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第二部
93.
しおりを挟む転送された俺は、ゲームが始まるまでのカウントダウンを目の前に思考していた。
ケージェイは悪なのか?クラウはどうだった?クラウの言い分は分からなくもない。
戦った者の想いなどは、想いを向けられた側にとっては知りもしないことだ。
しかし、戦ったのに「死んでしまってバカでしたね」では彼らが不憫だ。
けど、人とはそういうものだ。どんな想いを向けられても、そんなものは向けた側の都合でしかない。どちらの側も悪くない。
だが、なら〝悪〟とはなんだろうか?
人を殺すから悪というなら、自衛で人を殺したら悪なのか?
もし、それが悪とするなら基準はどこにある?
こんな思考を何度繰り返してきたのか、自問自答で得られる回答は最善か否か。
回答なんて星の数、迷いの数だけあるだろう。
そんなことを考えながら、気付けば視界の数字が0になっていた。
この手の思考は何千回としてきたことだ。答えのでない式に永遠向き合う数学者のように。
人によっては愚かと思うかもしれない、が、それを避けれらない人間もいるのだ。
視界に広がった戦闘フィールドは、まだ見たこともない街中だった。
「ここは……どこだ――」
街並みはシトリーに似ているがどこかが違う。そして、白いエフェクトを放って対戦相手が転移してくる。男の姿、作りこんだアバターに不敵な笑み。
「始まったね……これがBCOかー」
仕草からおそらくは子ども、俺と同じくらいかそれよりも若い。
しかし、外見は大人に見える。
「ねーねー、ここであんたを倒したら……現実でも死ぬって本当?」
「……」
「あーそうだったそうだった、あんたより、僕の方が詳しいんだよね~それに関しては」
ヤトは、語るに任せてそのプレイヤーに返答もしないで聞いている。
「ねー聞いてる?……ラグっちゃってんの~?まーいいや〝本当に人が殺せる〟なんて、リアルなゲームがあるなんてね」
その言葉に俺は反応した。
「……日本人なのか?」
「だったら何?」
「本当に人が殺せるゲームならリアルなのか?お前は人を殺したことがあるのか?」
「え~あるわけないじゃん」
現実で人を殺したことが無いのに、人が殺せるのがリアルと吐く。
「人を殺す意味を知っているか?」
「?何それ~」
右手を突き出して小さく呟く、そして黒く光る剣がその姿を現した。
「え~何それ~変な剣、レアなアイテムなのかな〝俺つぇえええ〟ってやつ?」
見た目はただのアイテムだ、ただこの剣には特殊な効果がある。
「この剣は斬るだけで相手をログアウトさせることができる」
「何それ――チートじゃん!あんたチーターかよ!」
「相手をログアウトさせると同時に、ある警備会社のシステムが起動する、そして斬った相手のIPアドレスから住所を特定できる」
「……は?住所を特定?」
「特定した住所を警察庁サイバー犯罪対策課に提供して、犯罪者として取り締まる」
「え?じゃ……それに斬られたら僕の家に警察が来るの?」
「……ある程度の猶予はあるけどな、そういうことになる」
「やばいやばいよ~……なんてね~!今僕がいるのはネカフェ~!この後すぐに逃げれば住所なんて分かるわけないよ」
一瞬頭を押さえて慌てる振りをするが、すぐに開き直った様子でそう言う。
「……知らないらしいから教えてやろう、ネットカフェを利用して接続したとしても、会員証やHMCからお前の住所を割り出して警察が向かうだろうさ」
「……嘘、やばいじゃん」
アバターは慌てて右手を下に振る。しかし、思惑と違いそれは現れない。
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