。」
「へぇ、ラファエルはこれが好きなのか。」
「好き嫌いでなく、暑くて食欲がない時に食べていたんだよ。栄養があるからこれだけでも食べろって。」
「へぇ。栄養があるのか。これくらいの値段なら、騎士隊に取り入れたいが、ここから輸送費やら経費入れると値段が倍になるのか。難しいな。」
「食べてみる?あっちに隣国の料理店があるよ。今時間なら、ティータイムでこれを使った甘味があるはずだから。」
「じゃあ、ラファエルのおすすめで頼むよ。」
料理店に案内して店に入る。奥のテーブルに案内され、お茶と甘味を頼んだ。
「店の雰囲気がなんか違うな。他国にいるみたいだ。」
「隣国で使われている家具だからかな?テーブルの縁を細かく花が彫ってあるでしょ。綺麗だよね。」
「百合かな?見事だな。」
「隣国の家具は、使い込むほど味が出てくるんだって。」
店の家具の話で盛り上がっていると、お茶と甘味が運ばれてきた。
甘味は果物のゼリーだった。
スプーンに掬い食べる。果物の酸味と苦味、砂糖の甘さが絶妙だった。
「甘くない果物か。こういうのは好きだな。」
「カルシオンは甘いの苦手だよね。ケーキが出てくると、僕にくれるもんね。」
「いつまでも口の中に甘いのが残ってな。最初の一口食べた時は美味しいとは思ったけど、二口目からはもったりした感じで、中々進まなくなる。ラファエルが甘いのが好きで助かったよ。」
「ゼリーは食べれそう?」
「ああ、酸味で甘さも後に引かないから食べられる。」
ゼリーを食べながら、また家具の話をした。結婚したら、隣国の家具のある部屋を作ろうかという話になった。
カルシオンが存外に気に入ってくれたのに、嬉しくなった。
お茶も飲み終えた頃、僕たちの後から入ってきて、店の入り口近くに座っていた客の声が聞こえてきた。
「だから相手は9歳歳上なんだって。結局はなんだかんだ言って、お金目当てでしょ?僕だったらそんなおじさんと結婚したくないもん。実家に帰らないって言った手前、お金なくておじさんと付き合って、お小遣いをもらっているんでしょ?僕だったら耐えられないよ。」
「でも相手が騎士なんでしょ?」
「30で結婚していない騎士だよ。何か欠陥があるんでしょ。それか、脳筋!脳筋過ぎて、誰にも相手にされなかったんだよ。多分顔もブサイクだよ?ブサイクなおじさんとしか付き合えないなんてかわいそう!キャハハッ!」
馴染みのある声が聞こえて、気分が下がる。そんな僕を見てカルシオンが『あれが例の?』と眼で聞いてきたので、僕は頷く。
「家に戻ろうか。」
と席を立ち、僕の手を引いてくれる。
ガブリエルの席近くまで行けば、カルシオンの端正な顔立ちが、ガブリエルとその友人の眼を惹いた。
ほぉっと2人が顔を赤らめるのがわかる。
しかし、すれ違い様にカルシオンが、
「30のブサイクなおじさんで悪かったな。」
と言った。
「「えっ!」」
カルシオンに『氷の騎士』様が降臨した!!僕といる時は全く見られない姿。人を虫けらのように見る冷たい眼。魔力に乗って漏れ出す冷気。『氷の騎士』を間近に見たのが、実はこれが初めてで、僕は胸がキュンキュンしちゃっている。
ガブリエルが、自ら不細工なおじさんと言い放った彼が手を引いているのが僕だと認識した途端、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ラ、ラファエルっ!」
僕は何の感情もない視線で、怒り狂って顔を真っ赤にしているガブリエルを見た後、
「カルシオン、帰ろうか。」
カルシオンに微笑みながら言った。
カルシオンも意図を理解したのか、僕に向けて微笑みながら、
「そうだね。」
とにっこり微笑み、会計をして店を出た。
帰り道、手を繋ぎ歩きながら、カルシオンの『氷の騎士』降臨には『胸がキュンキュンしたから、偶に僕にしてくれると嬉しいな♪』と伝えたら、『ラファエルにあんな冷たい態度はとれないよ』と、しょんぼりわんこで言われた。
----------
長くなったので、前後編に分けます。
後編は出来上がり次第の投稿です。
ーーーーーーーーーーー
「僕の実家ですか?」
「そう。婚約、結婚とするなら、まずお付き合いの報告をしに行った方がいいと思って。」
お付き合いして半年も過ぎ、『順調?』と言われたら『順調です』と答えられるくらいには、お互いに尊重しあい、愛し合っている。
僕はカルシオンに恋はしていないけど、愛している。
カルシオンの人柄を知っていくうちに好ましく思い、愛しだしていた。
捨てられたわんこを拾って、家族になっていくような感覚かな?
いないと寂しいし、一緒にいたら嬉しいし、キスをするのは友人との立ち位置が違っているし、もちろん誰かがカルシオンにキスをしたと想像するだけでモヤモヤする。でも、嫉妬とまではいかない。
色んな感情を合わせ持つようになったら、これがカルシオンに対しての愛なのだと気がついた。
ただ、この愛は間違いのような気がしてならなかった。カルシオンの恋愛としての愛と、僕の家族(ペット?)としての愛では、恋人としては不正解ではないかと。
カルシオンに話したら笑われた。でも、『恋愛よりも家族愛が育ったことが嬉しい』と言ってくれた。
『何故?』と聞けば、『恋人なら嫌いになったら簡単に別れられてしまうけど、家族になったなら、嫌いのところも含めて好きなんだから。ラファエルと私との想いの違いはあれど、愛情を育てたことに違いはない。ラファエルが私を家族として愛してくれるのなら、それも良し。いずれは本当の家族になりたいのだから、ね。』と答えてくれた。
カルシオンがこうして受け入れてくれるなら、それが正解なのだろう。
カルシオンも相変わらずで、僕のやろうとすることを先回りしてやろうとするが、流石に僕もいい大人なので、『ダメ人間製造機になるつもりですか?おじいちゃん、見守ることも愛情ですよ?』とこの前叱ってからは、今は見守るに徹している。
恋人時々おじいちゃん(ペット枠も有り)になるのが、カルシオンである。
「結婚ですか?カルシオンの歳では遅いくらいですもんね。でも、僕にはまだ早いような気がしているんですね。」
「早くはないだろう?貴族なら騎士や文官にならなければ、学園卒業後には結婚するだろう?」
「確かにそうですね。カルシオンは僕と結婚、したいんですか?」
「したいです!ラファエルと結婚したい!できたら、子供も欲しい!」
「…随分食い気味ですね。」
「ラファエルはきちんと正確に伝えないと、偽情報もすんなり正しい情報として受け取るから、他人があれこれいう前に、私の気持ちをきちんと伝えたほうがいいと思って。」
「まぁ、そうですね。……実家ですか?学園卒業後から帰ってませんね。」
「長期休みとかは?」
「図書館や買い物以外は、寮に引き篭もっていました。仲の良い友人もいませんでしたし。…王都にいないと言う意味です。少ないけど、友人くらいはいますよ。」
「……何も言っていないけど、友人情報をありがとう。今度の夏の長期休暇に実家に挨拶に行きませんか?」
「それは結婚を前提にお付き合いしているという挨拶ですよね。」
「そうです。」
「…なら、プロポーズが先ではありませんか?」
「はい。ラファエルからプロポーズのおねだりをして欲しかったので、回りくどい言い方をしました。」
カルシオンがトラウザーのポケットから小さな箱を出し、開けて中身を見せてくれる。
カルシオンの髪の色のプラチナの雫型をあしらった流れのある台座の中にカルシオンの瞳の色に似たエメラルドのネックレスが入っていた。
「ラファエル、愛しています。これから先の長い時間を私と一緒に過ごしてはいただけませんか?」
「っ、はい!僕もカルシオンを愛しています。不束者ですが、よろしくお願いします。」
「ありがとう、ラファエル。」
カルシオンは幸せいっぱいに微笑んで、箱からネックレスを取り出し、僕の首元にネックレスをつけてくれた。
「カルシオン、どうしましょう?!ものすごく嬉しいのに、涙が止まりません!」
「嬉し涙だね。ラファエルがそこまで喜んでくれて私も嬉しいよ。」
カルシオンが僕を抱きしめてきたので、カルシオンの胸元をじっとりと濡らすくらい泣いてしまった。
泣いている僕をあやすように、『嬉しく泣いているのが可愛い』とか『ラファエルが私のプロポーズを待っていてくれて嬉しい』とか泣き止んでも顔が見れないくらいに甘い言葉を聞き続けた。
気分が高揚したら、その雰囲気に飲まれて、カルシオンとはじめてを致してしまいました。
優しくしてくれたので、痛くはなかったです。
ただただカルシオンの手技に翻弄されるばかりでした。
それに騎士と文官の体力差は、やっぱり違うもので、事後は指一本動かすのにも怠い僕の代わりに、カルシオンが後始末をしてくれました。
経験の差がちょっと恨めしくもありましたが、高位貴族の閨教育の賜物としておきましょう。
長期休暇に実家に結婚したい人を連れて帰ると、父と兄には手紙を出しておきました。
父達からは祝福と了承の返事をもらいました。
そして今実家に来ております。
「父様、兄様。こちらが結婚したいとお話をしていたカルシオン=ベル様です。カルシオン、僕の父のサムエルと、兄のウリエルです。」
「カルシオン=ベルです。ラファエルとはお付き合いをさせていただき、お許しを得ることができましたなら、結婚をしたいと考えております。」
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。ラファエルの父のサムエル=ハスイークです。ラファエルはもう成人もしていますし、結婚については、この子の一存に任せてあります。私の許しがなくても、よろしいんですよ。」
「兄のウリエルです。末っ子ですがしっかりと自分の考えを持っている子なので、ラファエルの将来については、私達から何か言うことはございません。」
父と兄の言葉に驚いたカルシオンは僕を見る。
「父様、兄様。僕はそれでも、カルシオンを2人に紹介したかったのです。カルシオンもごめんなさい。騙したような形になって。でも、カルシオンが挨拶に行こうと言ってくれたのが嬉しかったですし、僕は実家に帰る決心ができました。」
「そうか、ベル様から帰ろうと言って貰えたからか。ベル様、ラファエルのもう一人の兄ガブリエルとラファエルの間にちょっといざこざがあり、ラファエルはガブリエルがこの家にいる内は戻らないと決めていたのです。だから、こんなに早く戻って来たことが嬉しくて。」
「私も話だけは聞いております。ラファエルとこれから共に生きていくなら、きちんとご挨拶はするべきと思い、無理を言いました。」
「ところで、そのガブリエルと母様は?」
「お茶会に行った。ガブリエルのお相手探しに。」
「まだ見つからないの?」
「難しいだろう。弟の恋人を盗った兄なんて、娯楽の少ない田舎ではいつまでも噂にあがるんだから。」
「自業自得だ。美人なのを鼻にかけて、ラファエルを小馬鹿にしていたんだから。人は顔でないと何遍も言っているのに。」
「母様もそんなところあるよね。」
「すまんなぁ。ラファエルは私に似たから、迷惑かけたなぁ。」
ウリエルとガブリエルは母、ラファエルは父の外見を受け継いだ。子爵家出身の母の金髪、碧眼はいかにも貴族らしい色味であった。男爵になってまだ3代目の父は茶髪、茶色の眼で、平民に混じっても違和感はなかった。
「迷惑だなんて。割に僕は気に入っているんだよ。すぐに周りに溶け込めることができて。仕事にも役立つし。」
「ラファエルは相変わらず前向きに捉えてくれて父様は嬉しいよ。晩餐まで時間があるから、2人で散歩しておいで。」
と、カルシオンと領都の街を歩くことにした。
「馬車の長旅だったのに、ゆっくりできなくてごめんね。父様達、男爵家が高位貴族と話す機会なんてそうそうないから、めちゃくちゃ緊張していたみたい。気持ちを落ち着けるために一旦屋敷から離したのかも。」
「私は鍛えているから大丈夫だよ。ラファエルが疲れていないなら、街を案内してほしい。しかし優しそうな父上と兄上で良かったよ。『嫁にやらん!』って言われたらどうしようかとそればかり考えていたよ。」
「大丈夫って言ったのに。…でも、不安になるほど、僕との結婚を望んでくれてありがとう。凄く嬉しい。」
王都に比べれば、公爵領の中のものすごく小さな街。だけど、隣国と繋がる道の中継地点にもなる街だから、割に重要な街なのだ。
初代の男爵が当時の公爵から信頼され、任された街。だから祖父様も父様もその事を誇りにこの街を治めている。
「流石に隣国のものもあって、目新しいものもあるな。」
「この果物は、隣国の特産品だね。学園にいた時食べたくて買いに行ったら、値段が倍になっていて驚いたよ。」
「へぇ、ラファエルはこれが好きなのか。」
「好き嫌いでなく、暑くて食欲がない時に食べていたんだよ。栄養があるからこれだけでも食べろって。」
「へぇ。栄養があるのか。これくらいの値段なら、騎士隊に取り入れたいが、ここから輸送費やら経費入れると値段が倍になるのか。難しいな。」
「食べてみる?あっちに隣国の料理店があるよ。今時間なら、ティータイムでこれを使った甘味があるはずだから。」
「じゃあ、ラファエルのおすすめで頼むよ。」
料理店に案内して店に入る。奥のテーブルに案内され、お茶と甘味を頼んだ。
「店の雰囲気がなんか違うな。他国にいるみたいだ。」
「隣国で使われている家具だからかな?テーブルの縁を細かく花が彫ってあるでしょ。綺麗だよね。」
「百合かな?見事だな。」
「隣国の家具は、使い込むほど味が出てくるんだって。」
店の家具の話で盛り上がっていると、お茶と甘味が運ばれてきた。
甘味は果物のゼリーだった。
スプーンに掬い食べる。果物の酸味と苦味、砂糖の甘さが絶妙だった。
「甘くない果物か。こういうのは好きだな。」
「カルシオンは甘いの苦手だよね。ケーキが出てくると、僕にくれるもんね。」
「いつまでも口の中に甘いのが残ってな。最初の一口食べた時は美味しいとは思ったけど、二口目からはもったりした感じで、中々進まなくなる。ラファエルが甘いのが好きで助かったよ。」
「ゼリーは食べれそう?」
「ああ、酸味で甘さも後に引かないから食べられる。」
ゼリーを食べながら、また家具の話をした。結婚したら、隣国の家具のある部屋を作ろうかという話になった。
カルシオンが存外に気に入ってくれたのに、嬉しくなった。
お茶も飲み終えた頃、僕たちの後から入ってきて、店の入り口近くに座っていた客の声が聞こえてきた。
「だから相手は9歳歳上なんだって。結局はなんだかんだ言って、お金目当てでしょ?僕だったらそんなおじさんと結婚したくないもん。実家に帰らないって言った手前、お金なくておじさんと付き合って、お小遣いをもらっているんでしょ?僕だったら耐えられないよ。」
「でも相手が騎士なんでしょ?」
「30で結婚していない騎士だよ。何か欠陥があるんでしょ。それか、脳筋!脳筋過ぎて、誰にも相手にされなかったんだよ。多分顔もブサイクだよ?ブサイクなおじさんとしか付き合えないなんてかわいそう!キャハハッ!」
馴染みのある声が聞こえて、気分が下がる。そんな僕を見てカルシオンが『あれが例の?』と眼で聞いてきたので、僕は頷く。
「家に戻ろうか。」
と席を立ち、僕の手を引いてくれる。
ガブリエルの席近くまで行けば、カルシオンの端正な顔立ちが、ガブリエルとその友人の眼を惹いた。
ほぉっと2人が顔を赤らめるのがわかる。
しかし、すれ違い様にカルシオンが、
「30のブサイクなおじさんで悪かったな。」
と言った。
「「えっ!」」
カルシオンに『氷の騎士』様が降臨した!!僕といる時は全く見られない姿。人を虫けらのように見る冷たい眼。魔力に乗って漏れ出す冷気。『氷の騎士』を間近に見たのが、実はこれが初めてで、僕は胸がキュンキュンしちゃっている。
ガブリエルが、自ら不細工なおじさんと言い放った彼が手を引いているのが僕だと認識した途端、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「ラ、ラファエルっ!」
僕は何の感情もない視線で、怒り狂って顔を真っ赤にしているガブリエルを見た後、
「カルシオン、帰ろうか。」
カルシオンに微笑みながら言った。
カルシオンも意図を理解したのか、僕に向けて微笑みながら、
「そうだね。」
とにっこり微笑み、会計をして店を出た。
帰り道、手を繋ぎ歩きながら、カルシオンの『氷の騎士』降臨には『胸がキュンキュンしたから、偶に僕にしてくれると嬉しいな♪』と伝えたら、『ラファエルにあんな冷たい態度はとれないよ』と、しょんぼりわんこで言われた。
----------
長くなったので、前後編に分けます。
後編は出来上がり次第の投稿です。
475
あなたにおすすめの小説
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
王太子殿下は悪役令息のいいなり
一寸光陰
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
恋が始まる日
一ノ瀬麻紀
BL
幼い頃から決められていた結婚だから仕方がないけど、夫は僕のことを好きなのだろうか……。
だから僕は夫に「僕のどんな所が好き?」って聞いてみたくなったんだ。
オメガバースです。
アルファ×オメガの歳の差夫夫のお話。
ツイノベで書いたお話を少し直して載せました。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた
胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。
失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……?
「俺たち付き合ってたないだろ」
「……本気で言ってるのか?」
不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け
※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる