10 / 95
一章
一章ノ参『襲撃の日』3
しおりを挟むそれからどれほど経っただろうか。
俺は一人森に残り、何も食わず、何も喋らず、ただただ、魔の物を退治して、ただただ水だけを飲み過ごしていた。気が付けばムロの骸は骨となり、母の骸も骨になっていた。
あれだけ人狼を追いたてた人は、結局森の奥までは入ってくることはない。
それがどうしてかは分からないが、今はもう何だっていい。
何も考えず、ただただ死ぬ時まで役目を行い、俺は死ぬ。
そんな日々の中、唐突に眼の前に現れた人狼、獣の姿のそれは酷く年老いていて衰えているように見えた。
「……ロウ?ロウなの?」
狼の姿の俺を見て名を呼んだその人狼に見覚えはない、が、俺を知っているということはこの里から出て行った誰かから俺の話を聞いたに違いない。俺はそう考えて答える。
「確かに……俺はロウだ」
「あぁやっぱり、ロウなのね、私よ、リナよ」
リナ、リナ?そう言ったのか?
俺の知るリナはまだ少女の可愛らしい娘だ、こんなよぼよぼな婆さんなわけがない。
最初は冗談だと考えていた俺は気力の無いまま返事をする。
「何を言っている?からかっているのか、俺の知るリナはまだ若い娘だ」
そう俺はそのリナを語る人狼に告げた。
「芋を焼いたの!」
そう言われハッとする。
「ロウに芋を焼いたの、ムロが自分にもっていうから、私、好きな人にしか作らないって」
バカな、そんなまさか、本当にリナ?まさか、まさか、そんなはず。
受け入れられない事実を前に俺考え続ける。
「私が最後にロウに言った言葉覚えてる?」
リナが最後に俺に言った言葉、目の前の老狼がそれを言おうとするため、俺は同時にその言葉を口にする。
「「私はロウの子どもが生みたい」」
その言葉は、リナが里から逃げるその日に俺に言った俺しか知らない言葉だった。
「本当にリナなのか?」
その事実を受け入れるにはあまりに突然すぎて、とにかくまずリナの話を聞くことにした。
こうして誰かと話をすることも当分してなかった気がする、人の姿をしなくなってどのくらい経っただろう。
「あれからもう百二十三年も経っているのよ、私もひ孫の孫もいるわ、でもずっとロウの事とムロの事が忘れられなくて、お墓を建てようと一人でここまできたの」
百二十年以上、俺はそんな時間の間、何も食べず水だけで生きてきたというのか?
「まさかロウが生きてるなんて、考えもしなかったわ」
あの時、メイロウが言った言葉、〝死ぬこと叶わず〟その意味をようやく俺は理解できたのかもしれない。
「そろそろ、どうしてこうなったのか、話してはくれないかしら」
リナの言葉に、俺は事実を話そうとした。けど、年老いて人の姿にもなれなくなった彼女に、本当のことを話す事はできずに、メイロウが俺を不老不死にしたと言い、後はただただ俺は人の所為にし嘘を吐いた。
「そう、ムロもお母さんもお父さんも人間に……」
リナは俺に身体を寄せて、でも人間を恨んではだめよと言う。
「私たちが逃げた北の日の国では、人間はとても友好的なの、良い人もいっぱいいるの」
その話は俺には関係ない、俺は人を恨んでいないからだ。憎みもしない、恨めしく憎いのは自分自身だけだったからだ。
リナは俺の無事と里の顛末を伝えるために、もう一度北の日の国へと戻ると言う。
「私はもう年老いてしまって、ここへ来るのにも周囲に反対されてね、でもね、それでもあなたに会いたかったの。今でもあなたの事を想っているわ、亡くなった夫には内緒だけどね」
リナは俺のオオカミの姿に頬擦りすると、声を抑えながら涙を流した。
「それにしてもメイロウがあなたに宿るなんて、これからどうするの?よかったら私と日の国へ――」
「いや、俺はここに残るよ、ここを守る役目が残ってるから」
リナは俺の言葉に、辛そうな表情を浮かべて言う。
「無理……してはだめよ。私、あなたのこと心配なの、だから、いつでも頼ってね。私はもう長くないけど、孫やひ孫、ううん、もっと続く子孫にもあなたのことを話しておくから」
そう言った彼女に感謝を言い、久しぶりに森の入り口へと見送りに出た。
去っていく彼女を見送った後、周囲の変化に時の流れを感じつつ、俺はまた自身を責める日々へと戻った。
リナと別れてどれだけ経っただろう。
俺が獣の姿でしか過ごさなくなって、もうずいぶん経つ気がする。
最近では、森の民と呼ばれる人間たちが、森の入り口に住み着いて、俺の獣の姿を見て人狼の末裔と勘違いした。
人狼同士なら獣の姿のまま会話できるが、人と話すには人の姿にならないといけないが、おれはもう人と話すのが面倒になっていたんだ。
だからだろうか、俺は脳で考える前に獣の本能に任せて森で生きるようになった。飯を食わずとも生きていられるのは、そう言う意味では非常に便利だった。
そんなある日、一人の人間に出会うことになる。名前はツナム・ハジクと言う、人狼やメイロウやキリン、魔の物に興味を持った奇妙な人間だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる