そのダンジョンの冒険者はダイバーと呼ばれている。

tobu_neko_kawaii

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ダイバー編

五話 笛吹き男

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 昼過ぎ頃、カイネルが道具屋チカミチでアイテムを購入していた時だった。

「あ、あの~ダイバーの方ですよね?見たところすでに高階層へ挑まれているのでは?」

 それは少年だった。

 明らかに13、4の少年たちが数名いて、その中の男の子がカイネルに話しかけてきた。

「確かにボクは高階層、三十階層以上まで上ってるけど?それがどうかしたかい?」

 三十階層以上からは俗に高階層と称されていて、新人から見てそこに挑むダイバーだと判るのは、鑑定力でステータスやレベルが見えないためだ。

「ぼくたちもダイバーなのですが、最近なったばかりでできれば助言なんか頂けたらと」

 カイネルの鑑定力で少年たちがレベル8~10の集まりなのは一目で分かった。

 今までレッドスキル【パーティージャック】のせいで他のダイバーとタワーへ上ったことがないカイネルは、ましてやパーティーを組んだことなどは一度たりとてなかった。

「確かにキミたちは新人のようだね。なら、ボクから助言をするとなると一つかな、ボクとは関わらないほうがいいだよ」
「?どういう意味ですか?」

 今までもカイネルはそうしてきたように、少年たちに自分がレッド持ちであることを明かした。こうすれば間違いなく自分からは離れていく、今回もそうなると彼は考えていた。

「レッドスキル……ギルドに入らないでたった一人で高階層へ?!凄い!凄いですよ!あ、ぼくはフレンっていいます!よければもっと詳しくお話を聞きたいのですが!」

 フレンの反応はカイネルにとっては新鮮なものだった。レッドと明かしてここまで興味をもたれたことは、今まで一度としてなかったからだ。

 フレンだけではない、他の少年たちも口々に「凄い」とカイネルを褒め称えた。

「キミらは変わってるね、ボクがレッド持ちと分かっても、そうやって目を輝かせた人は見たことないよ」

「だって!【パーティージャック】といえばレッドスキルの三凶じゃないですか!普通ならダイバーとして一生で中階層までしか到達できないって聞きますよ。なのにアナタはお歳も若いのにソロレベル水準が35以上の高階層まで上っているなんて!」

 あまりに褒めちぎるフレンに、カイネルは頭を掻きながら名乗った。

「キミはどうやらずいぶんと本を読んでいるようだね。ボクはカイネルだ、よろしく」

 差し伸べた手をフレンは躊躇なく掴んだ。よろしくお願いしますと。

 それから少年たちとカイネルは、チカミチ内の食堂で夕飯を兼ねて話をすることになった。

 フレンはカイネルからそのレベルに応じたレベリングの仕方や、ギリーを稼ぐためのモンスターの種類など色々な話をした。

「なるほど!カイネルさんとの話は本なんかよりずっと身になります!な!みんな!」

「そうかい?それはよかった。でも、今話したことはほとんど仕方ないから、それしかボクがダイバーとしてやっていけなかったからできたことなんだよ。だから、キミたちは無理に実践する必要はないよ。聞いたところレッドもないし、無難にいいギルドに入って強い人と一緒に戦った方がレベルも上がりやすい」

「ギルドならもう入っているんですよ、かなりいいギルドがあったのでみんなで一緒に入ったんです」

「ならいいんだけどね……最後にもう一度だけ言っておくけど、レッドスキル持ちには気をつけるんだよ、ボクの経験則で言うけどレッドは本当に危険だ。それを隠している可能性もあるんだ、誰もがボクのように正直じゃないからね」

 カイネルは自らがレッド持ちだから、余計にその危険性をフレンたちに言い聞かせた。

「はい!カイネル先生!」

 それは少年たちの中の一人の女の子が言った言葉だった。

「先生って……」
「そうだね!ぼくらにとってはカイネルさんはもう先生だ!カイネル先生って呼んでもいいですよね!」

 照れくさそうに頭を掻くカイネルは、「好きにするといいよ」と言って、コップの水を飲み干した。

 数日、会えばカイネルはフレンたちと度々ダイバーについて、タワーについて話をした。

 その期間は、カイネルにとっても楽しいもので、タワーに上るよりも彼らと語ることを楽しみにしていたと言っても違いなかった。

 そしてある日のこと、タワーからダイブしたカイネルはそのまま装備の手入れをするためにブラックスミスのおじさんのところへ行っていた。

「お~カイネルか、悪いが今取り込んでてな、お前さん少し待てるか?」
「はい、大丈夫です」

 別の客と会話をしながら武器の手入れをするダイルは、少し時間がかかるからそれまで時間をつぶすようにと言った。

 おじさんに言われるがまま時間つぶしに散歩をしていたカイネルは、一つ気になる噂話を耳にする。

「おい、聞いたか?あの噂」
「ああ、また笛吹き男だろ?数人がまた帰ってこなかったって聞いたぜ」
「やばいよな~、噂じゃ新人ばかりを狙って勧誘かけてるらしいぜ」

 またあのギルドの噂か、とカイネルは足を止めた。

 男たちの話からすると、ギルド【笛吹き男】はかなりの新人を勧誘して、その新人がタワーから帰ってこない。しかも、その数が日々増えているということだった。

「確か今日もタワーへ向かって行ったぜ」
「また新人を連れて行って、帰ったときにはいませんでしたって落ちだろうな」

 今日まで何度かタワーの入り口でそれらしいのを探して待ち伏せていたカイネルだったが、とうとうその姿をその目で見ることは一度もなかった。そしてまた今日も自分がいない時にタワーへ上った噂を耳にする。

「やれやれ、これはもうボクだけじゃなくて、他のギルドと協力して真相を探らないといけないかもしれないな」

 噂の出どころが広すぎて根元を見つけ出すのは難しく、笛吹き男なるギルドを探そうにも検討もつかなかった。

「こうしてる時間も惜しいな……やっぱり専用のスミスがいれば」

 装備を受け取ったカイネルは、すぐにタワーへと戻った。

 普段なら二十階層までは駆け足で駆け抜けるところだが、今日に限っては噂のギルドを捜し求めて一層一層に目を通していった。

 どこの層も普段と同じく有名なギルドの占有下にあって、相変わらずのいつも通りだった。

 二十六階層まで慎重に辺りに注意しながら上ったが、それらしきギルドは見あたらない。

 結局、噂は噂でしかないとカイネルは諦めかけていた。

 しかし、彼は三度目のそれを耳にした。

「ついさっき通った連中、明らかに変だったよな」
「ああ、中にはレベル8なんてのもいたぞ」
「でも、ここはもう二十八階層だぜ?中にはレベル41のやつもいたが無茶だろ」

 それは、二十八階層の終わりで休憩をしていた男たちの会話だった。

 カイネルは、今度こそと意気込んで足早に二十九階層へと進んだ。

 二十九階層は、フロアボス、つまり階層主が存在しているが、三十階層への階段前付近で広い空間にリスポーンする足の遅い錬金系モンスターがいて、非常に防御力が高いのが特徴だ。

 このモンスターは、レベルだけ見ると30という数字だが、そのステータスの二つ耐久値と防御力がレベル45のダイバーが漸く確認できる数字なのだ。そのために、カイネルもこのボスだけは戦わずに次の階層へと通過するだけになる。

 そんな階層主がいる空間に近づくと、カイネルは目を疑った。

 いつもは大岩のような塊が中央に堂々といるだけの空間に、複数の人影がいるのだ。その内すでに倒れている人数が5人ほどいて、立っているのは4人だけだった。

「バカな!こいつと戦うのは危険だと分かっているはずなのに!」

 その目をボスに向けると、耐久値が四割まで減っていてカイネルは思考した。

 このボスはおそらくレベル50なくては、耐久値を1クレンも減らすことはできない。

 しかし、現状ボスの耐久値が減っている、つまりはそれだけのレベルのダイバーが中に必ずいるはず。しかし、戦闘しているダイバーの中で一番高いレベルでも41。その他のレベルは30前後が二人と、レベル13が一人だけだった。

「どうやってボスの耐久値を削った?スキル?あいつの防御力を上回るにはレベル40以上にソロフェンサーで攻撃力を倍加して漸くってところだ、そんなスキルはないはず……いや」

 いや、一つだけ心当たりがカイネルにはあった。

「レッドスキルの【ソールイーター】か!」

 パーティーメンバーが一人欠けるごとに戦闘力が倍、つまり仲間を犠牲にステータスが倍になるスキル。だが、それだけではレッドとは呼ばれない、このスキルは所有者を狂わす。

 最初はなんら他と変わりない精神を持っていても、一度仲間の死や他者の死でその恩恵を受けたならもう戻れない。自身を超えうる力、人としての限界を超える感覚がそうさせるとか。

「おい!大丈夫か!」

 倒れた人影に駆け寄ったカイネルは、見覚えのある顔に血の気が引く。起こした女の子の顔を彼はつい最近目にしていて、話もしてご飯もともに食した。

「キミは!そんな……じゃあ!」

 それはフレンとともにいた少年たちだった。

 すでに息のない女の子の頬をそっと撫でた彼は、不意に襲う苦しみに胸を押さえた。

 まただ!また守れなかった!近くにいたのに!そばにいたのに!ボクの!ボクの手の中にいたのに!また!零れていった。

 カイネルは女の子を床に置くと、立ち上がって、状況をもう一度眺めてすぐに見覚えのある顔を見つける。

「フレン!」

 それはフレンに間違いなかった。だが、彼は、フレンはその瞬間に口から血を吐き、腹部からは剣が突き出していた。

「!フレ――」

 フレンを襲ったのはモンスターではない。仲間だったはずの一人に後ろから斬られたのだ。

 おそらく他の子も、あの二人に斬られたのだとカイネルは察した。

 そして一人の男が叫ぶ、歓喜の叫びを。

「きた!きた!きた!きた~!これだぜこれ!この高揚感!これこそ本物の力だ!」

 その声には聞き覚えがあった。いつだったか、あれはカイネルが初めてタワーへ上ると決めた日、メイア・シャス・ラインハートと出会ったあの日、あの声に話しかけられた。

 男の体が青光りして、剣を構えボスへと突進する。そしてボスはボロボロと崩れて飛散し、欠片は緑色を淡く放ちながら消え去った。

「ハハ、フハハハハ、ハハハハハハ!見ろ!間違いなくレベルがまた上がったぞ!」

 カイネルはフレンを貫く男の手元を斬ると、膝から力無く倒れるフレンの体を支えた。

「フレン……これを――」

 手にした回復薬を彼の口元へと持っていくが、彼がそれを口にすることはなかった。

「カ、カイネル先生……ぼく間違えちゃった……、ぼくが入ったギルドは、悪いギルドだったよ……」
「しゃべるんじゃない、これを早く飲むんだ!」

 しかし、フレンは首を振ると喋り続けた。

「守れなかったんだ仲間を、……家族を……先生、ぼく夢があったんだ、いつかみんなで先生のギルド……ギルドに入って……」

 そう言ったフレンの首から、ストンっと力が抜け落ちる。

 フレンが語った夢は、一度はカイネルが諦め、目を背けたものだ。まさか彼がそんなことを思い描いていたとはカイネルも知らず、しかし不思議とその情景を素直に思い浮かべることができた。本当に素直に。

「ハーメルン!」

 その名は一度、メイア・シャス・ラインハートが口にしていたのを耳にしていた。

 男は、「あ?あ~?なんだ!」と振り向きぶっきら棒に笑って見せた。

「は!なんだお前?そいつらの知り合いか?」

 カイネルはすでに抜剣していた。彼は今日まで人を斬ったことはなかったが、しかし今日はそれを自ら望んでしようと思ったのだ。

「おいお前ら相手してやれ。だが気ー付けろ、そいつこの俺の目でも全然見えやしねー、つまりレベル50以上はあるということだ」

 ハーメルンはそう言ったが、カイネルのレベルは38しかなかった。カイネルがそれをどうやって隠しているのか、ハーメルンは知りもしなし、カイネルが答えることもない。

 最初は短剣を使う痩せ型の男だった。

 カイネルは、男の短剣を鼻先でかわすと剣を振り上げてその右手を斬り飛ばした。

「ぎゃぁぁああああ!手がぁあああ!」

 そしてすぐさま叫ぶ男の首を刎ね、コロコロと転がる首を見たハーメルンは、ほ~っと言って笑みを浮かべる。

 次に大きな腹を揺らし、手首から血を流す男が長剣を手にカイネルへ斬りかかる。その長剣を軽く弾いたカイネルは、男の腹に剣を突きたてた。そしてゆっくりその剣を右にずらしてゆくと、男は口から大量に血を吐いて痙攣し始める。

 剣が一気に体から右へと血を散らしながら抜けると、男は音を立てて倒れた。

 臓物がうねるように飛び出るところを、ハーメルンは笑みを浮かべながら眺めている。

 そして、ハーメルンはそれでも笑みを浮かべて言う。

「いや~助かったぜ!そいつらを殺してくれてありがとうよ!結構なギリーを要求されててどのみち後で殺ろうと考えていたんだ。パーティーに入れていればソウルイーターでさらに強くなれたんだけどな、よくばりはいけないよな~!」

 言い終わると同時に動いたハーメルンの動きは、あまりに速くて、カイネルはそれを避けきれなかった。頬をかすめた切っ先は、さらにその身を斬ろうと襲ってくる。

 速さだけじゃない、剣先に触れてないのに頬が斬れた、力も尋常じゃない!

 内心そう思うカイネルは、攻撃を避けながら考えていた。どうやってハーメルンを倒すか、、首を刎ね飛ばそうか、心の臓を貫こうか、手足を斬り飛ばして苦しみながら死ぬようにしてやろうか、とそんなことを考えている間も、ハーメルンの剣で己の皮膚が切り裂かれて血が流れていく。

「おかしい、俺は今6人の生け贄を捧げて6倍の強さを得ているんだぞ、なのにどうして攻撃が当たらないんだ!」

 ハーメルンは気づいていない。ステータスでは確実にカイネルの3倍の差があったが、それでも、カイネルとハーメルンにはステータスでは見えない圧倒的に違う差があった。

 それは技術、剣術の差。

「あなたは一つ勘違いをしている」

「ん?何言ってやがる!勘違いだ~ぁ!」

「あなたの力は本当の力じゃない、フェイク……偽物だ!」

 ハーメルンの素早い攻撃に、自分の攻撃を完全に合わせる。

 カイネルの頬を空気が切り裂くと、ハーメルンの肩をかすった剣はその皮を切り裂いた。

「くっそ!が!」

 罵声とともに剣を振るうハーメルンは、次第に大振りになっていく。カイネルがつけた傷が増えていくとともに、ハーメルンの中であるものが膨れ上がっていく。

 なんだこいつは!?6倍だぞ!レベル60クラスのステータスなんだぞ!なのに何故こいつを斬れない!こいつぁ~化け物か。

 ハーメルンの中に膨れ上がっていくのは恐怖で、それをハーメルンが素直に受け入れることはない。

「あいつらはどうせいなくなっても誰も気にしないやつらだったんだよ~!それをどうしようが俺の勝手だろうが!」
「……」

 当たらない、当たらなければ攻撃などただの素振りに等しい。

「なぜだ~!なぜだ!なぜだ!なぜだ~!なんで俺の攻撃が当たらない!」

 徐々に後退るハーメルンは、膨れ上がったそれを表情に浮かべた。

「あなたは運がよかったようですね……レッドスキルを持っていても、ステータスは早熟する方だった。あなたの間違いは、あなたの選択だ」

 カイネルは、剣の鞘をハーメルンの目の前に投げるとその視界を一瞬奪う。

 ハーメルンがその鞘を剣で払うと、カイネルの姿は視界から消えていた。

「どこだ!どこ行きやがった!」

 辺りを見回すハーメルンは、背後から殺気を感じて振り向こうとする。が、振り向き終わる前に体を何かが通過して、ゆっくりと下を見ると黒い鎧と服が中ほどから斬れ落ちてしまう。

 そして、腹に薄っすらと血が滲むと、それが徐々に体に赤い線を描く。

「これがあなたの選択の結果だ」

 カイネルがハーメルンの上半身を強く蹴飛ばすと、それは上下に分かれて、分かたれたことに気づかない半身を床に転がる目がジッと眺めていた。

 なんだあれは?俺の脚か?俺は、手にしたはずだ!人の世界を外れた力を、なのに俺は負けたのか?ああ、これが……死か。


 いつだったかフレンがこんなことを言っていた。

「先生はギルドを作らないんですか?」
「ギルド?それはどうだろうな、財政的にも無理だし一生縁はないと思うよ」

 ギルドを作ることは簡単だが、それを維持するのは難しい。ギルド登録は、ギルド教会へ入っていてもいなくても国へ出さなくてはいけなくて、それにさえも費用がかかる。

「え~もったいないな~先生ならいいギルドマスターになると思うんだけどな~」
「先生ならなれそう」

「だね!きっとそうに違いないッス!」
「きっと、やさしいギルマスになれるわね」

 少年たちの無垢な心は、カイネルにとっては眩し過ぎた。

 だからだろうか、カイネルがあんな冗談を口にしたのは。

「もしボクがギルドを作ったなら、キミたちに責任とって入ってもらわないとね」

 カイネルは普段から軽口などは言わない、それは現実に対して常に直視しているからだ。

 言った自分でも一瞬視線を泳がせたカイネルにたいして、フレンたちは笑顔で即答した。

「入りますよ!なぁみんな!」

 口々にそう言う彼らに、カイネルは少し照れて苦笑いしてしまう。

 そんな風にフレンたちとした会話を思い出しながら、カイネルは彼らの体を運んでいた。

 その荷ゾリはカイネルが殺したハーメルンの仲間の一人、腹の大きな男のものだった。

 どうやらハーメルンは、ステータスを上昇させた後に、上層で鉱石を手に入れて運搬するためにそれを用意していたようだった。

 三十階層の降下するための横穴へ向かうまでに、数人のダイバーがそれを目撃したらしく、それがのちに噂されて
『三十階層の死体引き』や『死体を運ぶ死神』などと噂になった。

 横穴に到着したカイネルは、6人の体を紐でつなげて彼らのカバンからタコを取り出しす。

 取り出したタコは二種類で片方は一人用、もう片方は六人用のタコでそれはカイネルからフレンたちにした助言の一つ。

「ちゃんと言ったことを実行していたんだな」

 カイネルは、彼らの体にしがみついて横穴に立つと、勢いよく外へと飛び出してタワーから落下し始めた。普段はダイバーが落下するために設けられた広場へ飛び降りるカイネルだが、フレンたちをそこへ下ろすと騒ぎになるのは目に見えているために、今回は少し離れていてそれなりに広さもある川の方へとできるだけ方向を定めてから、6人のタコを開いた。

 開いたタコは、彼らをカイネルから一度遠ざけて、カイネルもすぐにタコを開いた。

 少し上空で降下する彼らを眺めながら色々なことを考えてしまうカイネルは、夕日に照らされながら誰もいない空の上で叫んだ。

 その声は宙に響き、しかし誰にも聞こえはしなかった。

 先に着地したカイネルは、カバンからフックのついたロープを取り出して駆け出した。

 無誘導で落下するタコが風に流されるのは当然で。

「このままだと下流の川へ落ちてしまう!」

 回転させたフックのついたロープを狙い定めて飛ばすと、6人の体を運ぶタコをきれいに捉えた。足を踏ん張りタコが風に流されないように引き寄せる。

 無事に6人を下ろすと、彼はそれを担いで川の近くにある納屋へといったん置いて、彼らの家族を探すために街へ走った。その結果分かったことは、彼らが毎日帰っていたのは賃貸の小屋で、その前まで暮らしていたのは孤児院だったことだ。

 彼らは、孤児院の廃業によって已む無くダイバーとなったのだ。

 カイネルは、いつだったかフレンにこんな質問をしたことがあった。

「どうしてダイバーに?他にもブラックスミスとか職種はあったろうに」

「ん~やっぱり憧れですかね。それに約束したんですぼくらはみんな家族だってね」

「家族なら一緒にいなきゃ」
「俺が長男!」
「ぼくだよ!」
「弟が多くてお姉さんは大変よ」

 彼らの笑い声しか思い出せないが、辛かったはずだ、苦しかったはずだ、とカイネルは思わずにいれなかった。

 その後、彼らを埋葬したのはカイネルの父と母が眠る場所の隣。

 そして、彼らをサポートしていた老夫婦のブラックスミスがいることを知ったカイネルは、遺品の装備を持って会いに行った。

 老夫婦は彼らを孫のように可愛がっていたのだろう、きっと生きていると信じて再び訪れることを祈っていたが、ついにその願いは叶わなかったのだ。

 遺品を抱いて崩れ落ちる二人に、それ以上何も言えず彼らの墓の場所だけ教えてカイネルは立ち去った。

 それから数日、チカミチでアイテムを補充しに立ち寄ったカイネル。

「らっしゃい!……?どうしたテメー?何かあったのか?」
「ベルギットさん……」

 チカミチの女主人ベルギット・ベルベルトは、悲嘆の表情を浮かべるカイネルを見て、棚から手製のサンドを取り出すと手渡して言った。

「何があったかは聞かねーが……それでも食べて元気出しな!」
「……」

 カイネルはそれを口にすると、美味いと口にして絶賛した。

「美味しいです……美味しいですこれ」
「だろ!私の手作りだ!美味いもん食って腹から幸せになれば悲しみなんて忘れられるさ!」

 そう言ったベルギットは、カイネルをギュッと抱きしめて頭をワシャワシャと撫でた。

「笑え笑え!悲しみが小さくなっちまうくらい笑っちまえ!」

 カイネルは泣きながら笑った。そして涙が止まるころには、ベルギットに手製のサンドを売り出す提案をしていた。

 チカミチを後にしたカイネルは、心を休めるため、久しぶりに自宅へと帰りアリアたちに笑顔を見せた。

 その次の日の朝に、アリアは再び噂話をし始める。

「兄さん知ってる?『死体を運ぶ死神』の噂!」
「……それは興味深いな――」

 そう言ったカイネルの顔には、悲愴感などまったくなかった。
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