勇者と聖女の年の差は100歳です

チカフジ ユキ

文字の大きさ
5 / 6

5捕獲された聖女

しおりを挟む
「ぐえ!」

 あまりの力に変な声が出た。
 シャーリーを拘束できるものなど、この世にはほとんどいない。それほどの力をシャーリーは有しているのに、暴れても身体にまとわりつく腕は全く揺らがない。

「だ、誰!?」

 暗がりの上、背後から抱きしめるように拘束されているので、顔が見えない。
 シャーリーの問いかけに、ますます身体を拘束された。

 しかし、そろそろシャーリーは限界だった。
 苦しい程の拘束は、次第にシャーリーの意識を刈り取っていく。

 こ、こんな事――……

 意識は暗転し、シャーリーはぐったりと身体から力が抜けた。



「知らない天井だ……」

 などとお決まりのセリフを口にして、シャーリーは飛び起きた。

「こ、ここどこよ!? お、思い出せ、自分! わたしは聖女。そしてここはどこ?」

 おかしなことを繰り返しているシャーリーは混乱していた。
 しかし、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「た、確か、昨日神殿を抜け出そうとして、その瞬間、拘束されたんだよね?」

 神殿付きの神官ではない。それは絶対に言える。
 それなら、シャーリーは簡単に拘束を解けたはずだ。

「それなら――……」

 聖女の中でも力があるシャーリー。
 それを簡単に拘束できる相手……。

 考えても一人しか思い浮かばなかった。

「ルイ……」
「呼んだ、シャーリー?」

 ひょっこり現れたルイが、悪びれもなく笑っていた。しかし、目は笑っていない。
 シャーリーはベッドの上で座り込んで、ルイを睨んだ。

「これ、どういうつもり?」

 首からじゃらりと繋がれているのは鎖。
 しかもただの鎖じゃない。
 魔の力が込められていて、シャーリーの聖の力を吸い取っていた。
 身体は動くが、上手く聖の力が扱えない。

「うん、ごめん。でも、こうでもしないとシャーリーは逃げそうな気がして」
「はぁ?」

 さっぱり理解できないシャーリーは訝し気な声を上げる。

「俺、すごい頑張ったんだ。シャーリーに褒めてほしくて、すごいって言ってほしくてさ」

 ギシリとベッドに座ってシャーリーの方に身を乗り出す。
 そっとシャーリーの頬に触れるルイは、まるで知らない男性のようだった。

「うん、それはわたしも分かってる。あんたはすごい頑張ったよ、世界を救った勇者だし。わたしだってちゃんと顔見て偉い、わたしが育てた勇者だぞって言いふらしたかった」

 それは本当だ。
 魔王を倒しに行くときも、声をかけたかった。
 帰ってきたときは一番初めに会いに行きたかった。どんな旅をしたのか、怪我はしなかったのか。

 無能な聖女との結婚は本当か、とか――……。

 色々聞きたいことはあった。

「じゃあ、どうして来てくれなかったの? 俺、期待して着飾って勲章も受け取ったのに、シャーリーは来たくないって言われたんだよ」
「……あ、理解した」

 ルイの言葉で、シャーリーは事態を把握した。
 シャーリーもいじけていた。育てた勇者が帰ってきたのに、夜会にさえ呼ばれなかったことを。 
 だから抜け出そうとしたわけだが、ルイの意思じゃなかったのを確認できて、シャーリーが邪魔だと思った聖女か、上層部のしわざだと気づいた。

 腹の底から怒りが湧いてきた。

 そんなシャーリーの怒り心頭な顔を見ていたルイも、誤解していたことを理解したようだ。

「そっか……ごめん、シャーリー。俺がちゃんと言わなかったから。自分で言えばよかった」
「そうね、どうして言ってくれなかったの」
「いや……だってさ、恥ずかしくて」

 そういえば、目の前の青年ルイはまだ二十。
 育てた母親のような存在に、自分が勲章を受け取る瞬間とか見に来て、というのは言いにくいかもしれない。
 マザコンみたいに見えちゃうし。

「分かった、なんとなくね。ごめん、わたしも直接言えばよかった」

 ルイのいる場所は知っていた。
 会いに行こうと思えば、会いに行けたが、シャーリーもルイの迷惑になるんじゃないと思って会いに行けなかった。

 忙しいというのは、ある意味口実だった。
 シャーリーはにっこり笑って腕を広げた。

「ルイ、あんたはすごいよ。よく頑張った! 抱きしめてあげよう!」

 子供にどう接するのがいいか、シャーリーは育児書を読んだ。
 その中に親子としての触れ合いがいいとあった。

 そのため、教えたことを上手くできれば抱きしめて褒めて、怒るときも拘束して叱ってやった。
 後者はちょっと違うか。

 はじめは暴れていたルイも、そのうち諦めて大人しくなった。
 慣れてきたのか、次第に受け入れるようになって、自分からもシャーリーを抱きしめるようになったのはいい思い出だ。

 ルイの身体が成長するにしたがって、さすがに止めたが、ちょっとだけ寂しそうな顔をしていたのは覚えている。

 だから、今の言葉は何の他意もない。
 ただ母親としての言葉だった。
 ルイが嬉しそうにシャーリーを抱きしめてきて、シャーリーも力の限り抱きしめてやった。

「シャーリー」
「ルイ……本当に大きくなったね。よく頑張った……、怪我はなかった? 危ないと思ったらちゃんと逃げた?」
「心配しすぎ」

 抱きしめると分かる。
 身体に腕を回しても、余らせていたのが懐かしい。

 温かい体温と、静かな鼓動を感じていると、しだいにルイの重みが増し、ん? と思う間もなく柔らかいベッドの上に倒されていた。
 ルイの顔が前面に来て、天井がその後ろに少しだけ見えた。

「…………何? この態勢」
「ん? このままシャーリー食べておこうかなって」

 食べるとは? 

「今回はちょっとしたすれ違いというか、勘違いなだけだったけど、シャーリーが俺の事知ったら本格的に逃げ出しそう――いや、敵対しそう? な気がして」

 色々と不穏な言葉が飛び出してきた。

「俺さ、シャーリーの事が好きなんだ。結婚したいと考えるくらいに……でもさ、今のままだったら、絶対シャーリーは俺を受け入れないって分かってた。年の差百って字面的にもやばいし。それに、シャーリーは俺を男として見てないって知ってた」
「ちょっと、ルイ? 何言って――……」

 突然の告白に混乱するシャーリーを置いてけぼりにし、ルイはさらに言った。

「シャーリー。勇者ってさ、魔王倒したら力がなくなって、普通の人間に戻るよな」

 こくりと頷くシャーリー。
 その通り。
 余計な破壊の力はいらないとでも言うように、魔王の存在が消えたら、力が次第に消えていき、人の理の中に戻る。
 つまり、勇者でいる間は聖女と同じように人の理から離れるが、勇者でなくなった瞬間に人に戻るのだ。

「だから、シャーリーとずっと一緒に生きていく術を探していた。年の差百歳なんて関係が無くなるくらい長く生きられる方法を。そんな時、魔王の本体である核を見てひらめいた。コレを食べたら、自分の力にできるんじゃないかって。人の理から外れた存在になれるんじゃないかって」

 うん? 食べた? 魔王の核を……?
 いや、そもそもなぜそんな発想に?

「どんな食べ物にも、人の身体に影響を与える。だから、魔王の核を食べたら、その力を取り込むことができるんじゃないかって思って」
「魔王の核は食べ物じゃ、ないんじゃないかな……」

 あまりにも突飛な説明に、どうでもいい事をシャーリーは呟く。
 完全に呆然としていた。
 ルイはそんなシャーリーを眺めながら続けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

デブサイクと言われる内気な旦那様ですが、中身は素敵な方なので見た目も改造しちゃいましょう!

下菊みこと
恋愛
優しい旦那様を幸せにしたい妻のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~

Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが… ※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。 ※設定はふんわり、ご都合主義です 小説家になろう様でも掲載しています

【完結】婚約破棄されるはずが、婚約破棄してしまいました

チンアナゴ🐬
恋愛
「お前みたいなビッチとは結婚できない!!お前とは婚約を破棄する!!」 私の婚約者であるマドラー・アドリード様は、両家の家族全員が集まった部屋でそう叫びました。自分の横に令嬢を従えて。

王宮図書館の司書は、第二王子のお気に入りです

碧井 汐桜香
恋愛
格上であるサーベンディリアンヌ公爵家とその令嬢ファメリアについて、蔑んで語るファメリアの婚約者ナッツル・キリグランド伯爵令息。 いつものように友人たちに嘆いていると、第二王子であるメルフラッツォがその会話に混ざってきた。

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

愛しい王子様、どうか私を愛してください。

黒蜜きな粉
恋愛
長く続いていた人間と魔族の戦争が終わった。 二種族の和平の象徴として、魔族の王子と結婚することになった人間のラティファ。 敵対していた魔族のもとへ嫁ぐにあたり、ラティファは最悪の事態になることも覚悟していた。 しかし、実際に夫となる魔族の王子と会うと、ラティファは肩透かしを食らってしまう。 「君に愛されるように努力する」 敵国の王子はラティファにそう宣言をして、ひたすら優しく接してくれる。 最初こそ油断させるためなのではと疑っていたが、ラティファがほだされるのに時間はかからなかった。 単身敵国に嫁いできた人間のラティファをよく思わない者たちからの嫌がらせを受けながら、優しい魔族の夫と共に争いのない平和な時代を作っていこうと心に決める。 彼に心から愛されたいと願いながら。 ※他サイトの短編コンテスト用に書いたお話です。

どーして、こうなった?

はるきりょう
恋愛
「僕にそんなはっきり言ってくれたのは、君が初めてだよ」  効果音をつけるなら『キラキラ』だろうか。シオンを見る視線のその先には、ルイーズが悔しそうにこちらを見ている。面倒事はごめんだった。 「いえ、あの、王子に言ったわけではなくて、ですね。感想を述べただけ、とでも言いますか…」 「でも、僕のしたことにそういう風な判断をしてくれる人って本当に珍しいんだよ」  なんだ、これ。王子様って、暴言に飢えてるの?、なんて、言葉にしたかったが、したら問題だし、これ以上懐かれても困るので、アリアは開きそうになる口を懸命に堪えた。 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。

処理中です...