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本編
59 守れよ(国王視点)
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「俺の事は、もう守らなくていい。代わりにアルバートを守れよ」
妾妃からリックの事を言われたせいか、過去に想いを馳せていた俺は、今現在に意識を戻すと妾妃に言った。
「アルバートを、ですか? リズとアルバートではなく?」
俺の突然の発言より、その言葉のほうに妾妃は困惑しているようだ。
「俺が言わなくても、お前はリズを命に代えても守る。だから、アルバートを守れと言ったんだ」
たとえ、リズが妾妃を疎んじていても、彼女は何があっても、それこそ命に代えても、我が子を守るのは分かっている。
「リズメアリの孫であるアルバートを守る事は、シーモア伯爵の意に反する事でもないだろう」
俺が言うまでもなくシーモア伯爵は妾妃に「陛下だけでなく陛下の御子達も守れ」と命じているのかもしれない。であれば、自分やリズの命が引き換えだという事態が起きない限り、彼女はでき得る限りアルバートを守る。
国王で「夫」である俺の命令よりも、子供を産むまで唯一無二の存在だったシーモア伯爵の命令のほうが彼女には重いのだから。
「……ええ。陛下の仰る通りですわ」
妾妃は長い睫毛を伏せた。
「あの方も、わたくしの子供の取り替えに気づいていらっしゃるようだのに、その事については何も仰いませんでした」
俺は驚いた。シーモア伯爵も気づいていたとは。
気づいていて何も言わなかったのは、妾妃の復讐を邪魔する気はなかったというよりは、子供が取り替えられても、どちらも国王の子である事に、最愛の女の孫である事に変りはないからだろう。
「その代わり、陛下やリズと同様、命に代えてもアルバートを守れと命じられました」
俺の思っていた通りか。
「今のわたくしは、リズが一番大切です」
「知っている」
妾妃の唐突な発言だったが、俺は頷いた。
「……我が子に嫌われても、わたくしは、自分のした事を後悔していません。あの時のわたくしは、そうしなければ、おさまらなかった」
最終的には国王である事を優先しても俺も親だ。最初の子を殺された彼女の怒りや憎しみが理解できる。だから、彼女のした事を黙認した。
「アルバートがわたくしを憎むどころか、こんなわたくしを慕ってくれても、駄目なんです。我が子とは、どうしても比べられない。アルバートとリズを選べと言われれば、わたくしは迷わずリズを選びます」
自分が産んだ子でなくても育てているうちに、まして、あれだけ慕われれば普通は情が湧くものだが、妾妃は違うのだ。この女は「普通」に当てはまる人間ではない。
全てを知っていても自分を憎むどころか慕う育てた息子よりも、自分を嫌う実の娘のほうが、この女には大事なのだ。
「それでも、でき得る限り、アルバートを守りましょう。ヘンリー様の望みであり、何より、リズが大切に想っている弟ですから」
「夫」で国王である俺が命じたからではなく、シーモア伯爵の望みであり、リズが弟を大切に想っているから守る。
どんな理由であれ、妾妃が守ってくれるのなら構わない。
俺の大切な子供達を――。
妾妃からリックの事を言われたせいか、過去に想いを馳せていた俺は、今現在に意識を戻すと妾妃に言った。
「アルバートを、ですか? リズとアルバートではなく?」
俺の突然の発言より、その言葉のほうに妾妃は困惑しているようだ。
「俺が言わなくても、お前はリズを命に代えても守る。だから、アルバートを守れと言ったんだ」
たとえ、リズが妾妃を疎んじていても、彼女は何があっても、それこそ命に代えても、我が子を守るのは分かっている。
「リズメアリの孫であるアルバートを守る事は、シーモア伯爵の意に反する事でもないだろう」
俺が言うまでもなくシーモア伯爵は妾妃に「陛下だけでなく陛下の御子達も守れ」と命じているのかもしれない。であれば、自分やリズの命が引き換えだという事態が起きない限り、彼女はでき得る限りアルバートを守る。
国王で「夫」である俺の命令よりも、子供を産むまで唯一無二の存在だったシーモア伯爵の命令のほうが彼女には重いのだから。
「……ええ。陛下の仰る通りですわ」
妾妃は長い睫毛を伏せた。
「あの方も、わたくしの子供の取り替えに気づいていらっしゃるようだのに、その事については何も仰いませんでした」
俺は驚いた。シーモア伯爵も気づいていたとは。
気づいていて何も言わなかったのは、妾妃の復讐を邪魔する気はなかったというよりは、子供が取り替えられても、どちらも国王の子である事に、最愛の女の孫である事に変りはないからだろう。
「その代わり、陛下やリズと同様、命に代えてもアルバートを守れと命じられました」
俺の思っていた通りか。
「今のわたくしは、リズが一番大切です」
「知っている」
妾妃の唐突な発言だったが、俺は頷いた。
「……我が子に嫌われても、わたくしは、自分のした事を後悔していません。あの時のわたくしは、そうしなければ、おさまらなかった」
最終的には国王である事を優先しても俺も親だ。最初の子を殺された彼女の怒りや憎しみが理解できる。だから、彼女のした事を黙認した。
「アルバートがわたくしを憎むどころか、こんなわたくしを慕ってくれても、駄目なんです。我が子とは、どうしても比べられない。アルバートとリズを選べと言われれば、わたくしは迷わずリズを選びます」
自分が産んだ子でなくても育てているうちに、まして、あれだけ慕われれば普通は情が湧くものだが、妾妃は違うのだ。この女は「普通」に当てはまる人間ではない。
全てを知っていても自分を憎むどころか慕う育てた息子よりも、自分を嫌う実の娘のほうが、この女には大事なのだ。
「それでも、でき得る限り、アルバートを守りましょう。ヘンリー様の望みであり、何より、リズが大切に想っている弟ですから」
「夫」で国王である俺が命じたからではなく、シーモア伯爵の望みであり、リズが弟を大切に想っているから守る。
どんな理由であれ、妾妃が守ってくれるのなら構わない。
俺の大切な子供達を――。
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