Blade Chain Online―ブレイド・チェーン・オンライン―

tobu_neko_kawaii

文字の大きさ
129 / 138
第三部

129.57 撤退戦

しおりを挟む
 57 撤退戦

 スラムを思わせるエリアにはダンジョンもあり、その周辺はモンスターが沸いていた頃には強いモンスターだらけで、誰も立ち寄らない場所だった。

 そんな場所でナナは、自身の短く切って金髪に染めた姿を水溜まりに映して眺めている。すると、低い声で話しかけられ慌てて視線を泳がす。

「何をしているんだナナ、こんな人気のないところで――」
「シャドー!ちょっと、急に現れないでって言ってるでしょ!」

 タキシードを着たウサギの姿のシャドー、ヤトの人格のコピーのコピーであり性能が抑えられたAIである。そんなシャドーはナナの髪を見て言う。

「カイトの代わりのつもりか?」

 シャドーの言葉にナナは、足元の石を拾い水溜まりに波紋を作る。

「……だったら?なに」
「……ふ~、似合っているぞ」

 不意なシャドーの優しさに、彼女は頬を赤らめた。

「きゅ、急になんなの……もう」

 徐々に声を小さくしたナナは、照れ隠しにウサギの口に指を突っ込む。その瞬間シャドーは至福の表情で停止した。

 腰かける岩のオブジェ、以前は短パンだった足元はスカートに変わり、少しおしゃれをしている。シャドーを膝に抱えたナナは、溜息を吐いて「別にカイトの代わりってわけじゃないよ」と言う。

「ただ、ちょっと憧れていたんだよね、黒い服ばっかのヤトの隣で金髪で小さいカイトが凄い可愛く見えたから」
「自身も可愛く見られたいと?ふっナナは十分カワイイと思うが」
 シャドーの言葉に完全に真っ赤になったナナは、「……ありがと」と言う。

 そんなナナのもとへ駆け寄ってくるのは、幻影の地平線のメンバーの一人だった。

「ナナさん、USの連中が――」
「US!?分かったわ、二人に伝えてくる」

 ナナはそう言うとシャドーを肩に乗せて、ヤトとタカキヤミのもとへ向かう。

 ヤトとタカキヤミは、ナタリアとダヴィードと話合いが続いていて、ナナが知らせに行くとダヴィードが率先して移動する。

「相手の数は?」

「ごめんなさい、USが近づいてきてるってこと以外は」
「おそらくは例のUSのユニオンリーダーに違いない」

 ヤトの言葉にタカキヤミは、JP最速の異名を持つAGIを活かして、先行するダヴィードを追い抜いて行く。

 廃墟の壁を駆けあがると、ダヴィードは口笛を吹いて驚きを表し、鼻から煙を吐きそれに続こうとする。しかし、耐久の低い場所があり、葉巻を銜える彼の足元が崩れてしまった。

「っちぃぃ!」

 落下しかけるダヴィードをタカキヤミは、鼻で笑いながら足で体を固定し右手で彼の腕を掴む。

「……忍者ってやつかぁぁ」

 二ヘラと笑みを浮かべたダヴィードは、少しだけ嬉しそうにそう言う。

 ダヴィードを持ち上げて上へと投げ飛ばしたタカキヤミは、もう一度壁を蹴って廃墟を上り索敵する。

 視界に捉えたプレイヤーの総数は約100で、彼はすぐにメッセージをヤトに飛ばす。

「こいつぁぁ、おそらくヤバイなぁぁ」

 メンツはナタリア側が約12名、ヤトたちは6名で合わせても20に届かない。

 1人で5人相手をする計算で、状況が良いと言える者はいない、もちろんヤトもその考えだった。

「どうするのヤト、私やタカキヤミは何とかなるけど、他の三人は死にかねないわよ」
「……殿を残す、俺とヤミだ、ナタリア……お前たちはどうする?」

 ナタリアはダヴィードに耳打ちすると、「私だけあなたたちと行くわ」と言う。

「いいのか?それだといざという時に――」
「守ってくれる人がいない?こう見えてもユニオンリーダーなの、ダヴィードほどじゃないけど強いよ――私」

 ダヴィードもその意見に賛成しているようで、「俺はぁぁ居残り組に参加するかねぇぇ」と肩を回し始める。

 ナナは不満そうに、「私も残る」と言うと、ヤトがその言葉を一蹴する。

「俺たちが全員を足止めできるわけじゃない、ナナは足止めより追ってくる敵の排除の方が戦闘スタイルとしても妥当だ」
「いいえ、私がいた方が敵も殿の方に視線が集まるはずよ、……だって女だから」

 ナナが言う、女だからの言葉にヤトは眉を顰めた。

「変革後、CNのギルドがUSのギルドと戦うことになり、CN側が女性のプレイヤーに違法なアイテムで奴隷のような扱いをし、その報復として勝利したUSとEUのユニオンがCNの女性を今も奴隷のように扱っていると聞く」

 そのタカキヤミの言葉にヤトは、尚更ナナは残るべきじゃないと言い。ナナはそれでも残ると言うためヤトは、仕方ないと言いながらストレージからアイテムを取り出した。

 そのアイテムは丸い小さなフラスコのように見え、ナナは首を傾げ、タカキヤミは察して一歩身を退く。

「すまない」

 パリンっとアイテムが弾けると、ナナのステータスにデバフのマークが点滅する。

「う……ヤ、ト――」

 ナナはグッタリとして体をヤトに預けると、静かに寝息を掻き始めた。

 ヤトはナナの部下を一瞥すると彼女を抱き上げる。

「おい、ナナを頼む」
「は、はい!」

 ナナの仲間が彼女を背負うと、ナタリアも一緒に撤退し始めた。

「ダヴィード無茶はダメだから!」

 葉巻を口に銜えながら右手を一度だけ上げた彼は、腰から戦斧にしか見えない装備を手に持つ。ヤトはその装備を見て、BCO内に剣の類しか生成されない事実からユニークアイテムであると認識する。

「勘違いしてるだろうがぁぁコレは斧の類じゃないぃぃ、バトルブレイドというユニークアイテムだぁぁ」
「……」

 察していた、などとヤトが言うわけもなく、タカキヤミはその様子を見て、「アイテム自慢なら後にしろ」と声をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...