竜帝は番を見つける

紫宛

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本編

花冠と笑顔、そして竜化

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竜帝国ドラグニアスに戻る途中、来た時と同じ場所で休憩を取る事にした。
俺たちは大丈夫だが、娘が疲れてるんじゃないかと周りの奴らに言われていたからだ。

娘が竜人なのは分かったが、竜化出来るかは分からなかったから、俺の背中に乗せて飛ぶ事にした。竜の力によって風圧は感じないとは思うが……万が一の可能性もある。
仕方ないから、ヨハンも乗せて万全を期して飛んでいた。

娘は、空の旅をずっと楽しんでいたな。

地上に降りて軽く食事を取り、各自自由な時間を過ごす事にした。

すると、娘が花冠を作りたいと言い出した。

もちろん、俺が作れるわけが無い……
なので、兵士に作れる奴がいないか探したら、1人の女竜兵が名乗り出た。

「お嬢様、私が作り方を教えますね」
「はぃ、ぉね…がぃ、ます」

ただ、花冠を作るのに花が少ないらしく、女竜兵は草や蔦で作っていた。
娘も作ろうと、女竜兵の手元を覗き込みながら一生懸命に手を動かしていた。

その時、一陣の風が吹き、娘の傍に桃色の髪をした中性的な精霊が立っているのに気付いた。

『黎明竜様……花が欲しいのですか?』
「ぅん!」

娘は、名前に頓着がない。と言うか、名前が無いため「おい」でも「娘」でも「黎明竜」でも、自身に向けられれば返事をする。だから。精霊の言葉に素直に頷いた。すると、精霊は柔らかく微笑み、娘の手に花を作り出した。花を出したんじゃない、魔力で花を作り出したのだ。

『これで、足りますか?』
「ぁり、が、と」

精霊は。再び微笑むと風と共に消えた。
小さな手で草や花を丁寧に編んでいく姿を、俺は穏やかな気持ちで眺めていた。

すると、娘が俺の元に駆けてくる。

なんだ?どうした?

俺が内心慌てていると、娘が手にした花冠を俺に差し出した。

「……っ?!」

俺の頭に乗せるのか?!似合わねぇだろ!?

近くにいたフェリドとヨハンが、笑いを堪えている。

チッ

だが、俺が戸惑っていると娘が悲しそうな顔をする。

うっ……!

 娘の悲しそうな顔は好きじゃない…
頭に花冠を乗せるくらい、俺が笑いものになるだけだっ!

……という事で、頭を低くすると、娘がふわっと笑って俺の頭に花冠を乗せた。



娘の笑顔に俺の顔も、緩む。
すると、娘は、俺の緩んだ顔を見て更に嬉しそうに笑った。
そんな娘の脇に手を入れて持ち上げると、自分の膝の上に乗せ、俺は無意識に娘の頭を撫でていた。

娘がまた2つの花冠を作ると、フェリドとヨハンにも渡した。
2人とも微妙な顔をしたあと、頭に花冠を乗せおかしそうに笑った。

他の兵士達も俺達を見て笑っていた。俺も、娘も兵士たちもみな笑っていた。


暫く皆で笑って、出発した。


だが……


「っ止まれ!ライオネルっ!」

ヨハンが叫んだのは、セスティアとドラニアスの国境付近だった。
敬称も言えないくらい、切羽詰まった叫び声。その声に驚いたライオネルは、翼をはためかせ空中停止した。

「っ、どうした?!」
「お嬢の様子がおかしいっ!」

ライオネルは、意識を少女に向けたが、何も感じ取れなかった。

くそっ!何が起きた?!

急ぎ地上に降りたが、状況は芳しくなかった。娘が胸元を押え苦しそうに唸っていたからだ。

「どうした?何があった?!しっかりしろっ」
「ぉう、さま」

﹣わからない、くるしい﹣

「さっきまで普通だったろう!」
「急にッス!急に胸を抑えて苦しみ出したっすよ!」
「娘!」

俺が娘を呼ぶと同時に、娘から眩い光が発せられ……光が収まると娘は消えていた。
だがそこには、娘の代わりに紫銀の鱗をした小型の竜がいたのだった。

竜の瞳が開かれると、娘と同じ金の双眸をしていた。

『古き血の盟約により、我、黎明竜ティアルーナは、この地を離れること能わず』

あの時と同じ、娘から発せられたとは思えないほど流暢で威厳に満ちた声だった。

「盟約……だと?」
『そうだ。この地の王に囚われた際、血の盟約を交わされた。故に!我はこの地を離れることは出来ぬ。我の血を、色濃く継ぐこの娘もまた然り』

始祖竜の血を強く濃く継ぐものには、始祖竜の魂もまた宿ると言うが……まさか、娘そうだとは思わなかったな。

「盟約を切るには、どうすれば?」
『……鎖を断ち切るには、同じ始祖竜の力が必要だ。それも我と同格でなければならぬ。黒曜竜であれば、可能であろう』
「……」

俺は腕を組み黙って話を聞く。

『だが、簡単ではないぞ。まず、魔力を同調させ、娘の精神に入れ。その後魔力の流れを見よ。娘の力が、この地に流れているのが分かるはずだ。それを黒曜竜の力で断ち切れ。そうすれば、我は自由の身となり娘共々この地を離れられる』

すると黎明竜は、これ以上は娘の体が耐えられぬと言って早々に元に戻った。

これでハッキリと証明されたのは、娘は竜化出来るということと、俺と同じ始祖竜の力を強く受け継いでいるということ。その身に始祖竜の魂を宿しているという事だ。

まぁ、滅多に表には出てこないがな。

いや、そんな事より娘の事だな。

確か……

「俺と娘の魔力を同調させ、精神に潜れば良いんだよな?そして、魔力の流れを突き止め黒曜竜の力で切る」

娘の手を握り、魔力を重ね合わせていく。
少しづつ流し合わせていくと、段々と同調して行く。意識を集中させ、娘の中に潜る。

本来ならあまりやりたくない事だ。
精神に潜るということは、娘の心を覗くということ。普通は嫌がるだろうからな。

まぁ、番だから、潜らなくても、多少は見えちまうけど……

魔力を辿り娘の中を進んでいく。流れる景色は娘の過去を映し出していた。

見ないように、見ないようにしていても目に入ってしまう。娘の受けた、仕置き虐待、理不尽な暴力……

あぁ、大丈夫だ。

もう、こんな目には合わせないから……



そうして辿り着いた場所は、赤い鎖で雁字搦めに縛り付けられた小さな竜と少女だった。

ライオネルの顔から血の気が引き、一瞬で血がのぼった。呆然と立ち尽くしかけたが、それでも何とか動き、魔力の流れを探した。

解放が先だっ!

だが、探すまでもなく、大量に魔力が流れていくので直ぐにわかった。
竜人化(竜の角や尻尾があるが人型)して、自身の鱗で作った特殊な剣で断ち切った。

魔力の流れる道を断ち切れば、大量に流れていた魔力は道を失い戻って行った。赤い鎖は跡形もなく消え去り、竜も少女も解放された。

『よくやった、小僧』

黎明竜の褒める声が聞こえた瞬間に、俺の体は魔力の奔流に呑まれ、自身の体に戻っていた。

「っ!はぁ、はぁ。これで、問題は無いと思うが……っ」
「ぉう、さま、だ、ぃじょぶ?」

娘の顔を見ると、先程までの苦しそうな顔は消えていた。

「俺は大丈夫だ、お前も大丈夫そうだな」

俺の手は、娘の頭に伸びてガシガシと激しく撫でた。娘は、されるがままに大人しくしているが、俺のマントを握りしめ「ょかっ…た」と呟いた。


「陛下、今日はここで休みましょう。陛下もお嬢様も休息が必要です」
「あぁ、そうだな。そうするか」

俺も、娘も疲れてるのは事実、フェリドの提案を受けて、1晩休みを摂ることになったのだった。
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