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第三部
129.57 撤退戦
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57 撤退戦
スラムを思わせるエリアにはダンジョンもあり、その周辺はモンスターが沸いていた頃には強いモンスターだらけで、誰も立ち寄らない場所だった。
そんな場所でナナは、自身の短く切って金髪に染めた姿を水溜まりに映して眺めている。すると、低い声で話しかけられ慌てて視線を泳がす。
「何をしているんだナナ、こんな人気のないところで――」
「シャドー!ちょっと、急に現れないでって言ってるでしょ!」
タキシードを着たウサギの姿のシャドー、ヤトの人格のコピーのコピーであり性能が抑えられたAIである。そんなシャドーはナナの髪を見て言う。
「カイトの代わりのつもりか?」
シャドーの言葉にナナは、足元の石を拾い水溜まりに波紋を作る。
「……だったら?なに」
「……ふ~、似合っているぞ」
不意なシャドーの優しさに、彼女は頬を赤らめた。
「きゅ、急になんなの……もう」
徐々に声を小さくしたナナは、照れ隠しにウサギの口に指を突っ込む。その瞬間シャドーは至福の表情で停止した。
腰かける岩のオブジェ、以前は短パンだった足元はスカートに変わり、少しおしゃれをしている。シャドーを膝に抱えたナナは、溜息を吐いて「別にカイトの代わりってわけじゃないよ」と言う。
「ただ、ちょっと憧れていたんだよね、黒い服ばっかのヤトの隣で金髪で小さいカイトが凄い可愛く見えたから」
「自身も可愛く見られたいと?ふっナナは十分カワイイと思うが」
シャドーの言葉に完全に真っ赤になったナナは、「……ありがと」と言う。
そんなナナのもとへ駆け寄ってくるのは、幻影の地平線のメンバーの一人だった。
「ナナさん、USの連中が――」
「US!?分かったわ、二人に伝えてくる」
ナナはそう言うとシャドーを肩に乗せて、ヤトとタカキヤミのもとへ向かう。
ヤトとタカキヤミは、ナタリアとダヴィードと話合いが続いていて、ナナが知らせに行くとダヴィードが率先して移動する。
「相手の数は?」
「ごめんなさい、USが近づいてきてるってこと以外は」
「おそらくは例のUSのユニオンリーダーに違いない」
ヤトの言葉にタカキヤミは、JP最速の異名を持つAGIを活かして、先行するダヴィードを追い抜いて行く。
廃墟の壁を駆けあがると、ダヴィードは口笛を吹いて驚きを表し、鼻から煙を吐きそれに続こうとする。しかし、耐久の低い場所があり、葉巻を銜える彼の足元が崩れてしまった。
「っちぃぃ!」
落下しかけるダヴィードをタカキヤミは、鼻で笑いながら足で体を固定し右手で彼の腕を掴む。
「……忍者ってやつかぁぁ」
二ヘラと笑みを浮かべたダヴィードは、少しだけ嬉しそうにそう言う。
ダヴィードを持ち上げて上へと投げ飛ばしたタカキヤミは、もう一度壁を蹴って廃墟を上り索敵する。
視界に捉えたプレイヤーの総数は約100で、彼はすぐにメッセージをヤトに飛ばす。
「こいつぁぁ、おそらくヤバイなぁぁ」
メンツはナタリア側が約12名、ヤトたちは6名で合わせても20に届かない。
1人で5人相手をする計算で、状況が良いと言える者はいない、もちろんヤトもその考えだった。
「どうするのヤト、私やタカキヤミは何とかなるけど、他の三人は死にかねないわよ」
「……殿を残す、俺とヤミだ、ナタリア……お前たちはどうする?」
ナタリアはダヴィードに耳打ちすると、「私だけあなたたちと行くわ」と言う。
「いいのか?それだといざという時に――」
「守ってくれる人がいない?こう見えてもユニオンリーダーなの、ダヴィードほどじゃないけど強いよ――私」
ダヴィードもその意見に賛成しているようで、「俺はぁぁ居残り組に参加するかねぇぇ」と肩を回し始める。
ナナは不満そうに、「私も残る」と言うと、ヤトがその言葉を一蹴する。
「俺たちが全員を足止めできるわけじゃない、ナナは足止めより追ってくる敵の排除の方が戦闘スタイルとしても妥当だ」
「いいえ、私がいた方が敵も殿の方に視線が集まるはずよ、……だって女だから」
ナナが言う、女だからの言葉にヤトは眉を顰めた。
「変革後、CNのギルドがUSのギルドと戦うことになり、CN側が女性のプレイヤーに違法なアイテムで奴隷のような扱いをし、その報復として勝利したUSとEUのユニオンがCNの女性を今も奴隷のように扱っていると聞く」
そのタカキヤミの言葉にヤトは、尚更ナナは残るべきじゃないと言い。ナナはそれでも残ると言うためヤトは、仕方ないと言いながらストレージからアイテムを取り出した。
そのアイテムは丸い小さなフラスコのように見え、ナナは首を傾げ、タカキヤミは察して一歩身を退く。
「すまない」
パリンっとアイテムが弾けると、ナナのステータスにデバフのマークが点滅する。
「う……ヤ、ト――」
ナナはグッタリとして体をヤトに預けると、静かに寝息を掻き始めた。
ヤトはナナの部下を一瞥すると彼女を抱き上げる。
「おい、ナナを頼む」
「は、はい!」
ナナの仲間が彼女を背負うと、ナタリアも一緒に撤退し始めた。
「ダヴィード無茶はダメだから!」
葉巻を口に銜えながら右手を一度だけ上げた彼は、腰から戦斧にしか見えない装備を手に持つ。ヤトはその装備を見て、BCO内に剣の類しか生成されない事実からユニークアイテムであると認識する。
「勘違いしてるだろうがぁぁコレは斧の類じゃないぃぃ、バトルブレイドというユニークアイテムだぁぁ」
「……」
察していた、などとヤトが言うわけもなく、タカキヤミはその様子を見て、「アイテム自慢なら後にしろ」と声をかけた。
スラムを思わせるエリアにはダンジョンもあり、その周辺はモンスターが沸いていた頃には強いモンスターだらけで、誰も立ち寄らない場所だった。
そんな場所でナナは、自身の短く切って金髪に染めた姿を水溜まりに映して眺めている。すると、低い声で話しかけられ慌てて視線を泳がす。
「何をしているんだナナ、こんな人気のないところで――」
「シャドー!ちょっと、急に現れないでって言ってるでしょ!」
タキシードを着たウサギの姿のシャドー、ヤトの人格のコピーのコピーであり性能が抑えられたAIである。そんなシャドーはナナの髪を見て言う。
「カイトの代わりのつもりか?」
シャドーの言葉にナナは、足元の石を拾い水溜まりに波紋を作る。
「……だったら?なに」
「……ふ~、似合っているぞ」
不意なシャドーの優しさに、彼女は頬を赤らめた。
「きゅ、急になんなの……もう」
徐々に声を小さくしたナナは、照れ隠しにウサギの口に指を突っ込む。その瞬間シャドーは至福の表情で停止した。
腰かける岩のオブジェ、以前は短パンだった足元はスカートに変わり、少しおしゃれをしている。シャドーを膝に抱えたナナは、溜息を吐いて「別にカイトの代わりってわけじゃないよ」と言う。
「ただ、ちょっと憧れていたんだよね、黒い服ばっかのヤトの隣で金髪で小さいカイトが凄い可愛く見えたから」
「自身も可愛く見られたいと?ふっナナは十分カワイイと思うが」
シャドーの言葉に完全に真っ赤になったナナは、「……ありがと」と言う。
そんなナナのもとへ駆け寄ってくるのは、幻影の地平線のメンバーの一人だった。
「ナナさん、USの連中が――」
「US!?分かったわ、二人に伝えてくる」
ナナはそう言うとシャドーを肩に乗せて、ヤトとタカキヤミのもとへ向かう。
ヤトとタカキヤミは、ナタリアとダヴィードと話合いが続いていて、ナナが知らせに行くとダヴィードが率先して移動する。
「相手の数は?」
「ごめんなさい、USが近づいてきてるってこと以外は」
「おそらくは例のUSのユニオンリーダーに違いない」
ヤトの言葉にタカキヤミは、JP最速の異名を持つAGIを活かして、先行するダヴィードを追い抜いて行く。
廃墟の壁を駆けあがると、ダヴィードは口笛を吹いて驚きを表し、鼻から煙を吐きそれに続こうとする。しかし、耐久の低い場所があり、葉巻を銜える彼の足元が崩れてしまった。
「っちぃぃ!」
落下しかけるダヴィードをタカキヤミは、鼻で笑いながら足で体を固定し右手で彼の腕を掴む。
「……忍者ってやつかぁぁ」
二ヘラと笑みを浮かべたダヴィードは、少しだけ嬉しそうにそう言う。
ダヴィードを持ち上げて上へと投げ飛ばしたタカキヤミは、もう一度壁を蹴って廃墟を上り索敵する。
視界に捉えたプレイヤーの総数は約100で、彼はすぐにメッセージをヤトに飛ばす。
「こいつぁぁ、おそらくヤバイなぁぁ」
メンツはナタリア側が約12名、ヤトたちは6名で合わせても20に届かない。
1人で5人相手をする計算で、状況が良いと言える者はいない、もちろんヤトもその考えだった。
「どうするのヤト、私やタカキヤミは何とかなるけど、他の三人は死にかねないわよ」
「……殿を残す、俺とヤミだ、ナタリア……お前たちはどうする?」
ナタリアはダヴィードに耳打ちすると、「私だけあなたたちと行くわ」と言う。
「いいのか?それだといざという時に――」
「守ってくれる人がいない?こう見えてもユニオンリーダーなの、ダヴィードほどじゃないけど強いよ――私」
ダヴィードもその意見に賛成しているようで、「俺はぁぁ居残り組に参加するかねぇぇ」と肩を回し始める。
ナナは不満そうに、「私も残る」と言うと、ヤトがその言葉を一蹴する。
「俺たちが全員を足止めできるわけじゃない、ナナは足止めより追ってくる敵の排除の方が戦闘スタイルとしても妥当だ」
「いいえ、私がいた方が敵も殿の方に視線が集まるはずよ、……だって女だから」
ナナが言う、女だからの言葉にヤトは眉を顰めた。
「変革後、CNのギルドがUSのギルドと戦うことになり、CN側が女性のプレイヤーに違法なアイテムで奴隷のような扱いをし、その報復として勝利したUSとEUのユニオンがCNの女性を今も奴隷のように扱っていると聞く」
そのタカキヤミの言葉にヤトは、尚更ナナは残るべきじゃないと言い。ナナはそれでも残ると言うためヤトは、仕方ないと言いながらストレージからアイテムを取り出した。
そのアイテムは丸い小さなフラスコのように見え、ナナは首を傾げ、タカキヤミは察して一歩身を退く。
「すまない」
パリンっとアイテムが弾けると、ナナのステータスにデバフのマークが点滅する。
「う……ヤ、ト――」
ナナはグッタリとして体をヤトに預けると、静かに寝息を掻き始めた。
ヤトはナナの部下を一瞥すると彼女を抱き上げる。
「おい、ナナを頼む」
「は、はい!」
ナナの仲間が彼女を背負うと、ナタリアも一緒に撤退し始めた。
「ダヴィード無茶はダメだから!」
葉巻を口に銜えながら右手を一度だけ上げた彼は、腰から戦斧にしか見えない装備を手に持つ。ヤトはその装備を見て、BCO内に剣の類しか生成されない事実からユニークアイテムであると認識する。
「勘違いしてるだろうがぁぁコレは斧の類じゃないぃぃ、バトルブレイドというユニークアイテムだぁぁ」
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