帝国に売られた伯爵令嬢、付加魔法士だと思ったら精霊士だった

紫宛

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本編

誘拐

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挨拶のマナーに食事のマナー、歴史のお勉強と楽しく学んでたんですが……

お母さんとお父さんが、勉強しすぎよと心配してしまって……本日はお勉強がお休みになりました。

なので、シェイドさんとカイルさんと一緒に街に出ました。ただ、流石に護衛が2人なのは良くないという事で、私の騎士団から数人が、離れて護衛について下さいました。

それから精霊さん達も、いつもより多くくっ付いてくれています。

街は、初めて来た時に通ったきりなので、凄く楽しみです。

「セシリア様、行きたい所はありますか?」
「行きたいところ?」
「そうよ、どこかない?」
「うーん?」

そう言われても……
シルヴィアス家にいた時も、あまり出歩いたことなかったし……

街に何があるのかも、分からない……

「それじゃ、そこの露店でも見ていきましょう」

私が悩んでいると、シェイドさんが私の手を取って反対の手で露店を指さした。

そこには、色とりどりの花を売っているお店や、キラキラの石が付いた髪飾りを売ってるお店……
その反対には、お肉を焼いているお店に、甘い匂いがするお店……

「あの、良いんですか?」
「何が?」
「貴族はこういう所には来ないんじゃ…?」

私はよく知らなけれど、シェイラ様やレイディア様は、外のお店には絶対に行かなかった。穢らわしいって言って……

「セシリア様が嫌なら、別の所にするけど…?」
「ううん!行くっ!行ってみたいっ!」

シェイドさんがめる?って聞くから、私は急いで行くって返事しました。
シェイラ様たちみたいに、キラキラのお店に行って沢山の人達を侍らせて、買い物するなんて……想像出来ないし。

それに……

セシリアは、辺りを見渡した。

お肉の刺さった串を頬張って、笑う親子。
キラキラの石が付いた髪飾りを女性に当てて、選んでる男の人。
お客さんを呼び込む人の声……

みんな笑顔で楽しそう…

「じゃあ、行きましょうか。セシリア様、私かカイルの傍を絶対に離れないで下さいね」
「はい」

シェイドさんの手をしっかりと握り、お店に向かって歩き始めた。



そんな3人を、物陰から密かに観察する者がいた。

「移動始めた…てめぇら手筈通りに」
「了解」

世界を総べる力を持つ精霊士……それを手に入れられれば…
純粋な少女だ……疑う事を知らない。
今なら、まだ騙せるだろう…

男達は、気配を消して更にかなりの距離を開け隠れて追いかけた。これ以上近づくと、シェイドに気付かれる恐れがあるからだ。

シェイドは、話し方の関係であまり強そうには見えないが、帝国内でも指折りの強さを持つ騎士の1人で、皇帝と並ぶほどの実力を持っていた。

「チッ、少しでいい、隙が出来れば……」


男が遠くから見つめる中……セシリアはシェイドに買って貰った、ふわふわした綿の様なお菓子を食べていた。

「シェイド様、これ、ふわふわで甘くてすぐ溶けちゃうね!美味しい!」
「そう、良かったわ」
「……」

カイルさんは何も言わなかったけれど、私を見て笑ったようだった。

セシリアは首を傾げ、カイルを見ている。既に綿菓子は食べ終わったようだ。

「頬、付いてる」
「え?」

カイルの手が、セシリアの口元に寄せられる。頬に付いた綿菓子を取って、自分の口に運んだ彼は「甘い……」と一言呟いた。

「次は、どこ行こうかしら?」
「あれ?あっち何かやってるみたいです!シェイドさんっ」

セシリアの視線を追って広場を見れば、何やら大道芸が行われているようだった。

大きいボールの上に乗って移動したり、ボールの上に乗ったままナイフを投げて、反対の手で受け取って、受け取ったナイフををまた反対の手に投げるを繰り返し行っていた。

「凄いっ!」

ナイフは一本づつ増えて、合計5本のナイフを投げている。

セシリアは、夢中で大道芸に魅入っていた。
少しづつ、前に進んで最前列で見ていた。
シェイド達はセシリアの少し後ろで、周囲を警戒しないがら見ていた。


だが……







「カイルっ!居た?!」
「いや、居ないっ!」
「他の騎士は?!」
「それが、居ないんだっ!」
「セシリア様を追いかけたのかしら?!」
「分からんっ」

油断していたつもりはなかった。
大道芸や周囲の人も警戒していた……
怪しい奴が近づけば、見える位置に私達は居たはずだった……!

手を伸ばせば捕まえられる位置に、セシリア様は居たはずだったのにっ!

一瞬、殺気を感じて振り返った。
周囲を見渡して、再びセシリアに視線を戻した……けど、そこには誰も居なかった。

「え?セシリアっ?!」

目を離したのは、ほんの数秒だった……

どこ行っちゃったの?!

広場の中央では、車輪が1つだけの乗り物で器用にバランスを取っている男がいた。市民達の視線は、その男に集中している。

何かっ、何か手掛かりはないの?!

その時、微かに袖を何かが引っ張る様な感じがした。

「え?」

くいっ

まただ、何かが袖を引っ張っている。
まるで、私たちを何処かに連れて行きたいみたいに。

「…セシリアの居場所が分かるの?」

答えは無いと分かっていても、私は問いかけた。セシリアのそばに、いつも居るという小さな精霊の存在を信じて。

その言葉に肯定するかのように、また袖が引かれる。

「カイル、私はセシリア様を探しに行くわ。あなたは……」
「陛下に報告し、騎士を導入してくれるよう頼んでくる」
「ええ、頼んだわよっ!」

シェイドは、袖を引っぱられた方に向かって走り出した。やっぱり近くに他の騎士の気配がない……

私がいながら、なんて失態なのっ!
嫌な予感がするわっ
どうか、無事でいて……っ!


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