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第25話
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◆赤堀みゆき 視点◆
記憶に無いくらい幼い頃に両親にねだって通わせてもらってたピアノ教室で、先生から才能があるといって推薦してもらい有名なピアニストの師匠の元でピアノ漬けの青春を送っていた。
学校が終わればすぐに帰ってレッスンという生活は友達作りに大きな影響を与え、学校内でにひとりぼっちになったりいじめられる事はなかったものの、学校を一歩出ると友達がひとりもいないのが当たり前だった。
ピアノの世界ではこどもながらにピアニストになりたいライバルばかりなので、レッスンの場では口を開けば『自分の技巧が優れている』だとか『自分の演奏の方が情緒が深い』だとか比較ばかりする人間しかおらず、友達と呼べるような関係を作れる人が長いこと居なかった。
その様な日々の中で私が中学に進学してすぐに出場したコンクールで、たまたま控室の隣りに座った女性が「ごめんなさい。わたし、今日ツキノモノが急に来ちゃったのだけど用意してなくて、もし余裕があったら譲ってもらえない?」と微笑みながら声を掛けてきた。
『普通、初対面の人間にこんな事を言ってこないでしょ?』と思うような事を言ってきたその女性は、中学生の部の出場なので中学生で間違いないはずなのに社会人なのではないかと思わせるくらい大人びた顔立ちに身長が少し高めでスレンダーなほっそりした体型で胸部が慎ましいのが少し残念な感じの人で、その後で知った名前は高梨百合恵さんと言い、学年が2つ上の3年生だった。
その、少々突拍子もないお願いに対して予備のものを渡すと「ありがとう。助かったわ」と言いながらポーチにしまい席を立った。
少しして戻ってくるとペットボトルの緑茶と紅茶を持っていて「こんなもので申し訳ないけど、良かったらお礼にどちらかもらってくれない?」と声を掛けてきた。
笑顔で手渡された紅茶を受け取り、それをきっかけに言葉を交わすといつの間にか緊張がなくなっていて、この日は自分でも最高だと胸を張って言える演奏ができ、1年生ながら受賞することができた。
後々百合恵にその話を聞くと、本当は持っていたどころかツキノモノですらなかったけど、私がものすごく緊張していたのを見て気持ちをほぐしてあげようと思い、予備をもらうという事をきっかけとして自然に声を掛けようとしたのだという。
私はひとりっ子だったので姉という存在に憧れがあったし、百合恵は理想の姉そのものだったので、住まいが横浜と都内で少し離れてはいたものの毎日メールのやりとりをしたし、時間が合えば積極的に一緒に遊びに行ったし、出場するコンクールもできるだけ合わせるようにしたりと、とにかく関係を深めていった。
人柄も大好きだが百合恵の演奏も大好きだったので、音大に進学してからプロのピアニストになるのを諦めて音楽教師を目指すと聞かされた時は驚いた。でも、百合恵は優しいしきっと良い教師になれるのだろうと思い応援していた。
私も百合恵と同じ音大へ進学ができて初めて同じ学び舎に通えるようになったけど、百合恵はもう3年で教職を目指していたので学外での活動も忙しく期待していたほど一緒にいられなかった。
そして、私も音大の洗礼を受けプロのピアニストへの道は諦めた。でも、百合恵のように教師になれる気もしなかった中で、ピアノを教えることに特化しているピアノ教室の講師を目指すことにした。
6年くらい百合恵を見ていたから自分には人に何かを教える適性はないと思っていたけど、それは比較の問題で私にも人にものを教える適性はそれなりにあったようだった。
百合恵が先に卒業し都内の私立高校の音楽教師になり、私も2年後に大学を卒業してピアノ教室を運営する企業に講師として就職した。
私が講師1年目で四苦八苦して百合恵と出会ってから一番と言って良いほど関係が疎になっていた時期に、百合恵が結婚を前提とした交際を始めていたと聞かされた。
私が聞かされたのは交際を開始してから2ヶ月くらい経っていた頃で人生で一番のショックを受けた。
そのとき初めて私が百合恵へ向けている気持ちが愛だと・・・一般的に異性へ向けるものと同じ質の愛だったのだと気付かされた。
記憶に無いくらい幼い頃に両親にねだって通わせてもらってたピアノ教室で、先生から才能があるといって推薦してもらい有名なピアニストの師匠の元でピアノ漬けの青春を送っていた。
学校が終わればすぐに帰ってレッスンという生活は友達作りに大きな影響を与え、学校内でにひとりぼっちになったりいじめられる事はなかったものの、学校を一歩出ると友達がひとりもいないのが当たり前だった。
ピアノの世界ではこどもながらにピアニストになりたいライバルばかりなので、レッスンの場では口を開けば『自分の技巧が優れている』だとか『自分の演奏の方が情緒が深い』だとか比較ばかりする人間しかおらず、友達と呼べるような関係を作れる人が長いこと居なかった。
その様な日々の中で私が中学に進学してすぐに出場したコンクールで、たまたま控室の隣りに座った女性が「ごめんなさい。わたし、今日ツキノモノが急に来ちゃったのだけど用意してなくて、もし余裕があったら譲ってもらえない?」と微笑みながら声を掛けてきた。
『普通、初対面の人間にこんな事を言ってこないでしょ?』と思うような事を言ってきたその女性は、中学生の部の出場なので中学生で間違いないはずなのに社会人なのではないかと思わせるくらい大人びた顔立ちに身長が少し高めでスレンダーなほっそりした体型で胸部が慎ましいのが少し残念な感じの人で、その後で知った名前は高梨百合恵さんと言い、学年が2つ上の3年生だった。
その、少々突拍子もないお願いに対して予備のものを渡すと「ありがとう。助かったわ」と言いながらポーチにしまい席を立った。
少しして戻ってくるとペットボトルの緑茶と紅茶を持っていて「こんなもので申し訳ないけど、良かったらお礼にどちらかもらってくれない?」と声を掛けてきた。
笑顔で手渡された紅茶を受け取り、それをきっかけに言葉を交わすといつの間にか緊張がなくなっていて、この日は自分でも最高だと胸を張って言える演奏ができ、1年生ながら受賞することができた。
後々百合恵にその話を聞くと、本当は持っていたどころかツキノモノですらなかったけど、私がものすごく緊張していたのを見て気持ちをほぐしてあげようと思い、予備をもらうという事をきっかけとして自然に声を掛けようとしたのだという。
私はひとりっ子だったので姉という存在に憧れがあったし、百合恵は理想の姉そのものだったので、住まいが横浜と都内で少し離れてはいたものの毎日メールのやりとりをしたし、時間が合えば積極的に一緒に遊びに行ったし、出場するコンクールもできるだけ合わせるようにしたりと、とにかく関係を深めていった。
人柄も大好きだが百合恵の演奏も大好きだったので、音大に進学してからプロのピアニストになるのを諦めて音楽教師を目指すと聞かされた時は驚いた。でも、百合恵は優しいしきっと良い教師になれるのだろうと思い応援していた。
私も百合恵と同じ音大へ進学ができて初めて同じ学び舎に通えるようになったけど、百合恵はもう3年で教職を目指していたので学外での活動も忙しく期待していたほど一緒にいられなかった。
そして、私も音大の洗礼を受けプロのピアニストへの道は諦めた。でも、百合恵のように教師になれる気もしなかった中で、ピアノを教えることに特化しているピアノ教室の講師を目指すことにした。
6年くらい百合恵を見ていたから自分には人に何かを教える適性はないと思っていたけど、それは比較の問題で私にも人にものを教える適性はそれなりにあったようだった。
百合恵が先に卒業し都内の私立高校の音楽教師になり、私も2年後に大学を卒業してピアノ教室を運営する企業に講師として就職した。
私が講師1年目で四苦八苦して百合恵と出会ってから一番と言って良いほど関係が疎になっていた時期に、百合恵が結婚を前提とした交際を始めていたと聞かされた。
私が聞かされたのは交際を開始してから2ヶ月くらい経っていた頃で人生で一番のショックを受けた。
そのとき初めて私が百合恵へ向けている気持ちが愛だと・・・一般的に異性へ向けるものと同じ質の愛だったのだと気付かされた。
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