24 / 252
第24話
しおりを挟む
◆高梨百合恵 視点◆
ゴールデンウィーク以来となる久し振りの3連休の初日は、夫悠一さんの希望で川越にある春日の実家へ挨拶へ行くことになった。
埼玉で最寄り駅まで都内から電車1本で繋がっているとは言え、春日の家は駅からは遠く迎えに来てもらわないとならないくらいに不便な場所で、そのため余裕を持って到着時間の連絡をしていたが、お義母さんの車が迎えに来たのはわたし達が駅に着いてから30分以上も過ぎた頃だった。
猛暑で体力が奪われ意識が朦朧としてした中で聞かされたのは『テレビに見入って家を出るのが遅れた』とのこと。予報で最高気温が38℃の日に謝罪の言葉一つなく笑いながらテレビを見ていて待たせたと言うのだ。
悠一さんは笑って聞いているけど、わたしからしたら堪ったものではない。ただでさえ来たくない場所に連れて行かれるのに炎天下の中を30分以上も待たされて悪びれもしない。この時点で、気持ちのささくれ立ちはけっこうなものになっていた。
春日の家に着くと敷地の入口付近に見たくない車が駐まっていた・・・同じ様に連休を利用して義姉がこども達を連れて遊びに来ていたのだ。
義父母とお義兄さんだけでもしんどいのに、お義姉さんまでいるのは悪夢でしかない。
義姉一家は隣町の鶴ヶ島に住んでいてその距離の近さもあり小学生のこども達を連れてよく遊びに来ているのだけど、ご主人の隼人さんは滅多にこの家には来ないらしく、実際に顔を見るのは正月くらいだ。
その気持ちはよく分かる。わたしだってできることならこの家には近寄りたくない。
案の定、お義兄さんとお義姉さんのこども自慢から始まり『悠一のところも早く作れ』『こどもを作る気がないから百合恵さんは仕事を辞めないのでは?』などと口撃される。
悠一さんも含め5人からの波状攻撃に炎天下で弱っていたわたしは泣き出しそうだった。
いつもの事とは言え逃げ出したい気持ちしかないし、ここには敵しか居ないとしか思えない。
そんな心が折れそうな状況のわたしに向かって悠一さんが言ってきた。
「いい加減、音楽教師なんか辞めて家庭に専念しろよ。それが嫁の責任だろ?
そもそも音楽なんか何の役にも立たない遊びみたいなもんなんだから固執するなよ」
もう限界だった。わたしの人生を、人格を全否定されたようなものだった。
「そう仰るならもう結構です!無責任な女は責任を取って悠一さんとの婚姻を解消します!!」
そう言い放って、そのまま春日の家を出ていった。
都内と違いタクシーはあまり走っておらず、見掛けても乗客がいる賃走の車しかない。
しかたがないので、まずはコンビニか何かお店に入ってから心を落ち着けようとスマホの地図アプリを頼りに炎天下を歩き続けた。
メッセージアプリには引っ切り無しに悠一さんからのメッセージと電話の着信が届くが見る気も起きず、話を聞くきも起きずブロックした。
そうしたら次はお義母さんのスマホからメッセージと電話の着信がきたがこれもブロック・・・お義父さん、お義兄さん、お義姉さんと次々着信が来たが都度ブロックしていった。
川越は東京から近い有名な都市ではあるけど、街の中心地から離れれば商店もろくにない。
やっとたどり着いたコンビニで水を買って飲み、人心地着いてからこれからどうしようかと考えた。
今更春日の家に戻ることはありえない。
かと言って、今の状態で悠一さんと暮らしているマンションへ帰る気にもなれない。
1人で考えていてもどうにもならないと思い、一番の親友である赤堀みゆきに電話した。
幸いみゆきはすぐに出てくれて、夫の実家から逃げ出した話をすると『今日のところは泊めてあげるから、うちに来なさい』と言ってくれたので、みゆきに甘えることにした。
