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第三部
125.55 平行線
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55 平行線
2053年8月
BCO第一の街、始まりし街。
黒い空、黒い雲、その日、太陽が見える時間は約1時間だけで、廃墟の上から地上を見ると、そこには人が数人で戦闘を繰り広げている。
金髪の男や白髪の男、短髪の黒髪の女、中には子どももいる。戦っているのは、人を襲い恐怖に陥れる存在であるモンスターではなく人と人。
「戦っているのはUSとRUのパーティーかな」
短い金髪の女が、廃墟の上から地上を窺う男にそう言う。
「縄張り争いか――」
彼ら別サーバーのプレイヤーたちは、ある種の目的のために他の大陸へと侵略している。
「また参戦するつもりなの?」
心配する女の言葉に男は頷き、廃墟の屋上の端に立つ。飛び降りる高さは地上まで約9メートルほど、落下して地上に着地すると地面が陥没する。
戦闘していたプレイヤーは、その大きな音に視線を向けた。
砂埃から出てきた男は黒髪で、黒いマント風コートを靡かせて歩き出す。
「女の子相手にこの人数、格好が悪いとは思わないのか――」
男はそう言うと、腰に吊るした細い剣を鞘から抜いた。
金髪の男は少し目を細めて凝視すると、見開き直してある事実を口にした。
「こ、こいつはJPのランカーの――」
「ヤトだ、これから参戦させてもらう」
コールと同時に頭の上にHPバーが出現し、フィールド内へと侵入する。
「JPのランカーだ!お前ら逃げるぞ!」
「おい!まじかよ!もう少しであの美少女を生け捕りにできるのにか!」
男が指した先に、幼いが確かに美少女としか言えない女の子がいた。
「馬鹿が!JPランカーヤトだぞ!あの賞金首のヤトだ!KRのランカーやCNのランカーをことごとく返り討ちにして、CNのギルド一つを潰した野郎だ!俺の神が言っている!戦うなってな!」
逃げて行く集団、そして残った者の中で一人の男が剣をヤトへ向ける。
その瞬間ヤトも細い長剣を徐に鞘から抜く。
「待って!」
その金髪男を制したのは、銀髪の美少女だった。
「お願い、話をさせて!彼ならきっと分かってくれる!」
「ナタリア、だが」
美少女の前まで歩いたヤトは剣を鞘へと納めて言う。
「俺もキミたちに話しがある」
ヤトの言葉にナタリアは表情を緩め笑みを溢す。
「私の考えときっと同じよ!」
「――さぁそれはどうかな」
口の端に笑みを刻んだヤトは、美少女の前に手を差し出した。
「ヤトだ」
「ナタリアよ」
BCOの変革から約ふた月ほど経った。
残されたプレイヤーの数は、サーバー内に1万7千ほどで、一万人以上いる理由は他のサーバーと統合された故だ。その内訳は、JP約4000、US約3000、RU約2300、KR約2700、CN約1600、EU約3500。
五つの大陸は最初の大陸のみとなり、その北側を中心に別の大陸が出現した。
南がJPで時計回りに、KRが西南、EUが西北、USが北、CNが東北、RUが東南、となるように大陸が隣接している。
「変革が起きたあの日、JP大陸には動揺とともにKRのプレイヤーが侵入してきた。そして、ヘイザーのギルドのメンバーが数人襲われ何人かがPKされた、そして、その報復に捕らえたKRのプレイヤーをヘイザーがPKした。その後もKRのプレイヤーとは何度か衝突したが、それは一部のプレイヤーの暴走のようでもあり、集団による行動ではないように思えた」
「そうなんだ……そっちも大変だったんだね、こっちも今はUSとEUとCNのユニオンにさっきみたいに無差別に襲われてるの」
USとEUは数週間でユニオンを組み、CNへと侵攻しCNプレイヤーはなすすべなく大陸内外に散らばった。その後、UECユニオンはRUへと攻め込み、RUはJPとのユニオンを模索していた。
「やはりそうなっているのか、どこも似たり寄ったり……ただ、このままじゃそっちのあとはこっちにも攻めてくるんだろうな、UECの奴らは」
「大陸の制覇報酬が現実への帰還となれば、こうなるのは当たり前だったのよね」
USとEUは勢力的には約7500、さらにCNの一部を吸収して約8000。
ヘイザーとアスランとビージェイ、彼らのギルドが協力し、JPのユニオンとして正式に連合を組んだ。アスランは攻略組として一番の武力派、ヘイザーは攻略組を脱落した者たちや中級者の者たち中間層を束ねる二番目の武力派。
そんな中でビージェイは、非戦闘員がいなくなり、レベルが低く攻略にも参加したことのない初級者たちを束ねている。
そんなユニオンの方針で、RUのプレイヤーに接触しようとアスランの右腕であるナナ、ヘイザーの右腕であるタカキヤミ、ビージェイはフレンドのヤトに頼んでRUとの接触を試みた。
そうしてRUのテリトリーでナタリアと出会うヤトは、新たなBCOのクリア目的へと向かっているわけではない。
「クリアに関して、そっちは把握できているのか?」
ヤトの言葉にナタリアは頷いて、「大丈夫――」と言う。
「各大陸の特超級レイドモンスターの二体の討伐、ユニオンリーダーがその闘いに参加して、勝利をすることでそのサーバーの人間は現実へと帰ることができる。加えて、他のサーバーのユニオンリーダー3人を倒しても、その時ユニオンを組んでいる各サーバーも帰還できるわ」
ナタリアを睨むナナ、ヤトはその肩に手を置いて視線を合わせる。
ナタリアはそのナナの怒りの意味を理解しているため、その視線に対して何も言い返すことはなかった。
「BCOが変化してすぐ、JPへ侵攻するためRUのテリトリーを横断するCNを黙認したんだもの、彼女の怒りは分かるわ」
ヤトはナタリアの言葉に特に何の反応もせず、ナナもそれで彼女に対する気持ちを変えることはなかった。
なにせ、CNの侵攻で一番犠牲を負ったのは、ナナの属するギルド、幻影の地平線だったからだ。数の少ないCNはレイドなどよりも、最強のギルドでユニオンリーダーを狩ることの方が楽に思えたからこその行動だった。
プロプレイヤーもいる中で、最初こそ優勢だったCNのギルドCNN1だったが、ヤトとビージェイのギルドの参戦で形勢が逆転し、ギルドマスターである男がヤトに敗れて敗走した。
その後、CNはUSとEUのユニオンに侵略されて壊滅したが、ユニオンリーダーを3人の倒したUSとEUは、その流れでRUへと侵攻する流れになって今に至る。
2053年8月
BCO第一の街、始まりし街。
黒い空、黒い雲、その日、太陽が見える時間は約1時間だけで、廃墟の上から地上を見ると、そこには人が数人で戦闘を繰り広げている。
金髪の男や白髪の男、短髪の黒髪の女、中には子どももいる。戦っているのは、人を襲い恐怖に陥れる存在であるモンスターではなく人と人。
「戦っているのはUSとRUのパーティーかな」
短い金髪の女が、廃墟の上から地上を窺う男にそう言う。
「縄張り争いか――」
彼ら別サーバーのプレイヤーたちは、ある種の目的のために他の大陸へと侵略している。
「また参戦するつもりなの?」
心配する女の言葉に男は頷き、廃墟の屋上の端に立つ。飛び降りる高さは地上まで約9メートルほど、落下して地上に着地すると地面が陥没する。
戦闘していたプレイヤーは、その大きな音に視線を向けた。
砂埃から出てきた男は黒髪で、黒いマント風コートを靡かせて歩き出す。
「女の子相手にこの人数、格好が悪いとは思わないのか――」
男はそう言うと、腰に吊るした細い剣を鞘から抜いた。
金髪の男は少し目を細めて凝視すると、見開き直してある事実を口にした。
「こ、こいつはJPのランカーの――」
「ヤトだ、これから参戦させてもらう」
コールと同時に頭の上にHPバーが出現し、フィールド内へと侵入する。
「JPのランカーだ!お前ら逃げるぞ!」
「おい!まじかよ!もう少しであの美少女を生け捕りにできるのにか!」
男が指した先に、幼いが確かに美少女としか言えない女の子がいた。
「馬鹿が!JPランカーヤトだぞ!あの賞金首のヤトだ!KRのランカーやCNのランカーをことごとく返り討ちにして、CNのギルド一つを潰した野郎だ!俺の神が言っている!戦うなってな!」
逃げて行く集団、そして残った者の中で一人の男が剣をヤトへ向ける。
その瞬間ヤトも細い長剣を徐に鞘から抜く。
「待って!」
その金髪男を制したのは、銀髪の美少女だった。
「お願い、話をさせて!彼ならきっと分かってくれる!」
「ナタリア、だが」
美少女の前まで歩いたヤトは剣を鞘へと納めて言う。
「俺もキミたちに話しがある」
ヤトの言葉にナタリアは表情を緩め笑みを溢す。
「私の考えときっと同じよ!」
「――さぁそれはどうかな」
口の端に笑みを刻んだヤトは、美少女の前に手を差し出した。
「ヤトだ」
「ナタリアよ」
BCOの変革から約ふた月ほど経った。
残されたプレイヤーの数は、サーバー内に1万7千ほどで、一万人以上いる理由は他のサーバーと統合された故だ。その内訳は、JP約4000、US約3000、RU約2300、KR約2700、CN約1600、EU約3500。
五つの大陸は最初の大陸のみとなり、その北側を中心に別の大陸が出現した。
南がJPで時計回りに、KRが西南、EUが西北、USが北、CNが東北、RUが東南、となるように大陸が隣接している。
「変革が起きたあの日、JP大陸には動揺とともにKRのプレイヤーが侵入してきた。そして、ヘイザーのギルドのメンバーが数人襲われ何人かがPKされた、そして、その報復に捕らえたKRのプレイヤーをヘイザーがPKした。その後もKRのプレイヤーとは何度か衝突したが、それは一部のプレイヤーの暴走のようでもあり、集団による行動ではないように思えた」
「そうなんだ……そっちも大変だったんだね、こっちも今はUSとEUとCNのユニオンにさっきみたいに無差別に襲われてるの」
USとEUは数週間でユニオンを組み、CNへと侵攻しCNプレイヤーはなすすべなく大陸内外に散らばった。その後、UECユニオンはRUへと攻め込み、RUはJPとのユニオンを模索していた。
「やはりそうなっているのか、どこも似たり寄ったり……ただ、このままじゃそっちのあとはこっちにも攻めてくるんだろうな、UECの奴らは」
「大陸の制覇報酬が現実への帰還となれば、こうなるのは当たり前だったのよね」
USとEUは勢力的には約7500、さらにCNの一部を吸収して約8000。
ヘイザーとアスランとビージェイ、彼らのギルドが協力し、JPのユニオンとして正式に連合を組んだ。アスランは攻略組として一番の武力派、ヘイザーは攻略組を脱落した者たちや中級者の者たち中間層を束ねる二番目の武力派。
そんな中でビージェイは、非戦闘員がいなくなり、レベルが低く攻略にも参加したことのない初級者たちを束ねている。
そんなユニオンの方針で、RUのプレイヤーに接触しようとアスランの右腕であるナナ、ヘイザーの右腕であるタカキヤミ、ビージェイはフレンドのヤトに頼んでRUとの接触を試みた。
そうしてRUのテリトリーでナタリアと出会うヤトは、新たなBCOのクリア目的へと向かっているわけではない。
「クリアに関して、そっちは把握できているのか?」
ヤトの言葉にナタリアは頷いて、「大丈夫――」と言う。
「各大陸の特超級レイドモンスターの二体の討伐、ユニオンリーダーがその闘いに参加して、勝利をすることでそのサーバーの人間は現実へと帰ることができる。加えて、他のサーバーのユニオンリーダー3人を倒しても、その時ユニオンを組んでいる各サーバーも帰還できるわ」
ナタリアを睨むナナ、ヤトはその肩に手を置いて視線を合わせる。
ナタリアはそのナナの怒りの意味を理解しているため、その視線に対して何も言い返すことはなかった。
「BCOが変化してすぐ、JPへ侵攻するためRUのテリトリーを横断するCNを黙認したんだもの、彼女の怒りは分かるわ」
ヤトはナタリアの言葉に特に何の反応もせず、ナナもそれで彼女に対する気持ちを変えることはなかった。
なにせ、CNの侵攻で一番犠牲を負ったのは、ナナの属するギルド、幻影の地平線だったからだ。数の少ないCNはレイドなどよりも、最強のギルドでユニオンリーダーを狩ることの方が楽に思えたからこその行動だった。
プロプレイヤーもいる中で、最初こそ優勢だったCNのギルドCNN1だったが、ヤトとビージェイのギルドの参戦で形勢が逆転し、ギルドマスターである男がヤトに敗れて敗走した。
その後、CNはUSとEUのユニオンに侵略されて壊滅したが、ユニオンリーダーを3人の倒したUSとEUは、その流れでRUへと侵攻する流れになって今に至る。
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