83 / 95
七章
2
しおりを挟む
ホウデンシコウとは数年一緒にいたため、カイナは彼をコウと呼んだが、シャンリンメイとはたった二日、とてもではないがメイと呼べるほどには関係が深まっていなかった。
時間もあるが、シャンリンメイ自身がカイナと仲良くなりたいようには見えなかったことも、カイナが親しげにしない理由でもある。
「お休みなさい」
「……待つニャ」
シャンリンメイは客間である隣の建物から、自身の部屋へと帰ろうとするカイナの腕を掴む。
「少しだけ話をするニャ、とりあえず一緒に寝るニャ」
「……え?話をするんだよね?どうして寝るの?え?どういう事?」
訳も分からないまま、布団へと連れ込まれるカイナは、今朝のことを思い返して身構える。
「わ、私にはロウって夫がいるから!こういうことは――」
「聞くニャ、いいえ……聞いて欲しいの」
口調の変化に加え、声のトーンの違いにカイナは口を閉じる。
「本当は話さないでおこうと思ってたけど、私がシャンリンメイになる前。シャンというところのリンの娘メイであるもっと前、私は……リナという人狼だったの」
そうしてシャンリンメイは、自分がリナであることと、ロウを愛していること、結ばれたいと想っていること、ロウとの過去をカイナに話した。
カイナは静かに聞いていて、話終えたシャンリンメイの顔をロウソクの明かりの中で見つめていた。
「ロウはきっと私のことを知ったら優しく受け入れてくれると思うの、きっとそう……ロウは優しいから」
「……そうだね、ロウはシャンリンメイ……いいえ、リナという女の子の想いに答えると思うわ。たとえ私を愛していても、カロナを愛していても、それには答えると思う」
「そうなったら、カイナはロウを許す?それとも許さない?」
カイナの背中に話しかけるシャンリンメイは、その小さな背中にゆっくり触れる。
「私は許さなくてもいい、でも、そうなった時にはロウを責めないでいてあげてほしいの」
「……」
カイナはしばらく何も答えなかった。そして、次に彼女が話し始めた時、それをシャンリンメイは受け入れようと心に決めていた。
「……私は、私が特別だって考えたことはないの。リナさんがロウを想っている気持ちは心から分かるから、できれば、ロウのしたいようにさせてあげたいし、二人がそうなった時に、私が誰かを恨むことはないよ。だって、人の好きという気持ちは必ず互いのためになるから、だから、ロウの為になるなら、それなら私はそれを恨んだりしないよ」
カイナはそう言うと、体をゴロンと寝返らせ、シャンリンメイに向き合う。
「あなたがリナだろうがシャンリンメイだろうが、ロウを好きで、それにロウが答えたなら、私は受け入れる」
「カイナ……」
「もちろん嫉妬もするけどね」
「嫉妬するニャ?」
「します、女の子は好きな男の子が他の女の子と仲良くしてたら嫉妬します」
そう言い切るカイナに、シャンリンメイはカイナの手を掴むと、ゆっくりと額に当てて言う。
「誓ってカイナの知らないところでロウと関係を持ったりしない、誓ってロウを苦しめることはしない、ロウが拒絶したなら私は身を退く」
「……約束ですね」
「約束ニャ」
そう言うと二人は互いに目を閉じた。
そのまま、二人が眠ると、カイナはロウの夢を見て、また、シャンリンメイもロウの夢を見て、互いに幸福な気持ちの夜を過ごした。
そうして、翌朝、アシュがカイナの元を訪れて、カロナへの荷物を受け取りにきたのだが、その荷物には不自然な白猫が傍にいた。
「カイナさん……この白猫は?」
「あ、その子もカロナの届けて、名前はメイちゃんです」
アシュはその白猫を不思議そうに見るが、すぐに受け入れてカイナの言う通り、大切そうに荷物の上へと乗せて馬車を走らせる。
「またね~メイちゃ~ん」
シャンリンメイが猫の姿であることを理由に、メイちゃんと呼ぶカイナは、少しだけそう呼べたことに微笑んでいた。
カロナの腕に着けられた木の腕輪を見るシャンリンメイは、カイナを守ってね、とそう呟いて、アシュは一瞬振り返るが、そこには白猫一匹だけであるため、小首を傾げて前を見た。
カイナが付けた腕輪はキリンの加護が無くなって、ガクライによって仙器として力が込められた物。アレはあらゆる外敵からカイナを守るけど、壊れたり破れたりするとガクライにもその影響ができる仕組みになっている。
「カイナの身に危険が迫ったらガクライの力で障壁が張られ、もしもその壁を壊すほどの脅威なら、あの腕輪の破壊と引き換えにガクライがカイナの元へ現れる仙器。この世界の何者もカイナを傷つける可能性はないわ」
その呟きで再び後ろを向くアシュに、シャンリンメイは白猫に相応しい猫なで声で言う。
「ニャ~」
「……だよな、猫だけだよな……気のせいさ、猫が喋るわけがない……働き過ぎかな?」
自身の空耳と思い込むアシュは、安全にいつも通りに、カロナの待つテンへと馬を操る。
時間もあるが、シャンリンメイ自身がカイナと仲良くなりたいようには見えなかったことも、カイナが親しげにしない理由でもある。
「お休みなさい」
「……待つニャ」
シャンリンメイは客間である隣の建物から、自身の部屋へと帰ろうとするカイナの腕を掴む。
「少しだけ話をするニャ、とりあえず一緒に寝るニャ」
「……え?話をするんだよね?どうして寝るの?え?どういう事?」
訳も分からないまま、布団へと連れ込まれるカイナは、今朝のことを思い返して身構える。
「わ、私にはロウって夫がいるから!こういうことは――」
「聞くニャ、いいえ……聞いて欲しいの」
口調の変化に加え、声のトーンの違いにカイナは口を閉じる。
「本当は話さないでおこうと思ってたけど、私がシャンリンメイになる前。シャンというところのリンの娘メイであるもっと前、私は……リナという人狼だったの」
そうしてシャンリンメイは、自分がリナであることと、ロウを愛していること、結ばれたいと想っていること、ロウとの過去をカイナに話した。
カイナは静かに聞いていて、話終えたシャンリンメイの顔をロウソクの明かりの中で見つめていた。
「ロウはきっと私のことを知ったら優しく受け入れてくれると思うの、きっとそう……ロウは優しいから」
「……そうだね、ロウはシャンリンメイ……いいえ、リナという女の子の想いに答えると思うわ。たとえ私を愛していても、カロナを愛していても、それには答えると思う」
「そうなったら、カイナはロウを許す?それとも許さない?」
カイナの背中に話しかけるシャンリンメイは、その小さな背中にゆっくり触れる。
「私は許さなくてもいい、でも、そうなった時にはロウを責めないでいてあげてほしいの」
「……」
カイナはしばらく何も答えなかった。そして、次に彼女が話し始めた時、それをシャンリンメイは受け入れようと心に決めていた。
「……私は、私が特別だって考えたことはないの。リナさんがロウを想っている気持ちは心から分かるから、できれば、ロウのしたいようにさせてあげたいし、二人がそうなった時に、私が誰かを恨むことはないよ。だって、人の好きという気持ちは必ず互いのためになるから、だから、ロウの為になるなら、それなら私はそれを恨んだりしないよ」
カイナはそう言うと、体をゴロンと寝返らせ、シャンリンメイに向き合う。
「あなたがリナだろうがシャンリンメイだろうが、ロウを好きで、それにロウが答えたなら、私は受け入れる」
「カイナ……」
「もちろん嫉妬もするけどね」
「嫉妬するニャ?」
「します、女の子は好きな男の子が他の女の子と仲良くしてたら嫉妬します」
そう言い切るカイナに、シャンリンメイはカイナの手を掴むと、ゆっくりと額に当てて言う。
「誓ってカイナの知らないところでロウと関係を持ったりしない、誓ってロウを苦しめることはしない、ロウが拒絶したなら私は身を退く」
「……約束ですね」
「約束ニャ」
そう言うと二人は互いに目を閉じた。
そのまま、二人が眠ると、カイナはロウの夢を見て、また、シャンリンメイもロウの夢を見て、互いに幸福な気持ちの夜を過ごした。
そうして、翌朝、アシュがカイナの元を訪れて、カロナへの荷物を受け取りにきたのだが、その荷物には不自然な白猫が傍にいた。
「カイナさん……この白猫は?」
「あ、その子もカロナの届けて、名前はメイちゃんです」
アシュはその白猫を不思議そうに見るが、すぐに受け入れてカイナの言う通り、大切そうに荷物の上へと乗せて馬車を走らせる。
「またね~メイちゃ~ん」
シャンリンメイが猫の姿であることを理由に、メイちゃんと呼ぶカイナは、少しだけそう呼べたことに微笑んでいた。
カロナの腕に着けられた木の腕輪を見るシャンリンメイは、カイナを守ってね、とそう呟いて、アシュは一瞬振り返るが、そこには白猫一匹だけであるため、小首を傾げて前を見た。
カイナが付けた腕輪はキリンの加護が無くなって、ガクライによって仙器として力が込められた物。アレはあらゆる外敵からカイナを守るけど、壊れたり破れたりするとガクライにもその影響ができる仕組みになっている。
「カイナの身に危険が迫ったらガクライの力で障壁が張られ、もしもその壁を壊すほどの脅威なら、あの腕輪の破壊と引き換えにガクライがカイナの元へ現れる仙器。この世界の何者もカイナを傷つける可能性はないわ」
その呟きで再び後ろを向くアシュに、シャンリンメイは白猫に相応しい猫なで声で言う。
「ニャ~」
「……だよな、猫だけだよな……気のせいさ、猫が喋るわけがない……働き過ぎかな?」
自身の空耳と思い込むアシュは、安全にいつも通りに、カロナの待つテンへと馬を操る。
0
あなたにおすすめの小説
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる