Blade Chain Online―ブレイド・チェーン・オンライン―

tobu_neko_kawaii

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第二部

63.

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 ウサギが唐突にカイトに話しかけるのは、彼なりの気遣いだった。

「カイト、私には味覚エンジンのそれがない、どれもこれも無味無臭だ、唯一〝ナナの指が甘い〟ということだけは分かったが――」

 俯くカイトを気遣ってあれこれ話を振るシャドー。

 しかし、さすがにPvPが起こってしまったことがカイトを暗くさせてしまう。

「ヤトが、起きたら食べてもらおうと思って、肉じゃがを再現したんだけど……そっか、シャドーは味覚がないんだね」

 机の上の肉じゃがの具には、ジャガイモの代わりの物が転がっていて、それを切るカイトは口に含む。

 それは本来そのままで食べられる野菜で、現実のジャガイモとは違う別ものになっているが、味はほぼ同一だった。

 数十秒以内に食べないともう半分も消失してしまうため、「おいしい」と呟いてもう一つを持ち上げた時だった。ダン!という大きな音が響いて、カイトは驚いて手に持ったそれを机に落とした。

 机にぶつかった衝撃が残りの耐久を減らすことはない、だが、それ自体の期限が切れてエフェクトへと変化する。

 カイトは、すぐに音が響いた寝室へ向かい、その足元にシャドーも続く。

 部屋に入るとカイトの視界には、ベットから落ちたヤトが立ち上がろうとしているところだった。

「ヤト!」

 駆け寄ったカイトに視線を向けた彼は、ゆっくりと立ち上がって言う。

「俺はどれだけ寝ていた?今はいつだ?この世界はどうなっている――」

 カイトは、驚きと嬉しさで口を押さえて涙を溢した。そんな彼女の代わりにシャドーがヤトと話す。

「起きて早々質問が多いなジャスティス」

 現れたシャドーをヤトは無言で頭を鷲掴み持ち上げる。

「お前……置き土産ってのはこれのことか?」

 飽きれた声を出すヤトにカイトが勢いよく抱きつく。

「ヤトヤトヤト!」
「おい……カイト、少し落ち着け――」

 しかし、ヤトの言葉にカイトが落ち着くまでには数分を要した。

 約一ヵ月間、彼女にとってはとても長い期間だった。そう、とても長かった。

 その長い間の経緯をヤトに手短に話すカイト。

「それで?ナナとマリシャ、ビージェイが俺の居場所を知っているわけか……で、ジョーカーのクエストでゲーム内の空気が変わったわけだ」

 ヤトは、自身のストレージ内を整理しているようで、自身の知らないアイテムを次々出して確認する。その中で、急に不自然な物が現れてヤトは凝視する。

 そのアイテムは、見た目は完全に〝物干竿〟で、マリシャがバースデープレゼントとしてストレージに入れたものだった。

「あ~それはマリシャのバースデープレゼントで――」
「……デリートだな――」

 消し去ろうとするヤトの手を、全力で押さえるカイトは、必死に首を振る。

 その様子を見たヤトは、そのアイテムを渋々ストレージ内へと戻した。

「だめだよ、それはマリシャの気持ちがこもっている物なんだから」

 カイトはそう言いつつも、身を起こしたヤトの体にベタベタと触れている。

「……触り過ぎだぞ」
「……いいじゃないか、毎日体も拭いて上げてたんだぜ、ボクが」

 その言葉にヤトは少し沈黙してから言う。

「この世界で体が汚れるなんてことはないから、別に拭く必要性もなかったんじゃないのか?どうしてそんなことをしたんだ」

 その返答に徐々に顔を赤らめるカイトは、「う、嬉しいでしょ?」と笑みを作る。

 ヤトが別にそうでもなさそうにしているのを見たウサギは、カイトの代わりに、その小さな体を使って殴りかかるが、ボピュっと音が鳴るだけでヤトには一切ダメージはなかった。
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