94 / 138
第二部
94.
しおりを挟む「くそ!左か!」
もう一度左手を振った男は今度こそと笑みを浮かべた。
「よし、このままログアウト――」
そこに男が求める物はなかった。
「あ~これ~どうしよう~、でもま~警察に捕まっても〝少年法〟で護られるからいいかな」
頭を抱えてしゃがみ込むとアバターはそう言う。
「確かにVR犯罪に少年法は適応されるだろう、だが、罰則で携帯端末、HMCの所持を禁じられて、成人後に再逮捕されれば刑罰は免れない」
「わ~マジか~ま~しかたないよね~」
ゲームと現実の境を認識できていないような反応だった。
「後は警察にでも話をするんだな――」
黒い剣を向けると男は笑みを浮かべる。
「ところで、罪状って何かな?殺人未遂?VR法違反?」
「……さーな」
それを俺に聞いたところで、俺が決めている訳ではない。
黒い剣に貫かれる寸前に、「あ~でも黙秘してればなんとかなりそうなきがするな~」と男は笑っていた。
アバターが倒れてその場に倒れ込むと、黒い剣を手元から消し俺は立ち尽くす。
自身の頬に伝うものに気が付き、それを手で拭う。
「……泣いているのか――」
VRで涙は我慢できない、感情をシステムが強制的に表現する。悲しいや虚しいという感情をシステムが表現するのがこの世界での常識。
涙を流したのは、初恋のAIが壊された時と、次に恋をした相手助けた時だけ、どちらも現実でだった。VRの中で泣いたのはこの瞬間が初めて。
しかし、何故自分が泣いているのかそれが理解できなかった。それを理解できるまでにはまだしばらく時間がかかるのかもしれない。
全てを終えた俺は、それをジョーカーが見ていたとは思いもしない。
そうして俺は、再び元いた場所へと強制的に転移させられた。
「見つけた、見つけたよこいつがウイルスだ~」
コンソールの前で、割けた口元に笑みを浮かべるピエロはそう言う。
「ヤト、こいつがバットマンさんが言っていた奴だぁ」
システム操作でピエロの手に現れる死神のような鎌。
俺が映し出された映像を切り裂いて、ピエロは笑みを浮かべ、怒りを口に出した。
「このクソがぁあああ!バットマンさんに怒られるのはおれなんだぞぉぉ!」
そうして何度も空間の映像を切り裂くも、それは映像であり、耐久があるわけでもないため、いつまでも映し出されていた。
映像から人影が消え去ると、ようやくピエロは鎌を振るのを止めた。
「待っていろぉ……楽しいショーの始まりだぁぁ」
目の奥の虚空がピエロの恐怖を体現しているかのように、彼は密に何かを企んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる