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第三部

126.

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「本来ならJPのように最初は様子見するはずなんだけど、CNもUSもEUも、それよりも早く帰りたいって気持ちで沢山なんだと思う」

「……ま、そんな話はさておき、RUのユニオンリーダーの一人であるナタリアに……どうしてここにいるのか、あと、どうしても聞きたいことがあるんだ」
「?なになに」

 ヤトたちがいるのはJPの大陸の右側、方角でいうなら東北に位置する場所で、廃墟が立ち並ぶスラムを思わせるような街並みの中にいる。

 変化前のBCOにも元々あったが、まだ解除されていないエリアだった。

 ナタリアが座る椅子も風化した様子だが、耐久度でも無くならない限り壊れるということはない。ヤトは彼女の正面に座ると本題に入る。

「まずどうしてここに?俺たちと手を組みたいということなら回りくどいのは無しだ」

「そうね……今、RUは特超級レイドモンスター討伐を模索しているの」
「……」

 ジョーカーが提示した新たなクリア目標の内の一つが、この特超級レイドモンスターの討伐だ。

「RUだけでは無理だとユニオンの話合いで決まり、JPに統合を申し込めば――と他のユニオンリーダーに言われて私が交渉に来たの」

「……結論から言うと、それは無理な話だ」
「え?」

 ヤトがその場で返答してしまったため、ナタリアは、「せめてユニオンリーダーと話させてもらえないの?」と言う。

「交渉もなく、ただ受け入れないっていうのは……」

「すまない、そうじゃないんだ……特超級レイドモンスターの討伐は、全てのサーバーが束になっても倒せる相手じゃないんだ」
「特超級レイドモンスターの討伐に誰か挑んだの?!」

 JPサーバーで身勝手に特超級レイドモンスターの討伐に挑戦した者たち、それはギルドオーダーのラビットだ。

 ケージェイとクラウを欠いたオーダーは、その後ラビットが率いていた。そして、無謀にもオーダーの一部メンバーだけを連れて強行偵察を行った。

 その事実をヤトが話すと、「日本人にもバカはいるんだな――」とRUのスキンヘッドの男が言う。

 その言葉に剣を抜いたのは、ヤトとナナの後ろにいたタカキヤミ、ヘイザーの右腕であり元オーダーに所属していた男だ。

「それ以上アイツを悪く言うなら……この場で殺す」

 その場の空気が一瞬重くなる。

「ヤミ、待て――」
「だがなヤト、アイツのことを悪く言われては黙っていられない!」

 まるで忍者のような装備のタカキヤミは、表情も見えない見た目で、ヤトとナナと一緒にRUの同盟の交渉を請け負ったメンバーの一人だ。

「ラビットが特超級レイドモンスターの討伐に挑んだ理由は、お前も知っているだろヤト。理由も知らない奴に、アイツをバカ呼ばわりさせておけない」

 RUのスキンヘッドの男は、「訳が分かんねぇな」と戸惑う。

「悪いが言葉は慎んでくれ、特超級レイドモンスターに挑んだ奴は、そのモンスターの情報を知らせる目的でそうしたんだ」

 ヤトの言葉にタカキヤミは忍び刀を腰に収めると、思い返すように話す。

「あいつは、責任感の強い奴だった――」


 その日、ヤトのもとを訪ねたのは、忍者の格好をしたタカキヤミだった。

 彼はヘイザーとレイネシアに隠れてはいたが、ヤトとしても認識してはいた存在で、タカキヤミは、「突然の訪問すまない」と言い、あるアイテムをヤトに手渡した。

 そのアイテムは、声を伝えるメッセージ用アイテムだった。

「これは?」
「……ラビット、アイツがお前に託す最後の情報だ」

 この時のヤトは一人レベリングをするだけの生活を過ごしていて、ラビットやオーダーがその後どうなったのかを気にも留めていなかった。

「タカキヤミ、どうして元オーダーのお前が今更ラビットの下働きなんかしているんだ?」
「勘違いするな、アイツは仲間じゃない、だが、友だちではあった」

 ヤトは意外だと思いながら、タカキヤミからアイテムを受け取る。

 そして、再生されるラビットの声にヤトはジッと耳をすました。
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