ゴールデンウィーク以来となる久し振りの3連休の初日は、夫悠一さんの希望で川越にある春日の実家へ挨拶へ行くことになった。
埼玉で最寄り駅まで都内から電車1本で繋がっているとは言え、春日の家は駅からは遠く迎えに来てもらわないとならないくらいに不便な場所で、そのため余裕を持って到着時間の連絡をしていたが、お義母さんの車が迎えに来たのはわたし達が駅に着いてから30分以上も過ぎた頃だった。
猛暑で体力が奪われ意識が朦朧としてした中で聞かされたのは『テレビに見入って家を出るのが遅れた』とのこと。予報で最高気温が38℃の日に謝罪の言葉一つなく笑いながらテレビを見ていて待たせたと言うのだ。
悠一さんは笑って聞いているけど、わたしからしたら堪ったものではない。ただでさえ来たくない場所に連れて行かれるのに炎天下の中を30分以上も待たされて悪びれもしない。この時点で、気持ちのささくれ立ちはけっこうなものになっていた。
春日の家に着くと敷地の入口付近に見たくない車が駐まっていた・・・同じ様に連休を利用して義姉がこども達を連れて遊びに来ていたのだ。
義父母とお義兄さんだけでもしんどいのに、お義姉さんまでいるのは悪夢でしかない。
義姉一家は隣町の鶴ヶ島に住んでいてその距離の近さもあり小学生のこども達を連れてよく遊びに来ているのだけど、ご主人の隼人さんは滅多にこの家には来ないらしく、実際に顔を見るのは正月くらいだ。
その気持ちはよく分かる。わたしだってできることならこの家には近寄りたくない。
案の定、お義兄さんとお義姉さんのこども自慢から始まり『悠一のところも早く作れ』『こどもを作る気がないから百合恵さんは仕事を辞めないのでは?』などと口撃される。
悠一さんも含め5人からの波状攻撃に炎天下で弱っていたわたしは泣き出しそうだった。
いつもの事とは言え逃げ出したい気持ちしかないし、ここには敵しか居ないとしか思えない。
そんな心が折れそうな状況のわたしに向かって悠一さんが言ってきた。
「いい加減、音楽教師なんか辞めて家庭に専念しろよ。それが嫁の責任だろ?
そもそも音楽なんか何の役にも立たない遊びみたいなもんなんだから固執するなよ」
もう限界だった。わたしの人生を、人格を全否定されたようなものだった。
「そう仰るならもう結構です!無責任な女は責任を取って悠一さんとの婚姻を解消します!!」
そう言い放って、そのまま春日の家を出ていった。
都内と違いタクシーはあまり走っておらず、見掛けても乗客がいる賃走の車しかない。
しかたがないので、まずはコンビニか何かお店に入ってから心を落ち着けようとスマホの地図アプリを頼りに炎天下を歩き続けた。
メッセージアプリには引っ切り無しに悠一さんからのメッセージと電話の着信が届くが見る気も起きず、話を聞くきも起きずブロックした。
そうしたら次はお義母さんのスマホからメッセージと電話の着信がきたがこれもブロック・・・お義父さん、お義兄さん、お義姉さんと次々着信が来たが都度ブロックしていった。
川越は東京から近い有名な都市ではあるけど、街の中心地から離れれば商店もろくにない。
やっとたどり着いたコンビニで水を買って飲み、人心地着いてからこれからどうしようかと考えた。
今更春日の家に戻ることはありえない。
かと言って、今の状態で悠一さんと暮らしているマンションへ帰る気にもなれない。
1人で考えていてもどうにもならないと思い、一番の親友である赤堀みゆきに電話した。
幸いみゆきはすぐに出てくれて、夫の実家から逃げ出した話をすると『今日のところは泊めてあげるから、うちに来なさい』と言ってくれたので、みゆきに甘えることにした。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる