恋に落ち、愛を育てる

ゆい

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番外編 前編

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自己供給が足りなかったので、追加で。



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「僕の実家ですか?」

「そう。婚約、結婚とするなら、まずお付き合いの報告をしに行った方がいいと思って。」

お付き合いして半年も過ぎ、『順調?』と言われたら『順調です』と答えられるくらいには、お互いに尊重しあい、愛し合っている。
僕はカルシオンに恋はしていないけど、愛している。
カルシオンの人柄を知っていくうちに好ましく思い、愛しだしていた。
捨てられたわんこを拾って、家族になっていくような感覚かな?
いないと寂しいし、一緒にいたら嬉しいし、キスをするのは友人との立ち位置が違っているし、もちろん誰かがカルシオンにキスをしたと想像するだけでモヤモヤする。でも、嫉妬とまではいかない。
色んな感情を合わせ持つようになったら、これがカルシオンに対しての愛なのだと気がついた。
ただ、この愛は間違いのような気がしてならなかった。カルシオンの恋愛としての愛と、僕の家族(ペット?)としての愛では、恋人としては不正解ではないかと。

カルシオンに話したら笑われた。でも、『恋愛よりも家族愛が育ったことが嬉しい』と言ってくれた。
『何故?』と聞けば、『恋人なら嫌いになったら簡単に別れられてしまうけど、家族になったなら、嫌いのところも含めて好きなんだから。ラファエルと私との想いの違いはあれど、愛情を育てたことに違いはない。ラファエルが私を家族として愛してくれるのなら、それも良し。いずれは本当の家族になりたいのだから、ね。』と答えてくれた。
カルシオンがこうして受け入れてくれるなら、それが正解なのだろう。

カルシオンも相変わらずで、僕のやろうとすることを先回りしてやろうとするが、流石に僕もいい大人なので、『ダメ人間製造機になるつもりですか?おじいちゃん、見守ることも愛情ですよ?』とこの前叱ってからは、今は見守るに徹している。
恋人時々おじいちゃん(ペット枠も有り)になるのが、カルシオンである。


「結婚ですか?カルシオンの歳では遅いくらいですもんね。でも、僕にはまだ早いような気がしているんですね。」

「早くはないだろう?貴族なら騎士や文官にならなければ、学園卒業後には結婚するだろう?」

「確かにそうですね。カルシオンは僕と結婚、したいんですか?」

「したいです!ラファエルと結婚したい!できたら、子供も欲しい!」

「…随分食い気味ですね。」

「ラファエルはきちんと正確に伝えないと、偽情報もすんなり正しい情報として受け取るから、他人があれこれいう前に、私の気持ちをきちんと伝えたほうがいいと思って。」

「まぁ、そうですね。……実家ですか?学園卒業後から帰ってませんね。」

「長期休みとかは?」

「図書館や買い物以外は、寮に引き篭もっていました。仲の良い友人もいませんでしたし。…王都にいないと言う意味です。少ないけど、友人くらいはいますよ。」

「……何も言っていないけど、友人情報をありがとう。今度の夏の長期休暇に実家に挨拶に行きませんか?」

「それは結婚を前提にお付き合いしているという挨拶ですよね。」

「そうです。」

「…なら、プロポーズが先ではありませんか?」

「はい。ラファエルからプロポーズのおねだりをして欲しかったので、回りくどい言い方をしました。」

カルシオンがトラウザーのポケットから小さな箱を出し、開けて中身を見せてくれる。
カルシオンの髪の色のプラチナの雫型をあしらった流れのある台座の中にカルシオンの瞳の色に似たエメラルドのネックレスが入っていた。

「ラファエル、愛しています。これから先の長い時間を私と一緒に過ごしてはいただけませんか?」

「っ、はい!僕もカルシオンを愛しています。不束者ですが、よろしくお願いします。」

「ありがとう、ラファエル。」

カルシオンは幸せいっぱいに微笑んで、箱からネックレスを取り出し、僕の首元にネックレスをつけてくれた。

「カルシオン、どうしましょう?!ものすごく嬉しいのに、涙が止まりません!」

「嬉し涙だね。ラファエルがそこまで喜んでくれて私も嬉しいよ。」

カルシオンが僕を抱きしめてきたので、カルシオンの胸元をじっとりと濡らすくらい泣いてしまった。
泣いている僕をあやすように、『嬉しく泣いているのが可愛い』とか『ラファエルが私のプロポーズを待っていてくれて嬉しい』とか泣き止んでも顔が見れないくらいに甘い言葉を聞き続けた。
気分が高揚したら、その雰囲気に飲まれて、カルシオンとはじめてを致してしまいました。
優しくしてくれたので、痛くはなかったです。
ただただカルシオンの手技に翻弄されるばかりでした。
それに騎士と文官の体力差は、やっぱり違うもので、事後は指一本動かすのにも怠い僕の代わりに、カルシオンが後始末をしてくれました。
経験の差がちょっと恨めしくもありましたが、高位貴族の閨教育の賜物としておきましょう。





長期休暇に実家に結婚したい人を連れて帰ると、父と兄には手紙を出しておきました。
父達からは祝福と了承の返事をもらいました。
そして今実家に来ております。


「父様、兄様。こちらが結婚したいとお話をしていたカルシオン=ベル様です。カルシオン、僕の父のサムエルと、兄のウリエルです。」

「カルシオン=ベルです。ラファエルとはお付き合いをさせていただき、お許しを得ることができましたなら、結婚をしたいと考えております。」

「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。ラファエルの父のサムエル=ハスイークです。ラファエルはもう成人もしていますし、結婚については、この子の一存に任せてあります。私の許しがなくても、よろしいんですよ。」

「兄のウリエルです。末っ子ですがしっかりと自分の考えを持っている子なので、ラファエルの将来については、私達から何か言うことはございません。」

父と兄の言葉に驚いたカルシオンは僕を見る。

「父様、兄様。僕はそれでも、カルシオンを2人に紹介したかったのです。カルシオンもごめんなさい。騙したような形になって。でも、カルシオンが挨拶に行こうと言ってくれたのが嬉しかったですし、僕は実家に帰る決心ができました。」

「そうか、ベル様から帰ろうと言って貰えたからか。ベル様、ラファエルのもう一人の兄ガブリエルとラファエルの間にちょっといざこざがあり、ラファエルはガブリエルがこの家にいる内は戻らないと決めていたのです。だから、こんなに早く戻って来たことが嬉しくて。」

「私も話だけは聞いております。ラファエルとこれから共に生きていくなら、きちんとご挨拶はするべきと思い、無理を言いました。」

「ところで、そのガブリエルと母様は?」

「お茶会に行った。ガブリエルのお相手探しに。」

「まだ見つからないの?」

「難しいだろう。弟の恋人を盗った兄なんて、娯楽の少ない田舎ではいつまでも噂にあがるんだから。」

「自業自得だ。美人なのを鼻にかけて、ラファエルを小馬鹿にしていたんだから。人は顔でないと何遍も言っているのに。」

「母様もそんなところあるよね。」

「すまんなぁ。ラファエルは私に似たから、迷惑かけたなぁ。」

ウリエルとガブリエルは母、ラファエルは父の外見を受け継いだ。子爵家出身の母の金髪、碧眼はいかにも貴族らしい色味であった。男爵になってまだ3代目の父は茶髪、茶色の眼で、平民に混じっても違和感はなかった。

「迷惑だなんて。割に僕は気に入っているんだよ。すぐに周りに溶け込めることができて。仕事にも役立つし。」

「ラファエルは相変わらず前向きに捉えてくれて父様は嬉しいよ。晩餐まで時間があるから、2人で散歩しておいで。」

と、カルシオンと領都の街を歩くことにした。


「馬車の長旅だったのに、ゆっくりできなくてごめんね。父様達、男爵家が高位貴族と話す機会なんてそうそうないから、めちゃくちゃ緊張していたみたい。気持ちを落ち着けるために一旦屋敷から離したのかも。」

「私は鍛えているから大丈夫だよ。ラファエルが疲れていないなら、街を案内してほしい。しかし優しそうな父上と兄上で良かったよ。『嫁にやらん!』って言われたらどうしようかとそればかり考えていたよ。」

「大丈夫って言ったのに。…でも、不安になるほど、僕との結婚を望んでくれてありがとう。凄く嬉しい。」

王都に比べれば、公爵領の中のものすごく小さな街。だけど、隣国と繋がる道の中継地点にもなる街だから、割に重要な街なのだ。
初代の男爵が当時の公爵から信頼され、任された街。だから祖父様も父様もその事を誇りにこの街を治めている。

「流石に隣国のものもあって、目新しいものもあるな。」

「この果物は、隣国の特産品だね。学園にいた時食べたくて買いに行ったら、値段が倍になっていて驚いたよ。」

「へぇ、ラファエルはこれが好きなのか。」

「好き嫌いでなく、暑くて食欲がない時に食べていたんだよ。栄養があるからこれだけでも食べろって。」

「へぇ。栄養があるのか。これくらいの値段なら、騎士隊に取り入れたいが、ここから輸送費やら経費入れると値段が倍になるのか。難しいな。」

「食べてみる?あっちに隣国の料理店があるよ。今時間なら、ティータイムでこれを使った甘味があるはずだから。」

「じゃあ、ラファエルのおすすめで頼むよ。」

料理店に案内して店に入る。奥のテーブルに案内され、お茶と甘味を頼んだ。

「店の雰囲気がなんか違うな。他国にいるみたいだ。」

「隣国で使われている家具だからかな?テーブルの縁を細かく花が彫ってあるでしょ。綺麗だよね。」

「百合かな?見事だな。」

「隣国の家具は、使い込むほど味が出てくるんだって。」

店の家具の話で盛り上がっていると、お茶と甘味が運ばれてきた。
甘味は果物のゼリーだった。
スプーンに掬い食べる。果物の酸味と苦味、砂糖の甘さが絶妙だった。

「甘くない果物か。こういうのは好きだな。」

「カルシオンは甘いの苦手だよね。ケーキが出てくると、僕にくれるもんね。」

「いつまでも口の中に甘いのが残ってな。最初の一口食べた時は美味しいとは思ったけど、二口目からはもったりした感じで、中々進まなくなる。ラファエルが甘いのが好きで助かったよ。」

「ゼリーは食べれそう?」

「ああ、酸味で甘さも後に引かないから食べられる。」

ゼリーを食べながら、また家具の話をした。結婚したら、隣国の家具のある部屋を作ろうかという話になった。
カルシオンが存外に気に入ってくれたのに、嬉しくなった。
お茶も飲み終えた頃、僕たちの後から入ってきて、店の入り口近くに座っていた客の声が聞こえてきた。

「だから相手は9歳歳上なんだって。結局はなんだかんだ言って、お金目当てでしょ?僕だったらそんなおじさんと結婚したくないもん。実家に帰らないって言った手前、お金なくておじさんと付き合って、お小遣いをもらっているんでしょ?僕だったら耐えられないよ。」

「でも相手が騎士なんでしょ?」

「30で結婚していない騎士だよ。何か欠陥があるんでしょ。それか、脳筋!脳筋過ぎて、誰にも相手にされなかったんだよ。多分顔もブサイクだよ?ブサイクなおじさんとしか付き合えないなんてかわいそう!キャハハッ!」

馴染みのある声が聞こえて、気分が下がる。そんな僕を見てカルシオンが『あれが例の?』と眼で聞いてきたので、僕は頷く。

「家に戻ろうか。」

と席を立ち、僕の手を引いてくれる。
ガブリエルの席近くまで行けば、カルシオンの端正な顔立ちが、ガブリエルとその友人の眼を惹いた。
ほぉっと2人が顔を赤らめるのがわかる。
しかし、すれ違い様にカルシオンが、

「30のブサイクなおじさんで悪かったな。」

と言った。

「「えっ!」」

カルシオンに『氷の騎士』様が降臨した!!僕といる時は全く見られない姿。人を虫けらのように見る冷たい眼。魔力に乗って漏れ出す冷気。『氷の騎士』を間近に見たのが、実はこれが初めてで、僕は胸がキュンキュンしちゃっている。
ガブリエルが、自ら不細工なおじさんと言い放った彼が手を引いているのが僕だと認識した途端、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「ラ、ラファエルっ!」

僕は何の感情もない視線で、怒り狂って顔を真っ赤にしているガブリエルを見た後、

「カルシオン、帰ろうか。」

カルシオンに微笑みながら言った。
カルシオンも意図を理解したのか、僕に向けて微笑みながら、

「そうだね。」

とにっこり微笑み、会計をして店を出た。
帰り道、手を繋ぎ歩きながら、カルシオンの『氷の騎士』降臨には『胸がキュンキュンしたから、偶に僕にしてくれると嬉しいな♪』と伝えたら、『ラファエルにあんな冷たい態度はとれないよ』と、しょんぼりわんこで言われた。







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長くなったので、前後編に分けます。
後編は出来上がり次第の投稿です。




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