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五章
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しおりを挟むその睡眠は体の治癒を目的としたものだったが、彼が目覚めると辺りは雪が降り積もる冬の季節を迎えていた。
「海を見た時はまだ暖かかったが、それほど寝ていたのか……」
狼の姿のまま積雪をかき分けて、ロウはある集落を見つける。
海を見るのも初めてだったロウは、その集落が漁村であることを知らずに村に近づいた。
冬だからというわけではないが、人の気配はなく、ロウは一つの建物に無断で入った。
そこには、もうずっと誰も住んでいないことが分かるほどに草やコケが生え、カニの死骸や抜け殻が散乱していた。
「人の気配がない、いや、無さ過ぎる」
建物を出て、ロウは海に浮かぶ木造の船に目を奪われる。大きくはないが、プカプカと浮かぶそれは彼に興味を与えた。飛び乗り、波の揺れを感じ、その感覚をじっくりと楽しんだ。
ようやくその村を出ようとした時だ。
「めっずらしいの、狼がここさいるのは」
老人が馬車の上からロウを見てそう言う。
「おめぇ、この辺は人がいないからいいが、北さ行くでねぇぞ、あの辺の人間はすぐ獣さ狩るぞ、そいで食うんさ」
老人はどうやら人狼というものは知らないらしく、ロウをただの狼と勘違いしてそう言った。 ロウは老人が去るのを待って、北を目指すべく太陽の方角を確認した。潮風を堪能し、足早に駆けるロウが次に会った人間は、鋼の甲冑に鋼の剣を持つ傭兵集団だった。
小さな陣の回りでウロウロしていた兵士、それが傭兵であると分かったのは、歌を歌っていたからだ。
「俺たちサイの傭兵団!最強!最高!」
そんな中、傭兵の一人がロウに気が付いて近寄ってくる。
傭兵は剣も抜かず、かといって油断している風でもなく手に肉をチラつかせる。
「ほれ、食え、食えよ、ほら、そしたら首根っこへし折って皮ひん剥いて食ったるぞ」
ただのオオカミだったらそうなっただろう、ロウはそう思いつつ、傭兵に飛びつき人間に成って首を絞めた。
「おぉおおお――……」
人を殺すことに抵抗はない、特にこの血の臭いで鼻が曲がってしまう土地では、ロウに聖獣の縛りもない。
服と鎧と武器を奪い、ロウは傭兵集団の中へと入っていった。
「少しいいか?」
ロウは酔っぱらった傭兵に話かけると、古い物語や聖獣に関する話を聞こうとする。
「昔話?逸話?そうさな、この辺はスイリュウとかいう神と人との闘いや、人魚と人の闘いがそれにあたるかの……
「ここで何をしている?」
「ここで何を?そんなの領主対領主の戦争に雇われたんだろオンシも」
その後、さらに逸話の話を聞くロウは、ある事実を知ることになる。
「ここはスイリュウの地、エンコと言えば西南にと聞くな~、そこからさらに南に行くと最近噴火し続けている火山があると聞く」
聖獣が時折見せる知識と照らし合わせると、ロウはいつのまにか目的の西の地ではなく、北側へと着てしまっていた。ほんの少しだけ、時間がかかり過ぎている気はしていたが、それをロウが口にすることはなかった。
誤算だが、ある意味ロウは悲観せず、スイリュウの縁者と会い、アンジャについて探ろうと考えた。人魚がいるとすれば、それは水中なのかもしれないという考えがあった。
「思っていたよりも聖獣に会うのは難しいようだな……、キリンやメイロウが見せる知識ではアンジャの居場所も分からない、だから、エンコかスイリュウかフウチョウに会えれば……」
そんな考えを抱いていたロウだったが、予想以上に聖獣探しが難しいことに気が付いてはいなかった。
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