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第二部
73.
しおりを挟むしばらくして、泣き止んだナナはヤトの胸から顔を離す。ヤトは彼女が立ち上がると、すぐに自身も体を起こした。
「ごめん、私……取り乱して――」
「別に、構わないさ……だけど、さっきの――〝1人で戦って1人で死のうなんて〟ってやつはどういう意味だ?」
「……どうって、ヤトが……ほら、チートでビージェイさんたちを助けるために人を斬ったんでしょ?それで死のうとしているんじゃないかって……」
ナナの言葉にヤトは、「なるほど、なるほど」と言う。
「それに、フレンド欄もブロック状態だったし、ここ最近ブラックプレイヤーを狩っているって――」
「それは俺じゃない」
「え?」
「最近ブラックプレイヤー狩りをしているのは別人だ、フレンドをブロックしたのは、ビージェイに変なこと言って会わす面がなかったからだし、別に死のうなんて考えていない」
「……じゃ……私の――」
ナナはそうと分かるとその場にへたり込んだ。そして、「そっか――よかった」と呟いた。
立ち上がった彼女は、ヤトに眉を吊り上げて言う。
「どうして1人でボスと戦ったりしたの、ヤトも言ったよね、ボス攻略は難しいって」
「言ったが、それはキーボスのことだ、……ここがキーボスじゃないと分かっていたから」
「……それって……どういうこと?」
「つまり、俺は単に経験値を稼ごうと――2ヶ月ほどサボっていたんだからな、ザコ狩りするよりも、チートじゃないだろうボスと戦った方が手っ取り早い」
「それ、勘で〝ここのボスがチートじゃない〟と思って戦ったってこと?」
「いいや、ヘイビアのボスと戦った時、エリア拡張がなかったからな、傾向からして街のあるエリアボスはキーにはなりえないんだろうと思っていた」
「もし全部のボスがチートボスだったらって考えなかったの?」
「それはないだろ、もし、全てのエリアボスがチート設定に変えられていたりしたら、もうGM側に工作員がいるどころか、作った製作元もこの事件に関わっているってことになる」
「……確かにそれは」
そんなことが可能ならいちいちボスをチート化するでなし、モンスター全てをチート化すれば手っ取り早い。
「可能性で言うと5パーセントもなかったんだ、絶対的にそれだったから俺は戦ったんだ、だから、心配なんて必要なかった」
「……心配するなって方が無理だよ、いきなり姿を消していなくなるんだもん」
ナナの言葉にヤトは、「いいやそんなことはない」と言う。
「俺は伝言を残しておいたんだが――聞いていないか?」
「……伝言?なんのこと――」
結論から言うと、ヤトは伝言を残しておいた。
彼のコピーのコピー、シャドーという名のウサギの人形に、タキシード姿の小さき者に。
そうして、帰宅したナナがその事実をシャドーに確認すると彼は言った。
「ふむ、どうやら私の機能異常で〝他人からの伝言を伝え忘れる〟という問題が発生しているようだ」
その聞き苦しい言い訳にカイトは言う。
「マリシャさんの胸に夢中で忘れてた、なんて……言わないよね」
本気で怒っている様子の彼女に、シャドーは花瓶の影にゆっくり隠れてしまう。
マリシャは、ヤトに笑顔で「お帰り」と言って、ナナにも同様にそう言った。
そして、ビージェイやファミリアのメンバーがゾロゾロと集まると、いよいよ大騒動になる。
ヤトも「おいおい……」と呆れるほど、自身のことでここまで人が集まっていることに驚く。
そして、代表でビージェイがヤトに言葉をかける。
「ここにいる全員がお前の心配してたんだぞ」
ヤトは、その場に集まった人間のことをそれほど気に留めてもいなかったが、それとは逆にその場にいる全員がヤトを気にしていた。その事実は彼にとって本当に意外なものだった。
そして、集まった面々にビージェイが言う。
「無事!俺のダチが見つかりました!皆さん!ご協力ありがとうございました!!」
ビージェイに促されるようにヤトは、集まった人に向けて頭を下げた。
その姿にヤトの誤解がその場で一瞬で解けたのは、ビージェイが事前に説明していたのと、あの時助けられたファミリアメンバーと猫の手たちが説明して歩いたからだ。カイトがヤトに抱きついて何度もお帰りを言う。おそらく、この時にヤトが自身のことを彼ら――ビージェイ、カイト、ナナ、マリシャに話そうと決意したのかもしれない。
ちなみに――シャドーはこの後、ナナに散々玩具にされてしまうのだが、それはヤトも知らないことだ。
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