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本編
57 愛情を示さなくても(国王視点)
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「わたくしとリズの間は絶対に修復不可能ですが、陛下なら大丈夫です。それだけの想いがあるのなら、あの子達に示すべきですわ」
「なぜ、そんな事を言う? 俺とあの子達の間がどうなろうと、お前は何とも思わないだろう?」
「リズが心の奥底では、父親の愛を求めているからですわ。そして、リズに自覚はないでしょうが、異母弟の事も大切に想っている。だから、リズだけでなくアルバートにも、その想いを示してください」
息子として育てたアルバートの事はどうでもいいが、実の娘のために妾妃は言ったのだ。
「俺も修復不可能だよ」
今更、親子関係など修復できないし、万が一できたとしても無意味だ。
俺は父親である事よりも国王である事を優先するのだから――。
「……不器用ですわね。お顔だけでなく、そんな所まで、あの子達にそっくりですわ」
妾妃は呆れたような視線を俺に向けた。
「父親が愛情を示さなくても、リズもアルバートも大丈夫だ」
リズとアルバートは気づいていないようだが、あの子達を慕う人間は多いのだ。
俺と王妃と妾妃は、親としても人としても問題は多大にあるけれど、あの子達はまともに育ってくれた。
結局は子供の資質なのだろう。
……親として人もとしても、まともなヴォーデン辺境伯とローリゲン男爵だが、あの二人の子供は馬鹿で愚かなのだから。
妊娠発言と婚約破棄宣言したリズを妾妃が引きずって大広間から退場した後、俺とアーサーはエドワードを国王の執務室に連行した。馬鹿に処分を言い渡すためだ。
リズとアーサーの婚約は続行するとしても、王女が公式の場で妊娠発言と婚約破棄宣言したのだ。一応、当事者の馬鹿にも何らかの処分は下さなければならない。
てっきり王女と結婚できると思い込んでいたらしい馬鹿は、戒律の厳しい修道院に送られ、二度と社交界に戻れないと聞き、最初信じられないという顔になった。挙句、リズが言い寄って来たのだの何だの、聞き捨てならない事をほざき始めたので、アーサーにはだいぶ劣るとはいえ、この馬鹿の唯一の取り柄のお綺麗な顔を思い切りぶん殴ってやった。
情けない事に、俺の一撃で馬鹿は、あっさり気絶した。
「ずるいですよ、陛下。ヴォーデン辺境伯が亡き奥方に似たこいつの顔を気に入っているから、顔だけは殴るなと私には言ったくせに」
アーサーからは、だいぶ恨みがましい視線をもらってしまったが、仕方ない。この馬鹿のせいで、アーサーのストレスも相当溜まっていたのだ。
リズが誕生日に婚約破棄宣言するのは分かっていたので(さすがに妊娠発言までするとは予想できなかった)事前にアーサーと打ち合わせをしていたのだ。その際に、馬鹿を修道院にぶち込む前に、思い切り憂さを晴らせとは言っておいた。
リズが何をしてもアーサーとの婚約は破棄できないのだと思い知らせるためだと、リズの「恋人」になった馬鹿を「始末」しようとしているアーサーを必死に止めたのだ。
……俺も、お陰でストレスを溜め込んでいたので、つい、いらん事をほざいたこの馬鹿をぶん殴ってしまった。ヴォーデン辺境伯に免じて顔だけはやめてやろうと思っていたのに、俺の娘を侮辱したこの馬鹿が悪い。
「いいんだよ。俺はリズの父親だから。娘が侮辱されて殴らない父親はいないだろう?」
「……父親ですか?」
アーサーからは呆れたような視線をもらってしまった。
いくら心の中で我が子達を慈しんでいても、態度で示さなければ伝わるはずもない。
それでも、リズ以外の人間には無関心のくせに、誰よりも優れた観察眼を持つアーサーは気づいているのだ。俺が我が子達を父親として慈しんでいる事を。
「陛下が何を思ってリズに対して無関心な態度を心掛けているにしろ、ずっとそのままでいてくださいね」
アーサーは妾妃と違い「リズに父親としての愛情を示せ」とは言わなかった。
言うはずがない。
愛情であれ憎悪であれ、愛する女の心を占める人間が自分以外にいるなど許さない。
そういう人間だ。アーサー・ペンドーンは。
アーサーが妾妃を嫌う最大の理由は、同族嫌悪ではない。
妾妃の存在がリズの心に深く食い込んでいるからだ。
無理もない。
赤ん坊だった自分を復讐の道具に使ったというだけで充分嫌悪や憎しみの対象になるが、何より、妾妃はリズを産んだ母親だ。
だから、リズは、どれだけ妾妃を忌々しく思っていても無視できず、父親と違って、まともな倫理観を持つ故に彼女を殺せない。
代わりに、アーサーが殺そうと思っても有能な妾妃は将来女王となるリズや王配となる彼にとって必要な人間になる。何より、彼女もリズを誰よりも大切に想っている。
いくらアーサーが「お前、本当に人間か!?」と疑われるような為人をしていようと人間である事に違いはないのだ。女王となるリズは常に命を狙われる存在だ。そんなリズを完璧に守り通すのは、いくらアーサーでも難しい。時には、リズを誰かに託さなければならないだろう。
妾妃なら命に代えても彼女を守る。どれだけ妾妃を忌々しく思っていても、リズを守るという一点においては、アーサーも妾妃を信頼しているのだ。
「なぜ、そんな事を言う? 俺とあの子達の間がどうなろうと、お前は何とも思わないだろう?」
「リズが心の奥底では、父親の愛を求めているからですわ。そして、リズに自覚はないでしょうが、異母弟の事も大切に想っている。だから、リズだけでなくアルバートにも、その想いを示してください」
息子として育てたアルバートの事はどうでもいいが、実の娘のために妾妃は言ったのだ。
「俺も修復不可能だよ」
今更、親子関係など修復できないし、万が一できたとしても無意味だ。
俺は父親である事よりも国王である事を優先するのだから――。
「……不器用ですわね。お顔だけでなく、そんな所まで、あの子達にそっくりですわ」
妾妃は呆れたような視線を俺に向けた。
「父親が愛情を示さなくても、リズもアルバートも大丈夫だ」
リズとアルバートは気づいていないようだが、あの子達を慕う人間は多いのだ。
俺と王妃と妾妃は、親としても人としても問題は多大にあるけれど、あの子達はまともに育ってくれた。
結局は子供の資質なのだろう。
……親として人もとしても、まともなヴォーデン辺境伯とローリゲン男爵だが、あの二人の子供は馬鹿で愚かなのだから。
妊娠発言と婚約破棄宣言したリズを妾妃が引きずって大広間から退場した後、俺とアーサーはエドワードを国王の執務室に連行した。馬鹿に処分を言い渡すためだ。
リズとアーサーの婚約は続行するとしても、王女が公式の場で妊娠発言と婚約破棄宣言したのだ。一応、当事者の馬鹿にも何らかの処分は下さなければならない。
てっきり王女と結婚できると思い込んでいたらしい馬鹿は、戒律の厳しい修道院に送られ、二度と社交界に戻れないと聞き、最初信じられないという顔になった。挙句、リズが言い寄って来たのだの何だの、聞き捨てならない事をほざき始めたので、アーサーにはだいぶ劣るとはいえ、この馬鹿の唯一の取り柄のお綺麗な顔を思い切りぶん殴ってやった。
情けない事に、俺の一撃で馬鹿は、あっさり気絶した。
「ずるいですよ、陛下。ヴォーデン辺境伯が亡き奥方に似たこいつの顔を気に入っているから、顔だけは殴るなと私には言ったくせに」
アーサーからは、だいぶ恨みがましい視線をもらってしまったが、仕方ない。この馬鹿のせいで、アーサーのストレスも相当溜まっていたのだ。
リズが誕生日に婚約破棄宣言するのは分かっていたので(さすがに妊娠発言までするとは予想できなかった)事前にアーサーと打ち合わせをしていたのだ。その際に、馬鹿を修道院にぶち込む前に、思い切り憂さを晴らせとは言っておいた。
リズが何をしてもアーサーとの婚約は破棄できないのだと思い知らせるためだと、リズの「恋人」になった馬鹿を「始末」しようとしているアーサーを必死に止めたのだ。
……俺も、お陰でストレスを溜め込んでいたので、つい、いらん事をほざいたこの馬鹿をぶん殴ってしまった。ヴォーデン辺境伯に免じて顔だけはやめてやろうと思っていたのに、俺の娘を侮辱したこの馬鹿が悪い。
「いいんだよ。俺はリズの父親だから。娘が侮辱されて殴らない父親はいないだろう?」
「……父親ですか?」
アーサーからは呆れたような視線をもらってしまった。
いくら心の中で我が子達を慈しんでいても、態度で示さなければ伝わるはずもない。
それでも、リズ以外の人間には無関心のくせに、誰よりも優れた観察眼を持つアーサーは気づいているのだ。俺が我が子達を父親として慈しんでいる事を。
「陛下が何を思ってリズに対して無関心な態度を心掛けているにしろ、ずっとそのままでいてくださいね」
アーサーは妾妃と違い「リズに父親としての愛情を示せ」とは言わなかった。
言うはずがない。
愛情であれ憎悪であれ、愛する女の心を占める人間が自分以外にいるなど許さない。
そういう人間だ。アーサー・ペンドーンは。
アーサーが妾妃を嫌う最大の理由は、同族嫌悪ではない。
妾妃の存在がリズの心に深く食い込んでいるからだ。
無理もない。
赤ん坊だった自分を復讐の道具に使ったというだけで充分嫌悪や憎しみの対象になるが、何より、妾妃はリズを産んだ母親だ。
だから、リズは、どれだけ妾妃を忌々しく思っていても無視できず、父親と違って、まともな倫理観を持つ故に彼女を殺せない。
代わりに、アーサーが殺そうと思っても有能な妾妃は将来女王となるリズや王配となる彼にとって必要な人間になる。何より、彼女もリズを誰よりも大切に想っている。
いくらアーサーが「お前、本当に人間か!?」と疑われるような為人をしていようと人間である事に違いはないのだ。女王となるリズは常に命を狙われる存在だ。そんなリズを完璧に守り通すのは、いくらアーサーでも難しい。時には、リズを誰かに託さなければならないだろう。
妾妃なら命に代えても彼女を守る。どれだけ妾妃を忌々しく思っていても、リズを守るという一点においては、アーサーも妾妃を信頼しているのだ。
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